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リアクション
6.瀬蓮の準備
「うーん、なにを持っていこうかなっ」
百合園女学園では、部屋の中で高原瀬蓮(たかはら・せれん)が悩んでいる。
目の前には、本やら服やらお菓子やら、山のように積まれている。瀬蓮が小首をかしげるたびに、ロングウェーブの金髪が揺れる。
孤児たちと面識のあるメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が部屋の中に招かれている。
「さっき、子供たちが孤児院に到着したって連絡がきたのですぅ、クリスマスイブにパーティを行おうかと考えているのです、瀬蓮ちゃんも一緒に行きましょうねぇ」
「そっか、もうすぐクリスマスだもんね、じゃ、おいしいケーキが必要よねっ!」
持って行くものが決まって安心したのか瀬蓮の顔がばら色に輝く。
7.孤児院での生活が始まった
集落には孤児院になる民家のほかに、数戸の家がある。どこも荒れ果てていたが数日泊まる程度なら問題はない。
孤児院には、次々と人が集まっている。
部屋の掃除や食事などの面倒を見て日帰りで戻るものもいれば、数日滞在するものもいる。
数世帯のみが暮らしていた小さな集落だったが、多くの人が集まったことで再び村としての活気を取り戻している。人がいるだけで、廃屋も立派な住まいに見えてくるから不思議だ。
孤児たちは朝早く起きるようになった。
それぞれに仕事があるからだ。
「日の出とともに起きるんだよ」
弁天屋 菊(べんてんや・きく)は、子供たちに諭した。
「脱いだ服はちゃんとたたんで、同じ場所にしまうんだっ、簡単なことだけどね、みんなで協力して暮らしていくんだから、基本的なところはみんなで出来るようにならなくちゃ」
「わかりました♪」
ひと際大きな声で答える女の子がいる。
ココだ。しっかりした体つきで大きな手をしている。
子供たちは余り布を手にしている。雑巾の代わりだ。
「いいかい、よく絞るんだ。右手と左手は・・・」
菊の説明にうなずくココ。
子供たちはいっせいに雑巾を絞る。
出来ない子は、ココが教えている。
「ココ、おまえヤッたことがあるのかい?」
「ええ」
笑顔で頷くココ。
「それに私は、菊さんが思っているより大きいんです」
どうみても5,6歳だが、実年齢はもっと上らしい。
それ以上は話さないココ、菊も詮索はしない。
「いくよ」
菊の合図で、子供たちは板の間に雑巾がけをスタートさせる。
「チエ、膝はつけちゃいけないよ、けつはあげてするんだよ」
掃除のあとはさすが、キマクに知れたる弁当屋、という段取りのよさで、余りもので簡単な汁物を作り、食事に必要な茶碗や箸は子供たちに並べさせる。
ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)は、菊を手伝いながらも、時々荒野に出て、散らばる蟻の死骸を集めている。硬い甲羅は別にして、残りは畑の資料にしている。
畑では、元農業科生徒で大地を耕し種籾を植える自然を愛す漢棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)が、かつての住人が放置したまま逃げてしまった畑に鍬を入れている。
「農学科の出番じゃきね」
亞狗理は手伝ってくれるイー・シーに話しかけた。
「子供たちは外に出てくるかのう、道具の手入れや苗の準備をやるんじゃがのう」
亞狗理は古農具やB級の余剰作物を持ちこんでいる。
「すぐ来るダろうヨ、子供たちは家の中より外が好きダ」
イーも懸命に大地を耕している。
ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が蟻の死骸を持ってくる。
ガガもシーと同じドラゴニュートだ。気楽に話せるらしい。
「これは食べられると思う?」
弁当屋菊のパートナーらしく、食べられるかどうかを気にしているようだ。
尋ねられたシーは返答に困っている。変わりに亞狗理が答える。
「食えないこともないんじゃろうが、もし当たったら困るのう。調理するなら、子供らの前に・・・」
言葉を切る亞狗理。
「少し休まないカ、そろそろ子供たちがやってくるヨ」
シーが鍬を置く。
三人並んで、畑を前に岩に腰掛ける。
亞狗理が口を開く。
「シーはここに、住むのかの?」
「住まない。ダージュには夢がアル。ここには住まないダろう」
「夢かぁ、うちの菊には夢、あんのかなぁ」
「そうじゃのう、王ちゃんは四天王になるお人だったのう」
亞狗理の言葉に、
「四天王、シーも同じ考え?ここで子供たちと暮らしたほうが王も幸せじゃないなんじゃない?」
ガガが口を挟む。
「アタシは、ダージュの夢をかなえたいんダ」
「そうか・・・シー、時々ここで会えんかのう?子供たちが自分で手入れした道具や育てた苗を、春からの農耕に使うのは気持ちいいと思うんじゃ。どうやら周りには肥沃な土地があるようだからのう、畑や牧場に使う土地も、地形や治水、土壌を考えつつ見て回るのもいいかのう。そのときはシー、助けてくれんかのう」
シーに一気に自分の気持ちを話す亞狗理。
「勿論ダ、子供たちは家族と同じダ、いつでも手伝うノダよ」
「迎えにいくからのう」
亞狗理の声は少し小さくなっている。
孤児院となった民家のドアが開く。
朝の掃除と食事を終えた子供たちが外に飛び出だしてくる。
子供たちが農具の使い方などを亞狗理に教わり一息ついたころ、朝霧 垂(あさぎり・しづり)とパートナーの色即 是空(しきそく・ぜくう)が顔を出した。
「来たよ!森に行こうぜ!」
垂の言葉に子供たちから歓声があがる。
「何を獲りに行くんだ?俺ら、カモならちょろいぜ、なっ」
負けず嫌いのハルが叫ぶ。
「逃げてたくせに」
レッテが応戦して、つかみ合いの喧嘩が始まった。
「そんな騒いだら、ウサギが逃げちまうぞ」
垂が二人の間に割ってはいる。
「ウサギ捕まえんのか、俺、飼う」
「馬鹿、食うんだぞ」
またハルとレッテは言い争っている。
「シー、子供たちを森につれてくぞ」
「ああ、少し疲れさせてほしいヨ」
新天地ではしゃぐ子供たちにシーは少しげんなりしている。
森を歩いている。
鼬の獣人・是空は、「食物大百科」と書かれた大型の事典を手に歩いている。
バンダナで持ち上げられた白銀の毛並み(髪の色)が風になびく。
「おっ、見つけた。こいつは食えるぞ」
是空が声を上げる。
「おまえら、集まれ!」
是空の周りにあつまる子供たち。
「見ろ、こいつは食えるきのこだ」
群がっていた子どもたちは、一瞬できのこを獲り尽す。
「いいか、食えないのは、ここに色がついてんだ、そうだな・・」
レッテは持っているきのこじっと見ている。
「俺の・・・色、付いてんぞ」
「じゃ、毒だっ・・・ってお前どっからもってきたんだ?」
「そこ?」
垂がいる場所を指すレッテ。
「いいかぁ、よく聞けよ。毒キノコと食えるキノコは似てんだよ、いいかぁ、迷ったときは大人に聞けよ、勝手に食うなよ、それに派手なキノコはたいてい毒だ」
ハルが赤や黄色に水玉模様が付いたカラフルなキノコを一心不乱につんでいる。
「そこの小僧、お前が獲ってんのは毒だ、捨てろ!」
垂は、はスキル「トラッパー」を活かして小動物の捕獲の仕方を子供達に教えている。
教えているのは。小動物相手の罠なので「落とし穴」「足縄(踏んだら足に巻きつくヤツ)」「ネズミ捕り」など、殺傷能力の低い初歩的な罠だ。
「いま、罠を仕掛ける。日が暮れる前に見に来るんだ。翌日じゃ駄目だぞ、別の動物に取られるからな」
頷いて聞いている子供たち。
「それに、一人で見に来ちゃ駄目だ。どんな動物がかかってるか分かんないからだ、必ず3人以上で来るんだ、いいな」
「分かった!」
大きな声で答える子供たち。
「じゃ、いったん帰るか。昼飯はキノコだな」
是空が袋いっぱいのキノコを抱えている。
「ほんとに食えるんだな」
垂の言葉にむっとする是空。
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