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魔術書探しと謎の影

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魔術書探しと謎の影

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第4章 おわり

「これですぅ、よくやったですぅ!」
 リリから『詳説魔術体系』を受け取り、エリザベートは満面の笑みを浮かべる。
「先生、私にもその本を読ませてください。私は蒼空学園の生徒ですけど、勉学は学園関係を超えると信じています!」
 幸が言う。
「先生、できれば私もお借りしたいです」
 ソアも続いた。
「んー? どうせ三十分もあれば読み終わるから別にいいですよぉ。今ちょっと見てみますかぁ?」
 上機嫌のエリザベートは、二人に『詳説魔術体系』を差し出す。しかし、それを受け取った二人は、内容を少し読んで固まった。
「ソアさん、でしたっけ? あの、これ……分かります?」
「いえ、全然……」
「ええ? どこが難しいですかぁ?」
「あの、先生。先生はどうして今になってまたこの本を読みたくなったんですか? 無事本が見つかったら教えていただけると」
「そういえば約束していましたねぇ。いいでしょう、お話しします。その本は、私の三歳の誕生日にお父様がくださった、思い出の本なのですよぉ。それはそれは夢中で読んだものですが、色々あってこちらにはもってこられなかったのです」
 そう言ってエリザベートは懐かしそうな、寂しそうな顔をする。アーデルハイトがついているとはいえ、親類の元を離れて見知らぬ土地の学校を一つ任されるなど、わずか七歳の子供には計り知れない重荷なのだろう。
「さ、三歳でこの本を……」
 遠い目をしたエリザベートの傍らで、ソアはみじめさにうちひしがれる。
「いや、それは校長がすごすぎるだけだから。それにしてもやっぱり思い出の本だったか。無事見つかってよかったぜ。しかし、カナタの言うとおりだったな。校長の『やさしい』は当てにならねーや」
 ソアの隣でケイが言う。
「結局先を超されちゃいましたね」
「仕方ないよ。無事見つかっただけよしとしよう」
 刀真と月夜は少し残念そうに佇んでいた。エリザベートはそれに気がつく。
「そこの二人。確かうちの図書館への自由入館を許可してほしいとか言っていましたねぇ。今日の私は機嫌がいいです。蒼空の生徒ですが、特別に認めてやるですぅ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます! やったね月夜、これで食費の心配をしなくても済みますよ!」
「うん、好きなだけ本が読めるね!」
 抱き合って喜ぶ刀真と月夜。それを見て同じ蒼空学園の優菜も嬉しかった。
「あの、校長。ちょっと思ったんですけど」
 今度は和人がエリザベートに話しかける。
「なんですかぁ?」
「その、本を探すとき、どっちのほうが効率がいいかって言ったら、確かに生徒に探させたほうがいいと思います。でも、たまには自分で探してみるのも面白いんじゃないでしょうか。目当ての本以外にも読みたい本が見つかりますし、予想外に自分の幅が広がります。俺はそれを今日実感しました」
「ふぅむ」
「そうすると、魔法では解決できない事柄に直面したとき、興味がある情報だけを見ている人よりも色んな選択肢がとれると思うんです」
「ボクも……そう、思う。図書館……楽しい……ところ。今度……読書会……しない? お話も……したい」
 晶が言う。
「そうですねぇ、一度くらいなら暇なときに付き合ってやってもいいですぅ」
「やった……楽しみ……」
 滅多に見られない晶の微笑みに、七海や優菜、カナンも嬉しそうだった。
 最後にフェインがエリザベートの前に歩み出る。
「ううん、お前はなんですかぁ?」
「あの、実は――」
 フェインは樹とエリスに助けられながら、事の一部始終を説明する。全てを聞き終わった後、エリザベートはこう言った。
「なるほど。そういうことだったですかぁ。まあ大して悪いこともしてないですし、何よりあの本に目をつけるとはなかなか見所のあるやつですぅ。許してやるですよ」
「やった! よかったね、フェイン」
「うん! ありがとう樹」
「私たちも魔法を学んでいる身だし、一緒に勉強しましょう。また遊びにいらっしゃいよ」
「いいの? ありがとうエリス」
 今や三人はすっかり打ち解けていた。
 この日のエリザベートはこの上なく機嫌がよかったらしく、騒ぎを起こした生徒たちも不問になった。また、滅茶苦茶になった図書館もエリザベートが魔法でちゃちゃっと元に戻してくれるということだ。どうせならその力で図書館全体の整理も、と言いたいところだが、さすがのエリザベートにもそれは無理らしい。バラバラになったものを本来あるべき姿に戻すのと、数え切れないほどのものの情報を個別に収集した上で整理し、それらを適切な場所にはめ込んでいくのとではわけが違うのだそうだ。
 こうして今回の件は無事に終わりを迎えたのだった。

 さて、全てが終わった後、野々は特別司書室に向かっていた。ドアを開けると誰かが寝ている。
「あの」
「んん……ふああ、あたし寝ちゃってたのね……うわ、もうこんな時間」
「あの、あなたが噂の司書さんですか?」
「あたしが? 違うわ。あたしもその司書さんに会いにきたの」
「そうですか……」
「ここに何か用かしら?」
「あの、会えないのならせめて手紙を司書さんに残そうと思いまして」
「あなたもなの? 他にもそういう生徒がいたみたいよ。ここに手紙が……あれ? おかしいわね、ない。まあいいわ、その辺に置いておけばいいんじゃないかしら」
「はい」
「その制服、あなた百合園の生徒よね? こんな時間までここにいていいの? あそこって厳しいんでしょ」
「ええ、エリザベート先生が学院にうまく言っておいてくださるそうです。今回の件が無事解決して、ご機嫌がよろしかったようで」
「あ、あたしが寝てる間にみんな終わっちゃったのか。よかったら詳しく話を聞かせてもらえないかしら?」
「構いませんよ。ええとですね――」

「ふふーん、任務完了〜……うん?」
 ガートルードは鼻歌を歌って歩いていたが、学園を出ようとしたところで違和感に気がつく。
「なんかおかしいですね。体が軽くなったような……」
 ガートルードは自分の荷物を探る。
「え、あれ!? ない! なんで!?」
 取り乱すガートルード。それも無理はない。確かに盗んだはずの本が、きれいさっぱりなくなっていたのだ。
 やがて彼女は、本の代わりに一通の封筒が懐に入っているのに気がつく。外には何も書いていない。中身を取り出すと、真っ白な一枚の紙にこう書いてあった。

『当図書館では無断貸し出しをお断りしております』

「わ、な、なんなんですかこの学園は!」
 ガートルードは紙から手を離すと、慌てて走り去って行った。

担当マスターより

▼担当マスター

飛弥新

▼マスターコメント

 初めまして。飛弥新(ひび・あらた)と申します。このたびはシナリオに参加していただき、ありがとうございます。
 
 今回はなるべくキャラクター同士を関わらせようと試みてみました。掛け合いなど、楽しんでいただければ幸いです。
 
 反省点としましては、登場シーンが飛び飛びになっているキャラクターが多くて読みにくくなってしまったことがあります。
 
 また、いただいたアクションをなるべく反映させたいと考えた結果(中にはアクションに書いていない行動をどんどんとるキャラクターもいましたが……)、アクションに書いたことをそのままリアクションにしているだけじゃないか! とお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。このあたりは今後の課題にしたいと思います。
 
 「アーデルハイトに匹敵する魔女だという噂の司書」につきましては公式の設定から引用したのですが(公式ページのマニュアルからワールドガイド→学園→イルミンスール魔法学校といったところの「名所:大図書館」という項目に書いてあります)、細かい設定ですので混乱や矛盾を招いてしまったかもしれません。
 そこで今回は、普通の司書は何人かおり、その他に特別な権力をもった謎の司書がいる、という設定にしました。

 キャラクターの登場文字数に関しましてはなるべく差が出ないよう心がけておりますが、面白いアクションをかけていただいたキャラクター、具体的な行動を書いていただいたキャラクター、物語上重要な役割をもつキャラクターは必然的に文字数が多くなっておりますので、ご了承ください。

 それでは、もっと面白いシナリオが書けるように精進して参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。