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魔法スライム駆除作戦

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魔法スライム駆除作戦

リアクション

 
「じゃーん、カレン・クレスティア参上。ボクがきたからにはもう大丈……。なんじゃあ、こりゃあ!」
 勢いよく脱衣所の扉を開けて現れたのは、カレンだった。だが、浴室内に充満した無数のスライムの阿鼻叫喚地獄絵図を見て、忘れたい記憶を呼び覚まして真っ青になった。
 思わずフリーズしてしまったカレンに、スライムたちが殺到した。
「させぬ!」
 突然小さな影が飛び出したかと思うと、カレンの前からスライムたちを押し戻した。そのまま、ジュレール・リーヴェンディの姿が、カレンの身代わりとなってスライムの海に沈んでいく。
「カレン、存分に……戦うが……よい……」
 金髪のシニョンが解け、乱れた髪が一筋額にかかったジュレールが、その言葉だけ振り絞るように言って停止した。
「ジュレ!!」
 せっかく助けてもらったのに、カレンは結局ジュレールをだきしめずにはいられなかった。だきあったまま、一緒にスライムまみれになる。その格好のまま、すっと意識が途切れていった。
 そんな二人にさらに覆い被さるように、スライムが大きく盛り上がった。
「といや!」
 奇妙なかけ声とともに、可憐たちに襲いかかろうとしていたスライムが吹き飛ばされた。そのまま宙を飛んでサウナ室に吸い込まれて蒸発する。
「波動の騎士クロセル・ラインツァート、今ここに……」
 ポーズをつけて、クロセルが名乗った。
 なんだかよく分からない威圧感に、スライムたちがどん引きして逃げだす。
「ささ、今のうちです」
 クロセルはバスタオルでカレンとジュレールをつつむと男性用脱衣所の方へ連れていって保護した。
「ちょっと、そこの仮面に海パンの変な人、私たちを助け……ああっ」
 逃げ回るのも限界に近づいていたアスカが、クロセルに助けを求めたが、時すでに遅かった。天井からぼたぼたと落ちてきたスライムの集団に、ついにつかまってしまったのだ。そのまま墜落して、エリスとともにスライムの海に沈む。二人とも白い水着がもみくちゃにされて、ほぼ透けて透明に近いようだが、スライムまみれなのであまりよく分からない。
「ううむ、なんとかして、あの残った女人(にょにん)だけでも助けないと、正義の味方としての沽券に関わります。今行きますよー」
 クロセルは、ドラゴンアーツでまた一匹サウナ室送りにしながら、九弓に近づこうとしていった。だが、ついにスライムに包囲されて、九弓も進退窮まってしまった。これでは、クロセルも近づくことができない。
「こうなったら、せめてお風呂の中で倒れるんだもん!」
 自分のことは諦めた九弓は、マネットの身体をむんずとつかむと、ざんぶと大風呂に飛び込んだ。そのまま、派手に水飛沫をあげて、スライムの群れを回り込むようにしてクロセルに近づく。
「ますたぁ、なにをするんですかぁ、やめてください、ますたぁ」
「彼女を、お願い!」
 マネットの叫びを無視すると、九弓はクロセルにむかって彼女を思いっきり投げた。直後にスライムの群れに襲われ、気を失って湯船にぷっかりと浮かびあがる。
「ひゃあぁぁぁぁ……」
 くるくると回転しながら、マネットが飛んでくる。
「その思い、確かに受け取った」
 ドラゴンアーツでスライムを蹴散らして、クランツはマネットを無事受けとめた。なおもしつこく追ってきたスライムを、サウナ室送りにする。
「しくしくしく。わたくしたちだけで、どうやって、ますたぁを助けたら……」
 クロセルの手の中で、まだ半分目を回しながらもマネットがしくしくと泣き出した。なんだかチビッコドラゴンと姿が重なって、複雑な心境になる。
「大丈夫。俺たちにはまだまだ仲間がいる。ほら」
 そう言って、クロセルはマネットに彼方を指さして見せた。
 脱衣所から、やっと到着した援軍が次々に現れる。
「待たせたな。僕がきたからにはもう大丈……あぼあ」
「お待たせしましたわ。わたくしがきたからにはもう大丈……はうああん」
 いきなり飛び込んできた高月芳樹とリリサイズ・エプシマティオが、そのままスライムにカウンターを食らって瞬殺される。
「ちょっと待て、せっかくのいいシーンで、すぐにやられるなぁ!」
 クロセルが立場を失って絶句した。だが、そんな叫びも、すっぽんぽんにされた二人には聞こえるはずもなかった。
「わーん、守るって約束したのに、芳樹が先にやられちゃったよぉ」
 アメリアが、泣きじゃくりながら芳樹を引きずって退場させていく。
 リリサイズの方は、佐倉留美がお尻を突き出すようにして身をかがめ、よいしょとだき起こして運んでいった。彼女の後ろにぴったりとはりついていたラムールが、スライム以外の者を警戒してキョロキョロと周囲に気を配った。
「それにしても、なんですか、このスライムの数は」
 マリオン・キッスとともに、攻撃してくるスライムたちを慎重に避けながら魔楔テッカが言った。
「なあに、これからやっつけてしまえばいいのだ」
 手桶をもって現れたブレイズ・カーマイクルは、襲ってきたスライムをそれでキャッチすると、電気風呂に投げ込んだ。スパークが走り、スライムが死亡する。
「これでいいのでしょうか」
 手に持ったフライパンで、テニスよろしくスライムを電気風呂に放り込みながら、ロージー・テレジアが訊ねた。
「やっつけてしまえば文句も出まい」
「その通りです。手が空いている人は、倒れている人の救助に手を貸してください」
 ブレイズに賛同したクロセルが、みんなに頼んだ。
「よいしょっと」
 湯船に入った峰谷が、あおむけに浮いている九弓の身体をつかんで、浴槽の端まで引っぱってきた。
「よし、こっちなのじゃ」
 湯船のお湯をぱちゃぱちゃさせながら、ラムールが手招きする。その手が九弓に触れたとたん、ずるんと峰谷がお湯の中でこけた。
「最後の最後で、うそよー」
 派手な水飛沫をあげて、峰谷の姿が一瞬湯の中に沈む。次の瞬間、ブルマだけの姿になった峰谷が九弓の隣にぷっかりと浮かびあがった。
「どうしたのじゃ……。うわっ」
 驚いて身を乗り出したラムールを、お湯の中から偽足をのばしたスライムが水中に引きずり込む。
「まさか、わしの方がすっぽんぽんになるとは……」
 そう言い残して、ラムールは湯船にぷっかりと浮かんだ。すぐそばに、彼女の着ていた物が浮かびあがる。
「まだ中にいたのですね」
 佐倉留美が、湯船に浮いているスライムを桶ですくい上げた。そのままバケツリレーよろしく、ジーナ・ユキノシタに手渡していく。ジーナは、それを電気風呂に投げ込んだ。
「もういないようですね」
 慎重に、佐倉がラムールを救いあげた。幼児体型な魔女のこと。さくっとタオルにつつんで運んでいく。
 峰谷の方はマリオンが湯船から救いあげた。下の方だけは分厚いブルマでガッチリとガードしてあったのだが、その分、とてつもなく豊かな胸が無防備になっていて運ぶのに苦労する。
 九弓は、やっとクロセルにかかえ上げられて湯船から救出された。マネットが、クロセルから九弓の胸の上に飛び移って心配そうにする。
 不幸な事故はあったにしても、風紀委員が人知れず地味にスライムの数を減らしてくれていたため、やっと駆除のめどがたった。
 数で勝ってしまえば、もうほとんど勝負はついたとも言える。後は、一気に殲滅するだけだ。
 メイスにフライパンをくくりつけた狭山珠樹や、ロージー・テレジアや、桶を持った羽瀬川セトや、ブレイズ・カーマイクルが、次々にスライムたちを電気風呂かサウナ室に叩き落として始末していく。セトは最初の桶は狙いが外れたが、二度目はブレイズを守ってスライムを倒した。
 そして、テッカが火球で最後のスライムに止めを刺した。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「みんな御苦労様」
 紗理華の口から、やっとこの言葉が出た。
 外の様子を見にいった風紀委員からは、七人の他校生の被害者を保護し、破損したパイプの交換修理に取りかかる旨の連絡があった。
 これで、今年の騒ぎは収まったのだろうか。
「まあ、マジック・スライムの生態はまだはっきりとは分かっていませんから。ただ、そう何度も大量発生することはないでしょう。けれども、各人気を抜かないで、もし発見したら駆除をお願いいたします」
 御嶽がまとめに入る。
「あーあ、疲れた。一風呂浴びたい気分ね」
 紗理華がうーんとのびをして言った。
「この状態の大浴場でですか?」
 御嶽の言うとおりかもしれない。サウナ室と電気風呂は壊れ、床や天井も被害甚大だ。実際は、ここだけではない。食堂は冷凍庫が全壊して火事にもなるし、ポンプ室の扉は破壊されるし、パラミタトウモロコシはかなりの数が炭になってしまった。
「まあ、それはそれよ」
 紗理華は、あからさまに責任をごまかしたのだった。
 
 エピローグ
 
「みんな、先日はよく戦ってくれた。おかげで、俺たちは貴重なサンプルを手に入れることに成功したのだ」
「おぉー」
 イルミンスール魔法学校の使われていないはずの用具置き場に集まった面々は、この神名祐太の言葉に、感動して拍手した。
 【スライム捕獲部隊】は、七尾蒼也、周藤鈴花、水神樹、ファタ・オルガナ、ヴェッセル・ハーミットフィールド、譲葉大和、神名祐太の七人だ。なぜか、シャール・アッシュワースもかぎつけてきて同席している。
「これは、俺たちの英雄、ジェーン・ドゥ嬢が最後までにぎっていた赤と青の二匹のスライムだ。解凍には成功しているはずなので、少なくともどちらかは生きていると思う。ここに同席はしていないが、彼女に最大限の感謝を。では、いよいよ、マジックスライムの姿を拝むとしよう」
 神名が、テーブルの上におかれたやや大きめの箱をテーブル中央に押しやった。
「なんだか、少しふくらんでないか?」
 ちょっと不安そうに、七尾が言った。
「なあに、俺たちの夢が詰まっている証拠だ。さあ、開けるぞ」
 神名は、箱の留め金に手をかけた。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「ここね、不穏分子の集会場所というのは」
 神名たちが隠れている部屋の扉の前で、紗理華が数人の風紀委員を従えて立ち止まった。
「いや、そんな大げさなことじゃ……。ただ、なんだか樹の様子がおかしかったんで」
 通報者であるカノン・コートが、ちょっと言いにくそうに言う。それでも、パートナーのことは心配なのだ。
「その不安やいろいろも、ここを開けてみれば分かるわよ」
 そう言うと、紗理華はドアをどんどんと叩いた。
「開けなさい、風紀委員会よ!!」
 大声で言うが、返事がない。
「こじ開けなさい。逃亡されてはやっかいだわ」
 紗理華が命令する。
 風紀委員たちが、命令通りにドアをこじ開けた。
 そのとたん、部屋の中から怒濤の勢いで、裸で気絶した八人の男女と大量のマジックスライムが津波のごとく流れ出してきた。避ける間もあらばこそ、一瞬で紗理華やカノンや風紀委員たちは呑み込まれてすっぽんぽんにされていった……。
 
「ええと、すみません、お嬢。ちょっと私用があって遅れてしまいました。お嬢?」
 指定された部屋に入ったとたん、御嶽はちょっと言葉を失った。裸の男女が、部屋のそこかしこで変な格好で気を失って倒れている。犯人はマジックスライムらしいが、もうその姿はどこにもなかった。
「ええっとぉ。スルーしてもいいですかぁ」
 返事はない。実際、ほとんど屍である。
「じゃ、失礼させていただきまーす」
 本気で帰りかけて、だが、御嶽はさすがに足を止めた。
「一応、これだけはお持ち帰りしますか」
 倒れているすっぽんぽんの紗理華をまた自分の制服の外套でくるむと、御嶽は彼女をひょいとだきかかえた。
「では、失礼しまーす」
 そう言って、御嶽は部屋のドアを閉めた。


担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 阿鼻叫喚のシナリオ参加、皆様御苦労様でした。皆様の反応が楽しみです。
 今回、完全なシミュレーションというか、パラメータ基準の戦闘処理となっています。
 とはいえ、判定はすべて1D20で、20はファンブル、1は無条件成功。攻撃はファンブル以外は敵撃破、回避は音楽で先制攻撃、体育で防御のみ、家庭で攻撃可能なフリーの人がいれば援護を受けられるという、3回回避判定を行っています。またパートナー同士守るとある人は、パートナーが生き残っていれば犠牲にして生き残ったりもしています。
 いやあ、面倒くさかった。鬼のように手間かかって、締め切り前、マジで三〇時間徹夜で休みなく書いてました。
 意外と皆さん勘違いされていたのは、魔法防御力=魔力5と定義した制服よりも、SP30ほど持っているMC本人の方が、スライムにとって美味しい餌だということを忘れていたみたいで……。攻撃対象にされる順は、SPの高い人から(装備込みの数値。なので箒を持ってると+3でやばかったのよ)なので、レベルが高い人ほどある意味危険でした。最大5回攻撃された人もいますし。
 攻撃してくるスライムの数は、1ターンにつき1D20で処理したのですが、大浴場は人が少なかったので、阿鼻叫喚になりました。しかし、一人が複数回襲われているのに、なぜ躱す(笑)。
 もう、乱数の女神様気まぐれ大爆発で、絶対やられるだろう人が逃げ切り、絶対躱すだろう人が次々にやられて大波乱でした。このへんは、きっちりダイス通り処理していますので、不公平は一切ありませんので恨みっこ無しということで。出落ちでやられた人はそういうことです。
 だいたい、お助け用のNPCを各部屋においておいて、毎ターン1D6敵を減らしてくれるようにしたのですが、一応彼らにも回避判定はしていまして、そしたら、食堂のNPCだけがあっけなくやられまして、結構とんでもないことになりました。
 最大の敵は、乱数の女神様だったのかもしれません。パートナーとの連携作戦が、パートナーが先にやられて崩れてしまうという人も多かったですから。
 それと、SPが−1とわざわざ書いたのは、実はSPリチャージで意識を取り戻すということだったんですが、残念ながら気づく人はいませんでした。一応できたんだよということで、一組だけ特別に適用しています。

 今回、服が魔力を失って分解するという設定のため、魔法防御力を持たない蒼空学園の制服などは分解されなくて無敵状態なので、あえてイルミンスール魔法学校限定にさせていただきました。
 それでもあえて特攻してきた方が何人かおられましたが(笑)。基本瞬殺なのですが、意外と描写が多くなってしまっています。このへんは、優遇したのではなく、今回世界樹の巨大さの描写をわざと入れることにしたので、狂言回しとして使わせてもらったため、単純に描写量が増えています。アクションの導入部や目的は採用していますが、手段は強制的に全没でこちらの都合で勝手に動かしております。
 また、12ターンで全戦闘は終了していますので、これは12分ちょっとのお話ということになります。なので、寮に戻って何かをとってくるとか、準備してあった物を使うなどは、正当性のない限り没となっています。

 別シナリオの夏合宿では光条兵器の発現をちょっと細かく書きましたが、今回は魔法戦主体が明確でしたので、呪文詠唱シーンに描写をさく予定でしたが、呪文や印にこだわった方がほとんどいなかったのがちょっと残念でした。まあ、物量的に、全員描写してたら大変なことになったのでしょうけれど。今回65000文字超えてますし。
 ちなみに、サンプル的にわざと細かく描写したNPCのオリジナル魔法のシーンでは、紗理華はルーンを使っています。御嶽は、イルミンスール魔法学校では珍しい陰陽師系の狩籠師です。
 脱がされたときの下着とかもこった人がいたら、いくらでも対応できたんですが(笑)。まあ、話の流れの関係で、絶対描写されるものではありませんが。とりあえず、用意しておいた6冊ほどの服飾辞典は自宅の書庫に戻しておきますか。

 各アクションは隅々まで一読してなるべく反映させるようにしていますが、全員のアクションの総文書量は文庫本1冊ほど(夏合宿では220KB、108362文字)にもなりますので、極力読み落としは防ぐようにしていますが、やはりいくつか見落としが発生してしまっています。多少は脳内変換で、明らかにまずい物は申告してください。
 なにしろ、一覧データのレイアウトの関係で、データが非常に見づらいんですよ。そのため、これは外せないという設定は、表記自体を目立たせる工夫は有効かなと思います。そうしないとせっかくの設定が10万文字の中の10数文字として埋もれる可能性がありますので。

 スライム事件はこれで一応終わったように見えますが、また変な方向に話が発展していくかもしれません。でも、それはまた別のお話……。

追記.一部口調修正しました。他にもちょこちょこ、気に入らないところを削ったり加筆したり、書き直したり。やられたはずなのに、生きてた人を修正したり。