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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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第1章 もう人の自分・・・ドッペルゲンガー

 イルミンスールで流行っているあるまじないの書かれた手紙の謎を調べようと、手紙の出所を御凪 真人(みなぎ・まこと)が調べていた。
「さすがに送り先の痕跡は残ってないようですね・・・消印はそれぞれいろんなとこになってしますし。手紙もパソコンで打ったもののようです」
 事件の調査の一環として空京の郵便局で調べてみたが、これといった情報は得られなかった。
「手紙は誰かが送ったんでしょうけど・・・」
 今度はドッペルゲンガーについて調べるため、蒼空学園に戻り図書館へ向かう。
「―・・・・・・えーっと・・・ドッペルゲンガーに関する本は・・・これですね」
 本棚からハードカバーの本を取りページを捲った。
「ドッペルゲンガーを見た者は死期が近いようですが。主に、脳に脳腫瘍が出来てしまったことが原因のようですね・・・肉体の認識感覚を失ったことで錯覚してしまうんですか」
 次のページを捲るとこう書かれている。
「ほう・・・第三者による目撃情報も多々あるですか・・・・・・本物の生活空間に入り込み、本物と入れ代わろうという意思があるやつもいるようです。しかもその別人格が凶暴なケースもあるようですね」
 読み進めてその伝承の情報を頭の中に入れていく。
「今回の事件は、まじないという方法で鏡の向こう側の場所に引きずり込まれた先に、そのドッペルゲンガーたちがいるようですけど・・・」
 本をパタンと閉じて元の場所に戻した。
「実際に行ってみないとなんともいえませんね・・・」
 自室へ向かい合わせ鏡から入ろうと準備する。
「鏡が必要なのね?じゃあこれでいいかしら」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は鏡台を抱えてダイニングへ持ってきた。
「もう1つはどうするんだ?」
 1台しかない鏡台を見てトーマ・サイオン(とーま・さいおん)が首を傾げる。
「手鏡しかないわ・・・」
「うわっ、小っせぇ!」
「文句言わないでよ、家庭科室から持って来ちゃうと他の人が使えないじゃない」
「そりゃそうだけどよ・・・」
「3人入れますかね」
 ぎゅうぎゅうの状態で無理やり鏡の中に映り込む。 
「もう少しで深夜の12時ね。後5秒・・・4・・・3・・・2・・・1・・・・・・なっ・・・何!?きゃぁああっ」
「鏡から手が出てきたぞ!」
「2人とも離れないように手をつなぎましょう!」
 逸れないように3人は互いに手をつなぐ。
 鏡の中からぬぅっと現れた手に身体を掴まれ、その中へ引き込まれていった。
「―・・・ん・・・・・・ここは・・・?」
 柔らかい草の上から起き上がり真人は周囲を見回す。
「ドッペルゲンガーの森かしら」
 目を覚ますと人の手が加えられていない鬱蒼と覆い茂る森の中にいた。
「不気味な空だな」
 トーマは太陽の光を遮る漆黒の空を見上げて呟く。
「何が起こるか分かりませんから注意して進みましょう」
 屋敷からいなくなったオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)を探そうと、不気味な森を進んでいった。



 AM0:00に合わせ鏡の前に立つと、幸せな恋や思い描いた未来が見れるという、まじないの噂がイルミンスールの生徒たちの間で広まった。
 しかしそれは何者かが流した真っ赤な嘘情報。
 同じ姿のもう1人の自分にドッペルゲンガーの森へ引きこまれ、最悪の場合は自分の残りの人生を、そのもう1人の自分に奪われてしまう。
 オメガの屋敷にも、まじないの書かれた手紙が送られてきていたのだった。
 その内容に興味を示した彼女もその森へ連れ攫われてしまっている。
 イルミンスールの生徒たちとオメガを救い出そうと、多くの生徒たちがドッペルゲンガーの森へやってきた。
 クリスタルを壊し森へ引きこまれた生徒たちを救おうと、椎堂 紗月(しどう・さつき)は合わせ鏡から森へ入り込んだ。
「アヤメとはぐれちまった・・・ドッペルゲンガーってたしか心の内に秘めてることを投げかけてきたりするんだよな」
 探している途中で椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)と逸れてしまった。
 嫌な予感が的中し、アヤメはドッペルゲンガーに遭遇してしまう。
「俺のドッペルゲンガーか・・・」
「―・・・」
「どうした・・・答える口がないのか?」
 問いかけない相手に、アヤメが不快そうに言う。
「―・・・・・・お前は両親と叔母の殺害したよな」
 ゆっくりと口を開け、もう1人のアヤメが喋り始めた。
「また大切なモノを傷つけるんじゃないのか?養父へ重症を負わせてしまったように」
 養父を信じきれなかった過去を問いかけ、じわじわと精神に苦痛を与える。
「紗月は本当にお前を信じているのか?人殺しのお前を。お前は所詮、野良猫だよ」
 何も言い返せないアヤメは、精神を闇に沈めていく。
「―・・・紗月が俺を信じていない・・・?」
「誰が人殺しなんか信じられる?虐待から自分を守るために殺すようなヤツ・・・ちょっとしたことで恐れ、また人を殺すのだろう?本当のお前はただ単に、殺しが好きなだけかもしれないな」
「違うっ俺は誰も殺したくない!」
「どっちにしろ、虐待されたからといって人を平気で殺めるヤツと、好き好んで傍にいる人なんていないと思うけどな」
「俺は・・・俺は・・・やっぱり1人ぼっちなのか・・・・・・?」
 生きる気力を徐々に奪われ、全てに目を背けようと目を閉じた。
「なぁ?人殺し・・・人殺し・・・・・・人殺し人殺し人殺し!」
「や・・・やめ・・・ろ・・・やめろ・・・やめてくれ、それ以上言わないでくれぇえっ!」
 泣き叫ぶアヤメの声を聞きつけ、紗月が慌てて彼の元へ走る。
「そいつと一緒にいると、お前も殺されるぞ?」
「少し黙れよ偽者野郎。俺は人殺しでも野良猫でもない、俺の親友のアヤメを信じてる」
 庇うようにアヤメの前に立ち、ドッペルゲンガーを睨みつけた。
「アヤメ・・・前にも言ったろ?お前を信じる俺を信じろ」
「信じる・・・・・・?」
「アヤメの名前は、菖蒲と同じ名前だ。その花言葉・・・分かるか?」
 無言で首を左右に振る、アヤメに教えてやろうと紗月は言葉を続ける。
「その花言葉はな、信じる者の幸福」
「―・・・信じる者の・・・幸福・・・・・・」
「お互いを信じることで不幸ではなく幸福が訪れる。だから俺を、仲間を信じてほしい・・・」
 考え込むように顔を俯かせ、顔を上げて再び紗月を見つめる目は友を信じる目に変っていた。
「今ならわかる。紗月がこの名前に込めた想いが・・・。俺はもう、迷わない」
「人殺しの野良猫が今更何を言う?」
「もう何言っても無駄だ。俺は紗月を、親友を信じてる」
 リターニングダガーの刃で偽者の首を斬り裂く。
「―・・・っ」
「油断したな偽者。死なない程度にしてやった」
 アヤメは殺す手段をとらず喋らせない程度にとどめた。
 心の闇を晴らしたアヤメの姿に、紗月は思わず微笑んだ。



「ドッペルゲンガーか・・・自分の姿を同じだと聞いたが、本物と入れ代わろうとしている存在のようだな。それにクリスタルという物もあるようだ。研究対象がいろいろとあるな・・・」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)は探究心を燃やし、研究材料を求めてドッペルゲンガーの森へ入った。
「何か落ちているな」
 拾い上げてみると、輪廻と同じメガネだった。
「おい、そこに誰かいるのか?」
 聞きなれた声が原っぱから輪廻がいる森林へ足を踏み入れる。
「さっきその辺でメガネを落としてしまって・・・まったく見えないのだよ」
「もしかしてこれか?」
「おぉっそれだ、それ」
 少年はメガネを受け取り顔にかけた。
「むっ、よく見たら同じ姿じゃないか。お前がドッペルゲンガーとやらか?」
「いかにも、俺は四条輪廻。つまりもう1人のお前だということだな」
「この空間に使われている魔法技術とクリスタルの構造と仕組みが知りたいのだが知っているかね?こちらからは現実世界の情報などが提供できるが」
「フンッ、そんなもの。興味ないな」
「貴様も俺の姿をしているならばドッペルだろうがなんだろうが研究者の端くれだろうが!」
 あっさり断られてしまうが、それで簡単に諦める輪廻ではななかった。
「えぇい、俺が研究の楽しさ素晴らしさを教えてやる、クリスタルの元まで案内しろ、手伝えっ!!」
 くわっと目を見開き、その身に研究という名の素晴らしき存在を教えてやると、声を強めて言い放つ。
「―・・・ふむ・・・・・・・・・」
 もったいつけるドッペルゲンガーに、輪廻は苛立ちを抑える。
「いいだろう・・・」
「おぉ〜!ありがたいっ」
 しばらく考え込んだドッペルゲンガーは、輪廻をクリスタルの元へ案内してやる。
「ここだ」
 数十分歩いたところで足を止め、彼が指差す方を見ると、50cmほどの淡い水色のクリスタルが浮かんでいた。
「ほぉ、これが・・・。ふむ・・・石のように硬いが、宝石ではないようだな。なんとも不思議な感じだ」
 持ち出そうと両手で掴むが、その場からまったく動かせない。
「重いというか、クリスタルが地面に丈夫な根を生やしている感覚だな・・・。仕方ない破片だけでも・・・」
 持ち上げた感触に重さというのを感じなかった。
「なあ、ドッペルゲンガーは生成可能なのか?」
「生成?俺たちはお前たちが生まれた時と同時に生まれた。そしてお前たちがここへ踏み入れた瞬間、同じ姿という形を得る。ゆえに、人為的に生成など不可能だ」
「ほぉうそうなのか。ならば質問を変えよう。クリスタルの破壊を行わずとも脱出が可能なのか?」
「今のところ不可能だ」
 輪廻の質問に即答する。
「うーむ・・・この空間の仕組みはどうなっているのかわかるか?」
「―・・・・・・さぁな。例えばこんなところでゴーストに襲われるなんて、人が見る悪夢というものに似ていると思うのだが」
 今度は少し考え込むように間を空けて答える。
「悪夢だと?」
「人々が眠る時に見る、怖い怖い悪夢だ」
「なるほどな・・・そう言われるとたしかに・・・」
「そして・・・これから貴様もその悪夢にうなされるのだよ」
 熱心に考え込む輪廻に、ドッペルゲンガーがハンドガンの銃口を向け、トリガーを引いた。
 ダァアンッ。
 周囲に銃声が轟く。
「ふぅ危ない。もう少し反応が遅かったら、こっちが死んでいたな」
 殺気に気づいた輪廻は、自分になり代わろうとする存在の脳天を打ち抜いた。
「さて・・・。持っていけないのであれば、せめて破片だけでもいただいていくか」
 銃でクリスタルを破壊し、破片がバリィンンッと砕け散る。
 地面に落ちる前に破片は跡形もなく消え去ってしまう。
 まるでそこに何もなかったかのように。
「あぁああっ、そんなぁああ〜」
 輪廻は悔しそうに声を上げた。



「うぅ〜、暗いよ怖いよー・・・」
 暗所恐怖症のケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は薄暗い森の中でビクビクと震えていた。
「しかも帰り道わからないし」
 合わせ鏡から入ってしまったケイラが帰るすべは、生徒たちがクリスタルを全て破壊してくれるのを待つことしかなかった。
「目をつぶって進めばドッペルゲンガーに会ってもわからないかなあ」
 トラウマになった出来事を思い出してしまい、目を開けられなくなってしまう。
「どうしようどうしよう・・・。駄目だー・・・目あけたら誰か死んでるかも知れない・・・」
 人の死体を見ないようにするため、閉じた目を開けられない。
「あうっ!」
 ガツンッと木に頭をぶつけてしまう。
「痛いよ・・・どこかで座ってよう。このままだと転んで怪我しそう」
 怪我しないようにしゃがみ、草むらの中に隠れた。
「もう騒ぎが終わるまで数でも数えていようかな」
 ケイラは膝を抱えて数を数え始めた。