空京

校長室

戦乱の絆 第1回

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戦乱の絆 第1回
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リアクション

 アイシャを巡る攻防2
 
「隊長はこっちに向かっている。ここで待つのだ、アイシャ」
 のんびりとした口調で、護衛の原 萌生(はら・もえにいきる)が告げた。
 彼の隣を、伝令のレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が忙しく徘徊する。偵察も兼ねているため忙しい。
「無駄口叩いているんじゃないですよ、萌生。
 ミスティ! アイシャSP、よろしくお願いします!
 では、あちきはこれにて」
 レティシアは一礼すると、茂みの向こうに消えた。
 あっけにとられたアイシャの隣で、萌生が説明する。
「忙しいのだ、許せ。
 それと教導団へ行く時は、彼女が君を送り届けることになるであろうしな」
「教導団へ?」
「聞いてなかったのか?」
 萌生はしまったかなあ、と世間話(東西シャンバラの情勢)を一通りしてから。
「……ということでだ。
 危ないから、西側に来てほしいと。
 そう、自分達は望んでおる訳だ!」
 うむと、ガンディーヌ・サーコート(がんでぃーぬ・さーこーと)が相槌を打つ。
 寡黙な彼はそうしてしかめつらで相槌を打って、アイシャにこっそり笑われていることに気づかない。
 だが、少女の緊張はほぐせたようだ。
「それにしても物々しいのね?
 私1人のために?」
 アイシャはぐるりと周囲を見回した。
 岩造が来るまで、という話だが、護衛だけでも萌生らのほかに6名程もいる。
 アイシャのSP役となるミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)
 前衛に、ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)
 加速ブースターを背負い、さざれ石の短刀を構え。
 茂みに、アルト・ファルケ(あると・ふぁるけ)
 碧血のカーマインで、遠近距離そちらの伏兵にも対応可能だ。
 パートナーのアン・リーゼンアルム(あん・りーぜんあるむ)が「ディフェンスシフト」で、防御の支援を行う。
 レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)は、碧血のカーマインを構えつつ、索敵。
 アーミーショットガンを構えたレイナ・アルフィー(れいな・あるふぃー)が「精神感応」で連携をとっていた。
「異常なし、応答願います!」
「こっちも、異常なしだよ!」
 互いの連絡を取る声が、束の間森を支配する。
 アイシャは物珍しそうに、彼らを眺める。
 追われてこそいるが、軍隊の働きをこうして目の当たりにするのは初めてだ。
「そんなに見つめられたら、困っちゃうわ!」
 ミスティがボケて、全員が笑った。
 
 岩造と会う前に、アイシャは傷を治すことになった。
 途中回復魔法を使ったとはいえ、逃げ通しに逃げてきた。
 流石に手足には生傷が絶えない。
 枝に引っ掛けたせいだろう。
 ローブも既にボロボロだ。
「こんななりで、よく頑張ったな?」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)がアイシャの傷を診た。
 その身なりは、防弾ベストにアサルトパンツにガスマスクを着用、と物々しい。
 冬月 学人(ふゆつき・がくと)が両手を差し伸べ、ヒールで癒す。
 アイシャの顔にようやく生気が戻った。
「死ぬかと思ったわ、ありがとう」
 アイシャは礼を言って、ジェライザ・ローズの足下を見た。
 そこにはたくさんの患者達の姿がある。
 患者は学生だろう、様々な学校の者達がいて、身動きできそうなまでに回復している。
「ああ、ついでにと思って」
「でも、彼等は敵よ?
 大丈夫なの?」
 東側の生徒達を指さした。
「別にいいんじゃね?
 それに自分達、元は1つの国民だし」
「まあ……」
 と言ったきり、アイシャは言葉に詰まった。
 言いようのない感動を覚えたのだ。
 このような方の、上に立つ方なのだから!
 岩造様と言う方は、傑物に違いないわ!
 
 ……そうした理由から、アイシャは期待を込めて岩造と会った。
 連隊の指揮に忙しい彼は、21という実年齢よりも老けて見えた。
 時間がないことを詫びつつ、少女に理解を求める。
 アイシャは岩造を試すために、わざと拗ねて見せた。
「私を保護したのは、教導団のためなの?」
「違います!」
 岩造は断言する。
「そりゃあ、確かに国軍の将官にはなりたいですが……」
 アイシャはこっそりと笑った。
 この方は、子供みたいに正直なのね?
 岩造は顔を真っ赤にして説得を続ける。
「今の私は……私達はアイシャ、あなたをただ守りたいだけです!」
 エリュシオンやメニエス……敵を列挙する。
「俺はそういう危ない連中から守って、羅英照の下へ送り届けたいのですよ」
「羅英照?」
「西シャンバラ・ロイヤルガードの総隊長です。
 そこならきっと、安全ですよ」
「安全な場所に届けたいから、私を保護したのね?」
 正直な隊長さん、とアイシャは微笑んだ。
「ご親切には感謝致します。
 少し考えさせて頂けません?」
 
 交渉が終わり、出てきたところで、アイシャは懐かしい面々と再会した。
 ゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)ロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)だ。
 2人とも、アイシャとはフマナで面識がある。
「まあ、ゾリア! それに、ロビンさんも!!」
「やあ、アイシャさん!
 思ったより元気そうで、良かったにょろ!」
 ロビンは、軽く片手を上げただけだ。
「何をしているの? こんなところで」
「一緒に逃げるんですよ、こいつでね」
 ゾリアは傍の小型飛空艇を親指で示す。
「今度はへまはしませんよ!
 【龍雷戦隊】の連中もいることだし。
 安全な場所に、アイシャさんを送り届けますにょろ!」
「ありがとう、ゾリア……」

 アイシャはこのままゾリアと飛空艇に乗って行きたかった。
 そうしたら、自分はこの親切な人たちと、ずっといられるのだ。
 機龍に追われる心配もない。
 自分を大事にしてくれる、仲間だって!!
 
 でも、私は……私だけ、安全な場所で楽しちゃいけないよね?
 
 自分には使命がある、ヴァイシャリーへ行かなければならないのだ!
 きつくローブを引き寄せる。
「ゾリア、また今度、たくさんお話しましょう。
 それと、皆さんによろしくお伝えして……。
 感謝していましたって。絶対に……約束よ?」
 
 アイシャはテレポートしてしまった。
 

 ■
 
 【龍雷連隊】を離れたアイシャは、学生達を警戒してか、なかなか姿を現さなくなった。
 躍起になって捜す西側。東側陣営も。

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)率いる【鋼鉄の獅子】が動き始めたのは、そんな背景があっての事だ。
 
 ■
 
 ルカルカは教導団で、金 鋭峰(じん・るいふぉん)団長の傍についていた。
 そして各所の目撃情報、戦闘回避の為の交戦情報等を収集後、仲間に提供。
 逆に仲間達からの情報を、団長に報告していた。
 それら情報を基に、ルカルカのパートナーにして片腕たるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、アイシャ存在位置の割り出しに成功したのだ。
 折しも、東側が先兵を引き上げ、ロイヤルガードを中心に動き始めた矢先の事だ。
 
 ことは、一刻を争う――。
 
 【鋼鉄の獅子】は1班と2班に分かれ、森の中にアイシャの姿を求めて徘徊した。
 そして捜索、超感覚、博識を駆使してアイシャ捜索に全力を傾けていた1班の橘 カオル(たちばな・かおる)が、アイシャの確保に成功した。
 マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が、アイシャを教導団まで護送する護衛役につく。
 カオルから連絡を受けた、2班が合流する。
 月島 悠(つきしま・ゆう)が、予定通りルカルカに無線で連絡を送る。
「こちら、2班です。
 1班がアイシャの確保に成功しました!
 説得後、教導団の陣営まで同行します」
 
 直後に、東側の単独要員と衝突。
 戦闘となった。
 
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)は2班の指揮官として、カオルに指示を送る。
「カオル!
 アイシャを守って、先に行け!
 オレが囮になってやる!」
「ルース!
 カオル、教導団で会いましょう!」
 敵の前に飛び出して行ったルースを、ソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)が追いかけて行く。
「待って! カオル!」
「何だ? シオン」
 カオルが立ち止まる。
 シオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)は、慌てて「禁猟区」を仲間とアイシャに掛けた。
「備えあれば憂いなしだよ!
 さ、早く! アイシャを安全な場所へ!!」
 銃弾が足下に炸裂する。
「くっ! 氷術で足止めです!」
 ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)は「氷術」で相手の足を凍らせて止めた。
 銃撃がやむ。
「今のうちに移動しますよ!
 悠くん! ボク達はしんがりにつきましょう!」
 麻上 翼(まがみ・つばさ)は悠と共に、アイシャを東側から守ってしんがりを務める。

 ■
 
「まあ、あなたが、アイシャ?
 会えてよかった!」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)はホッとした様子で、アイシャと対面した。
 森の中で【鋼鉄の獅子】1班の面々共に待機していたアイシャは、教導団陣営までの護衛役となるナナを待っていたのだ。
 ナナの傍には音羽 逢(おとわ・あい)がつき、絶えず敵を警戒している。
「そう構えないで下さい、アイシャ様」
 アイシャの手をしっかりと握る。
 頼れる大人の女性の手だ。
「教導団で保護したいのです。
 嫌かもしれません。
 けれど私は、アイシャ様のために『教導団が安全な場所』だから、お連れしたいのですよ」
「でも私は、他に行くところが……」
 銃声。
 喧騒をぬって、悲鳴や、野獣の咆哮が時折流れてくる。
 ナナはアイシャを抱え込んで、周囲の様子を窺う。
「ここは危険です! アイシャ様。
 さ、教導団へお越しくださいな。
 そこで、あらためてあなたのお話を窺わせて頂きます。
 よいですか?」
 アイシャは曖昧に頷いた。
 確かにナナの言う通りなのだ。
 ここは戦場で、我が身は危ない。
「ナナ、チョッと待って。
 考える時間が欲しいの!」
「アイシャ様?」
 アイシャはナナの手をすり抜けると、少し離れた位置で考え込む。
(ナナは、教導団の団員だからじゃなくて。
 私が心配だから、教導団へ連れて行こうとして下さるのよね?)
 本当に人の善い人だ。
 自分の話も聞いてくれるだろう。
(でも、このままでは、教導団に連れて行かれてしまう)
 連れて行かれてしまったら、逃げ出すことも難しくなるのではなかろうか?
 ヴァイシャリーは、遠くなってしまうのではなかろうか?
 黙って行くことは簡単だが、テレポートしてしまうのは気が引ける……。
 
 ■
 
 しかし、その後【鋼鉄の獅子】は、イーオン指揮する【陽動】にアイシャを奪われ見失い、その情報は活発化した東側にももたらされる。
 
 両者の攻防は再開し、攻防は更にエスカレートして行く――。



 銃撃の音が樹々の間に響く。
「まったく……」
 佐野 亮司(さの・りょうじ)たちは、ジャタの森の住人や動物を始めとした森に住まう者たちの避難を行っていた。
 彼らは戦闘の焦点になりそうな区域に居た者たちを連れて、戦闘のとばっちりを受けないで済みそうな場所を探している。
「ドンパチやるのは構わないが、住人に何の説明も無しに始めるのはどうかと思うぞ」
「構わないことないです」
 ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が、はふ、と溜め息混じりに言う。
 彼女は適者生存や毒虫を操り、動物や昆虫たちを脅かしながら、そういった生き物たちを戦闘に巻き込まれない方へと逃がしていた。
 目的が似ていたので協力し合っている。
「森でやること自体が迷惑になります。もし、森林火災などが起きたら、どれだけの生き物や自然……そして、生活が壊されてしまうか――だから、やるなら、もっと何もないところでやって欲しいです」
 言ってから、ジーナが少し意気を弱めて、ぽつりと、
「なんて……通じませんよね」
「まあ、国の将来を左右しそうな女の子が森に居て、それを争奪してるって状況だからなぁ」
 亮司は軽く顔を顰めながら頬を掻いた。
 しかし、亮司やジーナのようにジャタの森の住人たちを逃したり守ったりしている者は他にも居るようで、今のところ大した被害は出ていないようだった。
 戦闘を行っている側にも、そういった配慮をしている者が居るのかもしれない。

 避難する住人たちの後方。
 ジャスティシアのガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)が「しかし……」と落とし、
「正直、我にとって国というものは意味を持っておらん……郷愁は大地へのものであり、人の定めた境界やルールなど虚しいもの」
「共感したいとこだが、少々問題発言だな」
 ジュバル・シックルズ(じゅばる・しっくるず)は周囲を警戒する眼を休ませずに言った。
「おぬしは法を扱う者ではないのか」
「法を学ぶほどにそう思えてならんのだ」
 ガイアスの言葉に、ジュバルは軽く鼻を鳴らし笑った。
「そう言ってやるな」
 クチバシの端を撫でながら続ける。
「そいつは扱う者次第ってヤツだろう?」