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ホワイトデーはぺったんこ

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ホワイトデーはぺったんこ
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リアクション

 
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「ジーク、ぺったんこ!」
「ジーク、ぺったんこ!」
 屋上では、大ババを前にして、佐伯梓、日堂真宵、九条院 京(くじょういん・みやこ)風森 望(かぜもり・のぞみ)が、忠誠を誓っていた。
「ま、とーぜんなのだわ。ふふふ、ついにぺたん娘の時代がやってきたのだわ!」(V)
 これからは、ぺったんこ同士のミリ単位の胸のくらべっこが優劣を決めることになるだろう。ちらりと、大ババ様の胸元を見て、九条院京は、密かに勝ったと心の中で勝利の拳を握りしめていた。
「やれやれ、この上、どうするつもりなんでしょうか」
 物陰でパートナーの佐伯梓の様子を見守りながら、カデシュ・ラダトスは深く溜め息をついた。
「ビバ、ロリショタ! ハレルヤー! アーデルハイト様、ぜひとも世界をこのままの姿に」
 うっとりと風森望が言ったとき、なにやら騒がしい者たちがやって来た。
「いましたいました。本当に、ここが本拠地だったのですね」
 どやどやとやってきた集団の先頭に立っていたユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)が、大ババ様の姿を見つけて言った。その後ろからは、迦 陵(か・りょう)たちの一団と、藍玉美海たちもやってきている。まだまだ、後からやってきそうだ。
「あーん、もとにもどしてくださーい」
「もどさないと、やっつけちゃうよ」
 半泣きで懇願する秋月葵の後ろで、黒子が挑戦的な言葉を大ババ様に投げつけた。
「まあ、美味しい被写体がたくさん」
 ここぞとばかりに、風森望が写真を撮りまくる。なんとしても、大ババ様と青いキャンディは死守するつもりだが、チビッコ軍団の組んずほぐれつの戦いも見逃しがたい。ここは、ぜひ記録を残さなければ。
「初めまして、アーデルハイト・ワルプルギス様。お噂はかねがね」
 問答無用で突っ込んでいきそうな黒子を押さえて、マリーウェザー・ジブリール(まりーうぇざー・じぶりーる)が前に進み出た。
 優雅な仕種でお辞儀をする。外見年齢は大ババ様とどっこいどっこいといったところだ。
「なぜ、このようなことを。大人げのない。幼き者たちの胸など、どうでもよろしいではありませんか」
「先に喧嘩を売ってきたのは、蒼空学園のたゆんたゆんの方じゃ。ああ、むかつくのじゃ」
「よろしいのでは。たゆんたゆんでも、ぺったんこにないよさもありましょう」
「そのようなものはないのじゃ」
 気分を害した大ババ様が、いきなり小さな火球を威嚇でマリーウェザー・ジブリールにむかって放った。
 反射的に、マリーウェザー・ジブリールが、持っていた魔道書を前面に構えて盾にしようとする。
「きゃあ! 死んじゃいます、死んじゃいます。やめてー」
 いきなり本体を盾にされた禁書目録 インデックス(きんしょもくろく・いんでっくす)が、悲鳴をあげた。
 インデックスの悲鳴もむなしく、火球が命中して火花が散る。
「大丈夫ですよ」
 目を閉じたままの迦 陵(か・りょう)が、そっとインデックスの肩に両手を載せて言った。恐る恐る、インデックスが自分の本体の方に目をむける。
「まったく、おふざけがすぎるぜ」
 自らの身を挺して守った黄 忠(こう・ちゅう)が言った。火球は、彼の背中にあたって、軽く炎をあげただけだ。だが、直撃したのが紙であったなら、こうはいかなかったかもしれない。
「問答無用か?」
 マリーウェザー・ジブリールを下がらせると、黄忠が大ババ様に言った。
「ただの威嚇じゃ。ぺったんこを讃えぬ者は早々に立ち去れ。今日を限り、蒼空学園からたゆんたゆんは消えてなくなるのじゃ」
 どうにも、大ババ様の怒りは根深いらしい。
 いったい、何がこれほど大ババ様を怒らせたのかと、一同は首をかしげた。とはいえ、このまま、大ババ様の好きにしていては、本当に蒼空学園のたゆんたゆんが滅亡してしまう。
 大ババ様の姿を間近で見て、藍玉美海は、はてと小首をかしげた。額と脇腹にうっすらと残っている模様というか文字というか、なんだか覚えがあるような気がする。とはいえ、あれは出来損ないの人形だったはず……。
 遅ればせに、今さらあれが大ババ様のスペアボディだったことに気づいて、藍玉美海は青ざめた。まずい、元凶は自分だ。ばれたら本気で殺される……。
 だが、こんなことをしでかす前に、なぜもっとボンキュッボンなスタイルのいいスペアボディを作っておかないのだろうか。始めから、そういう物を用意しておけば、揉みがいもあって、全然問題ないではないか。
「どうして、自分の胸を大きくする薬を作らなかったのですか?」
 ユウ・ルクセンベールが訊ねた。うんうんと、藍玉美海もうなずく。
「おお、その手があったか」
 今さらながらに気づいたように、大ババ様がポンと手を叩く。遅い、遅すぎる。
「今度試してみよう」
「なんですの、戻せるのなら、早くここを揉みがいのあるたっゆ〜んに戻していただきたいものですわ」
「いやーん、ねーさま」
 藍玉美海が、ぺったんこの久世沙幸の胸を撫でながら頼んだ。
「いずれにしろ、たゆんたゆんは見せしめじゃ。しばらくはぺったんこのままでいて、ぺったんこの気持ちをよくかみしめてもらうとしよう。今はそれで充分やもしれぬ。後でこの青いキャンディを……」
 自らの巨乳化計画という言葉に、違う方向性の光明を見出したのか、大ババ様が急に態度を軟化させた。青いキャンディの詰まった袋を取り出すと、ポトンと足許におく。
 これは、状況が打開されるのかと、それぞれの者が希望と失望を胸にいだいたときである。
「いやがった。てめえ、イルミンのババアだったのか。責任とりやがれ。すべて、てめえのせいだ!」
 怒号とともに、まったく空気の読めない山葉涼司が突入してきた。携帯にケーブルで繋げた光条兵器を手にして、すでに大ババ様を攻撃する気満々である。
「おや、ワタシに賛同して配ってくれたものと思っておったのじゃがな。しかたない、こんなこともあろうかと用意しておいたのじゃ。やれ」
「はい! くらえーっ!」(V)
 大ババ様に命令されて、九条院京が矢を放った。
 隠してあったロープをみごと矢が切断する。
「くそババア、覚悟し……」
 ゴーンと、寺の鐘のような音が鳴り響いた。
 頭上から落ちてきた巨大金だらいが、山葉涼司の頭部を直撃した音だ。
「本当に、直撃するとは。私は、これも威嚇程度に考えておったのじゃが」
 自分でやったことなのに、その結果に大ババ様たちは唖然とした。普通、こんな物はあたらないはずである。むしろ、これは山葉涼司自身が、金だらいを吸い寄せたと言っても過言ではないのではないか。
「くそう……よくも……むぎゅ」
 さすがに、大ババ様も威嚇程度の罠や魔法攻撃しかする気がないので、致命傷となるはずもない。頭からだらだらと血を流しながらも、果敢に山葉涼司が立ちあがろうとした。だが、その背中を誰かが勢いよく踏みつけて、止めを刺したのだ。
「さあ、山葉君、君の罪を数えなさい」
 踏みつけた足をぐりぐりとさせてなおもダメージを与え続けながら、緒方章は言った。
「さて、次はそこの黒幕さんだ!」
 勢いのまま、緒方章が大ババ様に突っ込んでいく。
「落ち着きなさい!」
 突進する緒方章の眼前にバーストダッシュで移動したユウ・ルクセンベールが、その勢いのままにナイトシールドで彼を弾き飛ばした。ふいをつかれた緒方章が弾き飛ばされ、屋上にある空調の室外機に激突してバタンキューする。
「せっかく話がまとまりそうだったのに。アーデルハイトに刃をむけるとは何事です」
 毅然としたユウ・ルクセンベールの態度に、ほうと大ババ様がうなずく。
「ならば、このキャンディはそなたに預け……」
「そのきゃんでぃは、いただきでちゅー」
 山葉涼司たちを案内してきたチビ小鳥遊美羽が、今このときとばかりに、バーストダッシュで青いキャンディの袋めがけて突っ込んできた。
「待てや、それは俺たちの物だぜ。いっけえええ!!」
「ひええええ……」
 他の者に青いキャンディを渡してなるものかと、ヤマ・ダータロンが、くるくるとコマのように回転して思いっきりチビ山本夜麻をぶん投げた。
「きゃんでー……ぐわっん!!」
 空中で、みごとに小鳥遊美羽と山本夜麻が激突する。そのまま、もつれ合うようにして、二人は屋上を飛び出して地上へと落ちていってしまった。
「何をやっているんだ!」
 作戦も何もあったもんじゃないどころか、ついに人死にかと黄忠が屋上の端から下を見下ろした。
「きゃあああぁぁぁぁ」
「うぐあ!?」
「なんだなんだ、何が降ってきた!?」
 小型飛空挺に乗って飛んでいたアレクセイ・ヴァングライドと六本木優希は、突然上から降ってきた小鳥遊美羽と山本夜麻を偶然受けとめる形になって、目を白黒させた。
「ハンドル固定できるか?」
「大丈夫だよ」
「上出来だ」
 両手にそれぞれ小鳥遊美羽と山本夜麻をつかみ、必死に足で小型飛空挺のシートをはさんで身体をささえながら、アレクセイ・ヴァングライドが言った。前に座った六本木優希が立ちあがって、なんとか小型飛空挺をホバリングさせて安定を保った。
 
「もう、こうなったらみんな眠らせて……」
 風森望は、子守歌を歌って全員を眠らそうと考えた。大きく息を吹き込んで、歌おうとする。そのとたん、何かが彼女の後頭部を強打した。
「きゃん……」
 そのまま、ばったりと倒れて風森望が気絶する。
「そうはさせないよ」
 先の先を読んで密かに後ろに回り込んだ琳鳳明だった。依頼人はあっけなく玉砕したが、依頼は生きている。なんとしても、青いキャンディを手に入れなければ。
「大ババちゃまー、きゃんでー、あんぜんなとこにもってこー」
 大ババ様の足許をうろちょろしていた佐伯梓が、キャンディの入った袋をさして言った。
「そうじゃな」
 大ババ様が、佐伯梓に袋を安全なところへ運ぶように指示する。
「持っていかせないよ」
 とっさに、琳鳳明は持っていたロングスピアを投げた。本来は投擲するための武器ではないが、まさに投げ槍である。
「ああ、ふくろがー」
 飛んでいった槍は、狙い違わず、袋に命中した。袋にできた大きな裂け目から、ばらばらと赤と青のキャンディが零れ落ちる。
「やった、あれを拾えば……ぐわ」
 飛び出そうとした琳鳳明は、いきなり後ろから殴られて気絶した。
「ごめんなさい。ワタシは、今の世界の方が好きなの。だから、青いキャンディをぺったんこになった人に渡すことはできないわ」
 ぺったんこの胸に手をあてて、セラフィーナ・メルファは言った。
 
「今なんだもん、拾うよー」
 お目当てのキャンディがばらまかれたのを見て、栂羽 りを(つがはね・りお)が目の色を変えた。
「しかたねえな。俺が拾ってやるぜ」
 そう言って手をのばしたサバト・ネビュラスタ(さばと・ねびゅらすた)の指先で、青いキャンディが砕け散った。
「そう簡単にはいかないな。さあ、早くお拾いください」
 ハンドガンを構えたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、大ババ様に言った。
「わーい、ひろうんだもん」
 久世沙幸を始めとする、その場にいた者たちが、一斉にキャンディに群がった。
「青いキャンディは渡さん!」
 レン・オズワルドが、青いキャンディを次々に撃ち砕いていく。
「おっと、そんな余裕があるのかな」
 隙を見て、サバト・ネビュラスタがクオータースタッフで撃ちかかってきた。
「あるからやっている」
 レン・オズワルドは身を翻して杖の一撃を躱すと、その動きの流れのままにハンドガンから銃弾を発射して、栂羽りをが拾おうとしていた青いキャンディを撃ち砕いていた。さらに、その動きを止めずに、ハンドガンのグリップエンドをサバト・ネビュラスタの首筋に叩き込もうとした。
「撃っちゃいますえ〜」
 間一髪、リリーシャ・メソッド(りりーしゃ・めそっど)が、トミーガンで援護する。素早く身を沈めてそれを避けると、レン・オズワルドは今度は藍玉美海が拾おうとしていたキャンディを撃ち砕いた。
「ちょろちょろと」
 サバト・ネビュラスタが、再び攻撃をしかけてきた。クオータースタッフを振ると同時に、それに巻きつけた銀の飾り鎖を鞭のように使って敵の間合いを狂わせる。交代を余儀なくされたと思われたレン・オズワルドだが、タンと足を踏みならしたかと思うと、赤いキャンディの端を踏んで回転をつけるとともに空中に弾きあげた。
「プレゼントだ」
 ハンドガンをラケットのように使って、赤いキャンディを打ち出す。
 反射的に避けたサバト・ネビュラスタに、レン・オズワルドが足払いを食らわして転ばせた。下にあったキャンディが、サバト・ネビュラスタの身体に弾かれて盛大に飛び散る。
「サバトはん!」
 思わず叫んだリリーシャ・メソッドの口に、飛んできた赤いキャンディが飛び込んだ。
「おおきに」
 引きつった笑いを浮かべたリリーシャ・メソッドが、みるみるうちにたっゆんからぺったんこに変わった。
「わーい、そこのだんさん、みてみてー」
 ここは囮となってレイ・コンラッドの気を引いて隙を作ろうと、リリーシャ・メソッドがうさみみを生やしてピョンピョンと跳びはねた。
「おおお……。ぐは」
「ああ、サバトはん!」
 ところが、その姿に一瞬気を奪われたのは、ロリコンのサバト・ネビュラスタの方であった。それが命取りとなって、あっけなく昏倒させられる。
 
「ああ、もう、肝心なときに、アーサーたちったら、何をしているのよ」
 混戦に、日堂真宵は携帯でパートナーたちを呼び出そうとした。
『ハーイ、ただいまカレーキャンディの補充作業中デース。御用のある方は、吸血鬼もびっくり! という台詞の後にメッセ……』
「あの馬鹿あ、みんなを巻き込んで何やってるのよー」
 メッセージを残すことなく携帯をブッチして日堂真宵は叫んだ。
 
「ああ、キャンディがあ」
 サバト・ネビュラスタに弾かれたキャンディたちを追いかけていた栂羽りをは、そのまま勢い余って屋上から飛び出してしまった。
「ぐわあ、また落ちてきた」
 これ以上は無理と、アレクセイ・ヴァングライドが叫んだ。そのとおりに、小型飛空挺がよろよろと墜落していく。さすがに小型飛空挺に五人は無理だ。
 
「はははははは、その散らばったキャンディ、よい子の味方、食べ物は粗末にしないクロセル・ラインツァートがいただこう」
 いつの間にか給水塔の上に立っていたクロセル・ラインツァートが、とうっとジャンプした。
「よい子のみんな、危ないから俺のまねしちゃだめですよ」(V)
 そのまま、マントをばたばたとはためかせて、伸身のポーズのまま足から落下していく。
「ふむ、これが青いキャンディなのだな」
 一緒に落ちる青いキャンディを、クロセル・ラインツァートが空中でつまみ取った。
「はあ、なんだ、こいつは!?」
 よたよたとゆっくり墜落していくアレクセイ・ヴァングライドたちのそばを、クロセル・ラインツァートが速いスピードで通りすぎていった。
「ありゃ死んだな」
「な〜む〜」
 アレクセイ・ヴァングライドの言葉に、六本木優希が静かに手を会わせた。
「なんの、私は不死身です。よーく見ていてください、ここが本日の山場です。お願いします、マナさん」(V)
「うぐぐぐぐぅ……」
 クロセル・ラインツァートに言われて、彼の背中に貼りついていたマナ・ウィンスレットが、マントをつかんで思いっきり小さな翼で羽ばたいた。少し、落下スピードが落ちたかもしれない。
「とう!」
 下にあった家庭菜園にずっぽりと突き刺さりながらも、クロセル・ラインツァートはなんとか無事だった。マナ・ウィンスレットの努力と、イルミンスール魔法学校の制服の下に着込んでいたヴァンガード強化スーツのおかげだったかもしれない。
「痛くも痒くもありません」(V)
「ふう、疲れたのだ」
 重労働を終えた、マナ・ウィンスレットが荒い息で言った。そこへ、上からキャンディが次々に降ってきた。
「痛いのである……うぐぐっ!?」
 上をむいたマナ・ウィンスレットの口の中に、何かが飛び込んだ。キャンディだ。
「マナさん、何色を呑み込んじゃったんですか!?」
 突き刺さった土の中からなんとか脱出しようともがきながら、クロセル・ラインツァートが訊ねた。
「分からないのである。だが、多分青なのだ。これで、私もかっこいい成体のドラゴンに……」
 そう語るマナ・ウィンスレットの身体が光につつまれて変化しだした。思わず、クロセル・ラインツァートが仮面の奧の目をしばたたかせる。
 光が消えた。
「マナさん?」
 クロセル・ラインツァートは、その場にいるはずの格好いい雌ドラゴンを捜した。だが、そこにあった物は卵であった。
「マナさあぁぁぁぁぁん!!」
 叫びながら、クロセル・ラインツァートはうっかり割ってしまわないように細心の注意でマナ・ウィンスレットの卵を拾いあげた。