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彼氏彼女の作り方2日目

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彼氏彼女の作り方2日目

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 さて、和服に制服、スーツに眼鏡。個性をつけるとまで論争が続く衣装だが、何より盛り上がったのは執事とメイド服。
 事前アンケートでも多くの票を集めたこの服装には、さらに談議するメンバーも多く集まった。
 熱く語る内容に押されることなく、紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)はメイド服の素晴らしさを語る。
「大切な人達のメイド服姿とか考えてみてくださいよ、素敵だと思いませんか? きっと審査員の心を掴むこともできますよ」
 にっこりと女性陣に提案する遥遠だが、なにもこれは女性陣のみに向けての発言ではない。可愛らしいメイド服を緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)にも着せるべく“全員メイド服”を主張しているのだ。
 本来ならば、ここで男性は執事服では……と止める声も上がりそうなものだがルカルカ・ルー(るかるか・るー)は持って来た報告書や写真をテーブルに広げると、悪戯な笑みで遥遠の意見に賛同する。
「女性は執事服でもメイドでも構わないと思うわ。でも、男性がメイドをすることによって“初見のサプライズと男性の力強くもクールなサービスで、特別な思い出を提供できる”のよ」
 主にこの意見に賛同するのは女性が多いようで写真を手に盛り上がるが、当然男性からすれば想像するだけでおぞましいようなモノを見たくはない。遠野 歌菜(とおの・かな)は離れて様子を窺っているスパーク・ヘルムズ(すぱーく・へるむず)を見てにっこりと笑う。
「男の子のメイドさんは、きっとすごく可愛い……ねっ!」
「ねっ! じゃねーだろ! 女の子が執事はちょっと萌えるかもだけど、男のメイドは認めないぜ!」
「大丈夫だよ、正統派メイド服はロングスカートだし」
「そーいう問題じゃねぇえええええっ!!」
 スパークの叫び声が響き渡る執事&メイド服の相談の場に颯爽と現われ椎堂 紗月(しどう・さつき)音井 博季(おとい・ひろき)
「そう、何もこんなカテゴリに囚われる必要はない……常識に縛られることも!」
 彼女も出来て正真正銘男の子だというのに、見た目の可愛らしさから女の子に間違えられてしまう2人。しかし、独自のインターネット調査では世の中に需要がある物を伝えねばと博季は拳を握る。
「か弱そうな女性の男装執事!」
 大きな声にピクリと京子が反応するが、そわそわしながら2人の行方を見守っている。
「男なのに可愛い男の娘メイド!」
 紗月の言葉に眼鏡を光らすのは朱 黎明(しゅ・れいめい)。それでは胸のある女性陣が美しい胸を晒すことが出来ず、出す胸もない男性がメイド服なんてきても魅力的ではないからだろう。
「これが答えだッ!」
 それに意見するのは桐生 ひな(きりゅう・ひな)。メイド服が悪いということではないのだが、それでは彼女の目指す世界とズレてしまうからだろう。
「ぢぇんとるめんを嗜むためにも、皆が執事服に袖を通すのがいいと思うのですよ〜」
 成果発表会で何をするかだなんて全く持って気付いてないが“ぢぇんとるめんの心”は恋愛においてアピールするのが1番効果的であり、かつ世界に円満をもたらす大切なモノだと思っているようだ。
 先程からそわそわとしていた京子は、コスメポーチを手にみんなへ提案する。
「いくつか衣装も取りそろっているから、着てみたらどうかな? 私もお化粧とかお手伝いするよ!」
 黎明の膝で甘えるように寝転がっていたナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が、ふいに黎明の服を引っ張っる。
「黎明は、どんな服を着て欲しいのじゃ?」
「そりゃあもちろん、胸元を強調したメイド服だね。ナリュキにも似合いそうだ」
「にゃらば、妾は着替えてくるのじゃ!」
 嬉しそうに手を振って京子と更衣室へ向うナリュキを見送り、知らず微笑んでいた口元を引き締め、目的の人物を捜す。
(私の視線に気付いた節がある、気をつけないと――)
 前回の講座で直を観察しようと思っていたのに、ヴィスタに感づかれてしまった。もちろん確認したわけではないので、偶然こちらを向いただけかもしれないが、念には念をいれておくべきだろう。そう思って巡らせていた視線は、ぴたりと止まる。手近な所にヴィスタが見あたらなくて、つい気が緩んだのかもしれない。
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)の豊満な胸に気を取られていると、背後に聞こえてくる足音にハッとして振り返る。
「なんだ、そんなに慌てて。何か探しモンか?」
 テーマの相談へ顔を出していると思っていたヴィスタは、あまりにも集まった人数が少なかったからか外出していたのだろう。つい先程まで煙草を吸っていたのか、誤魔化すような香水に混ざる香水煙の匂いに、どうりで見つからなかったわけだと黎明は眼鏡をかけ直すフリして仮面もかけ直す。
「いやいや、可愛いお嬢さんでもいないかと探していただけさ」
「そりゃ悪かったな。つか、今日はツレがいたんじゃなかったのか?」
 結構な人数が集まったというのに、参加者の全員を把握しているのかヴィスタはメイド服か執事服かと揉めるメンバーへ視線を向ける。
(これは……予定が変わったな)
 ただ何か情報を仕入れることが出来たら。イエニチェリの器量とはいかほどかと探るためにも、まずパートナーを探ろうと観察するつもりではいたが、ここまで接触を試みるつもりはなかった。
「パラ実のヤツは、いつもそうやって殺気に満ちあふれた目をしてんのか?」
「……なんのことかな?」
 振り返ることなく呟いたヴィスタに、やはり前回の講義でも気付いていたのかと驚きもせず黎明は返す。バカをやっているときに探れればと思ったが、こうなってしまったのならチャンスを活かすべきかもしれない。
「勘違いならそれでいい。ただ、周りに意識を巡らすと近くのことに気づけないことがある……ってな」
「先人が良く言う台詞だね。けれど、私は胸に対しては見落とさないよ?」
「おまえは直球なヤツだな。まぁ気持ちはわからんでもない、俺は量より形派だがな」
 ニヤリと笑って振り返るヴィスタの言葉に、黎明は耳を疑ってしまう。随分と特徴的な人物の集まる薔薇学だが、仮にも教師でかつイエニチェリのパートナーを務める者がする発言とは思えなかったのだろう。
「どっちかっつーと、清楚な感じが好みなんだよ。意外か?」
「い、いやいや、好みは人それぞれだしね! へぇ、清楚な……」
 好みの内容よりも、それを発言したことに驚いたのだが、黎明は反復しながらヴィスタの内面を探ろうにも調子を狂わされて思考が纏まらない。随分と年下ばかりを相手にしてきたからか、珍しくペースを持って行かれることに戸惑っているのだろう。
(唯一言えるのは、これを素ととるより……私と同じように仮面を被っていると思うべきだろうか)
 しかし、今回は持ち場を任されている風だったのに煙草を吸いに行くし、前回の講義は直に任せっぱなし。もしかしたら、自分の思っていたよりも大した人物じゃないのかもしれない。
「お、あれじゃねぇか? ツレのお嬢ちゃんが戻ってきたみたいだし、俺も戻るわ」
 遠くには黎明を探しているのだろうナリュキの姿が見えて、残り時間が無いことに気付いた黎明は直球で投げかけた。
「先生、あなたは……何者だ?」
「何者でもねぇよ、俺には何も……ほとんど残っちゃいない」
 黎明を見付けて駆け寄ってきたナリュキを合図に中断される会話。ふと笑みを零して、ヴィスタはあっけらかんと言う。
「ま、込み入った話は酒の席でしようや。探り合っても何もわからねぇだろ」
「黎明は、酒がのみたいのかのぅ? 妾はレモネードしか持って来ておらぬのじゃ……」
 豊満な胸を強調し、スカート丈の短いメイド服に身を包んだナリュキはしょんぼりと水筒を抱えるが、黎明はいつもの調子で服が似合うと褒め称えてレモネードを飲ませてもらう。そんな仲睦まじい様子を見たヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は、わなわなと拳を握りながら話し合う集団に意見した。
「ちょっと、まさかあたしにもあんな服着てあんなことしろって言うんじゃないでしょうね!?」
 ヘイリーが指さす方に顔を向けた遙遠は、あまりにも布地が少ない衣装に身を包むナリュキを見て顔を赤らめつつ、隣の遥遠が咳払いをするので頭を振って否定する。
「いや、さすがの遙遠もあれは無理です。けれど、女性がやるのも危険そうな感じですね……」
「づばーんっと執事服を着れば、安心安全なのですよー。ぢぇんとるめんになれば、危険はないのです!」
 ひなが執事服を押す中、リネンはじっとナリュキを見つめて小首を傾げる。
「あれは、危険……なの? お持て成しをするなら、執事服やメイド服も着たけど……バニースーツや裸エプロン、裸リボンで私をプレゼント……って」
「それはその必要があったときでしょ! 普通の人にそんな格好でおもてなしなんかしないわよ!」
「……じゃあ、ヘイリーはどうするの?」
 じっとヘイリーを見るのはリネンだけでなく場に集まった一同。急に集まった視線にわたわたしながら、ヘイリーは的確な意見を述べる。
「そんなにメイド服が着たいなら、シックなイングランド調のものでいいんじゃない? あたしは着ないわよ、元貴族なのにおもてなしする側なんて!」
 フンッとそっぽを向いたヘイリーの代わりに、ルカルカがクスリと笑う。
「そうね、男の人には事情がある人もいるからシックなタイプがいいわ。女の人は執事服でジェントルマンになりましょう♪」
 きゃあきゃあと盛り上がる女性陣を止められることはなく、ぐったりとした様子で見守る男性陣とヘイリー。そして、その輪から少し離れたところで、黎明とナリュキは幸せそうにじゃれあっているのだった。
 さて、その様子を優雅に眺めている珠輝は、パートナーのリア・ヴェリー(りあ・べりー)ポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)、そして水上 光(みなかみ・ひかる)と楽しくお茶を片手に他の部門が粗方まとまるのを待っているようだ。
「ふふっ、しかしテーマを決めるのは私たちだけですか……これは、あちらが終わるのを待っているべきでしょうね」
「ボクもそう思うよ。ゲーム大会とかするにしても、全体の雰囲気に合わせられたらもっと楽しそうだし」
 とにかく楽しいことをしようと光の意見に合わせてゲームの話をしているが、珠輝は自分の意見を出さない。ポポガも楽しそうにゲームのルールを確認しているが、本当にそれだけで終わるハズがないと踏んでいるリアは、珠輝がどこで無茶を言い出すかとヒヤヒヤしていた。
「けど、このまま待っていても決まりそうにないぞ?」
 互いに拘りのある内装や贈り物、そして衣装。人数が多すぎて、各分野でそれぞれ話し合うことから始まったが、ヒートアップしてはそれを纏めることなど不可能だ。
「いえいえ、それでいいんですよ。美味しいところそりをすれば問題ありません」
 にっこりと笑った珠輝は、ぽかんとする光たちを前に高らかに宣言した。
「自分好みに染め上げカフェにすれば、全ての望みが叶うんですッ!」
 個性を主張していたナガンは、珠輝のその叫びにピクリと眉を顰める。
「染め上げカフェだぁ? 言いなりにになるってコトかよ、つまんねー」
「この世界、和洋折衷百合薔薇ヒャッハーと、あらゆるテーマを網羅しております。と、言うことはそれだけ趣味趣向の異なる人物がいるということ……現に今も、話は纏まっていないでしょう?」
 ざっくりと別けたジャンルでも、その中で何がいいかと拘りが見える中で、誰もに好まれるたった1つなど選べない。ならば、相手に合わせてしまえばいいというのが珠輝の意見だ。
「それって、例えばウェイター姿の人が注文を取りに来たときに“学ランが好みだ”って言えばメニューは学ランの……女の子が来てくれるってことか?」
「さすがリアさん! 取りそろえる衣装量や内装の都合もあるでしょうから、今回は2種類までに絞ってみるのはいかがでしょう?」
「ボクの帽子はトレードマークだ、どんなリクエストがこようとも外せないね」
 そう言うにもご安心下さいといくつかのラフスケッチを見せる。
「女装が嫌、男装が嫌と言う方もいるでしょうし、そこは交渉で。私も衣装デザインには自信があるので、個性は活かせると思いますよ」
 キラキラした瞳で珠輝を見る光とポポガは、その面白そうな提案と独創的なデザインのスケッチにこんな心配りが出来るようになればと尊敬の眼差しで見ていて、リアは溜め息を吐いた。
(色んな好みが来るだろうに、対応しきれるのか……?)
 そうして、全ての部門が自分たちの代表を決めるべくもう1度話し合う。
 はたして珠輝の言う染め上げカフェが実行出来るのだろうか……。