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一日目 後編

 


「ヒーッ!」

 爆弾が爆発し、戦闘員が何人か吹っ飛んだ。
 木々のあいだに張り巡らされたロープに引っかかり、宙釣りになった者もいる。
「なんという厳重な警備だ……この先にいったいなにがあるというのか……ククク、面白い!」
 そんな戦闘員たちの様子を、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は楽しげに見つめている。
「怪人 デスストーカー! 戦闘員たちよ! あの光をゴールとする! さあ、行くのだ!」
「は!」
「はいい!」
 怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)と、「モテない組」の男たちは叫ぶ。
「隊長、あの光は!」
「アヴァロン……!」
 ついに彼らは川の対岸までたどり着く。双眼鏡でその先を覗こうとするが、
「……ダメだ、露天風呂は高い場所にある! ここからは見えない!」
 双眼鏡を持っていた男が叫んだ。
「候補生たち! さあ、行くぞ!」
 デスストーカーが彼らよりも先に川を渡ろうとする。そこでなにかが爆発し、黒い粉が辺りを舞った。
「これは……!」
「胡椒であります……てくち!」
 モテない組の男たちが黒い粉末を被って暴れまわる。
「なるほど、確かに巧妙なトラップだ……。これだけ特訓メニューが充実しているなら、ホテルにあれだけの契約者が泊まりにくるのもわかる!」
 デスストーカーはなにかを勘違いしているようだ。嬉しそうにそう言って、川を渡る。
「今回、咲耶様やペルセポネ様は特訓には参加されない。早く僕も、お二人のように強くなって、ハデス様のお役に立てるようにならなくては!」
 そして、光を目指して彼は急斜面を登っていった。いくつかの戦闘員と、モテない組が続く。
「これは……」
「急な坂だ……」
 が、モテない組の男たちは坂に苦戦していた。
「隊長、こちらを」
 一人の隊員が、道を示す。そちらの坂は多少なだらかだった。
「よし……我々はこちらから登る!」
 モテない組はルートを変更し、少しだけなだらかなほうを選んだ。
「もう少しだ……」
「もう少しで……」


「アヴァロン!」


 楽園はすぐそこに迫っていた。




「よお、弾さん」
 ハイコドが露天入口を見て手を振った。弾と、その後ろからちょうどクナイと北都も露天に向かっていた。
「うわあ……結構寒いね」
 弾が早足で温泉に向かう。
「外もすごいよ、ほら、紅葉が綺麗だよ」
「本当ですね。見事です」
 クナイたちも並んでお湯に入る。
「君たちも、飲めないかな?」
 陽一が日本酒を勧めるが、未成年ということで断る。クナイは問題ないのだが、自分だけ飲むわけにはいかないと思ったのか、断った。
「師匠! 露天もすごいよ!」
 そんなところに全身にバスタオルを巻いた女の子が突っ込んできたから、男たちは驚愕の声を上げた。
「……待てフィリス、お前の見た目でバスタオルを身体に巻いてると絵面的に危ない」
「ダメですかあ? でも、なんか恥ずかしいんですけど」
 女の子の後ろから黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)が入ってきた。女の子と思った人物はフィリス・レギオン(ふぃりす・れぎおん)。れっきとした男だ。
「男か……びっくりした」
 貴仁が言う。ため息がいくつか響いた。
「すんません、なんかお騒がせして」
 竜斗が頭を下げて温泉へと入る。フィリスは首を傾げていた。陽一に勧められ、竜斗は酒を受け取る。
「コーヒー牛乳を持ってきたんですけどね」
 竜斗は手にしていた牛乳を掲げた。
「入りながら!?」
「上がるまで待てなくて」
 弾の突っ込みに笑って言い、コーヒー牛乳の瓶を開ける。フィリスも両手でフルーツ牛乳を持っていた。
「ほとんど集まったんじゃないですかねえ」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が紅葉を眺めながら言う。
「そうみたいだね。みんな、考えることは一緒だ」
 涼介が言う。「違いないっすね」と貴仁は笑った。自然と笑い声が全員に伝わり、皆がお猪口を掲げる。
「紅葉を見ながら、温泉に浸かるなんて、最高だよね。自分はやっぱり日本人だなぁと思うよ」
 北都が言う。
「日本酒を飲んでね」
 涼介が言うと、皆が笑った。
「僕たちは牛乳だけどね」
 フィリスが言う。フルーツ牛乳はすでに空だ。
「クナイはどう、かな?」
 笑い声が収まり、北都がクナイのほうを向く。
「自分が生まれた国、好きになってくれると嬉しいな」
 皆の視線がクナイに向く。
 クナイはいきなりそんなふうに視線を向けられ、なんと言っていいか分からず、口ごもる。
「だよな。やっぱり、自分の生まれ故郷、好きにならねえと」
 わずかな沈黙を破ったのはハイコドだ。
「ここは寒いし、雪かきしないといけないし、大変なことも多い。でも、それ以上に、ここは温かいんだ。ストーブも、温泉も、食べ物も風景も、人も」
 遠くを見渡して、言葉を続ける。
「だから好きだ。俺は、この北海道って場所がな」
 最後には振り返って、言った。
「カッコイイねえ。ハイコド」
「あははは、似合わねえこと言ったな」
 涼介に言われ、ハイコドは照れ隠しにお猪口を空ける。陽一が、次を注いだ。
「運命なんて、柄ではないんですけれどね」
 皆の声に紛れて、クナイが口を開く。
「でも、この国に生まれ、この国で多くの人に会いました。辛いこともあった。悲しいこともあった。それでも……それ以上に、嬉しいことがあった」
 水面を眺めながら言う彼の言葉を、誰もが聞き入っていた。
「嫌いになんてなれませんよ。きっと、私は、これからも、この国を好きでい続けると思います」
 そしてクナイが言うと、皆が笑顔を浮かべた。
「そうだよな……この国が、俺たちの国なんだよな」
「私たちの歩んできた道、全てがここにあるんだよ」
 陽一が、涼介が言う。
「ここは最高にいいとこだ」
「へへ、俺もこの国、好きだぜ」
 ダリル、そして、アンタルも言う。
 そうやって皆が口々にいろいろなことを言い、またしても盃を皆が掲げた。


 
「さあ、こちらが露天風呂の様子に……ってああ! タオル巻いてくださいタオル!」
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の温泉撮影が、露天風呂に来た。
 ……が、朝霧 垂(あさぎり・しづり)を始めタオルすら巻いていない人が多くいるため焦る。
「深夜番組としてはありですが……うーむ」
 セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)は問題ありと感じながらも撮影を続ける。「取らないでくれたまえ!」とアゾートが湯に浸かった。彼女は水着を剥ぎ取られ、全裸になっていた。
 中にはあえてカメラにポーズを取るものもいる。
「理沙、キミだって、そんな水着にタオルにって、邪道だよ邪道。それ!」
「いやーっ!」
 ルカルカが飛びかかり、他のメンツと合わせて彼女を脱がせにかかる。セレスティアはその様子を喉を鳴らして撮影していた。
「今覗いたらすごい絵が見れるぞ」
 垂が冗談半分に男湯に向かって叫ぶ。「覗くか!」と、陽一の声が帰ってきた。
「うう……ひどい」
 理沙は全裸に。カメラを向けられていることに気づいて「止めてー!」と体を隠して叫んだ。
「なんの騒ぎ?」
 外にラナと美緒、ゆかりにマリエッタ、レオーナと香菜がでてきた。
「撮影中なんです」
 セレスティアが言う。
「そうは見えないけど……」
 ゆかりは状況を見て言った。
「ふう……もう一回撮り直しますからね!」
 理沙はタオルを巻いて立ち上がり、セレスティアと再度打ち合わせをする。
 

「なにかが近づいてきてるわね……」
 アイテム、『まじかるぶれすれっと』を腕に嵌めたまま入浴している桜月 舞香(さくらづき・まいか)は川の向こうを眺めた。
 このアイテムは、邪念や自分に害を与えようとしているものを察知することができる。嫌な予感は、少しずつ近づいてきていた。
「トラップは至るところにあるでありますよ。よほどの集団ならまだしも、個人単位での覗きは不可能であります」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が舞香の隣に並んで言う。
「それにこっちから見ると、ここは結構高さがあります。対岸からはギリギリ覗けなさそうでありますね」
「吹雪……ここでバイトしてたんじゃなかったっけ?」
 舞香は尋ねる。
「いやー、みんな入ってるようでしたので、行っていいよと言われたでありますよ。ここの女将さんは優しいであります」
 吹雪は笑って言う。
「……もっとも、夕食のあとは食器を洗ったりで大変なのですけど」
「あはは……ごめんね」
 舞香に責任はないが、一応そう言っておく。


「ご覧ください! 見事な紅葉です! しかも、この紅葉を見ながら……温泉! たまらないですね!」
 理沙の撮影が再開された。マイクを手に、川の向こうの様子を撮影する。
 相変わらずいろいろなメンバーがカメラに入っているが……危ない映像はあとでぼかしを入れるそうだ。
 温泉の効能や実際に入ってみた感想などを言う。女湯のメンバーも、撮影を邪魔しないように少し離れた。
 そうしているうちにセレンやセレアナ、ユリナにシェスカなど中にいた残りのメンバーも露天へ来て、すっかり露天は賑やかになっていた。
「お兄ちゃんから聞いたけど、最近、活躍してるみたいだね。私も先輩として嬉しいよ」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がアゾートに言う。彼女はアゾートの二年先輩だ。
「活躍というのかな……最近は、アルバイトをずっとしていた感じだよ」
 海の家とか、お化け屋敷とか、とアゾートは続ける。
「お、お化け屋敷なんてやってたの……?」
 ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)が大げさに驚く。彼女は怖いものは大の苦手だ。
「それなりに怖かったわよ」
「ええ、例えば、」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が言い、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が説明する。アリアクルスイドは「やめてー」と耳を塞いだ。笑い声が響く。
「ところで聞きたいんだけどさ、アゾート、弾とはどうなの?」
「い、いきなりなんだい!?」
 ルカルカが妙なことを聞いて、アゾートが赤面した。
「どういうことです?」
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が聞く。「なんでもないよ」とアゾートがごまかそうとするが、
「そういえば、お化け屋敷も一緒に行動していたね」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が言って、場が盛り上がった。
「アゾートちゃんが血迷って、弾に『想いを受け入れた』なんて称号が付いてるしね」
 エイカも言って頷く。
「受け入れたんですか!?」
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が身を乗り出した。「うう、」と唸るだけで、アゾートは答えない。
「でも、いい? アゾートちゃん、弾は頭良くないし語学の数値なんて17なほどだし、家柄も特に何も無いし、良い所と言えばお尻の形と触り心地ぐらいよ! 本当にあんなしょうもない男で良いのかしら!」
「お尻……?」
 ラナ・リゼット(らな・りぜっと)が疑問符を浮かべる。
 男湯から「聞こえてるよ!」と弾の声が聞こえた。
「そういえば、男湯の男たちってどんな会話してるんだろ?」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)がふとそんなことを口にする。
「そりゃあ、エローい話に決まってるわよぉ」
 シェスカが言った。
「意外と、男も大きさの比べ合いとかしてたりして。触りっことか」
 ふと、レオーナがそんなことを言った。
「男が……?」
 誰かが口にし、皆が頭になにかを思い浮かべた。



――――――――以下妄想――――――――


「お前、またでかくなったんじゃないか?」

「やだなあ、変わらないよ。キミこそ」

「俺か? 俺は普通だよ。でも……胸筋は、鍛えたぜ?」

「わあ……すごい。カチカチだ。鍛えたんだね」

「それよりも……弾、相変わらずお前のお尻は、可愛いな」

「だ、ダメだよ、そんなとこ触っちゃあ……」


――――――――妄想終わり――――――――


「ねーよ」
「ないな」
「ないない」
 男湯から口々に声が届く。
「ないから! ていうかなんで僕だけ名前が出てきたの!? エイカでしょ! 変な妄想しないで!」
「いやあ、せっかくだから弾のいいところを具体的にみんなに教えようと」
「いらないからね!? 教えられるほうも嬉しくないから!」
 壁越しに会話する弾とエイカ。
「じゃあ、男湯ではどんな会話してるんだい?」
 ロゼが言う。
「今はこの国の素晴らしさを語ってたとこだ」
 シンが叫ぶと、
「うわ、ジジくさ」
「つまんない」
 口々にそんな声が届く。
「いい話だったのに……」
 学人が息を吐く。
「ていうか、壁の向こうに絶世の美女が多数、一糸まとわぬ姿でいるのよ? 覗かないほうが失礼じゃない?」
 セレンがそんなことを言う。
「ちょ、セレン……」
 セレアナが言うが、
「あらぁ、大歓迎よ?」
「クリムちゃん!?」
 クリムが乗った。麻耶が驚いて言う。
「それもいいわね。ほーらアンタル、覗いてみなさいよ」
 郁乃も言った。「お姉ちゃん!?」と灌が叫ぶ。
 やがて一部女子のあいだから「覗け」コールが響いた。男たちは苦笑いする。
「全く……本当に覗くぞ」
 貴仁はそう言い、視線を紅葉のほうへと向ける。


「来たぞ……アヴァロンだ!」


 そんな貴仁が、誰かの手を見た。そして、その言葉とともに誰かが登ってきて、貴仁と目が合う。
「は?」
「え……?」


 一方の女湯。
「もう……そんなこと言っていたら、本当に覗かれますよぉ」
 息を吐いて、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が言った。紅葉を眺めながら。
「あれ? なんだか、川向こうで何かが動いたような……?」
 そのペルセポネが、なにかを見つけて川に向かって身を乗り出した。そのとき、


「ゴールだ!」


 そんな彼女の前に突然、見覚えのあるシルエットが現れた。彼女の前には、怪人デスストーカーが、壁をよじ登ってちょうど現れたところだった。
「あれ?」
 デスストーカーは目の前にいる女性たちを見た。彼女らは、ほとんどが全裸だった。


「デ、デスストーカーくん……なんで……って、きゃ、きゃああっ!」


 『機晶変身!』とペルセポネが叫び、彼女は一瞬で【高機動アーマー】を装備、デスストーカーに向けて、【空間歪曲砲】を放った。
「ち、近いっ! うわぁ!」
 デスストーカーはそのまま川の向こうまで弾き飛ばされ、近くにいた戦闘員たちを巻き込み気を失った。


「きゃあああぁぁぁ!」


 男湯で最初に叫んだのはフィリスだ。
「フィリス、それも女の反応……」
 竜斗が言うが、
「なんだ!」
「覗きか!」
 男たちは騒ぎ出す。女湯でも同じように、いくつかの悲鳴と騒ぎが起きていた。
「なんで男湯に来たか知らないけど、逃がさない!」
「待ちやがれ!」
 近くにいた陽一、アンタルが登ってきた「モテない組」隊長を捕まえようとする。
 隊長は暴れ、隊員が助けようとし、男湯は大騒ぎになった。
「くそ、大人しくしやがれ!」
 アンタルは逃げようとする一人の男の逃げ道を塞ごうと、飛び蹴りをかます。
 ……が、彼の飛び蹴りは勢いが良すぎた。勢い余って、女湯との境に蹴りが入る。
 それなりに体重の入ったアンタルの蹴りは……境を破ってしまった。
「は……?」
 水しぶきとともに女湯へ。そして、彼が顔を上げると、そこにはちょうど、郁乃と荀 灌(じゅん・かん)が一糸まとわぬ姿で立ち尽くしていた。
「………………」
「………………」
 見上げている状況だからか全てが見える。そのまま視線を上げると二人と目が合い、そして、
「き、」
「あ、あははは……桃花のナイスバディーなら良かったのにな」


「きゃあああぁぁぁ!」


 誰のともない叫びが、アンタルの耳に響いた。
「……って、ぇ、覗き?」
「あら。うふふ、いらっしゃい」
 摩耶は驚いていたが、クリムは開いた壁に向かって大胆なポーズをとる。
「ぁ、ゃ、駄目……! く、クリムちゃんの身体は見ちゃダメー! 見ていいのはボクだけなのー!」
 摩耶は慌ててクリムの体を隠そうとする。が、その際に大きな二つの膨らみを思い切りわしづかみにしてしまい、クリムは甘い声を上げた。
「ひぁん、駄目よ摩耶。あたしの胸は皆のモノでぇ♪」
 そんなことを言う。どうも、彼女はこの状況を楽しんでいるようだ。
「な、ななな、なにをしてるんですかーっ!」
 香菜が大声で叫んだ。


「ち、何人か逃げやがった!」
 外を見ていたダリルは脱衣所へと走る。
「まだいるの!?」
 近かったさゆみとアデリーヌも、外を見た。
 川の近くに、カメラを持った男が立っているのが見える。男は見られたと気づくと、背を向けて走り出した。
「あいつはーっ!」
「バーストエロス……」
 さゆみたちも脱衣所へ向かう。
「!」
 舞香が立ち上がり、胸の谷間から何かを取り出した。彼女の持つ、【メタモルブローチ】だ。
 彼女の体が光に包まれ、一瞬で彼女の身はチアリーダー衣装へと変化する。
「悪を滅ぼして正義を応援♪ 女の敵は、魔法のチアガールまじかるチェリーが成敗よ!」
 決めポーズをとってそう言うと、彼女は早速スキル【シューティングスター☆彡】を川の向こうへと打ち込む。遅れていた戦闘員が、何人か弾け飛んだ。
「くっ、何事か!?」
 先ほどのペルセポネの攻撃から警戒していたハデスも驚く。【超高度キック】で川を飛び越えて戦闘員の一人に蹴りをかました舞香と、ハデスの目が合った。
「ドクター・ハデス!? あなたの仕業ね!」
「く……戦闘員! 迎え撃つのだ!」
「フィーッ!」
 近くにいた戦闘員たちが一斉に飛びかかる。
 舞香は両手を地面に付け、それを軸に回し蹴りを飛びかかってきた戦闘員に撃ち込む。蹴りで戦闘員たちは弾き飛ばされた。
「今の蹴りは! 参謀、見えたか!?」
「見えませんでした!」
 近くにいた「モテない組」がそう言い、舞香は慌ててスカートを隠す。
「フィーッ!」
 そのあいだにも、戦闘員は飛びかかってきていた。大きく後ろに跳ね、攻撃をかわす。
「この……っ!」
 舞香は次から次へと襲ってくる戦闘員たちの攻撃を、避け続ける。そのうち川のふもとにまで来てしまい、逃げ道がなくなった。
「フィーッ!」
 そんな彼女に戦闘員が飛びかかる。両手をクロスして身構えるが、戦闘員はなにか小さな球体をぶつけられ、飛んでいった。
 舞香が振り返ると、理沙がユニフォーム姿で立っていた。
「覗きは犯罪よ。覗く輩はこの正義のバットで、入魂の鉄拳ボールを千本ノックで打ち込んであげるわ、覚悟しなさい!」
 そう言うと、理沙は対岸から次々とノックを打ち込む。ボールにはなにかが秘められているのか、着弾するたびにバシカーン! とでかい爆発が響いた。
「フィ、フィーッ……」
 戦闘員が逃げようとするが、
「フィ?」
「逃しませんわ」
 セレスティアが【氷術】で戦闘員たちの足を凍らせていた。そして、そうやって凍らせた戦闘員に、
「邪念を抱く者よ、健全なスボーツ魂の前にひれ伏しなさい!」
 ノックが直撃する。爆発音と共に、戦闘員は吹き飛んだ。
 



「フィーッ!」
 舞香の近くでは首になにかを巻きつけられて吊るされたり、落とし穴に落ちる戦闘員たち。見ると、
「半端な覚悟で覗きをする者には、『死』あるのみであります」
 女将の格好でロープを引っ張る吹雪の姿があった。木の上では戦闘員がローブで縛られて逆さまに吊るされている。
「フィーッ!」
 それでもまだ戦闘員たちは残っていて、最後の攻撃を仕掛けてきていた。
「舞たん、あとは任すでありますよ」
 吹雪が言う。
「ええ! 【マスケットレギオン】!」
 舞香も頷き、叫んだ。舞香を中心に、十丁の銃が並ぶ。彼女の動かす手に合わせて銃がひとりでに回転し、周囲にいる敵に標準を合わす。
「いやらしい企みも、これで終わりよ……エロ・フィナーレ!」
 そして、最後に手を振るった。それぞれの銃が銃弾を発射し、周囲の戦闘員、モテない組の数人が吹き飛んだ。そのまま川に流れる。
「……北海道の冷たい水風呂で、ゆっくり頭を冷やすことね」
 流れてゆく男たちを眺めて言う。
 


 一方、別のルート。
「隊長は捕まったであります!」
「参謀もダメです!」
 残り数人となった「モテない組」が、山の中を駆けていた。
「……こっち」
 そんな彼らに声をかける一人の少年。
「す、スーパーバイザー!」
 モテない組は安心した顔をし、彼らについていった。
「く……おのれ、戦闘員を!」
 そこには撤退したハデスもいた。


「いた!」
 着替えて飛び出てきたさゆみとアデリーヌは、カメラを持った少年に追いつく。
「バーストエロス!」
 彼が振り返る。振り返ってすぐ、
「こっちだ」
 と言って歩きだした。
「こっちだ、じゃないわよ! あれほど盗撮するなと言ったのに!」
「俺じゃない」
 バーストエロスは即答する。
「案内する」
 さゆみは疑問符を浮かべながらも、彼の背を追った。


 逃げたモテない組の数人と、少年、ハデスは、川の近くを歩いていた。
「どうするのですか、これから……」
 彼らは意気消沈していた。
「我らオリュンポスは不滅だ! 何度やられようと、必ずまた立ち上がるのだよ! フハハハハ!」
 ハデスはそう笑っていた。
「おい、あれはなんだ?」
 が、モテない組の男たちはなにかに気づく。ハデスと少年も前を見た。
「は、はだ、裸の女だ!」
 男たちは叫んだ。裸の女が、どこかへ走っていく。
「おおお追いかけるぞ!」
「待て、あれは……」
 少年が止めるが、遅い。彼らはスキル、【夢想の宴】によって作られた幻想を追いかけてゆき……滝つぼに落ちた。
 そのまま、「裸の女はどこだ! 助けないと!」「人工呼吸は僕がーっ!」と叫び流されてゆく。残されたのは、二人だ。
「ドクター・ハデス!」
「またお前等か……」
 幻想を作ったルカルカ、そしてダリルが彼らに追いつく。
「おい……覗きは犯罪だぞ」
「覗きだと? なにを言っている。俺は世界征服の目標を達するべく、戦闘員の訓練をしていただけだ」
「訓練で覗くな! それに、世界征服はそもそも不可能だ」
「なん……だと……」
「今気づいたみたいだなおい!」
 ダリルとハデスがそんなやりとりをする。
 そして、もう一方。
「……土井先輩」
「虎之助」
 バーストエロスとさゆみ、アデリーヌが、彼らに追いついていた。
「え、なに、知り合い?」
 さゆみが聞く。少年はバーストエロスと同じようなカメラを持っていて、なんとなく雰囲気が似ている。背は低く、メガネはかけていないが、なんというか、同じオーラだ。

「ええ……そうです。僕は土井先輩の、バーストエロスの、後輩です!」

 少年は叫んだ。

「僕の名は皆口虎之助(みなぐち とらのすけ)! またの名を……絶大なる性的欲求(ハイパー・エロス)!」

「また変なのが出てきた!?」
 さゆみが叫んだ。
「……真似されて困っている」
 バーストエロス……土井竜平は頭を抱える。
「見損ないました先輩! これほど多くの美女が集まっている中で、覗こうとすらしないなんて! 先輩、あなたの二つ名が泣いている!」
 びし、っと指をさして虎之助は言う。竜平は息を吐いて、静かに答えた。
「覗きは犯罪だ」
「あんたが言う!?」
 突っ込んだのはさゆみだ。
「……あのな、SAYUMIN、お前はわかってない。虎之助、お前もだ」
 竜平はメガネを持ち上げ、口を開く。
「確かに俺の二つ名は瞬速の性的衝動……自慢ではないが、俺はエロい」
 なにから突っ込めばいいのか分からず、誰もなにも言わなかった。
「でもな……俺がエロスを感じるのは、温泉に入っている女の姿じゃない」
「じゃあ、どういうときだって言うんです!」
 虎之助は食い下がる。
「では聞こう。お前はどこに、エロスを感じる?」
「どこ……ですって?」
「鎖骨、肩甲骨、谷間にうなじ、くびれ、くるぶし。どうだ」
「くる……くるぶし?」
 ダリルも首を傾げる。
「俺はあるテーマを持って写真を撮っている。それはな、『日常の中で感じるエロス』だ」
「ねえダリル、彼はなにを言っているの?」
「聞くな……」
「お前は女性がわずかに見せた服の隙間に魅力を感じないか? 腕を伸ばしたときのラインに、少しだけ出たお腹に、ギリギリまで見える太ももに興奮しないか?」
「もうなにから突っ込めばいいやら……」
「頭が痛くなってきました」
 さゆみとアデリーヌも頭を抱える。
「いいか……ただのエロは、エロでしかない。だが、日常の中で男がドキっとする瞬間はある」
「あるのん?」
「……まあ、わからんでもない」
 ルカルカの質問にダリルは答えた。
「そういう瞬間は、直接的なエロではない。お前の日常には、裸の女が常にいるのか? 違う。それは俺の目指すエロではない。お前はグラビアアイドルの良さをわからない、そういう人間に過ぎない」
「グラビアアイドルなんて、所詮大事なところを隠した臆病者じゃないですか!」
「それをわからないから、お前はまだまだなんだ」
「先輩……どうやらあなたとは、目指す道が違うようだ」
「そう言っている」
「く……」
 虎之助はなにかを振りかぶって、真下へと投げた。それが地面に落ちると、まばゆい光があたりを包む。
「なに!?」
「ルカ!」
 ダリルがルカルカを庇う。アデリーヌも、さゆみの前に出た。
 が、それはただの目くらましのようで、すぐさま光は消え去った。
 そして、虎之助はいなくなっていた。
「逃げた!」
「ちっ!」
 ダリルたちが追おうとするが、
「無駄だ……もう追いつけない」
 竜平が言う。
 最初はそれでも追おうとしたが……どこに行ったかの見当もつかないため、ダリルたちは行くのをやめた。
「……さて、ハデスさん」
 アデリーヌが前に出る。
「投獄されるのがいいか、温泉で半月下働きをするのだいいか、選べ」
 ダリルがにこやかに言う。
「フハハハ! 半月だと……俺をどうするつもりだ」
「いいから来い」
 ハデスは相変わらず笑っていたが、彼らに手を引かれると大人しくそれに従った。
「なんか……ものすごく疲れた」
「また温泉にでも入るといい」
 さゆみが言うと、バーストエロス……竜平は言って、一人で先に歩き出した。
「悪いわね、疑って」
「構わない。日頃の行いだ」
「わかってるなら改めなさいよ……」
 ふう、と息を吐く。
「ま、あんたがそれほど悪意のある奴じゃないとわかっただけでいっか」
 そして、彼の背に、声をかける。
「またね、竜平」
 竜平は振り返って一瞬だけさゆみの顔を見つめ、
「ああ」
 と、小さく答えてその場を去った。

 


「いいですか! 覗きは犯罪なんですよ! 重大な犯罪です!」
 温泉から出た場所の廊下で、夏來 香菜(なつき・かな)が捕らえられた「モテない組」男子の一部、怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)ドクター・ハデス(どくたー・はです)に説教していた。
「フハハハハ! 覗きとはなんのことだ? 俺はなぜ正座させられているのだ?」
「ごまかさない!」
 ハデスは全く事情を理解していないのだが、なぜか主犯格とさせられていた。
「もうっ、覗きなんてだめですよっ!」
「その通りです! お風呂なんて、隠すものはなにもないんです! 恥ずかしいんですからね!」
 ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は主にデスストーカーの説教をしている。
 そして、
「あのねアンタル、私も悪ノリで『覗け』って言ったけど、本気で言ったわけじゃないのよ? わかってるの?」
 女湯に飛び込んだアンタルも説教を受けていた。
「いや、あれは不幸な事故だってよ、覗こうとして覗いたわけじゃあねえからな?」
「言っとくけどアンタルが覗いたと思って怒ってるわけじゃないのよ。アンタルがそういう卑劣なことをするやつじゃないことはわかってる。でも『桃花のナイスバディーなら良かったのにな』はないでしょ!?」
「ああ、それかあ……」
 アンタルは後頭部をガリガリとかいて、
「どうせなら郁乃や荀灌じゃなくて、桃花のナイスバディーを見たかったってな」
 あっはっは、と笑いながら言った。
「た、確かに凹凸は大きくないけど、ゼロじゃないのよ! もぅ信じられない!! そもそも見たことへの詫びはないわけ!?」
「あー、悪い」
 アンタルは素直に頭を下げた。
「……まあ、こっちも見てしまったわけだけど」
「あん? なんだって?」
「ななななんでもない!」
 郁乃は急に慌ててアンタルから離れた。
「全くもう……モノには言い方というものがああるんですよ」
 秋月 桃花(あきづき・とうか)がアンタルの後ろからやってきて、言う。
「郁乃様はこちらでフォローしますから、荀灌ちゃんへのフォローはアンタルさんがしてくださいね」
「……おうよ」
 桃花が郁乃の肩を叩いて奥へ。アンタルは立ち上がって、少し痺れた足を叩いた。


「あ、ありのままに起こったことを話すです! お姉ちゃん達と露天風呂に入ってたら、急に男湯が騒がしくなったんです。そしたら怒号と轟音が私達の耳に飛び込んできたんです。びっくしていたら、数人の男の人がなだれ込むように女湯に入ってきたんです。しかもその中に……なんとお兄ちゃんが! 私……お兄ちゃんに裸を見られちゃいました!? 恥ずかしいです……それなのにお兄ちゃんひどいです! 『桃花のナイスバディーなら良かったのに』だなんてどうせ……私はひんそーでちんちくりんですよ〜だ! お兄ちゃんのバカぁ〜〜っ!!」
 休憩室で荀灌はそう言って泣き出していた。騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がよしよしと彼女の頭を撫でる。
「大変だったんだね」
「みたいだな……嫌な予感が当たったみたいだ」
 夕食のために合流していた、大浴場に行ってないメンバーもそこにはいた。遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)は荀灌の話を聞いて頷く。
「でも犯人は捕まったんだろ? もう安心だな」
「一人逃げたわよ」
 羽純が言うと、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が彼の近くで言う。
「追いかけたけど、逃げられちゃった。おかげで疲れた」
「さゆみちゃんお疲れ? じゃあ、そこにうつ伏せになってよ。マッサージしてあげる」
 詩穂が言う。
「ホント? ありがとー」
 さゆみは素直にうつ伏せになった。詩穂がスキル【ナーシング】を施し、マッサージを開始する。「気持ちいい〜」と、さゆみは声を上げた。
「いいわね、詩穂、あたしもお願い」
 様子を見ていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)も言う。
「はい。それと、お茶を用意しておきましたので、皆さん飲んでください」
 詩穂はそう言って、テーブルに並べられたお茶を示す。
「これは……部屋に備え付けられているお茶ではありませんね」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はお茶を口にして言う。もう一口含んで「美味しいですわ」というと、詩穂は嬉しそうに笑った。
「夕食はここに運んでくれるそうです。皆さん、ここで待っていてくださーい!」
 説教を終えた香菜が来て、皆にそう言い去っていった。ハデスたちはまだ正座をしていた。


「パパ、ママ、ご飯も楽しみだね!」
 ユウキ・ブルーウォーター(ゆうき・ぶるーうぉーたー)リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)に言った。
「北海道のご飯か。海鮮かな?」
「お野菜もいっぱいありそうですねぇ」
 リアトリスとレティシアは笑い合ってメニューを予想し始める。


「二人は混浴にいたの?」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は知り合いのジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)夫妻に挨拶した。二人は最初敬礼したが、ゆかりは女湯で口にしたように、「今日は無礼講よ」といい、手を下げさせる。
「なんでも、覗き騒動があったとか?」
 ジェイコブは腕をおろし、ゆかりに尋ねる。ゆかりは「ええ」と小さく口にし、
「大騒ぎでした……混浴に行っていたのは正解だったかもしれないですね」
 と口にした。
「お風呂を覗くなんて、不潔ですわ」
 フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)も言う。
「でも、もともと覗こうとしていた連中は、間違えて男湯に入っていったそうです」
 ゆかりは言う。
「いいセンスだ」
 ジェイコブもそう言い、笑った。


「ほら、紫苑、ママが帰ってきたよ」
 神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 紫苑(かんざき・しおん)を抱えて待っていた。神崎 零(かんざき・れい)がやってくると、紫苑を預かって体を揺らす。きゃっきゃ、と、紫苑は嬉しそうに笑った。
「なんか騒ぎがあったらしいな、大丈夫だったか?」
「覗きよ。犯人のほとんどは捕まったみたい」
「うわ最悪だな……悪い、俺が先に入ってくればよかったな」
「いえ。みんなとお話できて、楽しかったから」
 そう言って零は笑う。
「紫苑ちゃん! 可愛いー!」
 佐野 悠里(さの・ゆうり)が紫苑を見て近づいてきた。
「ごめんなさいねぇ」
 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)は言って、零に軽く頭を下げる。「いえ」と零は言って、紫苑の指をにぎにぎして遊ぶ悠里を見て笑みを浮かべた。
 

 そして、夕食。
 メニューは刺身に秋野菜のオードブル、石狩鍋や鹿の肉を使った料理など、豪勢なものだった。
「鹿の肉か……思っていたよりも美味いな」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は言う。周りからも賛同の声が漏れていた。
「刺身はやっぱ違うなあ……新鮮だ」
「野菜も水々しいよ、こりゃあ美味い」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)も、口々に言う。
「ふぉにぃひゃん、あちゅいっ」
「こらこら、大丈夫か?」
 鍋を勢いよく口に入れたクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がはふはふと言う。涼介は水を彼女に渡してやった。そんな二人を見て、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)が笑う。
「いっつもユリナにいっぱい作ってもらってるからな、今日はぜひともゆっくりしてくれ」
 どうぞどうぞ、と、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)にお酒を勧める。
「僕も頑張って、このくらい作れるようになるからね!」
 フィリス・レギオン(ふぃりす・れぎおん)が胸を張って言う。いやこれは無理だろ、と、竜斗は笑った。
「ほらクナイ、石狩鍋だよ。ダシが効いていてとっても美味しい」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)は味音痴だ。そんな彼に対して、清泉 北都(いずみ・ほくと)はいろいろと解説をする。
「ダシ、ですか……なるほど、魚や野菜の味が、汁にまで染み渡っていますね」
「ふふ、うんうん。そういうことだよ」
 嬉しいのか、北都の【超感覚】で現れた耳がぴこぴこ、尻尾がパタパタと揺れていた。
「とっても美味しいです」
 北都のそんな姿を見て、クナイもそう笑った。
「さて、私は今、北の大地のグルメを満喫しております!」
 少し離れた場所で撮影をしているのは五十嵐 理沙(いがらし・りさ)セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の二人だ。セレスティアも箸を進めながら、器用に撮影をしている。
「んーっ! 口の中でとろけるような感覚! まさに北の恵み! 最高です!」
 大げさにそんなことを言っているが、その場にいた全員が、同じ気持ちだった。



 そして、夜。
 空気が澄んでいるのか、窓の外からは綺麗な月と、そして、星が見えた。
「はい、羽純くん」
 部屋の窓際で二人、並んでお酒を飲んでいるのは歌菜と羽純だ。
「綺麗だね……へへ、星がはっきり見える」
「ああ……綺麗だ」
 歌菜は羽純の肩に頭を乗せて、ゆったりと話す。ほのかに頬が赤い。
「ちょっとだけ……酔っちゃったかも」
 すう、と息を吐いて歌菜は言った。
「俺も……少し酔ってる」
 そんな歌菜の頭に頬を寄せ、羽純は静かに息を吐いた。
「酔ってる……かもな」
 ふふ、と笑って、彼は言った。


「うーん……すぅ……すぅ……」
 ユウキは部屋に戻るとすぐ寝てしまった。リアトリスとレティシアは窓際で、二人並んで外を眺めている。
「ゆったりしていて、とっても気持ちいいですわねぇ」
「うん……ここはいいところだね」
 二人で寄り添い、口にする。
「うーん……えへへ……もう食べられないよぉ」
 そんなベタな寝言を言うユウキを見て、二人はくすくすと笑った。


「うふふふ……もう、ダメだってばあ……」
 クリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)神月 摩耶(こうづき・まや)の部屋では、クリムはすでに寝入っている。摩耶はゆっくりと彼女のベッドに入り込むと、彼女の背中に頭を当てた。
「クリムちゃんの一番はボクなんだから……ね?」
 そう言って、ちょこっとだけ服の隙間に手を入れたり。
「クリムちゃん……あったかいよ」
 へへへ、と笑って言うと、ちょうどクリムが寝返りをうってきた。正面から彼女の体に抱きついて、摩耶は目を閉じる。
「ずっと、一緒に居たいよ」
 やがてすぅすぅと摩耶が寝息をたて始めると、クリムは優しく、彼女の頭を撫でた。



「セーレーアーナ♪」
 同じく二人部屋、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は眠そうなセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)のベットへと飛び乗った。
「なに?」
「温泉で、肌がツルツル」
 セレンは腕を出して見せる。
「そうね。なかなかいいお湯だったわ」
 セレアナが同意すると、セレンはセレアナの腕を取る。
「セレアナもツルツルー」
「ちょ、セレン………」
 頬ずりする。セレアナは少しだけくすぐったそうに、身をよじった。
「他の部分もツルツルかどうか……うふふ、確かめてあげる!」
「え、ちょっと、いいわよ……ひやぁ!」
 と、いうことで、これから彼女たちは少し汗をかくことになるのですが……お見せできません。



「王様ゲーム!」
 数人で集まっている部屋では、遅くまで騒いでいる部屋も。レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)が割り箸をみんなに配る。
「三番が、六番のはぁはぁ……胸を揉む!」
「あ、私三番だよ」
 詩穂が手を上げる。
「六番は!?」
 レオーナが見回すと、
「……私よ」
 香菜がおずおずと手を上げる。
「それじゃあ香菜さん、失礼して」
「やあんもう、どうして今日はこんなことばっかり!」


 



「ふう……やっと片付けが終わったでありますよ」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は遅くまで働いていた。軽く額の汗を拭って、息を吐く。
 特に壊れた露天の境を直すのが大変だった。二度とああいったことの起こらないよう、鋼鉄製にしておいた。
「吹雪ちゃん、お疲れ様」
「女将さん。へへ、お安い御用でありますよ」
 胸を張って言う。
「せっかくだから、もう一回お風呂に入ってから寝なさい。まだ開けてあるから」
「いいのでありますか!?」
「いいわよ。今日はよく働いてくれたから」
「えへへ、ありがとうであります!」
 女将さんの優しい笑顔に見送られ、吹雪はそのまま温泉へ向かった。
 その後、ほぼ貸し切りの露天を満喫した。



 そうやって、いろいろと騒動はあったものの……北海道旅行、一日目は幕を閉じた。