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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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【第八幕・手裏剣に恋した花嫁】

 三号との戦いを終え、透乃達から忍者刀を受け取った利経衛。
 彼は改めて卍子の相手をすべく放送室へ向かっていた。
 その途中、
『望、卍子の手裏剣談義! この番組は手裏剣の素晴らしさを皆様にお伝えする特別番組です』
『どうもー。校内のみんな、ちゃんと聞いてるー? 手裏剣の花嫁こと、卍子だよ♪』
 かなりの大音量で校内放送が流れ始めた。
『さて卍子様、突然のことにも関わらず、ご協力ありがとうございます』
『いえいえー、これもみんなに手裏剣を愛して貰うためだから! あのフォルム、使い勝手のよさ、武器としての機能性、なにをとっても世界一! みんなどうして普段から手裏剣を使わないのか、あたしとしては不思議でしょうがないくらいよ』
『あ。でも実は日本でも普段、特異な手裏剣を使っている方がいるんですよ』
『え、そうなの?』
『日本の忍者は素性を隠し一般人として行動をしています。その中には教師をしているものもいます。見た事はございませんか? チョークを棒手裏剣のように投げる教師を?』
『ああ、いるわね。学園ドラマとかで投げてる人! そっか、あれ全員忍者だったのね!』
(いやいや、それは明らかに違うでござろうに)
『ちょっと待ってくださいね。用意してきたものが……ああ、ありました。これは一般のチョークに偽装された棒手裏剣なのです』
『へえええ、そうなんだ。手裏剣に関して知識の深いあたしだけど、これは初めて見るわ』
『そうだ。せっかくですから今からこのチョーク手裏剣の利点を実演してあげますよ』
『ホント? それはぜひ見てみたいわ』
『じゃあいきますよ。まず、このチョーク手裏剣から出た粉を含ませた黒板消しがあります。これを叩けば、煙幕代りになるんです』
『げほ、ごほ。な、なるほど。用途の幅が広がるわね』
『これこそ、チョーク煙幕隠れの術!』
(……それにしても。さっきから放送そっちのけでやっている気がするのは拙者だけでござろうか)
『更にですね。このチョークに刺した針金でこちらのミニ黒板をひっかけば……』

ギャキキキキキキィィィィィィ

「うぎゃああああああああああ!」
 大音量で響いたその不快音に利経衛は耳を塞ぎ、そこかしこからも悲鳴があがっていた。
『このように、超音波兵器にもなるのです!』
『うぅ……こ、これは脅威的ね。驚いたわ』
『それで、卍子様。例の卍手裏剣、チョーク手裏剣と黒板消しとミニ黒板の3点セットと交換でいかがです?』
『えー? そうねぇ。確かに面白いけど、あたしの“恋人”を渡すまでには足りないかな』
(卍子殿……手裏剣を恋人とまで呼称するとはさすがでござるな)
『そ、そうですか。でしたらこの仙台藩所縁の手裏剣もおつけしますが』
『へぇ、なかなかいいの持ってるわね! でもやっぱりだーめ、手裏剣に対してもっと愛のある人じゃないとあげられなーい』
(ぜぇ、ぜぇ、卍子殿は本当に手裏剣好きな相手でないと、譲るような真似は絶対にしないでござるからな……。これはやはり戦って奪うしかないでござろうか)
『すまない、少しいいだろうか』
『てめえが卍子って忍者か?』
 と、そこに突如ふたり以外の声が入ってきた。
(ふぅ、ふう、この声は……確か保健室で会った、クレア殿とエイミー殿でござるな)
『なに、あんたたち?』
『ああ。実は私のパートナーがあなたに話があると言うのだよ』
『はじめまして、手裏剣の花嫁さん。オレは銃の花嫁、エイミー・サンダースだ』
(はぁ、はぁ、なにやら不穏な空気でござるな、ぜぇぜぇ、拙者も急がなくては)
 ちなみに。さっきからちゃんと利経衛は全速力で走っている。それでもなかなか放送室に着かないのは、言うまでも無く彼の足が遅いからである。もっとも、三号戦の時に足を怪我したせいでもあるのだが。
『ふーん、銃なんて手裏剣に比べたら、ただのオモチャに過ぎないと思うけど』
『いーや、銃だね。手裏剣がナンボのもんよ』
『む! 言ってくれるわね、手裏剣の良さをわかってない素人さん』
『そっちこそ。銃の素晴らしさがわからないなんて、人生の半分損してるじゃん』
 そのまま放送を完全にほったらかしで、ぎゃあぎゃあと口論し始める卍子とエイミー。
 そしてこれ以上の放送はできそうにないと判断した望が放送を切った頃、ようやく利経衛も放送室の前まで辿り着いていた。
「見ろこの銃口の造り! ここまで精密に作られた銃は、まさにひとつの芸術だろうよ」
 そこでは今、エイミーが持ってきたアサルトカービンやトミーガン、スナイパーライフルにハンドガン、そしてアーミーショットガンと機関銃を次々廊下に並べて良さを熱弁しており。
「この十字手裏剣は、目標物に確実に命中させる為に角度を綿密に作ってあるのよ!」
 それに負けじと卍子も、棒手裏剣に四方手裏剣と十字手裏剣、更に星型の手裏剣に加え、六方手裏剣や八方手裏剣などと数々並べて、語りに語っていた。ただし、肝心の卍手裏剣だけは場に出してはいなかった。
「くそ……こうなったら、どっちが優れてるか戦いで白黒つけようぜ!」
「のぞむところよ! 手裏剣の素晴らしさ、見せつけてやるんだから!」
 やがて痺れを切らせたエイミーは光条兵器のショットガンを取り出して、
 それに卍子の方も光条兵器らしき身の丈ほどの巨大な四方手裏剣を出し、
 そこから壮絶な戦いが始まった。
 エイミーがショットガンで壁の一部を吹き飛ばすと、卍子も巨大手裏剣を高速回転させて床の一部を切り飛ばし。機関銃による乱射には、何十もの手裏剣を一気に放って。果ては、なぜかスナイパーライフルと棒手裏剣による的当て対決までやったりしていた。
 そんなふたりの熱いバトルに利経衛は手を出すに出せずにしばらく見守り、三十分後。
「てめえなかなかやるじゃん。手裏剣ってのも侮れないもんだな」
「そちらこそ。銃に対しての考え方は改めることにするわ」
 戦いの後、ふたりはなんだかわからない内に友情が芽生えて握手しているのだった。
 そして晴れやかな顔で去っていくエイミー、それにクレアもついていき。
 卍子もまた帰宅の途に……
「ちょ、ちょっと待つでござるよ卍子殿!」
「え? あ、ウッチャリ。いたの」
「いたの、じゃないでござる! さあ、卍手裏剣を渡して貰うでござるよ!」
「えー? あたし的にはもうそういう気分じゃないんだけどなぁ」
 やる気なさげな卍子に、利経衛は頭を抱えたくなった。
「あー、ちょっといいか」
 と、そんなふたりの元に、今度はリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とパートナーであるアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)がやってきていた。
 先程の声をかけたのはアストライトで、彼はなんだか戦いたそうな雰囲気を醸し出していたが、他ふたりはあまりやる気無さそうにしていた。
「卍子ってのはネーチャンのことでいいのかな?」
「ん、そーだけど?」
「それじゃ面倒だから話はなし、いざ勝負といこうぜ」
 そう宣言するや、なぜか戦闘用羽子板を手に卍子に向かっていくアストライト。
「もー……しょーがないなぁ」
 卍子は渋々といった感じで手裏剣を指先に構え、一気に四枚を投げつける。それにアストライトは羽子板で打ち返そうと思いっきり振りぬいた。
「来たな! 俺にはそんなもの通じないってとこ、見せてやるぜ!」
 すると、カカカカ、と全部羽子板に突き刺さってしまっていた。当然といえばそうだが。
「くっ、やっぱりこいつじゃきついか……。なら光条兵器で仕切り直しだ、今度こそやってやるぜ!!」
 そして羽子板を放り出して取り出したのはブレードトンファー。
 それを勢いよく振り回していくアストライトに、負けじと卍子も自身の巨大手裏剣を手にして、そこから互いの光条兵器によるぶつかりあいが始まっていく。時折普通の手裏剣を織り交ぜる卍子だが、それもトンファーで弾かせるアストライト。
 そんなふたりの攻防に、またも利経衛は戦いに参加する機を失ってリカインやシルフィスティ共々傍観状態になっていた。
「お、やっと見つけたぜ。こんな所にいたのか」
 と、そこへ駆けつけてきたのは一輝だった
「ったく、いきなりどっか行くから探しただろ」
「ああ……すまんでござる」
「それよりおまえ。相変わらずの他の生徒頼りか?」
「う。い、いや、今から加勢しようとしていたのでござるよ」
「そうか。そりゃ何よりだ」
 一輝の威圧に、利経衛は改めてクナイを構える。
「っあ! やべ……」
 と、それを見計らったかのようなタイミングでアストライトのトンファーが弾かれた。更にその機を逃さず卍子は棒手裏剣を両肩、両肘、両の足首めがけていっぺんに投げつけ。
 あっという間に彼は着用していたヴァンガード強化スーツの端々を縫いとめられ、壁に磔にされていた。
「くっそ。マジかよ、俺がこんなあっさり……」
 身動きがとれなくなり、助けを求めようかとも考える彼だったが。リカインがニヤニヤしながらこちらを見ていた為、意地でも助けは求めるまいと思い直すのだった。
「さって。次はウッチャリね、さっさとすませよっか」
「……参るでござるよ!」
 小細工なしで向かっていく利経衛。
 それに卍子は星型の手裏剣を一枚だけを手に持って、クナイ攻撃をいなしていく。
「おいおい、完全に手加減されてるぜ」
 利経衛がすっかりナメられていると悟った一輝は、手を貸すべくアーミーショットガンを構え、それに装填してある暴徒鎮圧用硬質ゴム弾を卍子の足をめがけて撃った。
 その弾は正確に卍子の足へと向かっていき、そして見事に命中し……カキーンと甲高い音を立ててあさっての方向へと跳ね返っていた。
(なに!? くそ、こいつ足に何か仕込んでるのか。それにこんな開けた廊下じゃ、あの弾の威力が十分に発揮できない……!)
「ふふん。あたしは三号みたいな暗器使いじゃないけど、身体のあちこちに手裏剣仕込んでるのよ♪ そのせいでスピードは半減しちゃうけど、それもこれも全て手裏剣に対する愛のためなの……」
 心中で悔しがる一輝に、解説してそのままなんかトリップしだす卍子。
 そのできた隙に、利経衛は一気に勝負をかけるべく飛び掛っていった。
 だが。
 卍子はヒラリと身を翻し、逆に利経衛の方が無様に床に倒れてしまい。そこへ馬乗りになった卍子の持つ手裏剣の刃が、首筋に突きつけられていた。
「ハイ。あたしの勝ちね」
「…………まいったで、ござる」
 勝負は、あまりにも呆気なく決した。
「さーて……本来ならあたし試験中は明倫館の外に出るなって言われてるんだけど。実はこの後、手裏剣愛好会の集まりに行かなきゃいけないのよねー。というわけで、悪いけどお先に失礼させて貰うわ。んじゃまたね〜」
 そして卍子は窓からヒラリと出て行き、風のように去っていってしまった。
 徹頭徹尾マイペースだった卍子。だが利経衛はそんな彼女に文句のひとつを言う気力さえも失っていた。
 それもそのはず。ここまではなんだかんだで道具奪取に成功してきたが、ここへきて初めての奪取失敗。落胆しないわけがなかった。
 一輝はそんな利経衛に対し何も言わずに携帯を眺める。
「黒脛布さんの方は、まだ捜索中か……ん?」
 なにやらメールで報告と連絡をとっていた一輝は、送られてきた内容に目を見開かせる。
「おい、落ち込んでる暇もないみたいだぞ」
「え? ど、どういうことでござる?」