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◇第三章 アッチェレランド 【少しずつ加速】◇

 ――オカルト霊山も中腹にさしかかり、山登りもだんだんと険しさを増してきていた。当然の事ながら、捜索メンバーには個別に動く者もいる。だが、この辺りまでくるとそうも言ってられないのが本音であろう。チームでなくとも即席のチームを組み、ともに苦労をすると仲良くなるメンバーも現れてくるのだ。
「この辺りでお食事をしない? ねぇ、未羅ちゃん」
「うん、わかった。お姉ちゃん。みなさーん、そろそろ、お食事しましょうよ!」
 ここに至っても、ピクニック気分満載の朝野未沙(あさの・みさ)とパートナーの朝野未羅(あさの・みら)は、準備しておいた豪勢なお弁当を広げる。確かに見渡しの良い小高い丘の上、特に周囲の危険も感じないこの場所は休息にうってつけだろう。
「はい、食べさせてあげるね。未羅ちゃん」
「うん、お姉ちゃん。食べさせて……んっ、はむはむっ……それじゃあ、お姉ちゃんにお返し!」
「やだ、そんなに強く押し付けないでよ」
 何となく淫靡な香り漂う食事であるが、他のメンバーも休憩をとる事にした。

「いいねぇ、いいねぇ、山登りは最高!」
「ふぅ、疲れたわ。まったく、この私をこんな所まで連れてきて……あなたなんか、痛い目に逢えばいいのですわ!」
 爽やかに汗を拭う一色仁(いっしき・じん)とはまったく異なる態度をとったのは、彼のパートナーのミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)。この二人は【登山支援】を行ってきた。シャンバラの訓練で活かした体力を使って惜しみなく援助。登りにくい岩があれば踏み台になり、崖でロープが必要ならロープを張ってしっかり保持する。
 ミラも口では憎まれ口をたたきながらも、懸命に登山支援を行ってきた。彼らの活躍がなければ、ここにいる全員がここまでこれなかったかもしれない。そう考えると、とても心地よい奴である。だが、仁には秘められた目的があったのだ。
(デヘヘッ、さっき触れたフトモモの感触……最高!!!)
 そう、女子のチラチラ覗くフトモモが仁の真の目的なのである。健康的な女子のフトモモでご飯を三杯は食べれる仁は、女子に褒められるために男すら救う。悪い人ではないだろうが目的の為のみに行動する、いわゆる偽善者タイプの人間だ。
(やっぱり、私の好きな男は最高ね)
 可哀想なのは仁の真意に気づかずに頑張ってサポートしているミラだ。彼女は本当は仁を愛している為に、口が悪いものの懸命に彼を支えるツンデレタイプの女性である。まぁ、いずれ、仁の真意に気づくだろう。その時は彼の愚かな行動を涙目で見守る事になるのだろうが……今は自らの身体を労わるのに必死のようだ。もちろん、他の人々も同じだろう。

 だが、その時だった!!?
「ヒャッハーッ!!!」
「な、何?」
 突然の声に未沙たちは驚く。なんと、波羅蜜多実業高等学校のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がパラ実流の雄叫びをあげて、襲い掛かってきたのだ。
「何者だ!!!」
「私の名前はガートルード・ハーレックですわ。今は襲撃修行中なの。大人しく降参しなさい!」
「降参? 馬鹿を言うな!!」
 普段、温厚な十倉朱華(とくら・はねず)だったが、このような蛮行は許しておけない。朱華は急いで立ち上がると剣を抜き、ガードルードの投げたリターニングダガーを避わした。これが噂の『襲撃修行』。以前、どこかで聞いた事がある。波羅蜜多実業高等学校は修行の為に他校の生徒を襲い、勝利した相手に意味不明な番号を落書きすると言う事を!!
「甘いのぅ!」
「なっ!!?」
 だが、目の前に気を取られた朱華の後ろでは、ガードルードのパートナーで男なのに女に見えるシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が立っており、剣を振り上げているではないか。
(しまった!!?)
 休息中に襲われたため、カンが戻りきってない。朱華は思わず、目を瞑った。……が、剣は朱華に届かない。
「私、卑怯な事は大嫌いです」
 彼を救ったのは朱華のパートナーウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)であった。ウィスタリアはメイスを携えると、シルヴェスターに立ちふさがったのだ。
「ちょっと、ちょっと、面白い事が始まってるわね! もっと、血を血で争いなさいよ!!」
 自由奔放で『面白さ』を第一に考える性格の周藤鈴花(すどう・れいか)は後ろから煽り立てると写真を撮影する。
「おいおい、そんなに激しく戦ったら、女子のフトモモに傷が付くだろ!!」
「まぁ、仁! やっぱり、女の子のフトモモが目当てだったのね!!」
「きゃああああぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇ!!」
「私も、私も! 待ってぇ、お姉ちゃん!!」
 そこに仁とミラ、未沙、未羅まで、混ざってきたから大変だ。戦闘は混乱を極め、泥沼の様相を呈してきた。

「……あらっ? これは何だと思います?」
「んっ?」
 しかし、そんな醜い争いに干渉する事なく、我が道を進むかのように地面を観察していた男装の麗人本郷翔(ほんごう・かける)は、同じように我、関せずを貫いていた峰谷恵(みねたに・けい)に声をかける。翔が指し示したモノ、それは巨大な動物の足跡だった。しかも、そこには生乾きの血が混じっており、最近、この場所を巨大な何かが通り過ぎた事を示している。足跡はこの先、二百メートルほど先にある洞窟の中へと向かっているようだ。当然、恵と翔の頭の中に一つの魔物が浮かび上がってくる。
「もしかして、ヌシッ?」
 顔を見合わせて小声で叫んでしまった。すると、少し離れた場所から双眼鏡を使って、この集団を観察していた百鬼那由多(なきり・なゆた)が、ハンズフリーの携帯電話でアティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)に連絡を取る。
「どうやら、ヌシがいる洞窟が見つかったみたいですね。アティナ。そちらはどう?」
「こちらも小さな情報があるみたいだけど、洞窟なんて情報はないですわね。とりあえず、バーストダッシュでそちらに向かいますわ」
「わかった、早く、来てくださいね」
 そう話したアティナは最短ルートを選択し走り出した。

 ――そして、ここは先ほどの朝野未沙らのいる小高い丘の上。峰谷恵がヌシを伝えた事から戦闘は終わったらしい。しかも、後方からは他のチームのメンバーのほとんどが集めってきたようだ。
「さて、長い山登りの末に、ようやくヌシのいる洞窟の前まで来たわけですが、これからどうします?」
「や、やめようぜ。俺、霊感があるからわかるんだ。この洞窟はかなり『ヤバイ』。もう帰ろうぜ!!」
 心霊現象をまるで恐れない水神樹(みなかみ・いつき)とパートナーのカノン・コート(かのん・こーと)は印象的だった。足をガクガクと震わせたカノンは肝試しにきた子供のように、樹の腕にしがみついている。
「ねぇ、カノン。こういうところで霊になれないと……彼らは本物。ホラー映画じゃないからあまり怖くはないでしょ?」
「本物だから、怖いっていってるんだ!! 樹は感覚がおかしすぎるんだよ!!!」
「そう? 私も霊感があるし、お風呂で髪の毛を洗ってると後ろに何かが立ってる気がするけど平気だよ」
「全然、平気じゃないっ!!!」
 樹とカノンの掛け合いが続くが、他の連中の関心はヌシのようだ。

「ここまで来たら突撃あるのみ! やらず後悔より、やって後悔! これが俺の身上だ!!」
「ちょ、ちょっと、ベア!? 馬鹿馬鹿、あなたって本当に大馬鹿ね!!」
 話しを聞いてたベア・ヘルロットが持論を述べると、マナ・ファクトリはベアを抑えて、周囲に頭を下げる。
「俺は反対だね。どうやら、ヌシは敵対的らしいじゃないか。なるべく、被害を食い止めるために遠くから観察するに留めておいた方がいい」
 可愛らしい顔とくびれた身体で黒く長い髪を束ねた葛稲蒼人(くずね・あおと)は状況を判断する。
「おいおい、そこの女、黙ってろよ。俺たちはヌシを探しに来たんだろ?」
 【サーチライト】の犬神疾風が声をあげると、蒼人は真っ赤な顔をして叫んだ。
「俺は男だぁぁ!! お前、勝負しろぉぉっ!!」
「へっ!?」
「ちょっと、待ちなさいよ。蒼人!!」
 どう見ても、女にしか見えない蒼人が疾風に殴りかかろうとすると、彼のパートナーの神楽冬桜(かぐら・かずさ)が止める。
「あなたが女にしか見えないのは仕方がない事なのよ」
「神楽まで!?」
「まぁまぁ、ここに集まった人たちの目的は、ほとんどがヌシなんだし……早く、見に行きましょうよ」
 正体不明のヌシを見て、好奇心を満足させるために参加した朱宮満夜(あけみや・まよ)は声をあげる。満夜は今回、他勢力との協力をせずにヌシを探し続けてきた。イルミンスール魔法学校の彼女にはナルソスなど興味ないのは当然だろう。
「どちらにしろ、俺はヌシを討ち取るために来たんだ。勝手に進ませてもらうぜ。他にヌシを狩ろうって猛者はいないのかよ?」
「あっ、夕! ヌシは私の罠で捕まえるのよ!!」
 八神夕(やがみ・ゆう)とパートナーのシルビア・フォークナー(しるびあ・ふぉーくなー)は先に進むと、ガートルードとシルヴェスターが後に続く。
「クルード君はどうする気?」
「……ヌシと戦うつもりはないが……目的は同じだ……行こう……」
 【サーチライト】の陽神光が尋ねると、クルード・フォルスマイヤーも動き出した。
「あらら、行くんですか? 皆、探索や冒険に夢中になってて、色々とおろそかになっていませんか」
(ニタリ)
 黒水一晶とディヌ・フィリモンのコンビも周りを見回しながら歩き出す。

「いいですなぁ、いいですなぁ。そろそろ、クライマックスですなぁ。でも、もうちょっと、緊張感が欲しいですなぁ? お〜い、アマーリエ。どう見ても原住民に見えない証言者を探してくれ!」
「無理だぁ!!!」
 ミヒャエル・ゲルデラー博士の無茶な注文にアマーリエ・ホーエンハイムは切れた。この展開は『アッチェレランド』。その名の通り、物語は少しずつ加速していく――