|
|
リアクション
第二章 ボディーガード達の困惑
「はっ」
イルミンスール図書室。
志位 大地(しい・だいち)は不意にウィルネストの悲鳴を聞いた気がして顔を上げた。
「どうしたの?」
大地と同じく、「無限倉庫」に関する資料調べをしていたアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が不思議そうな顔をしている。
「いえ、知り合いの声が聞こえた気がして……気のせいのようです」
「そう、ならいいいんだけど。そっちの資料、どう?」
「学校設立時の記録が見つかりました。これならあるいは……」
「あら、それは良さそうね。後は、芳樹の方だけど……大丈夫かしら」
「はて、無限倉庫?」
職員室の片隅。
顔中が白い髭で覆われたその教師は首をひねった。
「そう、先生、無限倉庫!」
「古株の先生から情報収集を」
と意気込んでやって来た峰谷 恵(みねたに・けい)が期待に満ちた目で返事を待っている。
「そんなもんあったかいのう?」
白髭の教師はますます首をひねる。
「知らないですか先生? あの、学校の隅に建っている――ムキムキの彫刻だらけの」
助け船を出したのは、同じく情報収集にやってきた高月 芳樹(たかつき・よしき)。
「おお、あれかっ!」
「知ってるんだね!?」
「知ってるんですね!?」
「おお、おお。ありゃあこの学校の設立のどさくさで建ったんじゃ!」
「それで? それで?」
「いやあ、あん時は大変じゃった、うん。ほれ、日本との新幹線から学校から建設ラッシュじゃ、毎っ日なにかしら建っとったわ」
「なるほど」
「それからな――」
『ふー』
際限なく続く教師の話から何とか逃げ出した恵と芳樹は、職員室前の廊下でため息をついた。
「これからどうするの? ボクは倉庫の仕掛けを調べたいんだ。ここに来れば何か分かると思ったのに……後は、図書室かなぁ」
恨めしそうに職員室をにらむ恵。
「行き先は同じみたいだね。じゃあ、ちょっと失礼」
芳樹は携帯を取り出してパートナーのアメリアを呼び出す。
「ああ、アメリア? こちらはあまり芳しくない。図書室で合流するよ。設立時の記録資料? 分かった、それ押さえといてくれ」
「あっはっはっはっはっ! いいっ! いいぞっ! 燃えてきたっ!」
相変わらず闇の濃い倉庫内。
と言うか、広い。
倉庫に入った人数はそこそこいるはずなのだが、すぐ近くにいる仲間を覗いては、暗闇の中で光るのが、持ち込まれた光源なのか、インジケーターなのか、今ひとつ区別がつかない。
東雲 いちる(しののめ・いちる)、ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)を中心とした六人は、ケインから聞き出したブリュンヒルト捕獲地点を目指した。
ブリュンヒルトと同じ床板から運ばれれば、少なくとも彼女の元までは行けるだろうというのが狙いだ。
その途中、暗闇からの突然の攻撃。
ブォンブォンと風を切って、重量感を伴った気配が暴れ回る中、アイリのパートナーユピーナ・エフランナ(ゆぴーな・えふらんな)が振り回した槍は、攻撃の手と交錯して時折火花を散らした。
「この手応えっ! 貴様もしかしてロボだな! ますます燃えてきた! さぁクー! 遠慮するな! 闇に乗じて攻撃などと卑怯千万な輩に我らの力を見せつけてやろうぞっ!」
嬉しくて仕方がないと言った態のユピーナの口許に笑みが浮かぶ。
「ああ、はい。では我が君、招待を受けましたので少々行って参ります。ご心配には及びません。こう見えても私は頑丈ですので」
いちるのパートナー、クー・フーリン(くー・ふーりん)は跪いて、いちるの手の甲に口づけをしようとした。
が、その頭を手で押し返す者があった。
「さっさと行け。緊迫感のない奴め」
同じくいちるのパートナーギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)だった。
「野暮なことをしますね、ギルベルト」
「やかましい」
闇の中、クーが苦笑する気配があった。
「では行って参ります。ギルベルト、我が君をしっかりお護りしてくださいね」
「ああ行け行け。行って、出来れば派手に散ってくるがいい」
「ど、どうしたんですかギルさん? なにか、気に入らないことでもあったんですか?」
おどおどっと、不安そうな顔のいちるが上目遣いにギルベルトに尋ねる。
ギルベルトは無言で両の拳をいちるのこめかみ当て、そのままグリグリとひねった。
「あうぅ、な、何するんですかぁ〜!」
「気に入らないことでも、だと? ああ気に入らないことだらけだ。ケインもクー・フーリンの奴も全く気に入らない。何より、ケインからの依頼なんてものをほいほいと何度も引き受ける貴様が一番気に入らない」
ぐりぐり、とギルベルトの拳は力を増していった。
「ふふふ、相変わらずギルベルトは本当にかわいいですね」
いちるとギルベルトのやり取りを少し離れたところから眺め、セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)は端正な顔に人の悪い笑みを浮かべた。
「素直になればいいものを。ねぇアイリ」
話を振られたアイリは、眼鏡の奥の目を険しくして、手にしたランプのか細い光の中、ユピーナとクーの戦闘の様子を見定めている。
「どうしました、体力切れですか? 確かにこの倉庫は体が重いですが」
「さすがに俺をなめすぎだろ、それ。いや、ユピーナ達が戦ってるあれな」
「楽しそうですね、ユピーナさん」
「……そうだな」
アドレナリン分泌がが止まらない様子のユピーナに、アイリはすこし頭を抱える。
「いや、まぁそれはいいんだけどな」
「正体ですか。結局あれは何なんでしょう。金属パイプと……鎖、バネも見えますか。ユピーナさんは叫んでますがロボットではないと思うのですが」
「なんであんな、まだるっこしいんだ?」
確かに、ユピーナ達の相手取るそれは、致命的な打撃をさけているように見えた。
「ははぁ。言われてみれば」
「俺には、危害を加えないように捕獲しようとしてるようにしか見えないんだが」
「ねぇ、どうします、リリさん? これ、押します?」
桐生 ひな(きりゅう・ひな)はインジケーターの点滅する、四角い機械の前、無数のスイッチを前にワクワクした声をあげた。
「押す」
翼状の光条兵器が散らす白い光に包まれ、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)はためらいなく宣言した。
「ですよねぇ。どれから行きます?」
「迷うことはない……スイッチは押すためにこの世にある。全部だ」
「そう来ますか。では、どうぞ」
ひなに促されてスイッチの前に立つリリ。
「自分は……よいっしょ……」
ひなは一抱えもある埃をかぶった木箱を持ち上げる。すぐそこで拾ったものだ。
普段に比べると若干の体の重さを感じるが、なんとか肩の高さまで担ぎ上げる。
「敵にはこの箱、ぶつけてあげますからね」
「任せた」
リリの指が片っ端からスイッチを押し込む。
最後のスイッチが押し込まれた時、何処かで低い、唸るような回転音。
そして警告を告げる甲高い音が響いた。
「リリさん、自分、すごく嫌な予感がします」
「奇遇だな、リリもだ」
「壊しますっ!」
闇に放られたひなの木箱は派手な破砕音をまき散らすが音は止まない。
直後、金属製のアームにはりつけのような形で腕と足をがっちり固められたひなとリリが、倉庫の闇の奥に消えていった。
「おお、なんかちょっと綺麗じゃのう」
遠く、悲鳴と一緒に流れていくリリの光条兵器の明かりを見てラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)が呟いた。
「ブリュンヒルトと同じルートを辿るということは……おそらくわざとあのような目に遭いにいくということだと思うのですが……本気ですか?」
レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)は、温和そうな顔の眉をひそめた。
「うん」
「もちろんですわ」
如月 玲奈(きさらぎ・れいな)と佐倉 留美(さくら・るみ)。二人の少女は、一度顔を見合わせてから、それぞれに「何をわかりきったことを」という表情を浮かべて即答した。
「ちっちゃな女の子が捕まっているのですわよ! きっとお腹も空かせているに違いありません!これを助けに行かないなんて、女すたりますわ!」
拳に力を込め、留美が力説する。
「先がどうなってるのかも分からないんですよ?」
レーヴェの表情は緩まない。
「まぁ、そのようなこと――奥へたどり着いてから考えれば良いですわ」
レーヴェはため息をついた。
「それに、別に訳わかんないのに捕まろうって訳じゃないし。床に乗るだけだよ? 危ない事なんてぜーんぜん無いよ。いざとなったらどっかーんだよどっかーん。壁壊して逃げちゃおうよ」
ギョッとする一同。玲奈は「どしたの? どしたの?」と顔を見渡し、それから続けた。
「でも本当にどうしたの、師匠。元気ないね?」
「体が重いんですよね。それに、魔法もほんと効かないですし」
「まぁ確かに厳しいけど、いざとなったら、ほら、スープで乗り切ろう、スープで」
「おお、ギャザリングへクスならダブルでいけるぞ」
ラムールが明るい声をあげる。
「ね、大丈夫だよ。師匠。行こ行こ」
玲奈に引っ張られて、レーヴェは重い腰を上げた。
そんな一行に留美が気合いを入れる。
「さぁ、いきますわよっ!」
すっかり準備を整えたケイン達が倉庫に入った頃、先行した生徒達が置いたのだろう、入り口付近は光源が確保され、僅かながら中の様子が見通せるようになっていた。
「ははぁ、こんな風になっているんですねぇ。外観のマッスル彫刻には親近感を抱いたのですが……中は意外と殺風景、ですか」
『ケイン教諭護衛隊A班』の一員として倉庫内に入ったルイ・フリード(るい・ふりーど)は、その立派な体躯の上に乗っかっている太い首を巡らせた。手入れの行き届いたスキンヘッドが、光源を反射してキラリと光る。
「倒れている生徒などは……いないようですが、戦闘の形跡はありますね」
ルイはそこかしこに散らかり、今は「残骸」としての姿を探している襲撃者の姿を認めた。
「……やはり、生徒さんにこんなことを頼むのは、危険すぎましたね……先に入った皆さんが、ヒルトと同じ目に遭っていなければいいのですが……」
ライヘンベルガーから渡されたジャージ姿のケイン三角巾を吊った肩を、情け無さそうに落とした。
「だ、大丈夫です先生っ! ウチの生徒はみんな骨のある者ばかりではないですかっ! 何、途中で困っている生徒を見つけたら助けましょうっ! 先生のパートナーと一緒に丸ごと全員! 全員助ければいい! そうですね、リアっ!」
「む? ああ――」
ルイと共にケインの後方を歩くリア・リム(りあ・りむ)は言葉を探すように、しばらく視線を泳がせてから――。
「難しいことは判らぬが――ルイが言うならそういうことだ。先生は必ず奥まで連れて行く。それは僕も請け負おう」
自信を持って宣言した。
「そ、そうです先生っ! スマイル! スマイルですよっ! さぁ皆さんもご一緒にっ!」
他の護衛メンバーも促しニカッと白い歯を輝かせるルイ。「ありがとうございます」と、釣られてケインも弱々しい笑みを覗かせた。
「わからないなぁ」
箒による超低空飛行、それが右に左にとのろのろと蛇行している。
パートナーに引きずられるように参加している『ケイン教諭護衛隊A班』一員として、ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は不思議そうに、そして気怠げにぼやいた。
「なにがですか? あ、こら、ニコさん、『禁猟区』ちゃんと展開してください。ただでさえ効きが悪いんですから」
隣で、禁猟区のスキルを展開させつつ、パートナーのユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)が聞いた。
「あのフリードって人さ。後ユーノも。もっと言えばケイン先生も『ケイン教諭護衛隊A班』全員もだよ。何で他人のためにこんなこと出来るのさ。まったくだるくてしんどくてめんどくさいのに。まして命がけで盾になるだなんて――理解できないよ」
「あのですねぇ、ニコさん。困っている人がいるなら、手を貸すのが当たり前です。それに……いいですか、大切な人を失うなんてことは誰にも降りかかってはいけないことなんですから。分かりましたね」
ニコはどろーんと濁った目でユーノを見つめ返した。
「全然分からないなぁ」
ユーノは「はぁ」と肩を落とす。
「もういいです。いつか分かってください。今は先生の護衛に専念しましょう、『禁猟区』さぼらないでくださいね」
「まぁ今のところ、順調――ですかね」
護衛班の先頭に立ち、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)とパートナーのラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)はメンバーの様子を見渡した。
人数分のヘッドライトは調達して配布した。
動く床とやらに捕まらないよう、基本箒での空中移動をするように提案した。
『禁猟区』の使えるメンバーには突然の襲撃に備えてもらっている。
準備に時間をかけた甲斐はあった。
少なくとも『護衛』ということであれば、問題のない態勢がとれているはずだ。
にもかかわらず――
「ヤマトちゃん、変な顔してるね」
「変な顔!?」
「あ、えーと、そういう意味じゃないよ? んーと、納得のいかない顔、かな。どうしたの、ニコちゃんみたいにめんどくさい?」
「はじめはそう思いました。でもまぁ、パートナーを助けたいという気持ちを思うとね。協力は惜しまないつもりです。ただ……ヒルトさんもケイン先生も実力者でしょう。なぜこうも簡単にやられてしまったのか?という事ですよ」
「突然だったから?」
「一番現実的です。ただ、自作自演もあるのではないかと……ヒルトさんはあれでしょう、ケイン先生の気を引きたい一心でゴーレム作ったって人でしょう? とは言え確証はないのですし、みんなには言わないでください」
ラキシスは「言〜わな〜いよ〜」とコクコク頷いた。
そのまま、「でもさ、でもさ」と続ける。
「ヤマトちゃんは、ボクがつかまっても助けに来てくれるのかな?」
期待感たっぷりの上目遣いで大和の顔をのぞき込む。
「じゃぁラキは俺が捕まったらどうしますか?」
「ふぇ?」
その間5秒。
「え〜っと、たぶんほっとくよ?」
「デスヨネー」
アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)が掲げる松明の炎の中、一枚の板とパイプで構成された出来の悪いベンチのようなものがバタンバタンと襲いかかってくる。
「おお〜、お化けがきたよ〜! やっつけちゃえ〜!」
「やっつけちゃえ〜」
クラーク 波音(くらーく・はのん)とララ・シュピリ(らら・しゅぴり)は楽しそうに戦闘準備、襲ってきた物に攻撃を仕掛けた。
三〇秒後。
「ムリー、魔法効かないー。動くとスゴい疲れるー」
「きかないー」
一気に間合いを取って逃げてきた波音とララは両肩で盛大に息を切らしていた。
「波音ちゃん、あれ見てください」
戦闘の間、明かりの維持をしながら周囲を観察していたアンナが、がちゃがちゃと暴れる敵の背後を指差した。
「ん〜? ああ、ピコピコしてるね〜。あれが先生の言ってた『いんじけーたー』?」
「波音ちゃん、私、どうもあれが気になります。壊せますか?」
「ピーンと来たよ! これが体を重くしたり悪さをしてる原因だね? ララ? だったら壊しちゃおー!」
「壊しちゃおー」
波音は弓を、ララはハンドガンを取り出し、そのままの位置から掃射。
衝突音の度に火花が散る。
ひたすらに掃射。
ボム。
小さな爆発音が鳴って、煙が上がる。明滅を繰り返していた機械の光は、それきりフッと消えた。バタバタと暴れていた、襲撃者も、それで動きを止める。
「おお! 止まった〜!」
「止まった〜!」
「やっぱり、これがコントロールしているみたいですね」
「おお! そうと分かったらみんなにも教えてあげなきゃ〜!」
「教えてあげなきゃ〜!」
アンナはため息をひとつついて後を追った。
「ヒーローはなぜ輝くかって? ふふ、そこに闇があるからですよ」
言って、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は口許に笑みを浮かべた。
「――む、これちょっといいですね。メモっときましょうか」
「クロセルさんすみません、カンテラ、こちらに置きたいのですが?」
一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が声をかける。
「はいはい、今行きますよ」
クロセルは腰も軽く、カンテラを運んでいく。
今回のクロセルは、すっかり縁の下の庶民派ヒーローだ。
「私の持ち込んだ分はもう終わりですね、クロセルさんの分はどうでしょう?」
「俺の方ももうほとんど設置し終わった感じですね。これ以上明るくするなら外から追加を持ってこないと……まぁおかげで、だいぶ明るくなったでしょう」
実際、クロセルやアリーセが設置して回った光源は、無限倉庫の一角を、視界が効くくらいには明るく照らし出している。それが一角にとどまっているのは、単にこの倉庫が広すぎるからだと言うことに他ならない。
「ところで、マナさん返してもらえませんか?」
「イヤです。こんな小さなドラゴニュートの成体なんて初めて見ました。すごく……興味があります」
アリーセは、クロセルのパートナーマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)をギュウと抱きしめた。
「きゅぅぅぅぅ、と、こら、ちょっとキミ息がつまるであろう。離せ、いや、離してくれまいか。それとちょっと目が危険だなキミは。それはあれだ、愛玩の延長じゃないな、キミ、私を実験材料か何かだと見てないか? いや、だから締めるな。クロセル、こやつたぶん悪党だ、悪党。成敗したまえ」
「……まぁ俺もそんな機晶姫初めて見ましたけど」
クロセルはアリーセの足下に置かれたアタッシュケースを眺めた。
内部に銃器のギミックを持つそのアタッシュケースは、先ほど他グループの援護射撃を行ったため、うっすらと煙が上っている。
「光栄であります!」
アタッシュケース――アリーセのパートナーリリ マル(りり・まる)が答える。
「いや、褒めてはいないですけど……でもちょっと欲しいですね」
「この子と交換なら……考えなくもないですよ?」
「クロセル、分かっているな? 信じているからな?」
「まぁ……マナさんは大事な相棒ですから……。にしても、これはいったい何なんでしょう?」
クロセルは、先ほどの戦闘で見事に破壊された襲撃者の残骸を眺めやった。
合成樹脂と鉄のかたまり。砕け散ったインジケータ付きの機械からは何やら基盤のようなものが覗いている。
「きっとこれが『スタミナの秘薬』を作る機械なんですよ。これが背後からガバッと組み付いてきて、組み付かれた人はカッサカサのカラッカラ。そして秘薬が一粒コロン……」
アリーセは何やら楽しそうだ。
「えーと、まぁさすがにそんなことはないでしょうけど。そんなことだったら……ほんとに成敗ですし」
「行かないんですか?」
「んー?」
「奥に行かないんですか、と聞いてるんです」
レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)はすぐ横で、腰を下ろしたまま倉庫の壁に寄りかかっているパートナー閃崎 静麻(せんざき・しずま)に声をかけた。
「まぁ今んとこ、怪我した奴もいないみたいだからなぁ。待ってるしかないんじゃないのか?」
「でも――」
「そう焦れなさんなって」
「別に焦れてませんっ!」
じっとしていられない性格なのだ。
「これだって、誰かがやんなきゃみんな迷っちまうだろ?」
クロセルやアリーナ達によって明るさが確保された倉庫の一画。
静麻がもたれかかっている壁には、大きな白い紙が貼られている。
倉庫の構造、敵との交戦場所、機械の設置位置、後ほど整頓する場所……などなど、それぞれの部隊が集めてきた情報を統合した全体地図だ。生徒を見かける度に静麻が声をかけ、情報を書き込んで行っている。
「この辺明るくなったおかげでみんな目指してくるし、危ないもんはさっきさっさと排除されてるから安全この上ない。何か起こればすぐ動けるって訳だ。その時は手伝ってくれるんだろ?」
「当たり前です」
「じゃ、いいんじゃない? 今は待つのが仕事って訳さ」