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真女の子伝説

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真女の子伝説

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    ☆    ☆    ☆
 
「見つけたー。そこのピンクに光ってる人、止まりなさーい。白百合団として命じます。止まりなさいってば!」
 小柄な少女が、大きな声をはりあげて羽高魅世瑠たちを追いかけてきた。すばらしい健脚で追いかけてくるのはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。その後ろから、イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)がはあはあ言いながら必死に追いかけてくる。
「誰が渡すもんかあ」
 羽高魅世瑠が思いっきりあかんべをして挑発する。そのまま、ラズ・ヴィシャと一緒に、器用に雨樋のパイプをつかんで再び屋根の上にあがっていった。マイクロビキニのあられもない姿の女の子二人は、まるでジャングル少女といったところだ。
「それは破壊しなきゃいけないんだよ!」
 ミルディア・ディスティンはハルバードを振り回して叫んだ。これなら、屋根の上にだって届くはずだ。
「逃げるよ、ラズ」
「あはははは、たのしー」
「待てー
 ミルディア・ディスティンたちは、羽高魅世瑠たちを追って、建物と建物の間の細い路地に駆け込んでいった。そのまま通り抜けて先回りしようとしたのだが、突然、足許の大地が消え失せた。落とし穴だ。
「きゅう〜」
「いしゅたん、重いい……」
 イシュタン・ルンクァークォンの下敷きになって、ミルディア・ディスティンが呻いた。
「一丁あがり。あたしの罠に死角はないんだよ。さあ、このまま売りにいくじゃん」
 再び道路に飛び降りて、羽高魅世瑠は言った。
「あい。どこまでもついて……ぇぇぇええぇぇぇ……」
 後を追って屋根から飛び降りたラズ・ヴィシャの声が、深い地下の空間へ消えていく。自分たちがしかけた落とし穴にジャストミートしてしまったのだ。
「ラズ!」
 助けようかと迷った羽高魅世瑠に、次の刺客が迫ってきた。
「はあはあ、やっと見つけた!」
 カーチェ・シルヴァンティエ(かーちぇ・しるばんてぃえ)と自転車の二人乗りをしながら、駒姫 ちあき(こまひめ・ちあき)が羽高魅世瑠に突っ込んできた。蒼空学園女子制服のスカートを翻しながら、猛スピードでやってくる。
「ええと、真珠はまだ繁華街と……。なんとか、掲示板に書き込んだよ」
 荷台に乗ったカーチェ・シルヴァンティエが、携帯のボタンを器用に操りながら言った。
「そこの恥ずかしい格好の女、おとなしく私たちの餌食になってよね。真珠は、破壊させてもらうわ!」
「恥ずい? あたし的にはこれが自然なカッコなんだけど?」
 怒って言い返しながら、羽高魅世瑠は走って逃げだした。
「変態だよ」
「うん、変態だよね」
 カーチェ・シルヴァンティエの言葉に、駒姫ちあきは思いっきりうなずいた。
「でも、女なら許す! GJ!」
「なんなんだよ、あの二人の女……」
 困惑しながら、羽高魅世瑠は罠をしかけた路地へと駒姫ちあきたちをおびきよせた。
「このまま落とし穴に……」
「逃がさないわよ!」
 落とし穴を飛び越えて避けようとした羽高魅世瑠の後ろで、駒姫ちあきの自転車が、思い切り落とし穴に前輪を落としてつんのめった。そのまま、駒姫ちあきたちが投げ出され、前を行く羽高魅世瑠にぶちあたった。
「きゃあ!」
 団子になった三人が、その先にあった別の落とし穴に一緒くたになって落ちていく。
「ちょっと、この足どけてよ」
「この邪魔な胸は、誰の胸」
「それは、私の……あれ? なんで私に胸が?」
「真珠はどこ?」
「あー、なくなってる」
「そうよ、真珠がないのよ」
「真珠じゃなくて、もしかして、そっちもなくなってない?」
「あはははは、もうどーでもいいわよ」
「もうなんなのよ」
 穴の中のカオスな状態などお構いなしに、穴の外に転がりだしていた真珠はロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が拾っていた。
「おーほっほっほ! かねてから、百合園学園内の男の娘が許せないと思っていたわたくしの手にこの真珠が巡り巡って回ってくるなどとは。これぞ、天啓。まさに願ってもない好機ですわっ! これで、百合園女学院にはびこる男どもを根絶してさしあげますわ」
 巨大な金髪縦ロールのツインテールを豪快にゆらして、ロザリィヌ・フォン・メルローゼは高笑いをあげた。
「さあ、そうと決まれば急いで学園に戻りましょう」
 ペーパードレスの裾を軽く持ちあげると、ロザリィヌ・フォン・メルローゼは百合園女学院にむかって走りだした。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「さあ、頑張って」
 夏野 夢見(なつの・ゆめみ)は、そう言ってフォルテ・クロービス(ふぉるて・くろーびす)を急きたてた。
「さっきから頑張っているじゃないですか。もう、なんだって、そんなにはりきっているんです?」
 ちらちらと時計を見て時間を気にしながら、フォルテ・クロービスは言った。今晩は白い鱗が美しいドラゴニュートのお嬢さんと食事に行く予定になっている。あまり時間はかけたくないのだが。
「だから、放送で言っていた呪いのアイテムを回収して、秘術科に持っていき、解析してもらうのよ」
 夏野夢見はそう答えると、真珠を持っている人物を探して周囲をキョロキョロと見回した。
「ほーほほほほほほ」
「あっ、あれよ、あれ!」
 スキップしながらやってくるロザリィヌ・フォン・メルローゼを指さして、夏野夢見は叫んだ。端から見てもそれと分かるように、胸元からピンクの光が漏れ出ている。
「さあ、隙を突いてタックルよ」
「しかたないですねえ。真珠を奪い取るのは任せましたよ」
 しぶしぶ、フォルテ・クロービスが行動を開始する。
 何食わぬ顔で、夏野夢見とデート中のカップルを装い、自然体でロザリィヌ・フォン・メルローゼに近づいていった。すれ違ったとたん、踵を返したフォルテ・クロービスは、後ろからロザリィヌ・フォン・メルローゼに飛びかかった。腰にタックルされる形で、ロザリィヌ・フォン・メルローゼがつんのめる。ビリビリと紙の破ける音がして、ロザリィヌ・フォン・メルローゼのペーパードレスのスカートがビリビリに破れて超ミニスカートに変貌した。
「ほきゃあ!?」
 そのまま倒れたロザリィヌ・フォン・メルローゼが、ビタンと石畳に顔面をぶつけて気絶した。胸元から、真珠が転がり落ちる。
「今だ、夢見!」
「うん」
 言われるまでもなく真珠をゲットした夏野夢見が、にこやかな顔でフォルテ・クロービスに近づいた。
「なんだ?」
「えいっ」
 怪訝な顔をするフォルテ・クロービスに、夏野夢見が真珠をくっつけた。
「おい、何を……するのですか。いやん」
 フォルテ・クロービスが阿魔之宝珠の力でポニーテールを大きなリボンで結んだ少女の姿になる。
「こ、これは……。わーん、これじゃもうデートできないー。わーん」
 茫然自失から冷めると、フォルテ・クロービスは泣きながら路地にしゃがみ込んだ。
「ごめんねー。でも、あたしとのデートの約束をすっぽかしたフォルテが悪いんだから」
 真珠を石畳の上に投げ捨てると、夏野夢見が嬉しそうにフォルテ・クロービスの頭をなでた。
「あたしだけを構ってとは言わないけれど、あたしとの約束だけは忘れたりしないで」
「あーあ、どうしよー」
 フォルテ・クロービスは、今晩のデートの約束のことで頭がいっぱいで、夏野夢見の言葉を聞き流していた。
 
    ☆    ☆    ☆
 
 ころころころ……。
 真珠が、石畳の上を転がっていく。
「こ、これは、もしかしてこれがさっきの放送にあった夢のアイテム!」
 足許に転がってきたどピンクに輝く真珠を見て鈴木 周(すずき・しゅう)は叫んだ。その声に、すぐ近くにいた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)も、足許へ視線を落とす。
「誰にも渡すものかあ!」
 叫びながら、鈴木周は真珠に飛びついた。
 ガタイのいいツンツン髪の少年が消え、ショートカットも初々しいスパッツを穿いた体操服姿の少女が現れる。
「あたちはぁ、百合園女学院の更衣しちゅにいくんだあぃ」
 鈴木周は、ちょっと噛みそうになりながらもそう主張した。
 雷霆リナリエッタは、そんな鈴木周の両肩にポンとその手をおいた。
「頑張れ」
 ただ一言、そう告げる。
「うん、あたちがんばるぅ!」
 そう答えると、鈴木周は真珠をしっかり握りしめたまま、百合園女学院にむかって走りだした。
「ふふふふ、面白いじゃん。あの馬鹿者が、百合園女学院に混乱と爆笑をもたらすのよね。最高じゃん」
 鈴木周を見送った後、雷霆リナリエッタは高笑いをあげた。
 笑いを止めて、両手を口許にもっていくと、雷霆リナリエッタは大きく息を吸い込んだ。
「おーい、真珠を持った奴が、繁華街の奧、西にむかって走っていったわよお。みんな、早く追いかけてえ!」
 周囲の人々に聞こえるように、わざとらしく大声で叫ぶ。もちろん、鈴木周が走り去った方角とは逆の方角だ。
「西ですね。よおし、今度こそ粉々にしちゃうんだからぁ」
 腰にしがみついた秋葉つかさをずるずると引きずりながら、雷霆リナリエッタの言葉を真に受けた執事ちゃんが西にむかっていった。
「せいぜい頑張ってよね」
 それを見送って、雷霆リナリエッタはほくそ笑んだ。
「ふっ、そうそう簡単には欺されませんわよ」
 木陰に身を隠していたシスター服姿の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が、人知れずつぶやいた。
「女の子だらけの世界はある意味素敵ですけれど……、あのような輩を百合園女学院に侵入させることは、白百合団としては見過ごすわけにはまいりません。必ずや、私が阻止してみせます」
 そう決意を新たにすると、冬山小夜子は鈴木周の後を追ってはばたき広場の方へとむかった。