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リアクション
その時、携帯のメール着信音がなる。真珠を心配した虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)からメールが届いたのだ。涙があふれる真珠。
「直接話したい」
涼からのメールの内容に返信しようと震える手で真珠は打った。しかしまた、頭を抱えて苦しみはじめる。それでもメールを返信する真珠。だがそのまま、携帯の電源を落としてしまう。
「藤野からメールがきたぞ…でも」
「でも、なに?」
リリィ・ブレイブ(りりぃ・ぶれいぶ)はこそこそ話の要領で、涼にささやきかける。
「『私も話が』で途切れているんだ…」
不穏に思う涼。
「携帯に電話をかけてみた方が良くない?」
「ああ、そうだな」
涼は真珠の携帯に発信するが、携帯はつながらない。
「…なんか様子がおかしくないか?」
「確かに変だわ。何かあったのかしら…」
「みんな、なぜ、私たちのようなものに優しくしてくれるのだ」
赫夜は中庭で深夜まで剣を振るいながら、自分と真珠のこれからを考えて眉間に皺を寄せ、何度も素振りをしていた。
第3章 不穏なミルザムの周辺と藤野姉妹
翌朝、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は早朝から赫夜を玄関口で待っていた。
「佑也殿…こんな朝早くにどうしたのだ?」
「放課後、練習したいんだ、約束だけ、しておきたいと思って」
「…ありがとう。じゃあ、放課後、練習をお願いしよう」
「こちらこそ」
佑也は、赫夜が一人でアッサシーナ・ネラに挑んだりしないよう、警戒して、赫夜の心情を探ろうと、世間話がてら一緒に登校したのだ。
放課後。一汗流した佑也と赫夜は色々、話をした。
「赫夜さん、街が一望できる公園があるんだ、気晴らしにいかないか」
いつもなら真珠のところへ一目散に帰って行く赫夜だったが、佑也の誘いに乗る。
二人はそれぞれの生い立ちなどを話す。
「そうか、赫夜さんは昔の記憶がないんだ…」
「私は六年前、ケモノのような娘だった。それを拾ってくれたのが真珠のおじいさま、真言様なんだ…」
「赫夜さんは、何が下手なの?」
「どういう意味だ?」
「俺、正直、モテたことないんだ。…異性としてじゃなくて、『お父さん』『お兄ちゃん』みたいに見られちゃうんだよね。赫夜さんが苦手なことは?」
「歌、かな」
「歌?」
「酷い音痴らしい。風呂で歌っていたら、真珠がめまいを起こしたことがある」
「ははっそうは見えないや」
と二人は大きく笑うと、一瞬、赫夜の顔が真剣になる。と、突然、佑也の手を握ってくる。
「か、赫夜さん」
「ありがとう…気を遣ってくれて」
「そんな…俺で良かったら、話を聞くから」
「…は、話せないんだ…でも、苦しいんだ…とても、苦しいんだ…ただ、だから、…お願いだから、このまましばらく一緒にいてくれ」
と顔をうつむかせる赫夜。長い髪が赫夜の顔を見えなくさせるが、ぽたぽたと赫夜の膝に涙が落ちるのを佑也は見つけてしまった。
そのまましばらく、二人はそうしていた。
☆ ☆ ☆
「赫夜、良ければ、真珠に語りかけたいことがあるのだが」
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が赫夜にある日、声をかけた。
「イーオン、むしろ、私から頼みたいんだ」
「それほど真珠は悪いのか?」
「いや、体調は回復しつつあるんだ。だけれど、なにか、こう、心の方が…」
「弱っている?」
「それとも違う。ただ、真珠らしくない気がして…」
そのまま、イーオンと赫夜、そしてイーオンのパートナーアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)、
フィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)も藤野家に急いだ。
「真珠、聞こえるか。入るぞ」
イーオンが扉を開くとベッドの上に真珠が座っていた。
顔色は良くなり、どことなく華やいだ雰囲気さえ感じさせる。ほっとするアルゲオと、フィーネだったが、イーオンはそれに違和感を抱いた。そして説得、演説のスキルを使って語りかける。
「藤野真珠。一つだけ答えろ。お前はアッサシーナ・ネラなどというテロリストではないな? お前が違うというのなら、俺はお前を信じよう。お前を疑う他人の目から、お前を傷つける、害そうとするものからお前を守る事を約束する」
「彼の気持ちは興味本位などのような低俗なものではありません」
と、銀の髪のアルゲオも真珠に語りかけた。
それと対称的に漆黒の髪のフィーネも、イーオンが終始真剣な厳しい表情なので、怖がらせてどうすると注意しつつ安心させる笑みで語る
「言いたい事は言ってしまえ。それでも許せるのが、信頼関係というものだよ。嫌なことがあったら、言ってくれればいい。同じ学園の仲間ではないか。それを頼るとか依存とか言うのと一緒にするなよ? 人間とは、そういう風に出来ているのだ」
真珠は目を伏せがちだったが、すうっと真正面からイーオンたちと赫夜を見つめる。
「ありがとうございます。…私のようなものにそこまで…私も私らしく、自分を表現していこうと決めたところなのです。それに私は『アッサシーナ・ネラ』などではありません」
「…そうなのか」
イーオンの問いかけににこりと笑いかける真珠。
「イーオンさん、みなさん、私、とても嬉しいです。このように来て頂けるなんて。ねえ、姉様」
「あ、ああ」
赫夜は笑顔を取り戻したはずの真珠に戸惑いを隠せない。それはイーオンたちも同じだった。だが、このように素直にイーオンたちの言葉を受け入れる真珠はにこやかで、元気を取り戻しつつあるようにしか見えなかったのだ。
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