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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

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chapter.12 中央遺跡2・爪撃 


 船員がそれから目にした光景は、凄まじいものだった。
 フリューネ側の依頼を受けた生徒たちを次々に切りつけていくその姿は、ひとりの女性のそれとは思えぬほどの冷徹さと大胆さを持っていた。
 やがて生徒たちを一通り片付けると、女性は途切れた階段の先を見つめ、上へ飛び移ろうとする。それを止めたのは、瓦礫から抜け出したヨサーク側の生徒数名だった。
「空賊狩り……! また会えるとはな。口説かれに来たのか?」
 既に接触済みだった隼人が、相変わらずの態度でものを言う。女性は数時間前の出来事を思い出し、隼人を睨みつけた。そして、その手から青い爪を発現させると一歩ずつ近付いてくる。そこに、エンシャントワンドを構えた御凪 真人(みなぎ・まこと)が女性を制止させるように告げる。
「まったく、とてつもない強さですね……しかし、あれだけの数の生徒と戦った後すぐまたこの人数を相手に、戦えますか?」
 彼の後ろにはルカルカ・ルー(るかるか・るー)とラルク、そして恭司もいた。もちろん、隣にはパートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)も立っている。彼らをざっと眺めると、女性はふう、と息をひとつ吐き、口を開いた。
「そのまま瓦礫に埋まってれば良かったのに。最近の子供って皆礼儀知らずで命知らずなの?」
「……それは、この人数相手に戦って勝てるという意味だと受け取りますよ」
 真人は、出来ることなら自分の言葉で引いてほしかった。それは、相当な実力者と判断し、危機感を覚えたからだった。しかし女性は、引くどころかまた一歩と真人たちに近付いてきた。真人はそれでも、対話を試みる。
「俺たちは依頼で警護にあたっているんですが……なぜ君は、空賊狩りをしているんですか?」
「それ、私も聞きたかったの。『狩る』んじゃなく、『取り締まる』ようにすることは出来ないのかな? 重い犯罪を犯しちゃってるような空賊だけを取り締まって、その力を生かして違法行為を減らすようなことは無理なの?」
 動機を知りたいという真人、そして提案をするルカルカに、女性は応じた。
「空賊ならユーフォリアのこと知ってるのかなって思って。でも、ほとんど話が通じないようなヤツばっかりだったから、結果的に船は沈むはめになっちゃってるけどね。だから別に、取り締まるとかそんなの関係ないの。誰か他の子にも言ったけど、あたしの目的はユーフォリアを手に入れることなんだから。空賊を狩ってたのは、その手段のひとつ」
 生徒たちは、崩れた階段の先を見上げる。この崩落に巻き込まれていなければ、ヨサークはあの先にある遺跡へと向かっただろう。あの遺跡にユーフォリアに関する手がかりがあるのか、あるとしたらどんなものなのか。それらは生徒たちには分からない。が、自分たちがすべきことは分かっていた。
「目的や手段、理由がどうであれ、君が空賊狩りであるならばここで君を食い止めなければいけません。それが、依頼を受けた者の責任です」
 真人の言葉に、女性は面倒そうな表情をして足首を回し始めた。
「こういうことしにここに来たんじゃないんだけどなあ」
 言い終えた次の瞬間、女性の姿がふっ、と消えた。
「!?」
 慌てて戦闘態勢に入る一同。いつでも魔法を発動できるよう目を見張っていた真人の周りに、急に影が生まれた。
「真人、上!!」
 セルファの叫び声とほぼ同時に、女性が真人の頭上に襲いかかる。声のお陰で爪の直撃は免れたものの、真人の肩からじわりと血が滲み出した。
「よくも……真人をっ!」
 相方を傷つけられたセルファは怒りに身を任せ、勢い良く地面を蹴るとそのまま素早く体を動かした。が、それはあくまで常人にとっての、である。
「……何してるの?」
 驚異的な運動能力を持つ空賊狩りにとって、翻弄させようとした彼女の足は歩いているも同然の動きだった。一瞬でセルファの動きを見切り背後を取った空賊狩りは、彼女の背中に爪を立てた。
「……っ!!」
 とっさに身をよじってかわそうとするも、避けきることは出来ずにセルファは倒れた。致命傷こそ避けたが、その傷は決して浅くはない。
「セルファ!」
 真人はどうにか眼前の敵を追い払おうとサンダーブラストを唱え狙いを絞るが、素早い動きの対象物を捉えきることが出来ない。仕方なく広範囲に拡散させ雷を降らせるが、その閃光が彼女を捕まえることはなかった。逆に空賊狩りが真人の懐に入り込み、その腕を切り裂かんと腕を振る。真人を突き飛ばすことで間一髪それを防いだのは、恭司だった。恭司はそのまま空賊狩りへと向き直り、拳を構えた。
「素手であたしに挑んじゃうんだ? まあ、勇気だけは認めてあげる」
 空賊狩りは再び目にも留まらぬ速さで恭司を翻弄すると、その足に狙いを定め、爪を突き刺そうとする。
「ぐっ……!」
 あまりの速さに避けることが出来ず、恭司の足に爪が食い込む。が、肉を切らせて骨を断とうと恭司は掌底を彼女の鳩尾目がけ放った。しかし、その手のひらは彼女に当たることなく、空を切った。横から恭司を蹴り飛ばすと、そのまま恭司は肩を押さえうずくまっている真人の方向に飛んでいき、ふたりは重なり合うように倒れこんだ。
 圧倒的な力を見せ付ける空賊狩りに対し、次に戦いを挑んだのはルカルカとラルクのコンビだった。
「ルカルカ! 行くぜ!!」
「うんっ、きっと実力があるってとこを見せれば、もっとコミュニケーションを取ってくれるようになるかもしれないもんね!」
 ルカルカは自分たちにパワーブレスをかけると、ラルクは軽身功を使い迎撃されないよう距離を縮めると、その硬そうな拳を空賊狩りに向け振り下ろした。
「先手必勝だ! うらぁっ!!」
 その拳が空賊狩りを捉えることはなかったが、その激しい拳のラッシュは空賊狩りの意識を幾分反撃から回避へと変えさせた。そこに、ラルクをサポートせんとルカルカがドラゴンアーツを使い肉弾戦を補助する。ヒロイックアサルトとの併用で、その攻撃力は相当な威力となっていた。スキルを出し惜しみしないふたりの猛攻に、空賊狩りはとん、と身軽に空を舞うと一旦距離を置いた。
「あんたたち、別にユーフォリアに関係ないでしょ? 首突っ込んでこないでよね」
「へっ、ヨサークに言っちまったんでな! 空賊狩りが来たら、俺が引きつけておくってよ!」
 ラルクは言葉と同時に闘気を練り出し、それを塊として標的に放った。いわゆる遠当てと呼ばれるものだ。
 女性がそれを避けようとした時、その気の塊を弾いた者がいた。空賊狩りの前に立ち、ラルク、ルカルカと対峙したのはロアだった。
「……? あんたも生徒じゃないの?」
 当然の疑問を浮かべる空賊狩り。彼女から見れば、生徒同士の仲間割れにしか見えないのだろう。ロアはそんな彼女に背中を向けたまま答えた。
「俺の武器もたまたま爪だったんでな。同じ武器使いってことで、なんだか親近感が湧いてきたんだ! ヨサークのことは嫌いじゃねえけどよ、今回はこっちの味方をさせてもらうぜ!」
「……余計なお世話なんだけど。あたし、ひとりでも充分強いし」
「まあそうつれないこと言うなよ! 助っ人くらいいても良いだろう?」
「……ま、どうでもいいけど。好きにすればー?」
 彼女のその言葉を質問に対する肯定だと受け取ったロアは、態勢を低くし、低く唸った。と同時に、彼は超感覚による獣化を始めた。虎のような耳と尻尾がぞおっ、と生えてくる。ような、としたのはその耳や尻尾が完全な虎のそれではなく、赤い色をしていたからだ。
「見たか、これが赤虎モードだ!!」
 自らの獣化をそう名付けた彼は、その姿でラルクに襲いかかる。ルカルカがそこに加勢しようとするが、そこにロッテンマイヤーが突然割って入った。
「なんだ、あたいだけじゃねえみてえだな、空賊狩り側につこうとしてたのはよぉ!!」
 アサルトカービンを手に、ロッテンマイヤーは吼えた。日中空賊狩りと接触していた彼女もまた、ロアと同じ立場を取っていたのだった。
「ほら、早くこいつら蹴散らして、ヨサークのとこ行ってぶっ潰してきなぁ!!」
 言うや否や、ロッテンマイヤーは勢い良く銃を乱射した。その銃撃とロアの大爪による攻撃により、ラルクとルカルカのコンビネーションは分断された。そこに生まれた隙を、空賊狩りは見逃さなかった。彼女の青い爪が、隙間を縫ってラルクの横っ腹を襲う。
「ラルク!」
「ち……ミスっちまったぜ」
 ルカルカの声も空しく、ラルクはその巨体を地面に預けることとなった。空賊狩りひとりでもラルクは倒せたと思われるが、彼女はより手短に敵を全滅させようとした結果、隙を突く形になったのだろう。
 ラルクがやられ、ヨサーク側で残っているのはルカルカと隼人だけとなった。
「もう……邪魔しないでよねっ!」
 ルカルカはコンビを組んでいたラルクがやられたこともあり、より激しさを増した攻撃でロアとロッテンマイヤーに迫る。轟雷閃でふたりの腰を引かせると、ルカルカはすかさず間合いを詰め、光条兵器を構えた。しかしそれが当たる前に、空賊狩りの爪がルカルカの太ももを切りつけていた。
「あうっ…・・・!」
 思わず声が漏れるルカルカ。空賊狩りはそのまま赤い線を走らせると、ルカルカは肩膝をつきその場に崩れた。残ったひとりの生徒、隼人に空賊狩りが話しかける。
「これで分かったでしょ? あんたたちじゃ、あたしを捕まえられない」
 それだけを言い残し、上へと飛び移ろうとする空賊狩り。そこに、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)、そしてパートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が立ちはだかった。が、既にその体は傷ついており、優希は脇腹、アレクセイは肩に裂傷が出来ていた。
「あれ、あんたたち、さっきあたしがやっつけた子たちじゃない。ほんと懲りないのね」
「さっきやられたのは、きちんとしたフォーメーションを取っていなかったからです! 今度は負けませんっ!」
 どうやら彼女は、敵を油断させるためあえて本来とは違う型の攻撃を仕掛け、油断を誘おうとしたらしい。が、相手が悪かった。空賊狩りに対して本来あるべき力で挑まないのは、自殺行為である。
「アレクさん、行きますよ!」
「ユーキ、死ぬんじゃねーぞ」
 アレクセイはアシッドミストを発動させ、視界を奪おうとする。が、霧が広まる前に空賊狩りはアレクセイに近付いていた。
「……っ!」
 咄嗟に後ろに下がるアレクセイ。それを追いかけようと空賊狩りが距離を詰めた時だった。
「今ですっ! ミラベルさん!!」
 優希が虚空に声を響かせる。次の瞬間、空賊狩りに標準を絞ったスナイパーライフルから、銃弾が放たれた。その弾は正確に彼女目がけ飛んでいったが、彼女は手に携えていた爪で難なくそれを防いだ。
「そ、そんな……!」
 瓦礫の奥でライフルを構えていた優希のもうひとりのパートナー、ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)が思わず立ち上がる。
「ミラベルさんっ、離れて……!」
 優希の声で我に返ったミラベルだったが、その時既に空賊狩りはミラベルの近くまで驚異的な速さで詰め寄っていた。そして、容赦なくその爪はミラベルの腕を襲った。血がぶわっと噴き出し、その手からライフルが落ちた。
「ふ、不覚……ですわ……」
 腕を押さえ倒れこむミラベル。そんなミラベルの下に慌てて駆け寄る優希とアレクセイだったが、打ち込まれたくさびは深く、その動きは到底空賊狩りを捉えきれるものではなかった。空賊狩りはその身を翻すと、ふたりを同時になぎ払った。
「あー、やっと片付いた。じゃ、あっち行こうっと」
 そして空賊狩りはもう一度辺りを見回し、邪魔者がもう残っていないことを確認すると半壊状態の階段へと飛び乗った。