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【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル

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【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル
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●試合中断! 悪い子にはお仕置きです!

「どうしてなんでしょう……お母さんも、環菜さんも、皆さんとっても楽しそうです……」
 フィールドの隅で膝を抱いて、ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が分からないとばかりに呟く。ミーミルにとってこの豆撒きという行為は食べ物を粗末にしている悪いことだという認識なのだが、同時に絶対の存在であるエリザベートが嬉々として豆撒きをしていることに、どうしたらいいのか分からない状態であった。
「おっ、いたいた」
「ミーミル、探しましたよ」
 聞き慣れた声にミーミルが顔をあげると、緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の姿があった。
「……ケイお兄ちゃん、ソアお姉ちゃん、私、分からないんです。食べ物を粗末にするのは悪いことなのに、皆さん楽しそうなんです。どうしてですか?」
 お正月の時も、それまでも色々教えてくれたケイとソアたちを見つめて、ミーミルが問いかける。
「ま、分かんねーのは仕方ねぇ。つうわけでカナタ、説明頼む」
「うむ。……ミーミル、おぬしは良い子に育っておるようだな。確かに食べ物は粗末にするものではない。しかし、この豆撒きはただ食べ物を粗末にしておるわけではないぞ」
 カナタの言葉を、ミーミルが真剣な眼差しで聞き入る。
「地球の日本では古来より、豆には魔を滅する力があると信じられておってな。この節分の日に豆を撒く行いには、邪気を払い、一年の無病息災を願うという意味合いがあるのだ。一種のまじないのようなものと言ってよかろう」
「そんな力が……」
 手元に転がっていた豆を拾い上げて、掌で転がしながらミーミルが呟く。
「別の国ではトマトを投げあったり、また別の国ではチーズを山から転がしたりするのだ。どれも決してただ食べ物を粗末にしているわけではない。みなそれぞれに特別な意味があり、その行いによってみなが喜びや楽しみを分かち合っておるのだ」
「えっと……つまり、皆さん食べ物に力がある、凄いと思っているからこそ、豆撒きや他の行事で使われる、ということですか?」
「そうじゃ。食べ物は祭器、とみなしておるのじゃよ」
 確かに、何の力もご利益もないとされているものを、神事で使いはしないだろう。
「だからミーミルも、豆撒きをあまり深く気に病む必要は無いのだぞ。この日を存分に楽しむとよい。……そのような辛気臭い顔をしていては、せっかく払った邪気がまたついてしまうぞ」
「そ、それは大変です。……はい、完璧、とはいかないかもですけど、分かった気がします。ありがとうございます、カナタお姉ちゃん」
 立ち上がったミーミルの表情は、明るい笑顔に変わっていた。だがそこへ、ミーミルの笑顔を再び曇らせかねない案件が持ち込まれる。
「あっ、見つけましたー。ミーミルさん、大変です大変ですー」
 ようやくミーミルを探し当てた豊美ちゃんが、メイベルたちと共に起こったことをかいつまんでミーミルに説明する。
「そんな、お母さんが……!」
「おい、落ち込んでる場合じゃねえぞ! とにかくあいつから知ってることを聞き出してやろうぜ」
「そ、そうですね、ベアお兄ちゃん。……済みません、お母さんについて知ってることを教えてくれませんか」
 気を取り直したミーミルが、くねくねとしているはにわ茸に問いかける。
「わしはこれでも可愛いマスコットだったんじゃ。そうじゃ、今日からわしがお前のマスコットじゃ。可愛がって欲しいのう」
「……もう一度お聞きします。お母さんについて知ってることを教えてくれませんか」
 微笑を浮かべたミーミルがはにわ茸に触れれば、触れた箇所が抜け、ヒビが全身に入っていく。
「わ、分かった分かったから力入れないで、割れてまう」
 既に身体の大半が砕け散ったはにわ茸が、自分の主人である鮪がエリザベートを連れ去ったことを説明する。事態を把握したミーミルがはにわ茸を修復して、険しい表情で会場を見渡す。会場は未だ混沌としており、ここから一人を見つけ出すのは苦労しそうであった。
「どうしましょう? 手分けして探しましょうか?」
「ここで分かれて探しても、連絡を取り合えないと思います。どうしましょう……そうだ! お父さんなら何かいい案を出してくれるかも! ……おとうさーん!」
 ミーミルが呼びかけると、その『お父さん』、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)がフィールドを一直線にミーミルのところへ文字通り駆け飛んできた。
「どうしたミーミル、ハッ、まさか豆をぶつけられたのか!? 大丈夫か、怪我はないか!? 誰だそのようなことをした馬鹿者は、今直ぐ殺――」
「お、落ち着いてお父さんっ。実は……」
 かくかくしかじか、とミーミルがアルツールに説明する。
「むぅ……話は分かった。だが校長が連れ去られたのは自業自得、痛い目を見てもらうためにもここは放っておくのが――」
「お父さん……」
 ミーミルがお願い、とアルツールに真っ直ぐな視線を向ける。
「……ミーミルの頼みとあらば仕方ない。力を貸そう」
「やったぁ♪ お父さん大好きっ♪」
「……なあ、あれを親バカって言うんだよな?」
「しーっ、先生に聞こえちゃいますよ、ケイ」
 裏でひそひそ話をしているケイとソアに気付いてか知らずか、アルツールが司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)に助言を頼む。
「ワシ、普通の豆まきのつもりで来たんだが……まあよい。この空間には出入り口が一つしかない。そして、その出入り口に辿り着くには、蒼空学園の陣地を抜けねばならん。この状況じゃ、本陣に近付く者があれば、誰であろうと迎撃の対象になろう。その間にワシらは出来るだけ端を通り、先回りしてしまえばいいだろう」
「流石司馬先生、的確な判断です。ではシグルズ様、前衛をお願いできますか」
「任せておくがよい。このシグルズの防御を抜けると思うなっ!」
 シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が豪快に笑いながら、一行の先頭に立ち、ミーミルの盾となる。ミーミルの後ろを援護するようにアルツールと仲達、遊撃としてケイとソア、カナタとベアが位置につき、そして一行がフィールドへ繰り出していく。
「……む? おい、イルミンスールの守護者が動いたぞ!」
「端から御神楽校長を襲撃する算段か!? そうはさせるか!」
 フィールドを進むミーミル一行に気付いた蒼空学園の生徒たちが、矛先を変えて攻撃姿勢に入る。
「ソア、練習してきたあの魔法の出番じゃないか?」
「そうですね。日頃の修行の成果を見せる機会ですよね!」
 ソアに頷いたケイが、傍を翔けるミーミルに呼びかける。
「ミーミル、ここは俺たちに任せて先に行け!」
「ケイお兄ちゃん、ソアお姉ちゃん、でも――」
「私は大丈夫だから、行って、ミーミル!」
「大変な状況なのは分かってるけど……それでも楽しくやるのがイルミンスールだ! それを忘れちゃ駄目だぞ、ミーミル!」
「……はい!」
 一瞬微笑んで、ミーミルがその場を後にする。一行を見送って、ケイとソアがカナタの援護の中、それぞれ詠唱を開始する。
「ケイ、ご主人、準備が出来たら言ってくれよ!」
 二人の盾となっているベアの傍には、豆の詰まった袋が用意されていた。
「俺は準備オッケーだ。ソア、そっちは!?」
「……はい、オッケーです! ベア、お願いします!」
「よっしゃ! うぉらぁ!」
 飛んでくる豆をものともせず、ベアが袋を放り投げる。間髪入れず、投げられた袋を対象にケイとソアの魔法が発現する。

「これが、俺たちの合体魔法!
 『アイス豆ブラスト』ですっ!」


 生徒たちの眼前で、表面から凍らされていく袋の中から爆発性の火球が呼び起こされ、豆を種にした氷塊が爆発で周囲に吹き飛ばされる。それらは次々と生徒たちを撃ち、無力化していった。
「ごめんなさい、通してくださいっ」
「そらそら、踊れ踊れー!」
「わたくしはメイベル様と、ここで食い止めますわ。ミーミル様と豊美様はどうかお先へ!」
 ミーミルと豊美ちゃんを行かせるために、メイベルが複数の罠で応戦し、セシリアが敵の足元に豆を見舞い、フィリッパが自作の改造エアガン――弾を補充する部分にハンドルがついていて、それを回すことで連射を可能にしていた――で弾幕を張っていた。
「メイベルさん、セシリアさん、フィリッパさん……はい、必ずお母さんを助け出してみせます!」
 そして駆け出す一行は、環菜の位置する場所を通り過ぎた辺りでついに、光る種モミ袋と格闘しているかのような様子の鮪に追いつく。一方鮪は、カンナの気配を嗅ぎつけて出ようとするエリザベートに悪戦苦闘していた。
「カンナの気配がするですぅ〜。ここから出せですぅ〜」
「ちょ、ま、待て、落ち着けっての!? ちっ、後少しだってのに……おい信長、お前も手伝え――」
 鮪が信長を呼ぶが、しかしその声に答える者はなく、代わりに鮪の足元を穿つように髑髏盃が突き刺さる。
「チッチッチッ、違うな、わしはその様な者ではない。通りすがりの戦国天下仮面だ」(豊美の気配がする……わしだとバレては後で大変なことになる、ここは他人のフリをするに限るな)
 いつの間にか怪しい仮面とビロードマントで変装した信長……もとい、戦国天下仮面が鮪を足止めする。
「あぁん、何してんだ信長――」
「だからわしはそのような者ではないと言っておる!」
「ぶべらぁ!?」
 戦国天下仮面の鉄拳が鮪を襲い、顔を歪ませた鮪が地面を転がる。
「ち、ちっくしょう、おまえ今日の夕飯抜きだぁー!」
 状況の不利を悟った鮪が、一目散に出入り口へ駆け出す。
「どうやら仲間割れを起こしたようだ。おそらくあの中に校長は囚われているのだろう。まず救出は出来たようですな」
「よし、このまま確保に向かおう」
 仲達が状況を分析し、シグルスがエリザベートの確保に向かう。
「あの人は……そうですか、またあなただったんですね。今度も逃がしませんよ、陽乃光――」
 豊美ちゃんが自らの杖『日本治之矛』を呼び出し、必殺魔法『陽乃光一貫』を見舞わんとする。だがそこへ複数の影が立ちはだかり、射線を塞ぐ。
「魔法使いとして相当の実力を持つあなたを討ち取れば、俺の魔法使いとしての株が上がる! 覚悟しろ!」
「わ、私は魔法使いじゃなくて魔法少女ですっ! そこ間違えないでください!」
 抗議しつつ、豊美ちゃんが内心困惑を浮かべて佇む。彼女の魔法は一点突破に特化し過ぎており、複数の相手がバラけて襲ってきた場合、必ず隙を晒すことになる。いくら豆撒きの場とはいえ、彼らの目は本気だ。当たったらそれなりに痛いだろう。

「豊美ちゃんに攻撃しちゃダメーっ!!」

 突如声が響き、そして豊美の視界を、電撃を纏った豆が覆う。次の瞬間、立ちはだかっていた生徒は倒れ、一人クラーク 波音(くらーく・はのん)が立っていた。
「えへへ〜、見た見た? 私の『みらくる☆びりびりワイドショット』! 豊美ちゃんが危なそうだったから、つい撃っちゃった♪」
「いえ、助かりましたー。……そうです、波音さん、ぜひ私に力を貸してくださいっ!」
 言って豊美ちゃんが、ごにょごにょ、と波音に何かを話す。その話を聞いた波音の表情に笑顔が浮かぶ。
「うんっ! 豊美ちゃんがいいなら、あたし頑張っちゃうよ! ……でもその前に、ララちゃ〜ん」
「んふふ〜、ララにお任せだよ☆ せーの、『Chu☆とあたっく』!」
 ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が、唇を触れさせた豆を波音と豊美ちゃんにぺちぺち、と当てる。アリスキッスの効果により、二人の身体に活力が湧き起こってくる。
「では、行きますよ!」
 豊美ちゃんが『ヒノ』を構え、先端に魔力が凝縮されていく。
「ちくしょう! 俺たちは「豊美ちゃんを倒したぞ!」って自慢するんだぁ!」
 電撃から回復した生徒たちが、豆を発射する。それよりも一足早く、豊美ちゃんと波音の魔法が完成する。

「合心! 雷鳴乃中光一貫!(らいめいのなかひかりひとぬき)

 電撃を纏った豆が攻撃を弾くと共に周囲に雷撃を落とし、その雷撃のドームの中を貫くように、クルミ大の豆を種にした光が一閃翔け抜け、それは狙い違えることなく鮪を穿つ。
「へっへぇ〜、いいのか豊美〜、見えちゃいけないモンが見えてるぜぇ〜……ぐふっ」
 倒れ伏す鮪に、杖を回転させてとん、と地面につけた豊美ちゃんが言い放つ。
「あなたには見えませんし、見せませんっ! 私が魔法少女である限り!」
「うわ〜、波音おねぇちゃんと豊美おねぇちゃん、カッコよかったよぉ〜」
「えへへ〜、これであたしも立派な魔法少女かな?」
 こうして、危機は去ったかに思えた……のだが。
「カンナ、覚悟するですぅ〜!」
「……懲りずにまた来たのね。いいわ、出番を彼らに持ってかれて暇だったの。相手してあげるわ」
 種モミ袋から救出されたエリザベートがカンナを強襲し、環菜も拒むことなく対抗する。溜息をついたアルツールが止めに入ろうとして、ミーミルが歩み寄るのに足を止める。すう、と息を吸い、手には一つの豆を大事そうに握りしめて、そして言葉を口にする。

「お母さん! 環菜さん!
 喧嘩はダメですっ!
 仲良く楽しく豆撒きですっ!」


 瞬間、ミーミルの掌から撃ち出された豆が、睨み合う二人の校長の間を駆け抜ける。豆はフィールドの外、張り巡らされた修練場特製の魔法結界を押しのけ、パン、と結界を撃ち抜いて遥か彼方へ飛んでいった。
「…………」
「…………」
 睨み合っていた二人の校長が、呆然とミーミルへ視線を向ける。
「楽しく豆撒きしましょう♪」
 にっこりと微笑みながら告げるミーミルに、流石の校長たちも首を縦に振らざるを得なかったのだった――。