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空賊を倒せ!

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空賊を倒せ!

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第4章 爆発事件があってから起きたこと

 太陽を遮るものはなにもない。午後に入ってから、甲板の気温は一気に高まった。

「暑いアル……」
 甲板の手すりにもたれかかったパンダの着ぐるみが、絞り出すようにして発した言葉は、ただそれだけだった。
 ゆる族のマルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)は、ギラギラと照りつける陽光に晒されたまま、既に5〜6時間は経とうとしている。
 原因不明の爆発により発生したエンジントラブルは、飛行船に致命的なダメージを与えたのだ。速度が出ないのである。
 本来であれば、既に目的地に到着していてもおかしくない頃合いであるが、この時点でようやっと経路の半分を消化したに過ぎないのである。
「暑いアル……」
 マルクスは今一度呟き、自分の足下――パンダ着ぐるみのつくる日陰でゆっくりと休みをとっているパートナーを見下ろす。
 黒髪に青い瞳の彼は、北条 御影(ほうじょう・みかげ)。薔薇の学舎の学生である。
 御影は、先ほどからマルクスの呟きを、わざと無視していた。
 甲板を見渡すと、数時間前と比べて、監視巡回の数が3分の1程度にまで減っている。みんな、長時間の直射日光を嫌い、中へと引っ込んでしまったのだ。
 今の状態で空賊が襲ってきたら船を守りきれるかどうか……。
 御影は、薔薇の学舎の学生であることを誇りに思っていた。だから、このミッション、失敗するわけにはいかない。
 休んでいるように見えて、空賊がやって来ないかどうか、御影は常に空を監視しているのである。
 容赦なく照りつける陽の光を、パンダの日傘でかわしながら。


「こんな状態で大丈夫でしょうか……」
 蒼空の制服を身にまとったボブカットの少女荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、甲板を見渡しながら、そんな言葉を口にした。
 彼女は今、木箱班長の香取翔子から伝えられた『本物の木箱の見分け方』を、ほかの学生たちに伝えるため奔走しているのだ。
「伝令役、ご苦労!」
 そんなさけに向かって、声をかける者がいた。
 教導団の軍服姿で、髪型をオールバックにまとめた学生昴 コウジ(すばる・こうじ)である。
 彼は、荒巻さけ、あるいは会議の場にいたセラ・スアレスと共に、この甲板で空賊を迎え撃つ役割を与えられた者である。
「あら、昴さん。まだ甲板に?」
「ああ、ずっとここで見張っている」
 昴は表情ひとつ変えずにそう言うが、暑さで相当の体力を消耗していることは、一目瞭然であった。
「しばらく休んだら、どうですか? いざというとき、戦えなくても困るでしょう?」
 これ以上甲板の戦力が減るのはマズいと思いつつも、倒れられては元も子もない。さけは昴に対し、そのように提案する。
「いやいや、気遣いは結構。こう見えても訓練で鍛えているからな。それにもう間もなく夕方になる。そうすれば気温も下がってくるだろう」
「そうですか……」
 さけは、それ以上休むことを勧めはしなかった。今ここに頑張ってくれる人間がいるのだから、自分ももっと頑張らなければいけない。そう思い、己が役割を果たすため、足早にその場を去るのであった。


 甲板は甲板でなかなか深刻な状況であるが、船倉は更に悲惨な状態であった。
 エンジン出力が低下したため、航行以外の動力――例えば空調などは真っ先にセーブされる。
 そうなると、飛行船の最下層である船倉はたちまちに蒸し風呂状態となるのだ。まして木箱の中となったらどうか? 考えたくもない。
 今この場にある有様は、まさに考えたくもない状況に自らの身を投じた者の末路……といったところであろう。
「くふ、ふふ、ふはははははは! ……暑い」
 船倉の床に大の字になって倒れている、赤いブーメランパンツがひとり。このド変態が真っ先にギブアップし、地獄の木箱の中から開放されたのであった。
 その情けない姿を、パートナーの守護天使が冷たい視線で見下ろしている。
 だがしかし、ギブアップしたのは彼だけではない。
 金住健勝や、カルナス・レインフォード&アデーレ・バルフェットも同じように、木箱から開放されたのだった。
 こうして、エンジン出力低下の影響により、トラップ付きの偽木箱はほぼ全滅、クラーク波音の用意したものだけとなってしまったのである。


 最初に、ソレを見つけたのはピンクツインテの白ロリ少女であった。
「薄暗い船内なんてまっぴらですよぉ。白い服なら太陽の熱を吸収しないし、日傘もあるから楽ですぅ」
 インスミールのシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は、日傘の加護の下、デッキチェアに身を預けながら、トマトジュースを、ちうちうとやっていた。
 別に見張りをしていたというわけではないのだが、ゆっくりと進む飛行船にて外の景色を楽しんでいたら、偶然にも、ソレを発見してしまったのである。
「あら、あれはなんでしょうかぁ……」
 シャーロットの見たものは、飛行船の左舷後方の空域に現れる、無数の黒い点であった。
「なんか、段々と大きくなって……こちらに向かってくるようですぅ」
 その数、20〜30くらいであろうか。飛行船へ近づいて来るにつれ、その姿形が徐々にはっきりしてくる。
 ある程度明瞭になったところで、シャーロットは確信するのであった。
「て、敵襲ですぅ――ッ!」
 あと1時間ほどで日没になろうかという時間帯。甲板の見張りが大きく人数を減らすなかで最初に敵影を捉えたのは、日傘の下でバカンスを楽しむ白いロリータであった。


 シャーロットの一報により、船内はにわかにざわめき始める。しかし甲板組は暑さにやられてしまったため、やはり初動が遅い。
 結局は、空戦組が先行しての出撃となるのであった。

「よし、ファースト・アタックは貰ったッ!」
 そのなかでも先陣を切ったのは2機の空飛ぶ箒。『航空少女隊ロッテ』のふたりであった。
 インスミール制服を着た黒髪のかわいらしい少女緋桜 ケイ(ひおう・けい)が叫ぶと、銀髪の魔女悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が即座に呼応する。
「おぬしならやれる。わらわは信じているぞ!」
 そんな彼女らの前に、空賊側の先陣であろう。ダークブルーにカラーリングされた小型飛空挺が現れる。乗っているのはガッシリとした体格の男のようだ。
「カナタ、ファースト・アタックだ!」
「わらわに任せるがいい」
 ロッテのリーダー、カナタは流れるような動きで敵前へ躍り出ると、そのまま火術にて一撃を加える。
 攻撃力はそれほどでもないが、いきなりの先制攻撃に敵はひるむ。そして、その相手の頭上に、雷の大きな一撃が浴びせられた。
「これで、どうだッ!」
 ケイの雷術である。
 さすがの空賊も、この攻撃にはたまらなかったのであろう。飛空挺をひるがえすと、一旦退却を始めた。
「へっ、空賊もたいしたことないぜ!」
「ケイ、深追いはするな。わらわたちの目的は、飛行船を守ること」
「わかっているって!」
 ふたりは敵を追うことはせず、すぐさま飛行船の近くに戻るのであった。

「紫織さん、あの獲物、私らがいただくどすえ」
 しかし、離脱した空賊を狙う者があった。
 食堂で小麦粉を調達していた一乗谷燕。
「ええ、そのようにいたしましょう」
 そしてそのパートナー宮本 紫織(みやもと・しおり)である。ふたりとも小型飛空挺に搭乗している。
「……では、作戦開始です」
 彼女たちは、ターゲットに気が付かれないよう、遙か上空からゆっくりと近づく。そして燕は、小麦粉の詰まったお手製のボールを投げつけ、紫織は小麦粉自体をパラパラと上空からばらまき始めた。
 ボールは敵の小型飛空挺のエンジン部に当たると、その熱によってボールに火がつき、たちまちに粉塵爆発を発生させた。
 ドォン! ドォン! と、大きな音を立てながら小麦粉ボールは爆発する。そして、紫織の散布した粉にも火がつき、ターゲットの飛空挺周辺は瞬く間に大惨事となったのである。
「これで、いっちょあがりどす」
「この調子で次もいきましょう。」小麦粉はまだまだたっぷりあります」
 ふたりは沈みゆく小型飛空挺に一瞥をくれると、早々に別の戦場へと向かうのであった。


 燕らが最初の空賊を撃退する頃、椎名 真(しいな・まこと)双葉 京子(ふたば・きょうこ)のコンビも、空にあがっていた。
「真君……大丈夫、だよね?」
「大丈夫っすー! ……じゃなくて大丈夫です! 京子ちゃんは俺が全力で護ります!」
 ふたりの乗り物はともに小型飛空艇、そして武器は光条兵器のクロスボウである。お互いに、有効射程の距離感を意識しながら、飛行している。
 そんな彼らの目の前に、急に空賊が躍り出る。
「う、うわっ! 一体どこから――」
 空戦は基本的に3次元である。上から、あるいは下からの接近を警戒していなければ、このように不意打ちを食らうこととなるのだ。
 この距離ではクロスボウを有効に使うことはできない。ふたりはたちまちに武器を無効化されてしまう。
 敵はおそらくローグなのであろう。無言のままリターニングダガーを構え、京子にねらいを定める。
「危ないッ!」
 そのときであった。真は小型飛空艇をフルスロットルで発進させ、相手の飛空挺に体当たりさせる。
 その空域一帯に、ガコォン、というにぶい音がこだました。その衝撃で空賊はダガーを取り落とし、京子は事なきを得た。
「ありがとう、真くん――」
「へへっ、たいしたことないっす……じゃなくて、たいしたことないです」
 真は恥ずかしそうに、へへっと笑ってみせる。
「だけど、まだ戦いは終わりじゃないっす!」
 体勢を立て直す空賊を前に、ふたりは改めて距離をとるのであった。


「きゃあああああぁぁぁぁぁぁ〜! この飛空挺、どこへ飛んで行きますの〜?」
 戦闘空域のド真ん中で、東重城 亜矢子(ひがしじゅうじょう・あやこ)は暴走していた。
 空賊が現れた。だから小型飛空挺にて出撃した……ただそれだけなのだが、亜矢子は操縦に慣れていなかったため、制御不能。機械の機嫌の赴くまま、大空を縦横無尽に飛び回っていた。
「誰か、助けてください〜ですわ〜!」
 そんな彼女は最早、空賊たちの格好のターゲットでしかない。暴走飛空挺の後ろには、2機の空賊改造飛空挺がピッタリとマークしてきている。
「なにやってるんだ、あいつ!?」
 つり目に八重歯の、髪を後ろで束ねた少年犬神 疾風(いぬがみ・はやて)は、亜矢子の醜態を見て、すぐに助けに乗り出した。
 弱い者や困っている人を見ると放っておけないという正義感が、彼を動かすのである。
 疾風は慣れた動作で自分の飛空挺を操ると、暴走飛空挺に横付けした。
「ふ、ふわぁ……貴方は――」
「犬神疾風だ。いいから黙ってろ。操縦できないんだったらそんなもん捨てちまうぞ。ほら、こっちへ乗り移れ」
「わ、わかりました――っ」
 亜矢子は誘導されるまま、疾風の手を借りながら彼の小型飛空挺へ乗り移り、その彼の腕に抱き留められる。
「あ、ありがとうございます〜。助かりましたわ〜」
 亜矢子の手から離れた途端、彼女の飛空挺は180度旋回し、後方の空賊飛空挺の1機に激突。もろとも、眼下の雲の海へ消えてゆく。
「お前、名前は?」
「え、あ……。東重城亜矢子、ですわ――」
「亜矢子さんか、よろしく」
「は、はい……」
 疾風の腕のなかで、亜矢子は少し、気恥ずかしい気持ちを感じていた。
 そこへ、後方の飛空挺からパラパラと銃撃が加えられる。
「……っと、そうか。まだ1機残ってたんだよなッ!」
 疾風は飛空挺を旋回させ、離脱を試みるが、性能差が大きいため、それは無理な相談だ。しかも亜矢子を抱えたままで、まともに戦えるとも思えない。
「そこのキミたち、ここはあたしたちに任せて!」
 そのときだった。どこからともなく2機の小型飛空艇が救援に現れる。
 大崎 織龍(おおざき・しりゅう)ニーズ・ペンドラゴン(にーず・ぺんどらごん)のコンビである。
「悪いな、後は任せるっ!」
 その言葉と共に、疾風は戦闘空域からフェイドアウトした。
「はいは〜い! 敵さん、注目注目! キミの相手はこっちだよっ!」
 カルスノウトを構え空賊を挑発する織龍。
「油断するのではないぞ」
 ドラゴニュートのニーズは、ほかの敵が来ないかどうか、360度気を配りながら織龍に注意を促す。
「大丈夫だって! それじゃ行くわよ――」
 敵に向かって、飛行艇を駆る織龍。そのすれ違いざまに、ドラゴンアーツの大技をたたき込む。
 空賊は大ダメージだが、更に追撃が待っていた。次の瞬間、彼とその乗機は、強大な業火に包まれたのである。
 そう、ニーズが得意の火術を使ったのであった。


 小型飛行艇を操る蒼空学園の女生徒、百鬼 那由多(なきり・なゆた)は追われていた。
「うーん、まずいことにお尻をとられてしまいましたわね――」
 後方をピッタリと追尾してくる空賊の改造飛行艇を振り返りながら、那由多は小さくため息をついた。
「向こうの方が性能も良いですし、このままドッグファイトを続けていても、やられてしまうのは時間の問題ですわ」
 あれほど後ろを取られまいと注意していたのにも関わらず、このような状況になってしまったことを、那由多は悔しく思った。
「それにこのまま無駄に時間を浪費していても、アティナに撃墜数で負けてしまいますわよね」
 この戦場のどこかで、自分と同じように戦っているであろうパートナーに思いを馳せ、そして那由多は、ひとつ頷く。
「ブレーキングにチャレンジしてみますわ――」
 那由多は細心の注意を払いながら、敵を近くまで引き寄せ始める。
「そう、いいですわ……。このタイミング――ッ!」
 2機の飛空挺が最接近した瞬間、那由多は思い切りハンドルを切り、機体をその場で高速宙返りさせる。
 その動きに対応できず、敵機は那由多の前方へ出てしまう。
「ふふ、成功しましたわ」
 この瞬間、2機のドッグファイト、攻守が入れ替わることとなった。


 飛行船の直上では、永夷零とルナ・テュリン、ふたり乗りの飛行艇が、トリッキーな動きで敵と交戦。
 そんなふたりに対して、ようやく態勢を整えた甲板の部隊が援護を開始する。
 御風 黎次(みかぜ・れいじ)ノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)のタッグも、そんな甲板援護チームの一員であった。
「ノエル! 絶対に味方には当てるなよ!」
「は、はい! わかってますっ!」
 黎次は剣技ツインスラッシュで、ノエルは光条兵器『星龍』で、それぞれ、空の味方の援護を行う。
 しかし、時間を追うに従って、飛行船上空の敵は増えていくように思えた。
「黎次さん、これではキリがないような……」
「でも! やるしかないんだよッ!」
 ふたりは甲板から奮闘するものの、戦況は次第に空賊有利に傾いていく。
 やはり、エンジン故障による、航行の遅れが、メンバーの疲労となって、ボディブローのように効いてきているのであった。


 空中戦における最終防衛ラインとは――つまり、空賊たちが甲板へと着陸してくる直前のタイミングである。
 そこを死守するため、密かに結成されたチームがあった。その名も――トップガンである。

 空賊のひとりが乱戦を突破し、左舷の甲板へと近づこうとしたとき、トップガンは動き始める。
「悪い奴らを、飛行船に近づけさせはしない! 仮面乙女マジカル・リリィ、トップガン切り込み隊長として参上ですッ!」
 名乗りをあげたのは、仮面で素顔を隠したリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)――いやいや、マジカル・リリィであった。
 小型飛空挺の上から、ツインスラッシュを連発し、相手を牽制する。これには空賊もたまらない。一旦、高度をあげ、甲板への着陸を諦めたようだ。
「マジカル・リリィ、よくやった!」
 そこへすかさず、特撮ヒーロー・ケンリュウガーの衣装に身を包んだ武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が追撃を仕掛けようとする。
 しかし、であった。ケンリュウガーの後方に別の空賊が現れ、アサルトカービンの掃射を敢行してくる。
「ちくしょうっ!」
 これを避けるため、ケンリュウガーはバランスを崩す。しかし、完全には避けきることができず、いくらかのダメージを受けてしまった。
「ヒール、いきます!」
 そこへレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)のヒールが飛んできて、ケンリュウガーのダメージはたちまちに回復する。
 そう、トップガンは攻守バランスの良いチーム構成となっているのである。
「カノン、光条兵器をっ!」
 艶やかなポニーテールが特徴的な水神 樹(みなかみ・いつき)が叫ぶと、そのパートナーである、純白ドレスの少年カノン・コート(かのん・こーと)はすぐさま呼応し、自身の光条兵器を樹に投げ渡す。
「俺だって、やれる……が、今回はお前に任せたっ!」
 カノンからのパスを受け取ると、樹はニヤリと、笑みを浮かべる。
「上等! 空賊の首のひとつやふたつ、お土産にしてあげるわ……と言いたいところだけど、私は囮っ!」
 光条兵器を振りかざし、無防備にも敵前に躍り出る樹。そんな相手を空賊たちが見逃すはずもなく、さきほどまで交戦していたふたりに更にひとりの加勢が加わり、計3機の飛空挺が、樹に襲いかからんとする。
「かかったわね。私の苗字、知らないでしょう? 教えてあげるわ。水神よ――」
 言うがはやいか樹は、水面に広がる波紋を描くようになめらかな動きで、空賊たちの間隙を縫い、攻撃をかわしていく。
「樹ちゃん、敵を一列に揃えてくれてありがとうっ!」
 ポニーテールの少女陽神 光(ひのかみ・ひかる)は、制服のポケットから、3本のリターニングダガーを取り出す。
 そして、縦一列、格好の標的となった空賊の飛空挺3機に狙いを定める。
「私の名前は陽神光。太陽の光のように、一直線に君たちを貫いてあげるわねっ!」
「えい!」
「や!」
「はっ!」
 3つのかけ声とともに、光の手から3本のダガーが飛び出す。
 そしてそれらは的確に、飛行艇のエンジン部分を捉えるのであった。
 空賊たちは飛行艇の制御が困難となり、迷走、そしてお互いに激突。甲板へ叩き付けられる結果となってしまう。しかもそこへ、最後の追撃が待っているのだった。
 墜落した敵の前に躍り出たのはケンリュウガーである。
「お前ら、俺の名前を知っているか? ケンリュウガー? いや、違うね。俺の本当の名は武神牙竜――武術の神だッ!」
 なんとも強引というべきだろうか。牙竜は空賊たちへ突撃し、我流のチンピラ剣術でバッサバッサと瞬く間に、彼らをのしてしまう。
「へへ、三神三位一体攻撃――完了だぜ」
 そうなのである。水神、陽神、武神――トップガンの三神は、独自の連携を構築し、敵を一網打尽にしたのであった。

 しかし、それで敵の攻撃が止んだわけではない。
「おいおい、まだやってくるぜ……」
 トップガンのブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)――通称『レイ』があきれたように声をあげる。
「しょうがないわね、こうなったら、やるしかないかな……?」
 インスミール制服をまとったシャギーの少女――遠野 歌菜(とおの・かな)は、ひと呼吸おくと、手近な2機の飛行艇に向かってランスを構える。
「レイ、下がって!」
「オーケー、カナ!」
 カナのサポートに入っていたレイは、前線から大きく後退する。その姿を確認してから、カナは雄叫びをあげた。
「まとめて、喰らえーっ!」
 カナの必殺技、チェインスマイトである。
 単発でも絶大な攻撃力であるが、彼女はそこで手を止めたりはしない。
「もう一丁っ、行くよ!」
 更にチェインスマイト。だめ押しであった。轟音をあげて堕ちていく改造飛行艇。
「さすがだな、カナ!」
「えっへっへぇ〜」
 左舷甲板の戦いにおいては、トップガンの活躍により、空賊の上船阻止に成功したのである。