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◇第四章 テンペストーゾ ―2― 【嵐のごとく】◇

 こんな感じで終わらせる事が出来れば楽なのだが、そうもいかないだろう。とにかく、その場は騒然となってきていた。四方八方から飛び交う怒号の声は、まるで協奏交響曲のように騒がしい……

「いいかげん目を覚ませこのナルシスト! そんなに死にたきゃ俺が殺してやる!!」
「そう。確かに貴方は美しい。でも、それ以上に、音楽の才能に満ち溢れているわ。貴方を失ったら……」
「うんうん」
「スライムの罠を仕掛けている暇がないよねぇ〜」
「もう二度と、大切な人を失いたくない……それが、俺の戦う理由だ!」
「サインください!!」
「あなたは英雄が英雄たる理由を間違えて認識してるですぅ。多くの犠牲の上に英雄は存在しますが……」
「リターニングダガー!」
「だから、天賦の才能によって多くの人に希望を与えていくことの……」
「ねぇセンセ♪ あたしはあなたの魅力を良く知ってる。でも死にたいなんて思わない、だってあなたと二人で生きていたいもの♪」
「三度の飯より命が大事……ってね」
「とりあえず、飛び蹴り!!」
「美しさを理解しているのに自ら命を絶とうとする行為が独りよがりで美しくもなんとも無い、むしろ醜い行為だと気づかないんだ!!」
「人々に徒名す者ならば、私が成敗します!」
「焼けろぉっ!」
「なんで命を粗末にするの? 生きたいと思っても死んでしまう人もこの世界にはいっぱいいるのよ?」
「フ……人間とは面白いものだな」
「さてと、ここでどこまで昇れるか試してみようじゃない」
「当身ィッ!!」
「把握ッ!!」
「先ほど、あちら(適当)の方で倒れている教諭を発見したので保護したのですな」
「ナルソスさんは己の美よりもっと他の人より優れたものが……音楽があるだろうが!」
「はいは〜い、注目注目!」
「ナルソス様、外見の美だけではない英雄的な魂が失われるなんて、私、耐えられないです!」
「ナルソスとやら、ジーナはあのように語っていたが、汝は自ら英雄として為るのではなく……」
「いいのか? いいのか? こんなやっつけ仕事でいいのか?」
「こまけぇことはいいんだよ!」

 すでに何が何だかわからない。この状況ではナルソスも混乱するだけだ。あまり、彼を追い詰めてもマズいと思った皆は声を噤んだ。ナルソスはまるで小動物のようにウロウロと周りを見渡し、怯えた顔を見せている。
「ちょっと、お退きなさい!」
「なんだ、なんだ?」
 生徒達が騒ぐ中央をかき分けるように、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)とパートナーのジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)がやってくる。
「落ち着きなさい、ナルソス! わたくしはデスリンク大侯爵家のジュリエット・デスリンクよ!」
「わ、わた、わたし……私は……ただ……」
「お黙り! わたくしがあなたを見定めてあげますわ」
 ジュリエットはナルソスの顔をじっと眺めると妖艶な笑みを浮かべる。ジュスティーヌはジュリエットを護衛するように動いていた。
「美貌と音楽センスは本物のようね。つまり、あなたそのもののトータルなバランスが神の調和をなしている……でも……」
 ジュリエットはさらにナルソスに近づく。
「この大きさではね」
 そして、いきなりナルソスの股間鷲掴みにしたのだ。もちろん、驚くのはナルソスだけではないし、喜んでいる者もいる。ヴェルチェなどはこの展開に興奮していた。
「うわわわっ!!?」
「そもそも、天才とは無数の屍の上に立ち、なお矜持を失わぬ者の事をいうのよ! 人が死ぬから才能を殺すですって? それは単なる凡俗の論理ですわ。お仕置きよ!!」
 ジュリエットは手をあげると何かの合図を出す。すると、岩の上に特撮ヒーローのようなコスプレをまとった男が立っていたのだ。
「な、何者だ!?」

「俺の名はケンリュウガー!!
 知ってる人にはバレバレだが、彼の名前は武神牙竜(たけがみ・がりゅう)。ジュリエット達と一緒に【美の試練】を立ち上げた男である。【美の試練】とはナルソスとヌシを対面させて後悔させてやろうというチームだ。
「とう!!!」
 武神は岩から飛び降りると、颯爽と地面に降り立ち、決めのポーズをとった。キリア・ウィリスは唖然としながらも彼に話しかける。
「ケンリュウガーさん。あなたの目的はいったい?」
「フフフフッ……俺の目的はただ一つ!! ナルソスに罰を与える事!!!」
「何だってっ?」
 カリン・シェフィールドは驚いた。しかし、すでに当身で気絶させられたナルソスは、ジュリエットとジュスティーヌによって、怪しげな洞窟に運ばれていこうとしている。
「ホホホホホホッ、吉祥天の作戦は大成功よ!!」
「ハハハッ、さすがはジュリエット。仕事が早い。俺はあの洞窟にヌシが入っていくのを見た!!」
「ふぃ〜……って、何だってっ!!!?」
 キリア・ウィリスも驚いた。正体不明のヌシがこの近くにいる事についてだ。
「フフフフッ、五秒やる。祈りやがれ!!」
 武神は得意げに笑った。

「も〜う、なんて、面倒な事をするんですかぁ〜!? セシリア行きますよぉ〜!!」
「もちろん!!」
 メイベル・ポーターとセシリア・ライトが走り出す。
「やれやれ……山の守り神であるヌシと接触するなんて、本気ですかね」
 樹月刀真は剣を掴むと洞窟に眼を向ける。……と、目の前にアリア・セレスティが立ちふさがった。
「んっ、まだ、やられ足りないのか?」
 刀真は苦笑する。だが、アリアの目は本気だった。
「みんなの笑顔のため、私は負けない!」
「へぇ、いい顔してるね。とりあえず、足手まといにならなきゃいいけどね」
 刀真とアリアも洞窟に向かう。
「ああ。もう。しょうがないわね」
「義を見て行う勇と武、少しだけどあります!」
 そこに日紫喜あづま、ジーナ・ユキノシタに他のメンバーも続く。終わりはもはや『テンペストーゾ』。その名の通り、嵐のごとくだ――