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スライムとわたし。

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スライムとわたし。

リアクション

「うわー、やっぱりこうなっちゃうのかー」
 【空飛ぶ魔法↑↑】を使って空に浮かんでいた秋月 葵(あきづき・あおい)は、下の惨状を見て思わず口元に手をあてた。

 きっとこうなると読んで、最初から上空に避難してたあたしってばえらいっ!

 あたし、意外と先見の明があるんじゃない? と胸を張って自分を褒めていた葵は、さてじゃあどうしよう? とあらためて考える。
 そしてわりとすぐに1つのアイデアに行き当たった。
「スライムってぽよんぽよんしてるしー、うにょうにょだしー」
 あれってたぶん、クラゲと同じでほとんど水分だよね? 剣が通らない感じだと、なんか水分大分抜けて、凝縮されてハードグミみたいになってるっぽいけど、でもほとんど水分っていうのは変わらないはずだから、凍らせればいいんじゃないかな?

「思いつきだけど……とりあえず、やってみよー!」

 えーーーーい! とブリザードを放つ。
 氷と雪の風はたしかに当たった小型スライムたちを凍らせたり、中型スライムつららを垂らせたりしたが、それ以外のスライムに葵の存在が気づかれる結果になってしまった。
 ギロリ、という感じでたくさんのスライムが一斉に葵の方を向く。
「え? あ、あの、でも……」
 だ、大丈夫だよね? ここ、空の上だし……。
 そこで葵はようやく思い至った。

 隠れ場所になるような所も物もない空の上で桃色光線や溶解液を浴びてマッパになったら、本気でシャレにならないと。

 さーっと顔から血の気が引いた。
「……いや〜〜〜んっ! だめっ! だめったらだめなんだから! こっち来ないでーっ」
 ぱっぱと手を振る葵の真下に集まってきたたくさんのスライムたちは、とびかかろうとして、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「あ、でも」
 全然高さが足りてない。
 そのことに気づき、ほっとひと息ついた葵だったが、やっぱりそうはいかなくて。
 すぐに真横を小型のスライムがぴょーーんと飛び跳ねたのを目撃して、目をむいた。
 3人よればなんとやらって言うし。スライムもスライムなりに知恵があるのか、それとも跳ねているうちの偶然か、スライムの上にスライムが乗っかってバウンド力が増したのだ。さらにその上にスライムが、と、三段ジャンプの要領で、葵のいる高さを超えてスライムが飛び跳ねている。
「きゃーーーーっ!!」
 大あわてで逃げる葵とだるま落とし状態でぴょんぴょん飛び跳ねるスライムたちの追いかけっこが始まった。

「やだーーー! こっち来ないでってばーーー!」

 その声を聞きつけたソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が空を仰ぐ。そこで逃げ惑っている葵を見、はたとつぶやいた。
「あれって、真上に逃げればいいだけじゃ……」
 しかし葵にそれと気づいている様子はない。きゃーきゃー騒いでいるせいで、ますます彼女を追うスライムは増えているようだ。
「しかたない、手伝ってやるか」
 腕まくりするようなしぐさでそちらへ向かおうとしたら、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が呼び止めた。
「ソラ。手が空いてるならちょっとこっちを手伝ってくれないか」
「えー? なになにー?」
 ハイコドに呼ばれた瞬間、コロっと葵のことは忘れてそちらを向く。
 ハイコドは、そんなこんなでこんなにも周囲が騒がしいというのに、そういった一切は無視して黙々とわが道を貫いていた。
 自在で出現させた気の剣で斬ったり、槍の穂先のようにした触手で突いたりしている姿はスライム退治というより、もっぱら「いかにすればこのスライムを傷つけることができるか?」という、実験めいたことをしている。
 結果は、
「ある意味ドラゴンより手強いぞこいつら」
 だった。
 なにしろ小さくて軽いからただ殴っても単に吹っ飛ぶだけで、斬ったり突いたりしても柔軟な表皮ですべて吸収してしまう。針のように細くした触手なら貫けたが、かといって、それで致命傷を与えられたというわけでもなさそうだ。針は針だ。痛がっている様子もない。
「厄介だな」
 触手を伸ばし、飛び跳ねている小型スライムを掴みあげて向こうの岩にたたきつけてみたが、小型スライムはべちゃりとつぶれたように変形して衝撃を吸収すると、ぼたっと下に落ちてまた元の形に戻り、平然と飛び跳ねて行ってしまった。
「ああいった、小さいのはやはり焼いて蒸発させるしか手はないだろうな。それはほかのやつらに任せるとして、俺たちはもう少し大きめのやつをやろう。そこそこ質量があれば、こちらの攻撃も伝わるはずだ」
「ふーん。で、私は何をすればいいの?」
「向こうのやつを追い立ててきてくれ。あの光線が大神之爪の機晶フィールドで弾けるか試してみたい」
「はーい」
 ハイコドの指さした中型スライムの方へ向かおうとしたときだ。

「危ない!!」

 緊迫した声がして、「え?」とそちらを向いた瞬間。
「スライムガーーー!」
 と、緊張感に欠ける声とともに、何かボール大の物が飛んできているのが見えた。
 まあ、並の人間ならそれくらいしか分からないが、獣人の動体視力を持つソランである。投げつけられて怒ったスライムが飛ばしてきた溶解液なぞひょいと避けて、それを投げつけたアキラの元へ詰め寄る。
「一体どういうつもり?」
「だ、だから危ないって……」
「投げつけたのあんたでしょ」
 さらに厳しく尋問しようとしたところでアキラの面がハッと何かに気づいた表情になった。
「え? 何?」
 彼が見つけたものを見ようとそちらへ視線を走らせたソランの背を、どんっとアキラが突き飛ばす。
 しかしそここそ溶解液の射線上だった!

「危ないっ!」
 スライムガー(^□^)

「……あんたねぇ」
 ハイコドの大神之爪のおかげで溶解液を浴びることを免れたソランは、死にたいワケ? とアキラの胸倉を掴み上げる。
 しかし次の瞬間、ソランはびくりと体を震わせ、赤い顔で自分の胸元に手をあてると「あーっ、もう!」と、やりきれないといった様子で頭を掻いた。
「面倒くさい!」
 とひと声上げて、人型をやめ、完全に狼の姿になる。
「これなら光線浴びようが溶解液を浴びようが平気よ」
 そしてアキラを見上げた。
 アキラが何を目的としてあんなことをしようとしていたかはお見通しだ。
「よかったわね、私がハコ以外の粗××なんか見たくもないという考えで」
 でなかったらあんたなんか、今ごろ溶解液風呂に漬けこんでたわよ、と牙を剥いて見せたあと、最初の中型スライムに目を向ける。人間の目で見るのと狼の目で見るのとでは見え方も少し変わってくるのか、ソランは「あら、意外とおいしそう」とつぶやいた。
「あのスライム食べたら例の面白光線出せるようになったりするのかしら?」
 と、うれしそうにそちらへ駆けて行く。
「こらっ、ソラ! そんなの食べないの! 腹痛起こすわよ!」
 ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)が注意したときにはもう遅く、ソランはスライムにかぶりついていた。
 だがやっぱり牙は通らない。
「あ、でも、このスライムおもしろーい。ほら、すっごい跳ねるのよ!」
「ソラ!」
「いいなーこれほしーなー。1つくらい持って帰りたいなー」
 仰向けになって、ぽーんぽーんとトランポリンのように背中で跳ねながら、そんなことをつぶやいているソランに、ニーナはこめかみに指を添える。
「あの子、絶対ハコの言ったこと忘れてるわね……」
 しかたない、私が追い立てるか。
 スライムのなかに入っていくのだから、用心してソランのように狼の姿がいい、と完全狼化したところで、ニーナもまたソランと同じ罠(?)にハマった。
「……あら。スライムってこんなにおいしそうだったかしら?」
 あらやだ、肉球から伝わってくる表面もひんやりしてて、なんだか気持ちいい、と中型スライムの上に寝そべって、そのまま昼寝を始める。

「おーーーい。2人ともーーー?」

 ハイコドがちょっと途方に暮れた声で呼びかけたが、ソランはスライムトランポリンに夢中だし、ニーナはすっかりウォーターベッド感覚で夢のなかで、いつまでも戻ってくる素振りはなかった。