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第4章 小さな暴れん坊を確保なるか!

「自由な方が楽しいのは分かるが・・・・・・屋敷をめちゃめちゃにされると、オメガが泣くのでな」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)は陣たちから逃げてきたミーミを部屋の角へ追い詰め、キッと睨みながら見下ろす。
「むぅ〜だってじっとしてるのつまらないし、もっともぉおーっと暴れて遊びたいんだもぉん♪」
「―・・・・・・」
 身勝手な物言いにイリーナは顔にピキッと青筋を立てる。
「だいぶ苦戦しているようだな」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)がドアを開け、室内へ入ってきた。
「無理に捕まえようとしたら、こいつらが逃げていった先はどうなってしまうと思う?」
「めちゃくちゃにされてしまうな・・・」
「掃除した場所を通らせるように誘導しつつ、ミニたいふうたちを捕まえるために罠を作っているヤツがいるようだから、そこへ追い込もう」
「あぁ分かった」
 静麻の作戦にイリーナは頷き賛同する。
「途中でゴミとか落ちてたらボクが掃除するね」
 閃崎 魅音(せんざき・みおん)は小さな箒とちりとりを持ち、静麻の後ろからひょこっと顔を覗かせた。
「その誘導する方法ですが・・・遊び感覚ならのってきやすいかもしれませんよ」
 ミーミから視線を外さず、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が静麻たちに提案してみる。
「なるほどな・・・そうしよう」
「問題はもう1匹の方だが・・・」
「同じ方法を使うと、警戒されて捕まらない可能性もありますよね」
 クリュティがヒソヒソ声で言う。
「ふむ・・・たしかにな」
「2匹を同時に追い込んでいくしかないというわけか」
 どうしたもんかとイリーナと静麻は考え込んでしまう。



 台風たちを探しているオメガの姿を見つけ、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)アイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)が声をかける。
「―・・・オメガ・・・・・・前回のパーティーでは世話になったな・・・・・・」
「遠いところから来ていただいて嬉しかったですわ」
「えと・・・・・・オメガ様ですね?」
「そうですわ」
「は、初めまして・・・・・・アイシア・ウェスリンドと申します。生前はジャンヌ・ダルクと呼ばれていました」
「こちらこそよろしくね」
 緊張しながら言うアイシアに、オメガはニコッと微笑みかけた。
「―・・・だが、一人きりで寂しいならそう言えばいいと思うぞ・・・・・・。お前を友と思う者は、この場に集まった者達を見れば分かると思うしな……呼んでもらえれば、俺も話し相手くらいにはなれる」
「ちょっとお呼びするイベントが思いつかなくて・・・」
「・・・・・・そうやってあれこれ悩まずに、気軽に呼べばいい・・・・・・」
「えぇ・・・そういたしますわ」
「・・・・・・さて、台風の事は任せておけ・・・・・・。手荒な真似はしない・・・・・・行くぞ、アイシア」
「あ、私のこともぜひ呼んでくださいね?それでは・・・・・・」
 アイシアはそう言うとクルードと一緒にミニたいふうを探しに向かう。
「この部屋はどうでしょうか・・・?」
 台風たちに気づかれて逃げられないよう、アイシアは慎重にドアを開けて中の様子を見る。
「何人かいるようだな・・・・・・」
「どうやって捕まえようと相談しているところなんだ」
 静麻たちがミーミを隅っこに囲んでいた。
「(―・・・・・・あれがミニたいふうか)」
「無理やり捕まえようとすると逃げられてしまうからな。で・・・ここにいるのはミーミだけだ。もう1匹は他の生徒が探している」
「遊びという感覚をもたせて捕まえる方法を考えているんです」
 クリュティが簡単に説明する。
「―・・・ふむ、なるほどな・・・・・・。それなら・・・・・・こういう案はどうだ?」
 クルードはミーミに聞かれないように、生徒たちとヒソヒソと小声で話す。
「いいアイデアだな、そうしよう」
 作戦を実行しようとイリーナたちは、クルードとアイシアを残して部屋の外へ出た。
「さてと・・・・・・おい!たしかミーミだったな・・・・・・そんな風に暴れるより、もっと面白い事をしないか?」
「おもしろぃことってなぁに?」
「―・・・そんなに遊びたいなら俺が相手をしてやろう。まずは俺が最初に隠れる・・・・・・俺を見つけたらお前達の勝ちだ・・・・・・。だが・・・見つけられなければお前達の負け・・・・・・どうだ?その後は俺とどちらが速いか競争でもしてみるか?」
「へぇ〜楽しそうー、やってみるぅ〜♪」
「・・・・・・行くぞ・・・・・・10秒後にスタートだ」
 部屋を出るとすぐさま予め決めていた場所に向かい、電気を消すとブラックコートを羽織り、隠れ身の術で隠れる。
「えっと・・・・・・それでは、クルード様を探してみます?私もお手伝いしますから・・・・・・もし宜しければ、お付き合いください。あ、私もクルード様の居場所は分かりませんよ?頑張って見つけましょうミーミちゃん」
「わかったぁあ♪」
 ミーミとアイシアが部屋から出てきたのを確認し、静麻たちは視線で知らせながら、掃除し終わっている場所へミーミを誘導する。



「ダディーっ、買ってきた!」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)から頼まれた子供の玩具を、リア・リム(りあ・りむ)は両手にいっぱい抱えて彼の所へ駆け寄る。
 玩具は風で飛ばして遊べそうなシャボン玉やゴム風船だった。
「これだけあれば、いろんな玩具が作れそうですね・・・」
「風船の中にシャボン玉いれたら面白くなるんじゃないか」
「でもこれだとすぐに割れてしまうかもしれませんよ」
「―・・・どうしたら長持ちするのが出来るんだろう・・・」
「やっぱり台所洗剤や洗濯のりを買ってきてもらって正解でしたね。水は屋敷にありますから・・・それをちょうどいい割合で混ぜれば割れにくいシャボン玉ができます」
 ルイは紙コップの中に材料を混ぜ合わせ溶液を作ってみた。
「ほら・・・結構長持ちするでしょう?」
 液をつけるストローの先を少しハサミで切り、試しにつけて飛ばしてみせた。
 フワフワ浮かぶ宝石のような輝きに、リアは目を輝かせてじっと見つめる。
「それじゃあ風船の中に入れて、沢山作りましょう」
 膨らませたオレンジやブルーのゴム風船の中に、割れにくいシャボン玉を入れると中でシャンデリアの光を受けてキラキラ輝き、ミニたいふうたちが喜びそうな感じだった。
「あっ、見てみてください。ミニたいふうたちのために作ってみたんです」
「まぁ綺麗ですわね。中に何か入っているんですの?」
「えぇ・・・シャボン玉を入れてみました」
 不思議そうに見つめるオメガにルイは思わず笑顔になる。
「ところで・・・ミニたいふうの子どもたちは、何故暴れまわっているんですか?」
「文字を読むこととか・・・教えたらすぐに覚えたんですけど・・・。お部屋の中とかでいたずらしちゃいけないことを教えてみたんですけどね・・・いまいち理解してくれないんですの」
「ふむ・・・・・・遊ぶことと、ただ単に暴れることはまったく違う・・・というのを理解してくれないということでしょうか」
「えぇ・・・」
「それを覚えられないからケースから出られない・・・。その中から出してもらえなかったから、ストレス解消をしているかもしれませんね」
「沢山遊んであげれば満足して暴れるのやめてくれるのか?」
 傍で聞いていたリアが首を傾げて聞く。
「たぶん・・・・・・。かといってこれ以上お屋敷の中で暴れられるのも・・・。やはりなんとかしてケースの中にいったん戻して教育してあげないといけないようですね」
 どうやって教育したらいいものかと、ルイは風船を見つめながら考え込んだ。



「確実にミニたいふうを捕まえるなら成功法でいないとな」
 黒霧 悠(くろぎり・ゆう)はトラップをしかけて捕まえようと、鉄製の大きな箱を抱えて手頃な場所を探す。
「ねぇねぇ、どの方法がよさそうか聞いてみない?」
 ルイの近くにいるオメガを指差し、瑞月 メイ(みずき・めい)が悠の袖を引っ張る。
「それもそうだな・・・。ちょっと聞きたいんだが、光条兵器での目潰しとか・・・ロープのトラップてミニたいふうに効果あるのか?」
「目くらましですか・・・試してみたことがないのでわかりませんわ。えっと一応・・・気体と変わりませんから・・・ロープですとすり抜けてしまうかもしれませんわ」
「丈夫な箱や缶に閉じ込めて重しを乗せた方がいいのか」
「そうですわね」
「俺もとラップで確保しようと思っているんで、よかったら協力しませんか?ちょっといいアイデアもあるので」
 ミニたいふうたちを入れるケースを手に持ちながら影野 陽太(かげの・ようた)が提案する。
「透明なドーム型のケース蓋を天井から吊るしておいて、任意のタイミングで台座に落下させてターゲットを閉じ込めるトラップです」
「2重トラップとして使えるかもな」
「念のためバケツも被せようぜ」
 バケツを片手に武尊がやってきた。
「できれば気づかれないようにカモフラージュしたいんですけど・・・」
「それなら風船を天井に沢山浮かばせておいて、見えないようにそこに紛れさせるのはどうでしょうか」
 風船を作りながらルイが陽太の案につけ加えるように言う。
「そんな方法もあるんですね・・・遙遠も天井にシャボン玉を飛ばしてケースを隠す手伝いをしましょう」
 溶液をつけたストローを吹き、シャボン玉を天井いっぱいに飛ばす。
「私たちはそこへ追い込む役割をしようか」
「その方が確実に捕まえやすいわね」
 雷で感電しないように両手にゴム手袋をはめ、虫取り網の網の部分をビニール袋にした取り網を持った本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が捕獲作戦に加わる。
「ボクらはケースの蓋を閉めようか?上から屈み込んで抑えようとしたけど逃げられちゃったからね」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はスカートの下に水着を着て確保しようとしたが、ケースの蓋をしようとした瞬間、ミニミニに逃げられてしまった。
「そうじゃのう。埃がない空気が綺麗な場所へ誘導しながらのほうがいいかもしれぬ」
「さっき見かけた時、けっこう凶暴化してたもんね」
 ミニミニたちが凶暴にならないようにするためのミア・マハ(みあ・まは)の対策案に、レキたちは軽く頷いた。
「さっそく準備にとりかかるか」
「はぁ・・・まったくもって面倒くさいのう」
 ブツブツ文句を言いながらもセニス・アプソディ(せにす・あぷそでぃ)は悠のトラップ作りを手伝う。
「準備が終わり次第、各担当エリアにスタンバイしましょう!」
 陽太は小人の小鞄を使い小人たちに天井にロープを固定させ、ちょうどいい位置にケースを吊るす。
「こっちは準備オッケーだ」
 ばれないように悠たちはリアが作ったシャボン玉の液を使って、しかけた箱をカモフラージュする。
「よし来たようだな」
 取り網を持って涼介とクレアの2人が、でミニミニをトラップがしかけてある場所へ、見失わないようにバーストダッシュのスピードで追いかけていく。
「へっ、そんなので捕まるかよぉお!」
 凶暴化しているミニミニは網に向かって落雷を落とす。
「効かないねっ、ゴム手袋は電気通さないんだから♪」
「ちっ・・・」
「今度こそ捕まえてやるー!」
 駆けつけた泡がドラゴンアーツで袋の中に押し込もうとする。
「その程度じゃあこのオレ様は捕まらねぇぜ!」
 泡とクレアが袋と網をミニミニに被せて捕まえようとするが、風圧で網に穴を開けて通り抜けてしまう。
「(余裕でいられるのも今のうちだ・・・)」
 網で確保するのは保険で、本命は悠と陽太がしかけたトラップの場所へ誘導することだった。
 ミニミニの風速に望のロングスカートと、ノートの白いワンピースドレスがめくれ上がってしまい、薄っすらフリルの水色ストライプのチラリが見えてしまう。
 涼介から見えないように、とっさにクレアが視界をガードする。
「―・・・今だ!」
 ロープを切ってバケツと鉄の箱をミニミニの上にドスンッと落とす。
「何しやがるんだ、出しやがれ!」
「よし・・・この上に重しを・・・」
 逃がさないように箱の上にセニスが漬物石を置く。
「うぁあん怖いよー」
 低い声音でギャァギャァと喚き散らし、暴れるミニミニにメイが怯えた顔をする。
「逃げていっちゃうよ!」
「どうしても暴れたいのか・・・」
 重たい箱に入った状態で動こうとし、いじでも暴れようとする態度に武尊は目を丸くした。
「箱に入ったままじゃがのぅ」
 閉じ込められたまま、ズルズルと床の上を進む台風を見る。
「―・・・まぁ、その先は行き止まりだがな」
 まんまと作戦にはまり陽太がしかけている所へ向かっているミニミニを見ながら悠はニヤッと笑う。
「上手くひっかかってくれたようだな!」
 手にしている網を振り、涼介が陽太に合図する。
「(かなり一か八かの賭けね!)」
 泡が漬物石を床に置き箱とバケツをはずしたのと同時に、ミニミニの真上にケースが落下した。
「えぇいっ!」
 クレアがケースの上に網を被せ、レキとミアがしっかりケースの蓋をする。
「なんとか捕まえたようだね」
 ケースの中で暴れているミニミニの姿に視線を移し、疲れたようにレキはため息をつく。
「無事に捕まえられましたね」
「残るはミーミのほうだな。他の生徒たちが上手く捕まえてくれているといいんだが」
「あぁそうだな」
 悠と涼介はケースをオメガに渡しつつ、まだ捕まっていないミーミがどうなったか探しにいくことにした。
「ふ〜、やっと終わったね・・・あ、そうだ、オメガ、右手を上げてみて?」
「はい・・・?」
「お疲れさまーっ!」
 泡はパンッとオメガの右手を叩き、ハイタッチをする。
「人に触れるのって怖くないでしょ?」
 触れるを怖がる魔女に、泡はニッと笑いかけた。



「なんだろうこの部屋・・・暗いですね・・・」
「待て・・・明かりをつけるな・・・・・・」
 ミーミを暴れるのをやめさせようと、遊んでやっていることをクルードが陽太に説明する。
「そうだったんですか・・・ミニたいふうたちは生まれたばっかの子供と同じで、言ってもなかなかきかないからケースに閉じ込めた方がいいそうだったからミニミニをケースの中へ戻したんです」
「―・・・なるほどな」
「ミーミもケースに戻した方がいいですね・・・」
 捕獲できるよう近くにトラップをしかけた。
「あっ・・・誰か来るようです」
「アイシアたちの声だな・・・・・・」
 ドアを開けてアイシアとミーミが部屋の中に入ってきた。
「いませんねー・・・」
「見つからないよぉ・・・」
 彼女たちはキョロキョロと室内を見回す。
「ねぇー誰かいなかった?」
 ミーミが陽太の傍に近づき、どこかにクルードが隠れていないか聞く。
「さぁ?どうでしょうね」
「真っ暗ですね・・・電気つけないんですか」
 スイッチを押そうとするアイシアに、電気をつけないように陽太が首を横に振り仕草で知らせる。
「(そういうことか・・・)」
 気づかれないように黒いロープをしかけているのをイリーナが見つけた。
「むぅ・・・ここにいると思ったんだけどなぁ・・・・・・」
「見て見てー中に何か入ってるよ?」
 ルイがつくったシャボン玉入り風船を魅音がキャッチする。
「なぁにそれ?」
「―・・・ちょっと貸してみろ」
 魅音の手から静麻が風船を取り、ケースが吊るしてあるほうへ飛ばす。
「きゃははっおもしろーい」
 そよ風程度の風速で飛ばし遊び始める。
「あっそうだ・・・かくれんぼの途中だったー。どーこだろうなー?」
 クルクルと部屋の中を飛び回っているミーミが、ケースの蓋の真下に来たタイミングを見計らい、イリーナとアイシアが目配せで示し合わせてロープをハサミで切った。
「結果オーライ・・・ということだな・・・・・・」
「やりましたねクルード様♪」
「うわぁあん、捕まっちゃったよぉお」
 悔しそうにミーミはシュンとする。
「ふう、これで終わった・・・・・・わけじゃないか」
 散らかりまくっている屋敷を見て、イリーナはため息をつく。