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年越しとお正月にやること…アーデルハイト&ラズィーヤ編

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年越しとお正月にやること…アーデルハイト&ラズィーヤ編

リアクション

 12月30日 夜
 
 男連中は無慈悲な主催の通達により例外なく野宿である。しんどいものはしんどい。
 大抵のものは事前準備をしておいたが、やっぱりすべて備えられるわけがない。テントや寝袋などが一所に集まって、たき火をするものや寝袋を多く持参したものなどが助け合って安全な野宿にしようとしている。
 譲葉 大和(ゆずりは・やまと)はテントや防寒具をたくさん持ち込んでいて配っていた。そこにウィルネストが突進してきた。
「大和! お前どこにいたんだ!」
 カウンターアタックよろしく寝袋が手渡された。
「あ、すまん」
「いえいえ、お役に立てれば」
「じゃなくて! 凧じゃなかったのかよ!」
「大和ちゃんは、明日のコマ回しで歌菜ちゃんと出るんだよ」
 ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が大和の陰からひょいと顔を出して付け足した。
「ええ、そうなんです、応援して下さいね」
「くっそーしょうがねえなあ。絶対勝てよ! 歌菜を泣かしたら承知しねえかんな!」
「勝利の涙でも、ダメなんですか?」
「かーっ! くせえ!」
 がしがしと地面を蹴りつけながら、ウィルネストは去っていった。
「それよりラキ、こちらはもういいですから、歌菜のところに行ってきてください、護衛頼みましたよ」
「寂しくない?」
「歌菜にもらったカイロがあるから、大丈夫ですよ」
 
「カレーとタンドリーチキン、他にもいろいろありますよー」
 アリアが、食事が行き渡っていないところを探して声をかけて回る。
 イリーナがカレーを盛り、メイベル達は、明日の分量も見据えながら炊き出しを行っている。
「あら、本格的なダンボールハウス」
 こんこんとダンボールを叩いて、中の人に呼びかける。
 葉月 ショウ(はづき・しょう)ガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)が顔を出した。
「ん? なんか用?」
 中はこたつまで据えられて、なかなか快適なようである。
「食事はされました?」
「ああ、大丈夫だよ、アクが今取りに行ってくれてるんだ」
 そこに葉月 アクア(はづき・あくあ)がカレーや蛸のから揚げなどを持ってきた。
「どうしました?」
「いや、飯とか不都合がないか、聞きに来てくれたんだ」
 ショウの影から、ガッシュがこくこくとうなずいた。
 
 宿舎のほうでは女の子たちがいろいろと夜具の準備をしていた。
 昼からここを掃除していた唯乃たちの指示を仰いで、遠野 歌菜(とおの・かな)は布団を敷き詰めていく。
「あ、シーツが足りませんね、まだ何枚か乾したままかも」
「私とってきますね」
 歌菜は物干し場に出て、何枚か残っていたシーツを取り込む。
 戻るときに、フューラーと出くわした。
「あら、フューラーさん、明日私コマ回しに出るので、よろしくお願いいたしますね」
「いえいえ、明日頑張ってくださいね、ところでお願いがありまして」
「なんでしょう? 私でよかったら」
「彼女を今晩預かっていただけないかと思いまして」
 脇に抱えた小さなボックスのようなものを差し出し、蓋を開けて中のレンズのようなものを晒すと、ヒパティアが浮かび上がった。
「あら、ヒパティアさん、こんばんわ」
「これ、広場の3D装置の小型版です、どうせなら彼女を、女性達のところで過ごさせていただけないかと思いましてね」
「よろしくお願いいたします」
「分かりました、お預かりいたします」
 歌菜はボックスを受け取って部屋に戻った。
 
 昴 コウジ(すばる・こうじ)は夜間警備に立っていた。夕方は姿を見なかったが、昼からずっと働きづめの牙竜と分担して見回りをしている。
 会場の機材近くを歩いているときに、不審な人物を目撃した。明日以降のバトルを有利にするために、機材のデータを盗み出そうとでもいう輩だろうか? 携帯電話を取り出して牙竜に連絡を入れた。
「今、トレーラー付近で不審人物を目撃したであります」
『了解、すぐ行く』
 二人は合流して、機材やテント類の間を進む。
 トレーラーのあたりで、ごそごそという人の気配を感じた。
 二手に分かれて、トレーラーの周囲に回り込む。
「あ…あれ? フューラーさんだ」
「どうしてこんなとこにいるんでありますか?」
「いやあ、私も男ですからねえ、おん出されました」
 不審人物かと思えば、PODを積んだトレーラーの座席を倒して毛布をかぶっている執事を発見してしまった。
 いくらなんでもまさかと思った。協賛及びゲストだろうに、この扱いはどうだろう。
 ある意味、なんのえこひいきも差別もないわけだが、ひどすぎる、という印象を深めるだけだった。
「いやいや、どのみちこっちの機材が気になってたでしょうし、お気になさらず」
「そういえばヒパティアさんは?」
「宿舎のほうに3D端末をおいてもらって、皆さんとおしゃべりしてるはずですよ。何かあったら、わかるようになってますから大丈夫です」
「そうですか、では僕らは時々こちらも見回るであります!」
「ありがとう、お願いしますね」
 しかし昼間にこのトレーラーに乗っていた牙竜は、助手席にいつの間にかラックが設置され、トランクが据え付けられていることに気づいていなかった。
 
 彼らが立ち去ってから、携帯でヒパティアに話しかけるとすぐに反応が返ってきた。
「ティア、今そっちは何してるの?」
『皆でおしゃべりをしています。兄さま、映像を出しましょうか?』
「だ、だめだよ! えーと、そういうのは多分女の子同士の秘密なんだから!」
 フューラーは焦った、どうやら彼はそういうものに夢を見ている節があるのだった。
 
「あ、あの、何故皆様私を囲むのでしょう?」
「そりゃあ、みんなあなたのお話が聞きたいからよ!」
 電子の少女とひたすら付き従う青年という不思議な組み合わせに、なにか推測してみたくなるものがあるらしい。
 残念ながら大したことを答えられるわけでも、話すこともできないわけだが、女の子達にとっては友達と秘密を共有するという事柄はとても重要なことなのだ。秘匿事項さえ『女の子のヒミツ』にしてのける空気である。
 ヒパティアは、いわゆるパジャマパーティとか、修学旅行の恒例『夜通しガールズトーク』なるものを経験したのであった。
 
「お風呂も沸きましたのです、ゆっくり身体を温めてほしいのです」
 おおむね女の子達は快適に過ごし、明日以降に備えたり、お泊まりのノリにはしゃいでいる。
 さすがに数人は明日に備えてもう早々に眠ることにした。あえて組み分けは誰も明かさなかったし、今は仲良く喋っていても、明日は敵だったりするだろう。
 歌菜とラキは同じ布団にくるまって眠ることにした。
「ふふっ、ラキちゃんあったかいね」
「歌菜おねえちゃん寒くない? 明日試合なんだからしっかり体を休めてね。大和は心配ないよ、あいつ丈夫なんだから」
「でもやっぱり、カイロだけじゃなくもっと毛布差し入れようかなあ」
「だから大丈夫だよう、歌菜ちゃんのカイロで大和はぽかぽかなんだから」
「うふふ、それはうれしいなあ」
 
 鬼崎 朔(きざき・さく)は夜陰にまぎれて襲撃計画を立てている。
 可愛い相方たちはうきうきと巫女さんのバイトに行ったり、巫女さんを撮影しに行ったりしてしまって、朔は寂しい思いをしていた。
 それ故に、なんだか楽しそうにしている奴らがムカつくのだ。要するに逆恨みだ。
 しかし彼女は綺麗でかわいい子を攻撃なんてできないし、女性は部屋つきということでそれだけでやりにくい。
「…ふふふ…見てろよ男ども、…阿鼻叫喚を見せて…やるからな…」
 ごそごそと男どものテントを取り囲むように罠を仕掛けていく。
 トラッパーで仕掛けた罠は、朝のほほんと起き出してきたところを陥れるためである。
 
 
 夢野 久(ゆめの・ひさし)は夜警組に参加していた。ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)が闇討ちしたいなどとお抜かし遊ばすものだから、それを全力で阻止する体制なのである。ルルールは冗談なのにぃ、と抗議するが、どこまで本気か分からない以上警戒するに越したことはないのだ。自分の相方のことなのに。
「むー! 闇討ちしたかったのにって言うのは冗談で、本当は夜這いをか」
 久の拳で強制終了された。
「俺はそういうの嫌いなの、一発ぶちのめしてやらなきゃと思ってんの」
 佐野 豊実(さの・とよみ)が呆れ顔で二人を見ている。
「まじめにやろうよ」
 何か言おうとしているルルールをそのつど拳で制止している彼らを放って、豊美は先に行ってしまう。
「…って、そこだな!」
 物音がした方にライトを向けると、久は突然物陰から飛び出した影に襲われた。
 咄嗟のスプレーショットは当たらなかった、させじと蹴りを放つが、至近距離のそれさえかわされる。
「って…この蹴りを避けただと!?」
 ば、馬鹿なー!?
 闇夜に叫びをフェードアウトさせながら、久は撃沈した。
「どうしたんだ!?」
 駈け戻ってきた豊美も、漏らさず襲撃者に襲われる。
「わー! やっぱり私もお約束に餌食なんだね!?」
 気づけばルルールは一人になっていた。襲撃者はちらりとルルールを見たが、舌打ちだけして去っていってしまった。
「え?」
 久も豊美も地面に沈没し、屍をさらしている。
 身構えた彼女は拍子抜けしたが、辺りを見回して乾いた笑いを漏らす。
「あ…あはははは、さいなら!」
 ルルールはひとり、すたこらさっさと逃げ出した。
 襲撃者が手を緩めた理由が、うっかり女性(豊美)をしばき倒してしまったことと、残ったルルールが少女であったからだとは、流石に知る所ではなかった。
 
 
 凧揚げでさんざん醜態をさらした珠輝と変熊を寝袋で簀巻きにし、とりあえずテントに放り込んでリアは一息ついた。
 今もイオマンテに怪しく迫ったり、自分に一緒に泊まろうと持ちかけてくる珠輝には付き合いきれないのである。
 ごはんも食べたし、寝場所も確保したけれど…。
 リアにはちょっとした悩みがあった。傍らのイオマンテをちらりと見上げる。
「イオマンテさんは…テント無理そう、どうしよう」
「なに、そんなこと気にしとったんかい、心配いらんわ」
 そういって彼はテントの群れの周りを歩き回り、いい場所を見つけると土をがしがし掘り返し始めた、たちまち冬眠穴(?)が出来上がる。
「こう見えて着ぐるみじゃからのう、腹毛くらいは貸してやるぞ」
 もふもふの予感に、リアはときめいた。相方に悩まされているもの同士の連帯感が、一層彼らの間の親しみを深めた。
「…お、お願いします!」
「リアさん…うらやましいです…」
 
「ああっ…罠が…破壊されている…!」
 翌日朔は嘆いた。イオマンテによって、イオマンテも知らないうちにほとんどの罠は埋められたり踏み壊されていたのだった。