空京

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戦乱の絆 第1回

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戦乱の絆 第1回
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リアクション

 アイシャを巡る攻防1
 
 コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)がもたらした情報により、東西シャンバラ政府による「ジャタの森」でのアイシャ捜索が始まった。
 両陣営の先兵たちにより、次々ともたらされる、女王の力を持った謎の美少女の目撃情報。

「隠れ身」を解除し、アイシャが森の深部に現れた。

 いま、東西シャンバラの学生達を巻き込み、アイシャを巡る攻防が本格化する――。
 
 ■
 
「アイシャ発見!」
 
 東西シャンバラの大規模な捜索隊の内、いち早く彼女を補足したのは、西側に所属する【1stC】のメンバーであった。
 西側がより東側より先兵を多く送り込んだことと、指導者クレア・シュミットが西シャンバラ・ロイヤルガードであるため、情報合戦を制した結果だ。
 また他の隊に比べ小規模なため、指令系統が単純化されており、迅速に行動できたことも要因の一つに挙げられる。
 
「了解!
 クレアさんの下へ、アイシャさんを追い込むぜ。
 健闘を祈っていろよ!」
 大岡 永谷(おおおか・とと)は【1stC】におけるアイシャの第一発見者となった。
「トト、あたいが仕掛けた罠を使いなよ!
 その方が、スムーズにいくよ! きっと」
「ああ、ありがとう! 福」
 永谷はパートナーの熊猫 福(くまねこ・はっぴー)に礼を言った。
 福がトラッパーで仕掛けた罠は、他の捜索隊の面々――特に東側の――足を止めさせる。
 アイシャがそこにいて身を守っているのかも? と敵が考えて立ち止まる。
 そう考えて仕掛けたトラッパーだった。
 だが実際は、身動きが出来なくなった為に捜索自体が難航する、というものであった。
「ま、結果オーライだから、いいよね? トト」
「ああ。じゃ、俺は大きな音や光でも出してみるかな?」
 破壊工作や光術で、アイシャの関心を買う。
 何だ何だ? と人がわらわらと集まったところで。
 大衆心理から木の陰からのぞくアイシャを捕まえた。

「女の子が1人で? こんなところにかい?
 ジャタの森の中は危ないぜ?
 そうだ! こっちへ来いよ!」

 ■

 彼女をとらえようとする手から守り、逃走を手助けした【1stC】大岡 永谷に導かれたのを機に、アイシャは指導者であるクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)との会見に臨むこととなった。

 ■
 
「だいじょうぶよ、アイシャ。
 クレアは教導団の団員だけど、信用に値する人物だわ!」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はクレアを称賛する。
 彼女は道々の護衛の中、アイシャに請われるまま、クレアの人物像について説明していた。
「そう、クレアと言う方は、人望の厚い方なのね? ローザマリア」
 ローザマリアはええ、と愛想よく笑った。
 素直な彼女に対して、アイシャは既に好感を抱きつつある。
 ローザマリアの心をとらえた、「彼女」。
 この方なら、一人ぼっちの私の力になって下さるかしら?
 アイシャはローブをギュッ握りしめる。
 クレアとの会見場所は、森の獣道を進まなくてはならない。
 獰猛な野獣と、東側の要員達を「殺気看破」で警戒しつつ、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が先導して行く……。
 
 アイシャから見たクレアは、確かに聡明な「軍人」だった。
 背筋正しくなるような、それでいて「信頼に足る」風格がある。
 弱った少女の目から見れば、頼りになる「大人の女性」だ。
「初めまして、アイシャ。
 私はクレア・シュミット。
 クレアでいい」
 アイシャを握る手も力強く、それでアイシャはホッとした。
 ローザマリアの評価は間違ってはいなかったのだ、と。
「単刀直入に言うぞ、アイシャ。
 一般人と、何よりもあなた自身のために。
 私達、西側へ来て頂きたい」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が説明をする。
 その様子も誠意がみられて、アイシャのとっては好ましいものに映る。
「東側に行けば、間違いなくエリュシオンに引き渡されてしまいます。
 けれど、我々も無理にあなたに来て頂こうとは思いません」
「? それはどういうこと?」
「あなたの目的を聞いたうえで、意志を尊重したいと。
 私達はそう考えているのだ、アイシャ」
 クレアは机上に肘をつく。
 組んだ手の甲を顔に当て、真摯に告げた。
「ヴァイシャリーに行きたいの! クレア」
 思い切って、アイシャは言ってみた。
 クレアの表情は変わらない。
「難しいことは分かっているの、でも代王様にお会いしなければ!
 クレアは、協力して下さる?」
「……分かった。
 出来る限り協力しよう」
 では、隊員達と話し合わなければならないので。
 そう告げて、クレアは難しい顔つきで部屋を出て行く。
 クレアは、本当に私に協力して下さるみたいだわ!
 アイシャは聡明だ。そして賢い。
 クレアの誠意が通じぬはずはない。その立場も。
 扉を通して、メンバーの声が流れてくる。
 クレア、そんなことを引き受けて。
 西側で保護するって!
 説得して、理解を求めなくちゃいけないのに!!
 それにヴァイシャリー側の出口には、エリュシオンのイコンが……。
「クレアも、ローザマリア達も本当に善い人達だけれど……」
 これ以上、迷惑はかけられないわね?
 
『ありがとうございました アイシャ』
 
 机上のメモにアイシャは書き置きを残し、テレポートで移動した。


 ■
 
 その後、クレア達からテレポートで離れたという情報が西側陣営にもたらされる。
 アイシャはまだジャタの森の中を彷徨っている。
 しかもクレアによりもたらされた記録から、西側には捜索を行うために十分な情報がある。
 これを機に、少女発見のための大規模な作戦が展開されることとなる。
 
 ■
 
 西シャンバラ・ロイヤルガードの前原 拓海(まえばら・たくみ)は、代王・高根沢理子の警護をしつつ、【新星】の指揮官クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)に空京への移送を携帯で連絡した。
 理子とアイシャ謁見実現のためだ。
 パートナーのフィオナ・ストークス(ふぃおな・すとーくす)は、既にアイシャを迎える用意を整えている。
 
 【新星】のクレーメックは、西シャンバラ・ロイヤルガード・総隊長の羅英照の下で働いていた。
 拓海からの正式な命を受け、アイシャ「保護」の作戦を立案。
「根回し」を使い、羅へ上申した。
 羅の承諾の下に、作戦は決行。
 島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)が司令部と各捜索部隊との連絡役として、現地の指揮・香取翔子にジーベックの指令を通達する――。
 
 かくして、【新星】による「ジャタの森・アイシャ確保」作戦が始まった。
 
 ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)は心優しき青年だ。
 丁重な態度で事情を説明しつつ、現地の村人や旅人に捜索協力仰いだ。
「ジャタの森に迷い込んだ少女を捜索しています。
 もし発見したら、教導団にご一報下さい」
「そのアイシャさんが、村人に化けていたらどうするの?
 私は彼らを穴があくくらい、凝視してやるわ!」
 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)はゴットリープの隣で、村人達の様子を探る。
 だが、アイシャは見つからなかった。
 そもそも変装して隠れてはいないのだ。
 が、現地の情報はあながちバカには出来ないもので、これが、アイシャ発見の決め手となる。
 近くでの目撃証言があったのだ。
「わかった!
 では俺達は、目撃された位置に直行してみる!」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)に操縦を任せ、サンタのトナカイで出撃する。
「さて、アイシャはどこにいるでありますか?」
 
 そして彼等はフラフラと歩くアイシャを発見したのだった。
 
「いたぞ! 我、発見せり!
 仲間に即連絡であります!
 足取りも遅いですし。
 きっと、追いつけるでありますよ!」

 ■
 
 アイシャが再び捕捉されたのは、【新星】のメンバー相沢 洋によってである。
 【新星】のメンバーからの連絡を受け、白 玉兎(はく・ぎょくと)が「超感覚」を駆使して、彼女の保護に成功したのだった。
 
 ■
 
「あなたが、アイシャさんね?」
 玉兎に案内された仮設陣営内で、アイシャは指揮官の香取 翔子(かとり・しょうこ)と初めて会った。
 クレアに似ているな、と思った。
 信頼に足る、強い瞳を持っているということだ。
「私は香取 翔子。
 西シャンバラ政府から依頼を受けて、あなたの保護に努めている教導団の者よ」
「私の保護? それはどうして?」
「エリュシオンから逃げてきた、少女。
 正義のため、保護は当然のことじゃない?」
「『正義』のため?
 それは、西側政府の正義のためと言うことでしょうか?」
 アイシャの表情に、怒りが見える。
「いえ、そういう訳ではなく……」
「そうやって!
 女王様も!
 正義とか何とか言って!
 利用する人がいたから、こんなことに!!」
「アイシャ待って! 私の話を……」
 アイシャは一瞥することもなく、テレポートしてしまった。
「何てこと!
 私は、何て不器用な……どうして『あなたのことが心配だから』って。
 真っ先に言えなかったのかしら……」
 気づかなかった。
 少女は「正義」だとか、建前の大義名分で捕えられることを、心底嫌がっていたのだ!
 
 ■

 アイシャにテレポートされた西側は執拗に周囲を捜索。
 西側からの情報を受け、目撃地域の1番近くにいた【龍雷連隊】が補足する。
 
 ■
 
 発見者は、【龍雷連隊】の捜索係である伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)オルガナート・グリューエント(おるがなーと・ぐりゅーえんと)の2名である。
 藤乃が銃型HCで辺りをつけて捜索していたところ、アイシャを見つけたのだった。
 
 オルガナートがアイシャの意思を尊重したことから、アイシャは2人を信じて自分の目的を話した。
 
「ヴァイシャリーの代王セレスティアーナに会いたい」こと。
「2人の代王に会えば、完全な形で女王を復活させる事ができる」こと。

「どちらに先にあっても、同じことではないのですか? アイシャ」
 ポリポリと頬をかいて、藤乃はパートナーを見る。
「私は、アイシャの尊重するわ!
 だから、東側に連れて行く」
「でも、行き先はヴァイシャリーですよ?
 わざわざエリュシオンに捕まることが分かっていて、向かわせますか?」
 藤乃は話の内容次第にしようと考えていた。
「それに、代王に会う優先順位の理由も不明ですね。
 西側の方がよい、と思うのですが……」
 
 もめている間に、仲間の九条 ジェライザ・ローズに見つかった。
 それで、一旦松平 岩造(まつだいら・がんぞう)達に渡してから決めよう、と言う話に落ち着いた。
 
 アイシャは信じた2人の勧めにより、岩造との会談に臨むこととなる……。