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彼氏彼女の作り方2日目

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彼氏彼女の作り方2日目

リアクション

 贈り物について話し合う場には、たくさんの人数が集まったので簡単には決まらない。
 先に例で出されていた5種類のチームに分かれ、その中でも何が1番適しているのか相談した後、全体で話し合うのだ。
 最も、ギフトカタログは投票はあれど相談者はいなかったようなので、残るは食べ物と小物。食べ物と一概に言ってもお中元やお歳暮なんかのようにハムや佃煮、産地の詰め合わせなど食事的な物もあれば焼き菓子にお茶などティータイムの品々、さらにはそう言ったものを買うか作るかなど幅広く、他の物と同じく話し合いに時間はかかりそうだと思われたのだが……。
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)がわくわくと話す様子を、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)は1歩離れた所で見守っていた。
「やっぱり、お菓子がいいと思いますですっ! 作れる人も作れない人もみんなで作ったらきっと楽しいですっ♪」
「んー、手作りって1番心がこもってると思うのですが、相手の方は喜んでくれるでしょうか……」
 少し不安げに小首を傾げるティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)は、心を込めるには手作りが最良と思えども何か不安要素があるのかノートにその意見を書き込むのを迷ってペンでぐるぐると模様を描いている。
 料理が得意ならば迷い無く言い切るのかもしれないが、前回志位 大地(しい・だいち)と参加したときには迷惑をかけてしまったような気がしなくもない。
(でも大地さんニコニコしてた気もするし……こんなことパートナーにも聞けないし……どうしよう)
 どんどん濃くなる模様に気付かずペンを動かし続けるティエリ―ティアの横から、九条院 京(くじょういん・みやこ)も元気よく提案した。
「やっぱり贈り物と言ったらお菓子よね。袋に入れて、リボンでラッピングするのだわ! でも、男の人って甘い物とか苦手かしら?」
 後ろで文月 唯(ふみづき・ゆい)が自分を指さして何かを言おうとしているのに、その気配に気付きながらも京は手頃な人物を探す。
 目が合った皆川 陽(みなかわ・よう)は、先日の羽子板大会を思い出してか気弱な態度に拍車がかかり、思わず後ずさってしまう。そんな彼を魔の手から守るように、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が立ちはだかった。
「僕のヨメになんの用だ! このお転婆!!」
「ちょっと何なのよっ! 初対面でいきなりお転婆だなんて、失礼にも程があるのだわ!」
 ムッとした顔で反論する京に、テディだけでなく陽も唯も固まってしまう。あれだけ口喧嘩をしていたにも関わらず、京の記憶には残ってないのだろうか。
「……京、覚えてない? 前に羽根突きで戦った子だよ」
 自分を打ち負かしたあげく忘れられ、陽に近づこうとするこの女をどうしてくれようかと拳を握りしめたテディに気付かれぬよう、唯はこっそりと耳打ちをする。そうしてマジマジと怒りに震えるテディを観察して放った一言が――。
「男だったの?」
「どこをどう見たら、僕が女に見えるんだよっ!! 1度勝ったくらいで馬鹿にするなっ!」
「ふふん、京の勝ちはとーぜんなのだわ。だいたい、振り袖なんて着てたらわかるわけないでしょ」
 このままでは、再び乱闘騒ぎになってしまう。慌てて宥めようとする陽と唯に混ざって、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)がお菓子の入った袋を手にやってきた。
「2人とも元気だね。ほら、これでも食べて落ち着いて」
 笑顔で差し出されたクッキーに、2人は口を閉じる。まだ相手に言い足りないことがあるけれど、ケイラが気を遣ってくれているのがわかるからだ。
「し、仕方無いわね……」
「そこまで言うなら貰ってやるかっ」
 決して美味しそうなクッキーに懐柔されたわけじゃない。そんな意味を込めて呟いてみても、大人しく食べ始めればケイラの勝ちだ。
「そのクッキーね、仕掛けがあるんだ。丸飲みなんかしないで、気をつけて食べてね」
 言われてみれば、口の中に違和感が残る。なんだろうかと取り出せば、フォーチューンクッキーだったようだ。短冊状に切ったオーブンシートに占い結果が書かれていて、テディたち2人は真剣に読んでいる。
「自分はお菓子も好きだけど、折角の贈り物ならこういうのはどうかなって」
 それを見ていた神和 綺人(かんなぎ・あやと)は、興味深そうにケイラの持っているお菓子の袋を見て、手作りなことに気付くと嬉しそうに提案した。
「それ、中の占いも自分で用意するんですよね? だったら一言メッセージとかも伝えられそうだな」
 以前作ったお菓子は喜んでくれたけど、形に残らないのが難点だと思っていた綺人にとって、形にも残せる食べ物は名案だとばかりにケイラの案に賛成した。
「ああ、それもいいね。他にも地球じゃ昔、チョコレートの中に宝物が入っていたって聞いたし、そういうのも楽しそうだよね」
 1人で悩んでいる様子だった綺人が話し合いの輪に入ったのを見届けて、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)も落ち着いて話しに耳を傾ける。綺人の兄的存在である彼は、綺人が気になる反面自分自身も講座に興味があったので、これで気兼ねなく参加出来るようになった。
 これで、落ち着いて食べ物について話し出すことが出来るかと思えば、烏山 夏樹(からすやま・なつき)だけはそわそわと落ち着きが無い。
(……どうしましょう、このままだと食べ物の代表としてお菓子が選ばれてしまいます)
 ちらりとエカテリーナ・ゲイルズバーグ(えかてりーな・げいるずばーぐ)へ視線を投げるも、今日は夏樹の修行で来ているのだから助ける気も毛頭無いのか、彼女は妖艶な笑みで見返すだけだ。
 いつまでもこうして黙っているわけにもいかない。ここには吸血鬼が自分たち以外にいないのだから望みは薄いかもしれないが、意見くらいは言わなければ。夏樹は今日の修行で及第点を取れないと、食事にありつけそうにない。
(エカテリーナさん、きっとこのために昨日ご飯抜きだったんですね……おなかすいたよう)
 本当は服装の話に混ざりたかったけれど、彼女に逆らう勇気など持ち合わせていない。夏樹は意を決してすでにお菓子で話はまとまりつつある輪に入っていく。
「あの、お菓子も大変喜ばれると思うのですが……ボクたち吸血鬼にとって、食べ物は血液だったりするんですよ」
 ピタリと止まった会話に、自分たちの血が狙われていると思ったのだろう。夏樹は慌てて否定するように両手を振った。
「えっと、違うんです! もちろん、血液がみなさんにとって大事なものだというのは分かっていますから、頂こうなんて考えていませんよ」
 顔を見合わせる皆を代表するように、ユーリは躊躇いがちに口を開いた。
「……しかし、血液を贈り物にするというのは、吸血鬼と交流の無い者からしたら抵抗あるだろう」
「だからこそ、です。そんな大事な物を相手に差し出せるというのは……最大級の敬意や友愛の表明になります!」
 顔を輝かして夏樹は言うが、やはり蚊に刺されるのとはわけも違うのだから少なからず抵抗があるのだろう。ファイリアは話を聞いているだけで首筋がむず痒くなったのか、首もとに手をやりながら困り顔だ。
「うーん、吸血鬼さんにはそうでも、誰にでも贈れる物をと考えるとファイはお菓子がいい気もするです」
「えっとー、つまり吸血鬼さんにとってのお菓子は血液……ってことなのかなぁ。いたくないかなぁ、どうかなぁ……」
 ティエリーティアも悩み始め、夏樹は上手い説明の仕方が出てこない。自分自身、吸うときは真綿が水を吸うように魂を満たして行き、吸われるときはある種の快感を感じるが、全ての人がそうだとは限らない。
「ナツキ。皆さんがお困りのようですから、あなたお手本になってあげなさい」
「ボクがですかっ!?」
 昨夜から吸血禁止にされていたけれど、やっと血にありつける! そう顔を綻ばせた夏樹は、すっぽりとエカテリーナの腕にくるまれる。
「え、エカテリーナさっ……ぁああっ!」
 ただ血を吸っているだけなのに、妖艶なエカテリーナ好みに調教されてきた夏樹は恍惚とした表情を浮かべる物だから、2人の周りだけ何やらピンクのオーラが出ていて見ているこっちが恥ずかしい。
 くるりと京を回転させてその光景が見えないようにした唯は、咳払いをして確認をする。
「……えっと、俺たち食べ物のグループからの提案はお菓子……で話を進めていいでしょうか」
 吸血鬼にとっては、きっと血液も甘いお菓子のような物かもしれない。うっとりとした顔をしている夏樹たちの邪魔をしないように、皆でどんなお菓子やラッピングが良いだろうかと相談をし始める。
 その様子を秋月 葵(あきづき・あおい)は横目で見て思案顔。小物について話し合うグループに混ざりながらも、どちらが良いのかと互いのメンバーを見比べていた。
「やっぱり手料理もいいよね。でもロングヘアーに似合いそうな誕生石が付いた髪飾りも……迷うなぁ」
 甘やかされて育ってきた葵はあまり料理が得意でなく、その上プレゼントをあげたいと思う彼女が何でも出来る才色兼備とあれば、手作りは避けたいとも思ってしまう。けれどプレゼントと言えば……と自分の中で考えがぐるぐると巡っているようだ。
 同じ百合園から参加のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)も、いくつか考えた候補の中に葵と同じ物があったのか、優しく笑いかける。
「私も迷いましたが、日常に使えるものを贈ってみるのはどうでしょう? やはり、形に残る物のほうが贈り物として嬉しいと思うんです」
 そもそも、あの方が自分の贈り物を喜んでくれるのか……苦笑しながらロザリンドはその理由を皆に語る。
「日常の役に立ちますし、そういった普段使うものに思いが籠っているのがいいかなと。それに、贈った方も使ってもらえていると分かるのは、お互いの絆を確認し合えると思うのです」
 それを聞いて、葵は髪留めをつけてくれている様子を思い浮かべて笑みを零す。美味しいと言って食べてくれる料理も捨てがたいけれど、その顔が見られるのは1度だけ。髪飾りなら、きっと毎日のようにつけてくれるかもしれない。
「……だったら、制服に似合うような物がいいのかな?」
 あまりに大仰しいデザインだと、毎日は使いにくいかもしれない。特別なことは誕生石をあしらうくらいにしておこうかと葵が呟いているのを聞いて、高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)への贈り物を考える。
(髪飾りか……アメリアは髪も綺麗だし、そういうのも似合いそうだな)
 女の子に贈り物だなんて、今までまともに考えたことのなかった芳樹は何とかアメリアの喜ぶ物をと考えるが、女の子が喜びそうな可愛らしい物と言っても簡単に思いつかない。もっと他に意見があれば……と聞き側に徹しようとしている姿を見て、伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)は微笑ましくその姿を見ていた。
「髪留めねぇ……」
 日常的に使える物として、女の子らしい意見が出た物だなとアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)は少し興味なさげに周りを見ていた。瑞江 響(みずえ・ひびき)に喜ばれる物がわかればと参加したアイザックにとって、女の子用のプレゼントがわかったところで何の参考にもならない。
「そうだな、髪留めも悪くない。贈り物は相手の趣味嗜好に合わせた実用的なものを贈るべきだからね。ただ、男としては髪留めより文房具かなとは思うけど」
「だ、だよな! 実用的な物っていいよな!」
 さっきまでのやる気の無い視線がやる気に満ちあふれてアイザックはメモを取る。その露骨な態度に苦笑する者もいるが、肝心の響はと言えば同意してくれたことが嬉しいのか何も気付いた様子なく微笑むだけだ。
「日々の生活で使うものだと、それを見て何時でも相手を思い出せるってのは利点だよな」
(響……それはつまり、常日頃近くにいる俺様以外からの贈り物ってことか?)
 パートナーとして同じ学舎で勉強する仲の2人が、思い出すと言うほど長い時間離れることは無いだろう。そう考えるとペンを握る力も強くなるのだが、世間一般的な意見を言っているのだとアイザックは気持ちを抑えつけるように響の言葉をメモに取る。
「そうなんです、自分自身が欲しいと思う物と相手が使ってくれる物は違いますし、少しでもお心に残ることが出来たならとは思うのですが」
 思い人の笑顔を想像して微笑むロザリンドと同じ意見の響が顔を見合わせて笑いあう。その光景が面白くないアイザックは、間に入って2人の会話に無理矢理割り込んだ。
「お互いに大切な人だったら、それが嬉しいよな。大切だったら、だけど」
 大切じゃない人に贈り物をする機会なんて早々ないけれど、例えば告白にかこつけての贈り物だったりすると、何とも思ってない人から貰う物には扱いに困ってしまう。仮に、特別な相手から貰えたにしても、それが自分の好みと異なる物だったなら余計に困るだろう。
 次々と出る意見に、芳樹はますますアメリアへのプレゼントに頭を抱えてしまう。自分が相手に似合うと思っても、それが趣味でないと言われたら……かと言って、面と向かって聞いて本人に答えを教えて貰うといいうのも、間違いはないだろうが贈り物としての魅力が半減してしまう気もする。
(それだけ芳樹が私のために悩んでくれているというのが、嬉しいのよ?)
 そう伝えたいけれど、一生懸命考えているところに水を差すのも憚られて、アメリアは玉兎と同じように芳樹を見守っている。
 こうして小物のグループでは、日常的に使える相手の好みに合わせた物ということで話が纏まったようだ。
 それぞれに利点があり欠点が潜んでいる贈り物。選ぶ人によって考え方も違うし、受け取る人との間柄によって選択する物も変わってくるかもしれない。簡単に決められない物だからこそ、それぞれのグループで話し合い、その結果はテーマが発表されるときに発表されることとなった。