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リアクション
「朔、どこだぁ?」
ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)とスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が探している。
やっと見つけた朔、布団部屋の隅でひざを抱えていた。
「これからクリスマスの準備が始まるよ、子どもは他に任せて、掃除、掃除!」
カリンが朔を励ます。
「孤児院の運営の手伝いをしようと思うんだ・・・」
ぼそっと朔が呟く。
「まさか管理人に?」
カリンが問いただしたとき、
ガラッ、閉まっていたドアが開く。
顔にペイントしたピエロ衣装のビスクドールが顔を出す。
「管理人になるのかァ?」
「・・・・」
「管理人になるのかァ?」
「いや、運営を手伝いたいだけだ」
「よし、ナガンに伝えとく!」
ビスクドールはスキップをしながら去ってゆく。
「今のは・・・」
顔を見合わせる三人。
失神したアキラの面倒をみているのは、蒼空学園から来たアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。足を高くして服を緩めて風を送っている。
アキラが目を覚ます。
「大丈夫?」
「わりぃ、寝てた」
アキラの言葉に心配していた子どもたちが笑い出す。
「折角だから、応急措置の勉強をしない?」
アリアが持ってきた救急箱を開ける。
中には、包帯やら傷薬が入っている。
「スキルで傷を治すこともできるけど、薬の使い方を知っておくことは大切よ」
頷く子供たち。
「まず薬の説明ね、これは消毒薬。傷を負ったときは真水で患部の汚れを落として・・消毒は忘れては駄目よ。これは火傷の薬。火傷を負ったらまず流水で冷やすこと、服を脱いだりしちゃ駄目、服の上から冷やすの・・・」
それから少し考えて、
「実践のほうがわかりやすいわよね、誰か怪我してる子いない?」
「怪我?そんなの皆だ」
レッテが腕を出す。あちこちに擦り傷がある。
「洗った?」
「ん?そうか、昨日は風呂に入らなかったんだ、洗ってねーや」
「ばい菌が入ると大変だわ、今度から洗ってね」
「はいっ」
「他には・・・」
そのとき、子どもたちが顔を見合わせた。子どもの視線が一人の少女に集まる。
「ルイの足、見てくれよ。さっきサッカーしたおっちゃんが治るっていってた」
ルイと呼ばれた女の子が、アリアの前に足を出す。
太ももの内側に酷い裂傷がある。
「発掘のとき、化けもんにやられたんだ・・」
「薬では治せないけれど・・・」
アリアは、ルイにヒールをかける。
傷は少し薄くなる。慢性的な痛みもなくなったようだ。
ルイの顔が明るくなる。
「待っててね、今日はクリスマスなの。きっとルイちゃんにも奇跡が起こるから」
アリアの言葉にルイが微笑んだ。
カメラを手にした蒼空学園の羽入 勇(はにゅう・いさみ)は、早朝から孤児院に密着している。孤児の日常やパーティの様子を写真に取り、「里親探しHP」に載せようと考えている。
勇が撮った写真には、手作り遊具で遊ぶ様子や畑を耕す子供たちが生き生きと写っている。
「寄付も集まりやすくなると思うんだよね」
今日は、カメラ片手に記録に徹するつもりだ。
百合園女学院のフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は孤児院に付くと、早速、荷物からいくつかの楽器を取り出した。
「みんなの準備が整うまで、音楽会をしましょうか」
バイオリンやフルートのように音を出すのには熟練が必要なものから、カスタネットや鈴など親しみやすいものまで様々用意されている。
フィルがバイオリンを鳴らす。それまで騒がしかった子供たちがシーンとなった。
パートナーのセラ・スアレス(せら・すあれす)はぶっきらぼうに子供たちにカスタネットを配る。
「使い方、わかるかしら」
「馬鹿にすんなぁ、当たり前だろ」
レッテがカスタネットを振る。他の子たちも振る。
困ったようにセラがフィルを見やる。
「こっほん!」
シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)がわざとらしく咳をした。
「おぬし、知ったかぶりをしたじゃろ」
レッテをみるシェリス、にやっと笑う。レッテの顔が赤くなっている。
「わしはの、パラミタの生き字引といわれているのじゃ」
小柄で可憐なゴスロリ少女の外見をしているが、シェリスは長い年月を生きている魔女だ。
「みよ、カスタネットはな、スペインで発達した楽器でのぉ、フラメンコなどに使われるのじゃ。カスタネットの語源は・・・」
フィルがポンっとカスタネットを打ち鳴らす。
「なんだ、簡単じゃん」
「そうじゃ、簡単なのだよ」
争うのかと思いきや。シェリスはレッテと気があったらしい。
「鈴も簡単じゃぞ、のう、セラ」
急に呼ばれてセラは戸惑っている。
「セラが鈴を鳴らすぞ、みな、教わるのじゃ」
子供たちがセラの周りに集まる。
「振るだけなのよ」
セラが振ると、鈴が愛らしい音を奏でる。
「俺もやる!」
子供たちはそれぞれに楽器を手にするとガシャガシャ慣らし始めた。
美しい音色が、雑音に変わっている。
「みんなで合わせて鳴らすのです。そうすれば気持ちのよい音が生まれます」
フィルがトントンとリズムを取る。
子供たちがそれに合わせて楽器を振る。
トントン、トントン、トントントントン、
リズムが出来たところで、フィルのバイオリンが始まった。
即席の演奏会が行われている。
子供たちはリズムを守ろうと、かなり真剣な面持ちだ。
「そんなにかたくならないで。歌ってもいいのです」
フィルの言葉を聞いて、セラが小さな声で歌を歌いだした。
覚えやすい単純な歌詞だ。
「うむ、歌ったほうが楽しそうじゃ。おぬしは歌えないのか」
レッテをからかうシェリス。
「歌えるぞ、なっ!」
子供たちはセラを習って、声を出す。
蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、買い物の段階から大騒ぎだ。
「お金持ちの住んでいるヴァイシャリーのほうがいいものが揃ってると思うんだよね」
わざわざ空京でなくヴァイシャリーに来ている。
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も一緒だ。二人は2台の小型飛空艇を持っている。
「そうだ、瀬連ちゃんも誘おうよ。孤児院まで乗せていってあげられるし」
百合園女学院に着いた二人は、高原瀬蓮(たかはら・せれん)とアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)と一緒に出かける約束をする。
「・・・」
美羽がなにやら瀬蓮の耳元で呟く。
頷く瀬蓮。
「アイリス、ちょっと待っててね、美羽ちゃんに買い物付き合って言われたんだ。すぐ戻るから、ね」
「ベアトリーチェも、待ってて、すぐ戻るから!」
二人は、それぞれのパートナーの返事を待たずにヴァイシャリーの街へと走ってゆく。
「いいさ、セレンの好きにするといい」
アイリスが二人の後ろ姿を見送っている。
「すみませんっ!美羽が勝手なことを・・・」
「誤ることはないよ、それにしても何を買いにいったのやら」
美羽と瀬蓮は高級食材の揃うスーパーにやってきている。
「七面鳥をください、それと・・・」
美羽が買い求めているのは、高級な食材ばかりだ。
「美羽ちゃん、よくないよ」
「なんで?」
「アイリスに言われたもん、お金をあげるのはよくないって」
美羽の買い物カートいっぱいの食材を見て、瀬蓮は困惑している。
「瀬蓮ちゃん、お金をあげるのとクリスマスだからおいしいものを持ってゆくのは違うよ、美羽もただお金をあげるだけっていうのは、やっぱり良くないと思う、だけどクリスマスだよ、一年に一回のイベントだよ」
「そっかぁー」
「そうだよ」
なんとなく瀬蓮のタガが外れたようだ。
二人の視線が、あるものに向かっている。
二人は山のような食材を小型飛空艇に先に積み込んだ。
美羽と瀬蓮、アイリスとベアトリーチェの小型飛空艇が並走して孤児院を目指す。
「なんだか、そちらの飛空艇は重そうだ」
アイリスはよろよろ走る美羽の飛行艇をさも面白そうに眺めている。
二台の飛行艇が孤児院に着く。
高原瀬蓮とアイリスが出迎えた子供たちに挨拶する。
「はじめまして、瀬蓮だよ。仲良くしてね」
ペコッと瀬蓮が頭を下げると、手入れの行き届いた輝くばかりの髪の毛が揺れた。
屈託のない笑顔が子供たちを魅了する。
イルミンスール魔法学校では、ルーナ・フィリクス(るーな・ふぃりくす)が眠い目をこすっている。目の前にはクリスマスカラーのリボンがついたプレゼントが山積みされている。
毎日睡眠時間を削って作っていたのは、手編みのマフラーと手袋だ。
やっと今朝完成した。愛らしいサンタのミニスカート姿をしたセリア・リンクス(せりあ・りんくす)が顔を出す。
「もう行くよ?あれ、ルーナはサンタ着ないの?」
「恥ずかしい・・・」
セリアは、プレゼントの山を見る。
「ずいぶん作ったね」
「ええ、だって何人いるかわからないし、バザーの時より増えてるかもしれないし・・」
「さ、もう行かなくちゃ!間に合わないよ」
蒼空学園の早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)は、出発する直前までピアノの練習をしている。子供たちと一緒に歌を歌うつもりだ。
「ジングルベル」や「きよしこのよる」など定番のクリスマスソングの楽譜と持ち運びの出来るキーボードを大きなバッグにつめる。
「せれれん(瀬蓮の事らしい)ちゃんに会うの、楽しみだな」
メメント モリー(めめんと・もりー)は買出しで用意した大量の食材をリュックにつめていた。
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