空京

校長室

【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)

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【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)
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リアクション


勝利を目指して
●通路を駆ける

 神殿内を駆けるマルドゥークとその軍勢たち。その先頭を行く姫宮 みこと(ひめみや・みこと)は、
「暗くなってきましたね」
 と隣をゆく本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)に言うと、瞳鋭く『ディテクトエビル』を発動した。
 さすがは国家神の神殿というべきか。単なる一本道だというのに、その幅は十人が優に横並びになれる程に広い上に、少し開けた空間に出ようものなら中二階なるものがあるのであろう、見上げれば通路脇の手摺りが見て取れた。そんな構造になっているものだから、
「右、上部です」
「おうよ!」
 中二階から一行を狙う、そんな姿が見てとれた。
 揚羽は壁を蹴り跳んで手摺りを掴むと、中二階へと跳び上がりざまに弓を引く神官兵を斬り伏し―――
「おっと、お寝んねにはまだ早いぞ」
 首をガッシリ掴んで脅し訊く。
「ネルガルはどこじゃ、どこに居る!!」
 急所は外した、が答えないならここで殺す。
 狙いはネルガルの首一つ、それを貴様のような雑魚の相手をしてやったのだ、答えぬならばここで……。
 『神官長の間に居ます』との返事が返ってきた。マルドゥークの見立て通り、しかしそこは奴がイナンナより与えられた部屋のはず……。
「この状況下でも奴はそこに居るのじゃな?!!」
 答えはYES、少なくとも今日までずっとネルガルは神官長の間を自室として使っていた、だからきっと今もそこで指揮を執っているはずだという。ちなみに捕えられ石像となった人質たちは『貴婦人の間』に安置されているという。
「まぁ、十分であろう」
 聞き耳を立てていた訳ではない、聞こえたのはあくまでも偶然だったが毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は律儀にも率直な意見でこれに返した。
 彼女もみこと同様に敵兵からの不意打ちを警戒していた。彼女は左方に敵を発見し、ちょうど『ブラインドナイブス』で排除した所であった。
「なんじゃ? 盗み聞きか?」
「そう取ってもらって構わぬが。この問答はここで終いにするのだよ」
 静かな火花が2人の間に散っていたが、それもほんの刹那だった。
「下に3人」
 鎧形態で大佐に装されているアルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)が階下前方左舷に神官兵の姿を捉えた。
「ほぉら、急がないと」
 言ってる本人が全く急いでるように聞こえないのだが…… ツッコム代わりに「まったく、上に下にと忙しいことだ」とボヤイてから大佐は階下へと跳び出していった。
 通路脇の部屋の中から覗っている。本当は『毒入り試験管(魔女のフラスコ)』や『棒手裏剣』を投げつけてやりたい所だが、そのすぐ脇を自軍の者たちが通る事を考えると―――
「えぇい、これだなっ!」
 『機晶爆弾』を放り投げ、本人は『千里走りの術』を駆使して退避した。
 自軍の先頭集団が到達する直前に爆発を起こし、見事ど派手に危険因子の一つを排除した。
「次は正面…………。あら、今度は楽しめそうね」
 今度の声は明るかった。最もその光景を見た大佐は、楽しそうな声をあげたアルテミシアの思考は理解し難かった。
 通路前方には弓を持たない神官兵が30人は居るように見えた。
「嫌ねぇ、私は最初からハイエロファントと戦いたいって言ってるじゃない」
「え…… いやでもアレは―――」
「ここは我らに任せよ!!」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)が―――
「蒼い空からやってきて、カナンの大地を護る者! 仮面ツァンダーソーク1! ここに参上!!」
 ……………………え〜と、仮面ツァンダーソーク1が真っ先に跳び出しました、と。
 ………
 ……
 …
 よし。
 名乗りを駆けながらにやったおかげで、名乗り終えたタイミングで綺麗に技に移行していた。
「道を開けてもらうぞ! ソゥクゥ!イナヅマ!キィィック!(龍飛翔突)」
 振り下ろした脚技が地を砕いた。踵は僅かに痛んだが、ヒーローは決して顔には出さない。
「うまく避けたか、だが!!」
 繰り出したは特技の武術、青心蒼空拳。掌を向けられようとも、術が発動する前に叩いてしまえば怖くはない。
「フオォォオオオオオオ!!!」
 敵陣の中で一人、竜巻の如きにアクロバティックに戦いゆく仮面であったが、彼がそうあっていられるのも、
「はぁあっ!!」
 パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)がフォローしているからである。
「だから、ダメなの!」
 距離をとって仮面を狙う神官兵をいち早く見つけては仕留めてゆく。術の速度を重視して『雷術』で相手を制していった。
「あのうっ、できるだけ怪我させないで倒して下さいよっ!」
 宙を舞うソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)ティアに言った。彼女の目的は主として負傷者の治療、例えそれが敵である神官兵であっても例外ではない………… はずなのだが。
「きゃっ!」
 とっさの事とはいえ、襲い来た神官兵に彼女が放ったのは『ブリザード』だった。至近距離で発せられた氷の嵐は、さぞかし凍い事だろう。
「ごめんなさいごめんなさい、私またっ!」
 吹き飛ばした兵に寄りては『ヒール』を唱える。彼女に言われた通りに術の威力も考慮して『雷術』を主に戦っているティアにしてみても、
「律儀な子だね〜」
 と笑ってしまうほどに彼女の様子は微笑ましく矛盾していた。
「ほぉ、何とも美しき慈愛の心かな」
「ご主人っ!!!!」
 ソアの背後に迫る辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の凶刃に雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が気付いて体を投げ出した。
「ベア!!」
「騒ぐな…… 大したこと無ぇよ」
 左肩から腕にかけて、ベアの真っ白な毛並が真っ赤に染まり色づいている。
 膝をつく前にベアは『隠し縫い針』で反撃したが、「危ない危ない」と刹那はこれを避けて後退していった。
「アルミナ、首尾はどうじゃ?」
 敵陣の中央で『嫌悪の歌』を歌うアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)は「順調だよ」と答える代わりに首を縦に振った。
「そうかそうか、良いぞ、雑兵は戦の基本じゃからな―――ぉっと!」
 『栄光の刀』による一閃が刹那を襲った。刀主はシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)であった。
「なぜネルガルに荷担する」
 小柄な刹那ではそう長くは受けきれない、そう読んだシルヴィオは間髪入れずに斬りかかった。
「この国の何を見てネルガル側に付いた!」
「大層な理由をお望みか? だが残念、そんなものは無い」
「無い…… だって?」
「あぁ、ない。ただ面白そうだから奴に付いただけじゃ」
 その言葉はシルヴィオを失望させただけでなく、
「何の信念もなく、悪しき権力に取り入るだなんて、」
 アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)の冷なる逆鱗に触れた。
「はっきり言って迷惑です」
 一思いに刹那を眠りに墜とした。二度と目覚めることのない永遠の眠りに…… ではなく『ヒプノシス』で眠らせて無力化した。
「永遠に眠られでもしたら後味が悪いじゃないですか。それこそ迷惑です」
 口元こそ微笑んでいたが、瞳はちっとも柔さを取り戻してはいなかった。
 氷のような瞳をした少女がもう一人。漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はパートナーである樹月 刀真(きづき・とうま)のフォローに徹していた。というよりも、
「させないわ……」
 刀真を狙う敵の頭を銃で撃ち抜く事で彼を護っていた。殺すことに抵抗はない、それはここが戦場だから、刀真を護り力になることが自分の全てだから。
「覚悟なら…… とうの昔に出来てるわ」
 刀真の死角、彼の背後から神官兵が掌を向けている。『ダッシュローラー』で一足跳び、月夜は神官兵に飛びつきそして頭を撃ち―――
「!!!」
 急に目の前で光りが弾けた。『バニッシュ』だろうか、直撃ではなかったものの、この突然に目前で起きた発光は両者を反射的に跳退させた。
「あなた……」
 術者は東雲 いちる(しののめ・いちる)、記憶が正しければ彼女はネルガルに仕官した生徒だった。彼女のすぐ後ろには『鬼払いの弓』を構える秋葉 つかさ(あきば・つかさ)の姿も見えた。
「ネルガル様の理想を実現する為にも!!」
 つかさの弓矢が、
「………… あなた方の存在が、この国の未来を壊すことになるのです!」
 いちるの『バニッシュ』が容赦なく月夜に襲いかかる。
「―――っ!!」
「月夜!!」
 再びに『ダッシュローラー』で滑り駆け、どうにか月夜は退避を成した。追撃はあれど避ける事を優先させれば直撃を受ける事はない、立て直すためにも月夜は2人の追撃を避け続けた。
「何だ……?」
 その様を見た刀真が違和感を覚えた。
 その正体はすぐに判明した。
 月夜への追撃があっさりと止んだ事? いいや違う。違和感の正体、それは『彼女たちの次なる狙いがすぐ傍の敵兵の背中ではなく、少しと離れたシャンバラの生徒だったこと』である。
「どういう事だ?」
 よく見れば神官兵たちの狙いもマルドゥークフリューネ、そして生徒たちに集まっているように見える。
 より能力の高い者から仕留めるというのは解る、しかし疑いを持って見れば『まるでマルドゥークの軍兵を攻撃することを避けている』ようにも見えるのだ。
「マルドゥーク! フリューネ!」
 刀真は順に彼らに寄りてこれらの違和感を伝えた、その上で「戦力を分散して進んではどうか」と提言した。
「オレも賛成だ」
 と椿 椎名(つばき・しいな)が加わった。
「マルドゥークは知ってるはずだ、神官長の間貴婦人の間に向かうには、この先の踊り場で二手に分かれなきゃならない。今の内に戦力を分散して固めておくべきだ」
 椎名ネルガル軍への潜入捜査から無事に帰還を果たしており、そのため断片的とはいえ城内の構造を把握しているという。彼女の案内があるなら二手に分かれて城内を行くことも可能となる。
「分かった。人質の救出は主等に任せる。必ず助け出してくれ」
 まずはこの戦場を抜ける事が大前提となるが、まずはその先を見据えた編成を行い、その組ごとに戦場を抜けることを目指した。
 マルドゥークフリューネを中心とした2組は神官長の間に向かいネルガルの討伐を。
 そして椎名を先導とするもう一組は貴婦人の間に安置されている人質の救出を目指す。
 それぞれの思いを胸に、一行はどうにかこの戦場を抜け行くのだった。