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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

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タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!

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第六章 激突 −弐−

 ――絶賛の嵐が巻き起こっているはずだった。
 なのに、変熊はなぜ大の字で倒れているのだろか?
「ワタシのラーメンで何て破廉恥な事を!!!?」
「環菜長に何てモノを見せるんだッ!!」
「人生楽しまないと後悔するぜ!!!」
 いくつもの足跡とともに……ツッー……あれ、目に水が……
 変熊 仮面(へんくま・かめん)、その大いなる野望の前で【リタイア】。

 駄目だ。こいつら、何とかしないと……
 そう感じとったのは【腕の良い料理人】であるウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だった。
 蒼空学園カフェテリアのコックだったという都市伝説を持っている彼は、パラミタ小麦で作ったコシの強い太麺にハバネロを練りこむ。
 そして、スープは鶏をヘビと掛け合わせたような姿の鳥と野菜を煮込んだ。
 一説ではその鳥は伝説上の『コカトリス』という鳥に見えるというが、確証を持てる人物はその場に存在しなかったようだ。
「さて、最後に……」
 ウィングはブート・ジョロキアと言う世界一辛い唐辛子を刻んで入れる。
「よし、これが私の『炎の漢ラーメン』です」
 最後にラーメンの表面に火術で火をつけて、そのラーメンは完成したようだ。

 何かが気になる(ピキーンッ!?)。
 瓶底眼鏡を光らせたのは、ナマズのひげのように細長い口ひげを持ち、弁髪にチャイナ帽の男だった。
 そして、見るからに風貌の怪しいその男はウィングに近づくと声をかける。
「いや〜、編集長は本当に横暴アル。オレ……いや、ワタシはとにかく嫌気がさしているアル。あ、これ、ワタシの名刺だ……アル」
「は、はぁ……」
 姿形だけでなく言動すら怪しいその男にウィングは絶句してしまった。
 さらに突然、手渡された名刺には「ラーメン大好き・サミュエル友達・オレ魅酒乱(みしゅらん)担当・オゥイエー」と言うラップぽい文章が書かれているではないか?
「とにかく、ワタシ、お腹空いているぞ……アル。編集長ばっかり食べて卑怯アル。だから、編集長に復讐すべく、ワタシに味見をさせるアル!」
 そして、彼はウィングのラーメンに手を伸ばした。
 ここで、【彼】の事を教えておかなければならないだろう。
 彼の名前は渋井 誠治(しぶい・せいじ)
 『魅酒乱(みしゅらん)』の記者に変装しているが、もちろん、それは仮の姿である。
 本当の彼の姿は、自称「ラーメン大好き渋井さん」で、タベルトが食すようなラーメンを食べてみたくてしょうがなかった。
 だが、怪しい風貌ゆえ、なかなか相手は見つからず、ようやくウィングが立ち止まってくれたのだ。
「赤い炎、赤い麺、赤いスープ、赤いねぎ、赤いメンマ、赤いチャーシュー。全て赤アルな……」
「ウィング流の『炎の漢ラーメン』ですから。ちなみに五日間煮込んだウィング特製チャーシューに最も力を入れました」
「どれ……パクッ? こ、これは!!?」
 誠治はグルメレポーターのような口ぶりを使おうとしていた。
「グワアアアアァァァーーーー!!? こ、これが究極のラーメンというものかあああああァァ!!?」
 ……が、誠治はそのとんでもない味にもんどりうって悶絶するしかなかったらしい。
「そこまで喜んでくれるなんて……口直しに鎮痛作用のあるハーブをつかったハーブティーを用意しておきますね」
 ウィングがハーブティーを注ぐと、誠治はそれを飲み干したという。


 ☆     ☆     ☆


 場所は再び、タベルト・ボナパルトのテーブル。
 【バカLOVE☆】の騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はあまりの惨状に声を失っていた。
「うぅ、なんて事!? ジェノサイドっ♪ ジェノサイドっ♪ のはずが、タベルトちゃんにヤラれちゃってるぅ☆!?」
 その近くでオリジナル饅頭の【TATAKAEラーメン慢】の売り子をしていた椿 薫(つばき・かおる)は詩穂に声をかける。
「……このままでは全滅でござる。かくなる上は詩穂殿と拙者で全裸の術を行い、タベルト殿の注意をそらすでござる……」
 当然、その後で薫は殴られた。
 だが、詩穂らがそう思うのも無理はない。

 赤月 速人(あかつき・はやと)「タベルト、知ってるか? 料理の半分は優しさで出来ているんだ……つまり、味見NOだッッッツ!」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)「1杯で3つの楽しみができるってことで『陰陽ラーメン』食ったりやー!!」
 影野 陽太(かげの・ようた)「つまり、何が言いたいかと言いますと……えーと、しまったあぁ!? 貴重な出番がぁ!?」
 朝野 未沙(あさの・みさ) 「ラーメン界の自由と平和はあたしが護るんだから!」
 羽高 魅世瑠(はだか・みせる)「アーンしてるから食べさせて!」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)「胸の谷間から飲ませてあげるね」
 ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)「ラズ、ワカメ、飲ます」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)「これが俺とアインの豚骨激辛スタミナラーメンだ!!」

「ガハハハッ、甘い、甘い、貴様らの甘い味ではこのワシを倒す事は出来ぬわっ!!!」
 タベルトは凄まじい一言で次々と行殺していく。
 辺りに転がるのはいくつも折り重なる骸ども……
 無理もないだろう。
 所詮、料理の判定などタベルトの胸三寸でどうとでもなるのだ。
 味だけでは……奇をてらうだけでは……面白いだけでは……エロスだけでは……勝てないのだろう。
 さらに、珍 六三郎。
 七瀬 瑠菜(ななせ・るな)
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)らの『超野菜ラーメン』すら、彼を倒すには至らなかったのだ。
 すると、彼を倒すには何が必要なのか?

(それでも、料理は味……そして、もてなしの心……)
 カオス状態の周りをよそに本郷 翔(ほんごう・かける)は自らタベルトの元にラーメンを運んでいく。
「ここで薬膳ラーメンなどいかがでしょうか?」
「ムッ?」
 タベルトは一瞬、動きを止めた。
 他の連中とは違い、翔は温度を低く感じさせた。
 それは、まるで静かな海の如く振る舞い。
 タベルトは誘われたように箸を器に伸ばしていく。
「ふむっ、これは……クルミの油脂を使ったか。スープはトマトや野菜を使用し、まるでタイのトムヤンクンを思わせるが刺々しい辛味はない。フフッ、麺にはカン水を使っておらんな。何故だ?」
「かん水は麺にコシを与えるために使用しますが、同時に臭みと苦味が生じます。それに、自然の美味しさを追求すべきと考え、代わりに、僅かな寒天を加え、腹持ちを良くしています」
「生意気な事を……。だが、自然にこだわるあまりラーメンとしての味はマイナスとなるが、そこはどう考える?」
「私が目指したのはあなた様に『ある心』を思い出して欲しかったからです。タベルト様も何杯ものラーメンを食べて、満腹感を覚えていたでしょうが、これは胃や腸を活発する作用も含まれております」
「……ほう、確かにキサマのラーメンは食べる前と後では胃の調子が違うようだな。では、そのキサマの『ある心』は何だ?」
 タベルトは己の腹部をさすりながら言うと、翔は静かに答えた。
「最後にはわかるでしょう。あなた様が料理に対して紳士であればですが……」
 そして、翔はその場から去っていったのだ。

 料理に対して紳士だと?
 タベルトはほくそ笑む。
(何を言っておる。ワシはいつでも料理に対しては紳士だわい……)
 先祖から受け継いだ『魅酒乱(みしゅらん)』と『太邊流斗倶楽部(たべるとくらぶ)』の地盤。
 鋭敏たる舌を駆使して、味に不誠実な店を躾けてきてやった。
 タベルトの言うとおりに業務を改善し、授業料を払って教えを請う店には希望を……そうでない店には絶望を……
(この世の全ての店がワシの言うとおりにしておれば、マズい店など存在しないのだ)
 己の舌を信じる強い自負。
 それがタベルト・ボナパルトの背中を支えていた。
 珍 六三郎にも言ってやった。
「ガハハハッ、所詮、片田舎のラーメン屋がワシの舌を満足させる事など出来んのだ!!」
 六三郎は奥歯を噛み締めていた。
 自らは何もせず、ただ出来たものに対して批評を行うだけの卑怯な輩に対してだ。
(クククッ、六三郎とあの女のラーメンを食った時、あまりの美味さに焦ったが美味いと言わなければワシの勝ちだ)
(奴は『太邊流斗倶楽部(たべるとくらぶ)』に引き抜いて、高級なラーメンを作らせてやろう。それがパラミタの料理の発展に繋がるのだ)
 タベルトは手に持った扇子で扇ぎながら笑う。
 当然、己の完全勝利を確信しながらだ。


 ☆     ☆     ☆


「何て、ムカツく奴なのぉーーー!!!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はパートナーで、【腕の良い料理人】と呼ばれるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の作ったラーメンをタベルトの目の前に置いた。
「勝負しなさいよ。タベルト! 勝負というからには、もちろん何かかけるのよね。私が勝ったら魅酒乱と太邊流斗倶楽部を健全化してもらうわよ。自信がなければ別にいいけど!!」
 タベルトは【超ミニスカウェイトレス】の美羽をジロジロと見ると、いやらしい笑みを浮かべて言った。
「ほう、では、ワシが勝ったら、キサマに女将としてたしなみを躾けてやろう。」
「ちょ、ちょっと、美羽さん! 何を言ってるんですか!?」
「止めないで! ベアトリーチェ!! これは勝負なのよ!!!」
 周囲がドヨめいた。
 ベアトリーチェのラーメンは、美羽の集めてきた材料を使って作ったあじたま塩チャーシューメンである。
 麺はかん水を使わずに卵を繋ぎに使い、シチリア海塩とまろやかなモンゴル岩塩のスープは化学調味料を使わない本格的なモノ。
 チャーシューはハーブを食べて育った無臭豚、あじたまは比内地鶏の卵をダシでゆでた半熟卵。
 グルメで贅沢な一品である。
 だが……
「これでは駄目だ。ラーメンと言うモノは贅沢すぎれば言いというモノではない」
 タベルトは一言で片付けてしまった。
「ひ、卑怯者!!! そんなの『食ゴリラ』がマズいと言い続ければ、勝ち目がないじゃない!!?」
 もちろん、勝気で勝手にアダ名をつける美羽は引き下がらない。
 しかし、タベルトは笑いながら言う。
「仕方があるまい。それが御神楽 環菜(みかぐら・かんな)から提示されたルールだからな」
 巨大スクリーンに環菜の姿が映し出されると、環菜はいつものように冷静な表情で語る。
「私は『タベルト・ボナパルトを味で抹殺せよッ!』と言ったのよ。悔しければ、味で勝ちなさい」
「ガハハハッ、そう言う事だ」
「そ、そんな……」
 味で勝つ。
 そんな雲をも掴むような話。
 生徒達の前でタベルト・ボナパルトが巨大な壁となって立ち塞がっていく。

「マジで鶏冠(とさか)に来たぁぁぁぁっー!! 一緒にイクわよ、アリーセちゃん☆!!!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は何となく気になる言い方で、パートナーのアリーセ・リヒテンベルク(ありーせ・りひてんべるく)と一緒にラーメンを運んでいく。
 ラーメンの種類は
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)の『炎の漢ラーメン』
 月島 悠(つきしま・ゆう)の『戦場の黄色い狼』
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)の『妖怪珍道中ラーメン』
 瑞月 メイ(みずき・めい)の『麺☆ザ☆ボコスカ』
 レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)の『遊星からの物体L』
 陽神 光(ひのかみ・ひかる)の『無謀な洞窟探検者』
 と言ったゲテモノ系(?)のラーメンだ。

 それらの前に必要な道具である、ハサミ、ノコギリ、編み棒、ドリル、ニッパ、ペンチを並べると……
「さっ、召し上がれ☆!」
 タベルトの数々の無礼な振舞いにドSモードの詩穂とアリーセ。
「タベルトさん、そのチャーシューはペンチを使って下さい。お箸では食べられないんですよ♪」
「駄目×10ッ☆! ご主人様は味の品評に来られたのですから、さぁ、こちらのラーメンも勇気を出して食べましょう☆ 一人で食べられないのなら、あ〜ん、して下さいね☆ ふふっ、赤ちゃんみたいですね」
 どれもこれも食べれるとは思えない。
 しかも、『遊星からの物体L』は奇声すらあげている。
「ご主人様、無事に帰りたければ『どのラーメンもとても美味しいです、六三郎様☆』と一言おしゃってくださいね☆♪」
「麺とスープがあればラーメンなんですよ♪」
 ジリジリと迫るウェイトレス軍団。
 しかし……
「うむっ、たいした事はなかったな。ちゃんとドリルでスープも飲んだぞ。ワハハハハハッ!」
 タベルトは一瞬にしてペロリと平らげると、楊枝で歯の隙間を穿ったのだ。
 そのあまりの呆気なさに……
「うわああああぁぁぁぁん☆!! コメディなんて嫌いだぁぁぁぁッ☆!!!!?」
 ドピュウウーーーーンッ☆!
 詩穂とアリーセは泣きながら帰ったという。