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酪農部の危機を救え

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酪農部の危機を救え

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第二章 動物たちを守れ!

「【今日は鈴虫様が案山子でございました】 本日の日記はこれでよろしいですかね?」
「それはちょっと、端折りすぎじゃないかな?」
 案山子の設置を手伝ってくれた本郷 翔(ほんごう・かける)鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)がそうつっこむ。
「てやっ!」
 元気に最後の一撃を加え、見事に翔子が案山子を立たせて、それに翔が拍手を送る。
 案山子自体は実は単なるおまけ。
 実際にはバリケードや鳴子、赤外線センサーなどの侵入探知を出来るものを設置するのだが、翔子がへのへのもへじを書いた案山子があると、なんとなく、警備の物々しさが和らいで良かった。
「何やら今日は有刺鉄線のバリケードを張ったり、警報装置をつけたり、大変でございましたね」
「そうだねえ。でも良かったよ。牧場を守ろうって人がたくさんいて人手もあったし、ギルベルトさんたちも気軽に許可くれたしね!」
 副部長のギルベルトは、牧場を守るための案ならほぼ気前良く通してくれた。
 お金のかかるものは、予算の関係でちょっとしか出来ないのがあったが、それ以外のものは、みんな思い思いに設置をすることができた。
「これで、牧場の防御力が高まりましたね」
「そうだね。でも、なんだか、ボク、牧場の修復に来た気分だ……」
「あはは、まさしくその通りですね」
 二人に声をかけてきたのは、樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だった。
「や、二人ともバリケードの方できたー?」
「地味に大変だったのではございませんか?」
 翔子と翔の問いに、みことは小さく首を振った。
「まあ、たまには大工の真似事もね……自己鍛錬ということで」
「うん、牛さんや豚さんがいなくなるのは嫌だからね、これくらいがんばらないと」
 月夜が元気に言うが、不自然に手を後ろにやっていることに気づき、翔がそれを指摘する。
「どうされました? 手を隠してらっしゃるようですが」
「あ、いや、これは、そのう……」
 なんとかごまかそうとする月夜だったが、翔子が後ろに回り、声を上げた。
「あーー、バンソウコウだらけじゃん! 大丈夫?」
「だ、大丈夫よ、これくらいは……」
「バリケードを作っている時にお怪我されたんですか?」
「ええ。ゴブリンが侵入口に使ってるだろう抜け道を塞ぐ作業をしてたんですがね。そこでちょっと軽くコンと自分の指をやっちゃったんですよ、月夜」
「まあ、それは大変。ヒールしないと」
 フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)がそう言って駆けより、月夜の手を取って、ヒールをかけた。
 フレアのヒールが効き、月夜の手から痛みが引いていった。
「ありがとう、フレアさん!」
「いえいえ、ワタシはこれくらいのことしかできませんので……」
「おや、どうやら、うちのフレアが役に立ったようだね、良かったよ」
 フレアのパートナーである時枝 みこと(ときえだ・みこと)がやってきて、みんなに混ざる。
 二人は落とし穴や、網、トリモチなどの準備を終え、ゆるスターを守る【から揚げ班】にタバスコ入り空揚げの作成を依頼し、戻ってきたところだった。
 準備のものはその場に置いてきたので、ほぼ手ぶらだったが、みことの手にはなにやら見慣れぬものがあった。
「おやおや、お二人はそのロープは何でございますか?」
「あ、これ?」
 みことが優しげな茶色の瞳で、自分の手にしたロープを見つめ、翔は同意の頷きを返す。
「これはカウボーイ風にゴブリンを捕獲するための道具さ。できるなら、部長の顔を立てて、殺生は無しっていう方向で行きたいからね」
「なるほど、でも、穴も大変だよねー。掘ったはいいけど、後で埋めないといけないし」
「うん。落とし穴そのままにしちゃって、牛や豚がはまっちゃうと困るしね。……と、まあ、落とし穴以外の作戦もあるし、できるだけたくさんの作戦で、こっちに引き付けたいよね」
「引き付けたい?」
「牧場に来たゴブリンを簡単に逃がしちゃうと、部長さんを助けに行った救出班と、板挟みになっちゃうかもだからね。それは避けたい」
「あー、なるほど」
 翔子が感心して、ポンと手を打つ。
「ま、なにごともなく終わってさ。みんなで楽しく搾りたての牛乳とか飲みたいよね」
「そうですね」
 フレアも笑顔で同意する。
「よーし、牛乳……もとい動物のためにがんばるぞー!」
「おー、でございますー」
 6人が元気に意気を上げる中、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は一人、牧場に警戒設備を設置する者たちを守るため、牧場前に明王の如くドーンと構えていた。
 高身長の黒髪の男が武器を携えて立っていると、その目つきの悪さもあって、かなりの威圧感があった。
 実際、そばを通り過ぎる蒼空学園の生徒たちは、近づかないように注意している。
 適当に結んだ黒の髪を払いつつ、カガチは真剣に眼前を見つめていた。
「……来ないねえ」
 ゴブリンがのこのこやってきたら威嚇も兼ねて痛めつけてやろうと、カガチは思っていた。
 ついでに倒したゴブリンの荷物を漁って、ゆるスターの唐揚げを持ってないかも探ろうとしていた。
しかし、残念ながら、今日はゴブリンが来そうになかった。
 そこに牧場の奥から翔子の声が聞こえてきた。
「よーし、牛乳……もとい動物のためにがんばるぞー!」
 その言葉を聞き、カガチはちょっと年齢高めに見える顔を撫でながら、一人頷いた。
「ふむ、牛乳もいいか」
 牧場を守れたら、牛乳パーティに混ざるのも悪くないかもしれないと思うカガチだった。 
  


 そして、次の日。
 牧場はなぜか謎の着ぐるみ場と化していた。
「着ぐるみショーでも始まるのでございましょうか?」
 翔の言葉通り、本物の牛や豚がいるそばに、まるで遊園地か何かのように複数の着ぐるみが転がっていた。
「うん、さすが、ゆるショップ製のぬいぐるみ。出来がいい」
「……ぬいぐるみじゃなくて着ぐるみじゃん!」
 マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は妙にノリノリのパートナーベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)を見て、溜息をついた。
「細かいことを気にするな! これを着てゴブリンの油断を誘うぞ!」
「油断を誘うのはいいけど、なんでベアは熊なのよ! 私の牛みたいに牧場らしい動物にしなさいよ!」
「マナ、常識にとらわれちゃいけないな。世の中には『クマ牧場』ってのもあるんだぞ?」
「あるとしても少なくとも酪農部にはいないでしょ! っていうか、全然、酪農じゃないし!」
「分からんぞ。クマからだって、もしかしたら、牛乳くらい……」
「出るわけないでしょ!」
 二人の様子を見て、翔子が笑う。
「あはははは。と、あれ、レベッカさんたちは何やってるの?」
「ワタシたちはちょっとホラーなことネ!」
 レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)が楽しそうに笑う。
「レベッカさんが言うととっても楽しそうだけど……なんていうか、ちょっとじゃなくて、かなりホラーじゃない?」
 翔子がレベッカのパートナー、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)の様子を見て思わず呟く。
 アリシアは家庭科の苦手なレベッカに代わり、着ぐるみの補修を行っているのだが、完全に直すのではなく、飛び出た目を完全に落ちないように補修したりなので、なんだかとってもホラーだった。
 レベッカ達の着ぐるみは空京の「ゆるパーク」から廃品をもらってきたものだ。
 ゆるパークとはレベッカがパラミタ出現十周年記念パレードでパフォーマンス大賞に選ばれたときに、出てきたテーマパークだ。
 族車パレードで有名になったレベッカの頼みとあり、ゆるパークも快く貸してくれた。
 できるだけ壊れかけの廃品前の着ぐるみをもらってきたため、いい感じで壊れていて、怖さが倍増していたのだ。
 しかし、ベアはレベッカ達のリアルさを褒めた。
「いやあ、いいできじゃないか! この着ぐるみが浴びてる返り血なんて、鮮血じゃなくて、ちゃんと赤黒くなっていて、本物らしいぞ!」
「ウン、いい出来デショ! 苦労したんダヨ、イロイロと!」
「色々と……でございますか」
 何か不吉な予感がしたが、翔はあえてつっこまないことにした。
 それこそ執事の心得というものである。
「さーて、それじゃ、みんなの携帯番号とアドの交換をしておこうネ!」
 レベッカの提案で、牧場防衛組は、みんな携帯番号とアドレスの交換をした。
「これでみんな友達ネ!」
 うれしそうなレベッカに釣られて、みんなも笑う。
 そんなわけで、ベアとレベッカ達によって、着ぐるみ天国と化した酪農部の牧場が出来上がり……その夜、事件は起きる。



 夕方6時。
 部活が終わった生徒たちもほぼ帰宅した頃、怪しい一団が酪農部に迫っていた。
 ざっざっざ、ざっざっざ。
 いつもの侵入口が塞がれてしまったゴブリンは、仕方なく、真っ直ぐ突っ込んできたのだ。
 それに最初に気づいたのは、小型飛空艇で監視を行っていた刀真たちだった。
 翔子が雑草を刈っておいたのもあって、見通しが良くなり、発見が早くなった。
「ゴブリンの一団が現われました。数およそ30」
「OK! こっちも準備できてるヨ!」
 連絡を受けたレベッカが、今度は翔子に連絡を送る。
「ゴメンネ、スズムシ。ちょっとワタシ、着ぐるみで電話がかけづらいから、みんなに回してくれるカナ?」
「オッケー。仕掛けておいた装置なんかには反応がないから、来てるのはその一団だけだね。がんばろう!」
 翔子がそれぞれに連絡を入れ、みんなが臨戦態勢になる。
 同じく着ぐるみの中で連絡を受けたマナは、電話を切った後、溜息をついた。
「うう、私もレベッカさんみたいに水着の上から着ぐるみを着れば良かった……」
 夕方とはいえ、夏の暑さで着ぐるみは結構きつい。
 しかし、すぐにそんなことも気にしていられなくなった。
 自分たちの3倍近い数のゴブリンが押し寄せてきたのだ。
 牧場の中に侵入しようとするゴブリンたち。
 ところが、その動きがピタッと止まる。
 レベッカとアリシアの着ぐるみを見て、恐怖し、足を止めたのだ。
 それを見て、熊の着ぐるみを着たベアが意気揚々とゴブリンに向かう。
「よーーし、ゴブリンは我々を動物と見間違えているぞ!」
「あ、ちょっとベア!」
 マナが止めようとするが、ベアは止まらない。
「マナ! 動物達の守護に回るぞ! いつも道りにっ!」
 すでにやる気のベアを見て、マナも心を決めた。
「ええ、任せて! いつも道りね!」
 マナはベアの言葉に答えると、パワーブレスを使い、自分とベアの攻撃力を高めた。
「食らえええ! 熱いプラトニックスマッシュ!」
 ベアの轟雷閃がゴブリンたちを襲う。
 雷撃を受けたゴブリンたちは、電流を流され、バタンと倒れて無力化する。
「ちょっと、恥ずかしいこと言わないでよ! あ、4時方向に2匹」
「なに!?」
 マナの指示を聞き、ベアがそちらを向いたが、ベアが向いた時には、すでにゴブリンは撃たれていた。
「射撃はお任せダヨ!」
 レベッカがベアたちを見て笑う。
「感謝だ!」
「ここでスプレーショットを使うのは、仲間も動物も巻き込む恐れがあって危険ですからね……ここは一体ずつ撃破ですよ」
 アリシアはレベッカにそう伝えながら、射撃をするレベッカを守るべく、メイスでゴブリンに立ち向かう。

 戦闘が始まったのを見て、翔はガードラインを使って、動物たちを、より奥の方の牧場へと避難させた。
「こちらへ、お早く!」
 翔は動物たちにも丁寧に対応する。
 相手の方が数が3倍近くいるのだが、掘っておいた落とし穴などのおかげで、多くが戦闘前に行動不能になっている。
 動物を逃がすなら今のうちだと翔は思っていた。
 しかし、獲物が逃げると察したゴブリンの一体がこちらに向かってきた。
 翔は武器を抜こうとしたが、その前に自分用に作った隠れ場所から翔子が飛び出し、そのゴブリンを撃ち抜いた。
「ボクらの戦い後のお楽しみを奪うっていうなら、ボクの一撃が飛ぶよー!」
 ゴム弾をくらって伸びているゴブリンを見ながら、翔子は小さく苦笑した。
「いや〜どうしても牛乳のことが頭から離れないねえ」
「ありがとうございます! 鈴虫様」
「いえいえ〜」
 笑顔を返しながら、翔子は逃げる動物と翔を守るため、その場に立ちふさがった。

 中で戦闘が始まったのを察し、後続のゴブリンたちも中に入ろうとした。
 しかし、そこにカガチ、刀真、月夜が立ち塞がった。
「いや〜、悪いんだけど、通せないんだよねぇ」
 すっとカガチの武器が向けられ、刀真の光条兵器が光る。
「悪いがココは通行止めだ、失せろ」  
「……通さない」
 月夜が刀真の斜め後ろくらいに位置し、じっとゴブリンを見る。
「もうすぐ夜です。多少の不都合は……夜の闇が消してくれることでしょう」
 刀真の黒い刀身の片刃剣が、普通でない光を見せる。
 それだけでゴブリンたちは震え上がった。

「うわ、もう始まってる!」
 から揚げ班から、から揚げを受け取ってきたみこととフレアは、戦闘が始まっていることに気づき、オロオロした。
 しかし、自分たちが彫った落とし穴がちゃんと稼働したのが分かり、ホッとした。
「フレア、トリモチに引っ掛かってないゴブリンがいたら、吊るし上げて、檻に入れて!」
 みことはそう頼むと、タバスコ入りから揚げを持って牧場内に入った。
 そして、戦闘を避けて、翔が動物たちを逃がした奥の牧場に入ろうとするゴブリンたちの前に投げた。
「イー!」
 単純なゴブリンは目先のから揚げに飛びついた。
 しかし、当然のことながら、その辛さに悲鳴を上げる。
 その瞬間を狙って、みことはゴブリンを捕獲した。
「よし!」
 その後、戦いは続いたが、事前の準備と連携で、生徒たちの方が有利となった。
 このままでは取り囲まれて全滅すると悟ったゴブリンたちは撤退を決め、動物たちは見事に守られたのだった。