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リアクション
「カヤノぉ、お前ほんっと色気ねぇー身体してんなぁ! まな板……いや、青だからビート板だな!」
「な、なんですってー! ……ウィル、いいからコートに入りなさい。氷漬けにして海に沈めてあげるわ」
ひひひ、と笑いながらカヤノを挑発するウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)の言葉を、通りがかりに聞きつけたメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)が、自分にも該当する部分があったことに激昂した様子で飛び込んでくる。
「カヤノさん、一緒にあの人を懲らしめましょう!」
「……いいわ、二度と口も聞けなくしてあげてもいいわね」
同じものを持っていると感じ取ったカヤノが頷き、ここにカヤノ&千雨ペアが決定する。
「ちょ、このままじゃ俺フルボッコ予定!? あっ、あんな所にサラ様が! サラ様お願い助けてー!」
2対1の劣勢に追い込まれたウィルネストが、その場を通りかかったサラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)に救いの手を求める。
「……ふむ、何やら話を聞くに、あなたの自業自得な気もするが……まあよい。相手がカヤノとなれば、みすみす退くには惜しいからな」
サラがウィルネストと手を組み、ここに『氷VS炎』の戦いが始まろうとしていた――。
「……アイツらの戦いでは、おそらく審判など不要ではないかと思うのだが」
「まあまあ、見てるだけでも面白そうではありませんか」
いつも通りのハチャメチャな展開を予期して、ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)がため息をつく横で、志位 大地(しい・だいち)はジェラート片手に高みの見物を決め込んでいた。
「FS発動! 高温上昇気流スパイラルアタックサポーーート!」
カヤノ・千雨ペアのアタックを、ウィルネストが得意のファイアストームで防ぎ、ボールは熱量を持って宙を舞う。
「カヤノ、この炎を防ぎ切れるか!」
空高く跳び上がったサラの、ほぼ直角度からのアタックが炸裂し、ボールは紅く滾る熱量を含んでカヤノたちを襲う。
「千雨、あんたの操る氷は、あの程度で砕けるほどヤワじゃないわよね!?」
「大丈夫です、強度には自信がありますから!」
カヤノが氷柱を生み出すのに合わせて、千雨も氷柱を生み出し、二人の合わさった氷の壁は、一部を破壊されはするもののサラのアタックを防ぎ切る。
「ほう、なかなかのものだな」
「それはまあ、千雨さんの本体は、機晶姫レールガンで256回射撃されても無傷な金属カバーですから。……そして千雨さんの胸は鉄板、後は言わなくてもお分かりでしょう?」
「胸は関係ありませんっ!!」
大地の解説に、コートから飛んできた千雨のツッコミが炸裂し、見事な氷の彫像が出来上がる。
「……ハァ。まったく、これを誰が元通りにするのか分かってるのかお前ら……」
ため息をつきながら、ヨヤがどこからか道具を取り出し、氷像を傷つけぬように削り始める。
「私たちの身体的特徴をバカにした報いよ!」
「海に沈めなかっただけマシと思いなさい、ウィル。まあ、そのうち助けてあげるわ」
「あれおかしいな、砂に埋められてるはずなのに寒いのはナゼ……って出せーーっ!」
「済まない、私が力になれるのはここまでのようだ」
ちなみに試合の結果は、ウィルネスト・サラペアの僅差の勝利に終わった。故に、ウィルネストは海に沈められるのではなく、砂浜に掘った、周りを氷で覆った穴に埋められることとなったのであった。
「セリシアよ! 姉の偉大さ、その目にとくと焼き付けよ!」
「私はこれからも姉様の妹、ですが、五精霊の一柱を担う者として、この勝負、負けられません!」
セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)とサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)の、電撃飛び交う激しい姉妹対決は、両者一歩も譲らず推移していく。
「はわわ、サティナさんもセリシアさんも無茶苦茶過ぎますー」
「何、二人のことだ。周囲に迷惑を掛けるような真似はすまい」
二人がボールを打ち合うコートの横で、サティナとペアを組んでいた土方 伊織(ひじかた・いおり)、そして、セリシアとペアを組んでいたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が肩を並べて試合の様子を見守っていた。
「サティナ・ウインドリィ。俺はイルミンを離れ、遠く西の地を訪れることにした」
そう切り出すレンを、サティナが真っ直ぐに射抜く。
「東西に分裂しての建国、今はまだ表面化していないが、いずれ大きな軋轢、大きな争いが東西の間に起こるかもしれん」
レンの言葉に、サティナが静かに頷く。表面上は影響がないことを言っているものの、東西に分裂したというのは紛れもない事実であり、このまま何も問題が起きない保証は何も無い。
「……俺は必ず、皆の力になりに戻って来る。それまで、イルミンの皆を頼む」
レンに告げられ、サティナがフッ、と微笑を浮かべて応える。
「お主の頼みとあらば、我も出来る限り応えてみせようぞ」
互いに差し出した手を、今度は力強く握り締め合う――。
「……僕は、サティナさんのパートナーとして相応しいでしょうか」
サティナとの直前のやり取りを思い出していたレンの耳に、伊織の言葉が聞こえる。レンがフッ、と相好を崩して、伊織の肩に手をやる。
「お前はサティナに選ばれたんだ。その事に胸を張り、そして自信を持て。
大切なパートナーを守れる、強い男になれよ」
まだ若い戦士の成長を願うレンの言葉を、伊織はどう受け取っただろうか――。
「フフ……セリシアよ、なかなかやるではないか。今日のところは引き分けにしておくとしよう……」
「ありがとうございます、姉様……」
あまりの衝撃に破裂したボールの欠片がそれぞれのコートに落ちた瞬間、どちらともなくサティナとセリシアがぱたり、と砂浜に突っ伏す。
「はわわ、サティナさん、セリシアさん!? もー、二人とも無茶しすぎですよぉ!」
慌てて駆け寄る伊織、その背中を見送ったレンが振り向き、今頃は海の家で食を堪能しているであろうアリス・ハーディング(ありす・はーでぃんぐ)の下へ足を向ける。
(……む、入れておいたはずのサングラスがないな。……まさかアリスが?)
首をかしげるレンの予想通り、海の家ではサングラス姿のアリスが、焼きそばを口にしていたのであった。
「参りますわよ! ブライトシャワー!」
ふわりと宙を舞ったボールを、光の槍を生み出したセイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)がそれで貫けば、遥か上空へと飛んだかと思いきや無数の光の槍となって降り注ぐ。
「何の! これぞ鉄壁の守り、雪国バリアーだ!」
それを、光学迷彩で姿を消した雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、次々降り注ぐ槍を発する闘気で撃ち落としていく。撃ち落としきれずいくつかがベアに刺さるが、強靭な体力を有するベアはその程度では揺るがない。
「……見つけた! ご主人、後は頼むぜ!」
ボールの刺さっている槍を撃ち落とし、ボールがふわりと宙を舞う。攻撃を託されたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が魔法の詠唱を始めた矢先、周囲を漆黒の闇が包み込む。
「済まないが、これも勝負……悪く思わないでくれ」
闇を生じさせたケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)の向こうで、しかしソアは動じることなく詠唱を続ける。
(この闇……光だけでは突破できないでしょう。……なら、火と雷の力も合わせて……!)
詠唱を完了したソアが、まずボールへ炎と雷を纏わせる。二つの魔法の力でボールが熱と、そして光を放つ。そこへソアが3つ目の魔術、光を撃ち出して光の力を増幅させる。
「炎よ、雷よ。今一つに集いて、全てを貫く光となれ!
ストライクプラズマ!」
放たれたボールは、闇を切り裂きネットを突き破り、セイラン・ケイオースペアのコートを襲う。
「……何!? うおおぉぉ!!」
自身の術を破られたケイオースが、ボールとしばらく拮抗していたが、やがて大きく吹き飛ばされ、そしてボールは破裂して破片がコートへと落ちた。
「お兄様!?」
「……大丈夫だ。しかし、まさか俺の闇を打ち破ってアタックを放つとは、見事だな。俺たちの負けだ」
「あ、ありがとうございますっ」
ぷすぷす、と煙を放ちつつも元気そうな様子のケイオースに称賛の言葉を受け、ソアがぺこり、と頭を下げる。
「さーて、どうすっかな。んじゃ、二人にはバカップル兄妹ごっこでもしてもらうか!」
「ベ、ベア! あれ、本当だったんですか!?」
ベアの罰ゲームの内容に、ソアが驚いた様子を浮かべる。
「……あら、それでよろしいのですの? いつものことですのに。……ね、お兄様。ふふ、お兄ちゃん、とでも呼んだ方がよろしいかしら?」
「や、止めるんだセイラン、こんな人目に付く場所で――」
「えぇー、お兄ちゃんいつもは「ふふ、セイランは甘えんぼさんだなぁ」って付き合ってくれるのにぃ。……あっ、お兄ちゃん、ここ焦げちゃってる。わたしが舐めて治してあげるね!」
「だ、だから止めろと言って――!」
何故か口調まで舌っ足らずに変化したセイランが、嫌がるケイオースを無理やり遊戯に付き合わせる。確かに兄妹なので間違ってはいないのだが、外見年齢二十歳超えの二人が絡み合う様は、何か別のものを想起させてしまいかねなかった。
「ご、ご主人! これは見ちゃいけねぇ!」
「え、ええ!? ベア、どうして目を隠すのですか?」
ソアの教育に良くないと判断したベアに視界を遮られて、ソアが戸惑った声を上げる。
どうやらセイランの、ケイオースに対しての態度の変貌は、想像以上であるようだった。
「精霊の魔法……まるで息をするみたいに自然に使ってる……もっと見てみたい……」
カヤノとサラ、セリシア(とサティナ)、セイランとケイオースの戦いぶりを観戦していた御子神 鈴音(みこがみ・すずね)が、無表情を装いながら精霊の『魔法』――彼らはきっと魔法とは思っていないほどに自然なことであろうが――を興味津々な様子で見つめていた。
「うーん、それにしてもこんなあちこちで激しい戦いしてると、いつこっちにボールが飛んでくるか分からないねー」
鈴音の頭の上で、サンク・アルジェント(さんく・あるじぇんと)が周囲に気を配りながら呟く。
「……アル……重い」
「なっ!? 鈴、私の気遣いを――わわわ、ちょっと鈴、揺らさないでっ」
鈴音に揺り動かされてサンクが悲鳴をあげる。次の試合も、精霊の出番であるようだった。
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