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ゴブリンの群れ、湖の水蛇、さらわれた村人たち

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ゴブリンの群れ、湖の水蛇、さらわれた村人たち

リアクション

 2.

  そして救出に向かった者たちが辿りついた、洞窟の中で最も広く、最も生命の気配に満たされている空間。
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は、ゴブリン達の『数の暴力』を踊るように、文字通り踊りながらすりぬける。
「えいやっ!」
 軽やかな動きで大剣を振り回し、群がる敵意を刈り取っていく。
 徹底的に強化されたリアトリスの力は、剣圧だけでビリビリとした風を起こした。
 だというのに、ゴブリンたちには怯える様子すらない。

「まるで堪えんか……獣というよりも虫のようじゃ」
 その姿を観察しつつ、陽桜 小十郎(ひざくら・こじゅうろう)は杖で中空をなぞり呼び出した雷で、リアトリスの剣が漏らした敵を打ち据える。
 多くのゴブリンを巻き込むようにして火球を叩きつけ、床を凍らせて足場を奪う。
 その連携によって襲い来るゴブリンの数は確実に削れていた。
 削れているというのに、ゴブリン達の鬼気迫る殉教者のような投身が止まらない。
 気分の悪くなる戦闘に舌打ちしつつも、小十郎は魔力を込めた杖を地に打ち付ける。

 さらわれた村人たち、怯える子供と娘たちは部屋の中心に集められていた。
 ウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)はそれを囲うゴブリンたちを突破し、立ちはだかるように剣を構える。
「っ――皆さん、大丈夫ですか!?」
 座り込む人々は救われたことに感謝する声を上げた。
 崩れた陣形を整えるように、じりじりと包囲を狭めようとするゴブリン達。
 だが、統率された行動をとっていたはずのゴブリン達はその状況に混乱しているようだった。

「どうにも不自然じゃの。軍人のように纏まって襲いかかったかと思えば、人質を背に取り返されると動けんとは」
 ファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)はウィルを援護するように、バチバチと雷を纏わせてゴブリンたちを牽制する。
 ゴブリンの足並みはわかりやすく乱れていた。
 相反する命令を与えられたコンピュータのようにフリーズする。
 推測できるそのコマンドは単純だ。
 『侵入者を排除せよ』と『生贄を傷つけるな』。
 相反せぬ命令は、この状況に至り互いの機能を阻害している。
 ……だが、だとすれば、『何者が命令したのか』。

「――――誰?」
 混乱を抜けた、あるいは破れかぶれになって襲い来る数匹のゴブリンを迅速さを以て無力化しながら、ルナ・リベルタス(るな・りべるたす)はこちらに向けられる視線に気付く。
 偶然、ではあるが、敵意を感知するために張り巡らせた意識はその空白地帯を浮き彫りにしたのだった。

『そこマでダ。ニンゲン。なニしに、きた』

 片言の人語を発しながら、他よりも少し目立つ装いのゴブリンが歩き出る。
 それだけで、ゴブリン達は一気に大人しくなった。

「村人たちを助けに来たんだ。君たちには同情するが、殺させる訳にはいかない」
 喋るゴブリンに困惑しつつも、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が対話の席に着こうとする。
 その身を守るようにリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が向けた刃に、しかしゴブリンは落ち着いて視線を向ける。
 自分は祈祷師(シャーマン)である、とそのゴブリンは名乗った。
『ひゅドらに、ニエ、ささげル』
 自分たちの住処を取り戻すために、ヒュドラに「お願い」するのだと。
 さらった村人たちを生贄に捧げ、彼らの森と水場を返してもらうのだと――
「っ、そんな身勝手な理由で!」
「させる訳にはいかないよ。そんなんじゃ、何も解決しないんだ」
 反応は違えど、エースとリリアの意見は一致していた。

「……少し気になったんだけど、いいかしら?」
 口を挟んだのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
「生贄を捧げてお願い、ってことは少なくともヒュドラを呼び出すことができるのよね?」