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【2019修学旅行】京料理バイキング

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【2019修学旅行】京料理バイキング

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第二章 クッキングスタート!


 急遽、バイキングへ変更になったことでホテルの厨房はてんてこ舞いを起こしていた。
 時間が時間なだけにすでに準備してあった料理もあり、一般のお客様のこともあって完全な人出不足に陥っていたので蒼空学園の生徒でバイキングの料理を賄うという申し出は渡りに舟だった。
「みんな、準備ばっちりみたいだね。ボクも頑張ってレポートするよ」 
 はるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)が元気に会場のレポ―トを始めた。
 学習の一環としての料理のため写真を撮ったり、後でHPに上げたりするためこういった活動も欠かせないのだ。
「今日は生徒さんたちの人数も考えて、大きな調理室を二箇所開放してもらってます。そうだよね、料理長?」
「はい。みなさんと京料理を学んでもらえる機会が出来て嬉しく思います。今日、京料理なんて」
 料理長のべたなダジャレにらいむは寒さを覚えた。
「さ、寒すぎです……」
「あれ、悪寒ですか。それはアカン」
 一人で受ける料理長にらいむは心の芯までもが凍りつきそうだった。
「いえ……さっそく行ってみましょう」
 らいむと料理長はそれぞれの料理を作る班のテーブルを廻り始めた。



 【グジの酒蒸し】を担当する班ではサトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)が慣れた包丁さばきでグジを見事に三枚に下ろしていた。
「ルウ君が作る料理を見ると惚れ惚れします」
 パートナーの銭 白陰(せん・びゃくいん)がサトゥルヌスを褒めた。
「すごい、本当にキレイに三枚に……うーん、同じ魚だったはずなんですけど」
 隣で同じようにグジの三枚下ろしに挑戦していた島村 幸(しまむら・さち)も、サトゥルヌスの包丁使いに思わず声を上げた。
「僕、料理は好きだから」
 サトゥルヌスは照れながら幸のまな板を見て驚いた。
「これは……」
「個性的とでも言えばいいのでしょうか」
 白陰もあまりの現状に褒める言葉を見つけられないでいた。
 すでにグジの原型がなく、幸のハートマーク付割烹儀はどうやったかわからない汚れまでがあちこちについていた。
「うーん……どこでどう間違ったんでしょうね。こうかな」
 幸はさらに強引にグジを切り刻もうとした。
「幸、だからそこは……あぁ、そんなに強引にやってはいけませんぞ」
 幸のパートナーガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)はあまりのひどさに心配して口を出すが、それが逆に幸をイライラさせる結果となっている。
「大丈夫、熱処理したら食べれないものはないっていいますしね」
「幸、そういう問題ではありませんぞ」
 通りかかった料理長も思わず苦笑するしかなく、熱心に手洗いする雪ノ下 悪食丸(ゆきのした・あくじきまる)に声をかけた。
「いいですね、衛生は料理の基本ですよ」
「やった、料理長から褒められた。ほらほら見てください、きちんと割烹着に三角巾もつけてます」
 パートナージョージ・ダークペイン(じょーじ・だーくぺいん)と揃いの格好を悪食丸は自慢げに見せた。
「兄弟、やはり魚をさばくとあればこのくらいの刀が必要であろう」
 ジョージが取り出してきたのは刃渡り50センチはある牛刀だった。
「そうだな、兄弟。難しいが頑張ろうぜ」
 悪食丸は牛刀の手ごたえを確かめるように数回振り回してみた。
「あ、危ないですって」
 危うく切られそうになった白陰は思わず叫んだ。
「も、もっと小さい包丁で大丈夫だよ」
 思わず悪食丸を止めに入ってしまったサトゥルヌスだったが、内心は余計なこと言ったかもとドキドキしていた。
「あ、そうなんだ。おい、兄弟。小さいのないか?」
「なんだかものすごく不安です……」
 白陰の呟きに、ガートナも同調した。
「これでは無事に終わるかどうかも心配ですぞ」
「牛刀だけにぎゅーっとうしてはいけません」
 料理長のダジャレのセンスについていけるものは誰もいなかった。
「……兄弟、俺は凍りつきそうだぜ」
「……兄弟、あれは無理であろう」
 悪食丸もジョージも絶句するしかなかった。
「白君、ここって笑うとこだよね」
「そうだと思います……」
 白陰は同調を求めるようにガートナーを見た。
「無理なものは無理ですぞ」
「今のはどの辺りが面白いんですか?」
 幸の質問に料理長はかなりショックを受けた。
「……あ、あのいいと思います」
 サトゥルヌスの同情だけの発言に、料理長は急に機嫌をよくした。
「やはり料理と笑いはセンスですからね」
 料理長はサトゥルヌスに愛想よく笑うと、彼だけに細かい手順をレクチャーしはじめた。
「そうそう、で布巾をかけてですね。今度は熱湯を上からかけて皮を湯引きに」
「お湯が沸きましたよ。これをかければいいんですよね」
 幸はお鍋に沸いたお湯をお玉ですくうと、離れた位置からグジめがけて熱湯をまき散らした。
「熱ッ!」
 側にいたガードナーが熱湯をかけられ悲鳴を上げた。
 しかし、被害はそれだけではすまなかった。
「うわっ」
「大丈夫か、兄弟?」
 悪食丸もジョージも咄嗟に身を交わした。
 しかし、次々と繰り返される幸の熱湯攻撃を全て避けきれる者はなく、悲鳴が辺りに響きわたった。


 
 御凪 真人(みなぎ・まこと)はレシピ本を開きつつ、【うずみ豆腐】の作り方を調べていた。
「時間的にもち米を水に一晩つけるのは省略しない無理ですね。バイキングのギリギリまで」
「ねー、火をつけてもいい?」
 真人のパートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は手伝わせてもらえないことに退屈で、あちこち触っては真人を困らせていた。
「まだダメです。忙しいから君は大人しくしててください」
「面白くなーい」
「えーと基本的な味付けは」
「いいよ、他んとこいくんだもん」
「ダメです、迷惑になりますから。えーと、次は」
 レシピに夢中になる真人は、セルファがそっと離れたことには気がつかなかった。
 セルファは豆腐を切っているレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)を覗きにいった。
「どうじゃ、レイ。私の豆腐の角切りは?」
「やるなセシー。よし、俺は1センチ角にそろえてやるぜ」
「私もやりたーい」
 真人の眼が離れたのをいいことに、セルファもまな板で豆腐の角切りをやりだした。
「じゃ、誰が一番小さく切れるか競争だ」
「勝負というわけじゃな」
 小さく切る必要などまったくない料理なのに、レイディスたちはいつのまにか競争にすりかえてしまっていた。
「どうだセシー?」
「いやいや、レイ。私のほうが小さいようじゃ」
 レイディスもセシリアももはや料理はそっちのけになっていた。
「えーい、叩いちゃえ」
 セルファにいたっては豆腐を潰しているだけだ。
「あの……私もやはりお手伝いを……」
 ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)はパートナーのセシリアから何もするなと言われてるものの、やはり手伝いたくてウズウズしていた。
「ファルチェは手出し無用じゃ」
「でも……私も従者として見てるだけというのも」
 ファルチェはセシリアに相手にしてもらえず、豆腐を切る三人の後ろをウロウロするしかなかった。
「あの……少しは私もなにか」
 全く相手にされないファルチェは少し寂しくなった。
「手が空いてるなら、手伝ってもらおうか?」
 ディノ・シルフォード(でぃの・しるふぉーど)の呼びかけにファルチェはすぐ飛びついた。
「は、はい。私でよければ」
 ディノはパートナーの相沢 美魅(あいざわ・みみ)と一緒に出汁をとっているところだった。
「えーと、ファルチェさんですよね。味見してもらっていいですか?」
 美魅はそう言って、出しの入った小皿をファルチェに差し出した。
「……出汁の味がします」
 ファルチェのあまりにストレートな解答に、返答に困る美魅とディノ。
「ファルチェさん、たしかにそうなんですけど」
「もっと他に感じたことはないか?」
 美魅たちの質問にファルチェは真剣に考え込んだ。
「あ、かつお出汁の味がします」
「つまり、おいしいってことですか」
 じれったくなった美魅はストレートに質問をぶつけてみた。
「あの……私には少し足りないのかも」
「出汁が取りきれてないってことか……」
 ファルチェの発言に不安になったディノと美魅は考え込んだ。
「あの……」
 ファルチェは二人を悩ませたことに困った。
 助け舟を出したのは、様子を見に来た料理長だった。
「出汁をもっとおだし〜」
「……さ、寒すぎます」
 美魅のダメ出しに、受けると思って言った料理長はショックを受けた。
「ディノさん、今のがオヤジギャグというものでしょうか?」
「よせ、レクレラージュ。それ以上傷を広げてやるな」
 若者たちの冷たい反応にダジャレはもうやめようと決意した料理長は、ごまかすためにおいしい出汁の取りかたを美魅たちにレクチャーした。
「そうそう、昆布は水からで。沸騰させないようにね」
 料理長の手ほどきが受けられるとあって、真人もレシピ本を置いて真剣にメモをとりながら質問した。
「今回の料理の場合はやはり一番出汁のほうがいいんですか?」
「そうですね、京都の豆腐は味がしっかりしてますから」
 真人の的確な質問に手ごたえを感じ、料理長は熱心に説明を始めた。
「薄味を支えてるのはやはり出汁なんですね」
「お、君はよく理解できてますね」
「料理長、薄口醤油だと塩分が濃すぎるので白醤油とか試してみたいのですが」
 真人と料理長は料理の話ですっかり盛り上がった。
 しかし、放置された出汁の鍋の前で交わされるファルチェやセルファのやりとりには誰も気づくものはなかった。
「これもう少し味濃くした方が良いんじゃない?」
「あ、私も辛味が足りないと思ってました」
「タバスコとか入れてみよ」
「あの……ナツメグってなんでしょうか?」
 ファルチェとセルファは目に付く香辛料を片っ端から鍋に投入した。
 二人によって新に加味されたスパイスの数々で、どんな味に仕上がるかはバイキングでのお楽しみです。



「せっかく京都に来たんですから、湯葉から作ってみましょう」
 料理長の提案で、【湯葉の白菜包み】を担当するチームでは湯葉から作ることが決定した。
「よし、持ち上るぞ。あ……」
 葉月 ショウ(はづき・しょう)は湯葉を竹串で持ち上げようとしたものの形を崩してしまった。
「ショウ、もっと優しく持ち上げないと」
 パートナーの葉月 アクア(はづき・あくあ)は料理が得意なので、湯葉を引き上げる動作もやはり様になっていた。
「だいだい俺は湯葉を一からつくるなんて聞いてないぞ」
 文句を言いながらもショウは次の湯葉を引き上げる準備に入った。
「こういう細かい作業はむいてないんだ」
「でも、ショウはさっきよりも上手くなってますよ」
「よし、見てろよアク。俺だってやるときは……あぁ」
 ショウの持ち上げた湯葉は最後のところで敗れてしまった。
「くそ〜」 
「いいじゃない、楽しくて。これも経験だよね」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)はそう言ってショウをなだめた。
「っていいながら、ミルディアは普通にうまいじゃねーか」
「そりゃそうだよ。あたしだって女の子だもん」
「ミルディアさんの湯葉すごく形がきれい」
 盛り上がる女子の会話にショウは置いていかれてる気がした。
「ここは集中だ。よーし……慎重にそっと……どうだ」
 ショウは豆乳の表面にはった膜を丁寧に救い上げ、キレイな湯葉を皿の上に乗せた。
「ショウ、すごい!」
「ショウさん、やる〜。今までの中で一番キレイだよ」
 ミルディアとアクアの褒め言葉に、ショウは鼻を高くした。
「だから言っただろ、やるときはやるって」
「よーし、あたしもショウさんに負けてられないよね」
「お、勝負と行くか?」
 ミルディアとショウのやりとりをアクアは諌めた。
「ショウ、遊びじゃないんですよ」
「いいよ、いいよ、楽しくやろ」
 調子が出てきた三人はどんどんと湯葉を生産していった。
「じゃ、ショウさん、ミルディアさん。湯葉をいただいていきますよ」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)は湯葉の乗った皿を持った。
「綺人さん、ありがとう」
「どんどん作るから任せてくれ」
「頼もしい限りですね。期待してますよ」
 綺人は中に巻く具材を切っている七瀬 瑠菜(ななせ・るな)のもとへ湯葉を運んだ。
「あ、そこで大丈夫」
「手際いいなぁ、瑠菜さんて料理上手なんだね」
「フフ、ありがとう」
 綺人の褒め言葉に瑠菜は素直に喜んだ。
「瑠菜、エビの皮むきってこんな感じ?」
 瑠菜のパートナーリチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)は半分しか皮のむけてないエビを瑠菜に見せた。
「リチェル、それじゃまだ皮がついてるでしょ。こうやって丁寧に」
 瑠菜は優しくリチェルの手をとって教えてあげる。
「むずかしいです」
「大丈夫、ゆっくりやれば。そうそう、できてるできてる」
「あぁ、できました」
 リチェルはキレイに向けたエビを綺人にも見せた。
「リチェルさん、おめでとうございます」
 綺人に褒められて気をよくしたリチェルは次のエビにチャレンジにかかった。
「よし、じゃ僕たちも頑張ろう。クリス、うまく巻けてる?」
「あ……」
 綺人のパートナークリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は余分なところに力が入って湯葉を破ってしまった。
「いまのはアヤが話しかけてきたからです」
 言い訳するクリスだが、彼女の周囲には巻きそこねた湯葉が散乱していた。
「あちゃ……」
「これは、そのさっき落としたんです……」
 クリスは落ちた湯葉を見えないようにと、綺人の前に立った。
「次は失敗しないです……」
「ね、もっと湯葉作ったほうがいい?」
 様子を見にきたミルディアが綺人に話しかけた。
「えっと……その」
「あー……また破れました」
 クリスは申し訳なさそうに破れた湯葉をみんなに見せた。
「こりゃ、まだまだ必要だな。よし、気合入れてつくるぜ」
「よーし負けないから」
「もう二人とも勝負じゃありませんよ」
 ショウの掛け声でミルディアやアクアも再び作業に戻った。
「一緒にやらない? こうやってゆっくり巻いていけば」
 瑠菜はクリスとリチェルによく見えるようにお手本を作った。
「ありがとう、瑠菜さん」
「いいよ、お礼なんて。楽しくやったほうが美味しくなるでしょ」
 瑠菜の言葉に綺人は頷いた。
「えぇ、そうですね」
 初顔会わせのメンバーにも少しずつチームワークが芽生え始めていた。