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リアクション
「元々お上品な連中じゃなかったけどさ、あの女が来てからだよ。蛮賊の連中が変になっちまったのは」
「蛮賊……って呼び方は好かねぇんだがなぁ。今回の件はそう呼ばれても仕方ないか」
羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は肩をすくめた。隣ではラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が口をとがらせながら一生懸命耳を傾けている。
ジャタの森は彼らにとって親しみ深い土地。魅世瑠は現地にいるジャタ族の友人や知り合いを頼りに聞き込みを行っていた。
ジャタ族の中でも、蛮賊の一派。人さらいを起こしているのはどうやら彼らということらしい。
「森は変にピリピリしてるわ、ジャタ族だからって変な目で見られるわ、踏んだり蹴ったりだぜ」
森に住むジャタ族にとっても、迷惑な事件らしい。聞き出す必要もなく不平不満がボロボロこぼれてくる。
「それで、その女っていうのが噂の血塗られた女神さんかい」
「それはコイツに直接聞いてみようぜ」
ドサッ
投げ出されるようにして、魅世瑠たちの前に縛られた蛮賊の男が倒れこんだ。その後ろから聞き込みを手分けしていたフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)とアルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)が現れる。露出の高い4人が集合すると、肌色の密度が半端ない。
「そこでフラフラしてたから捕まえてきた。人さらいの一派らしいぜ」
「オオオオレは何も知らねえよ!知ってたってお前らにゃ言うもんか!!」
虚勢を張ってはみるものの、異様な風貌(ほぼ全裸)の美女たちに取り囲まれ、蛮賊の男は既に可哀相なくらいうろたえていた。
「ラズ、ひとさらい、大ッキライ」
「口を割らないつもりなら……わたくし、食べちゃってもいいかしら?」
キッと目で威嚇しながら口を結ぶラズと、色気をまとわせたアルダトが男にずいと迫る。魅世瑠とフローレンスは顔を見合わせると、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「ちょ、ちょっと待っ……あ、あ、やめ…………ッ!!!!」
男の悲鳴が森の中に木霊した。……なんて羨ましい。
――それは何の前触れもなく訪れたという。
空から森に、一人の美しい少女が舞い降りた。そして、何の宣言もなく近くにいた住人を切り殺し始めた。
力こそ、真実。
蛮賊は通常、ドージェを信仰している。しかし屈服させられた蛮賊は、その力と美しさに魅せられ、彼女を「女神」として信仰しはじめた。ついた呼び名が「血塗られた女神」。
彼女を信仰する者は日に日に増し、今では相当の人数が森に巣食っている。
そして、彼女に捧げる生贄として、日々人をさらっているという。
「……ちょっと待て!だったらミリアたちは生贄にされるってのか?!」
話を遮るようにして、魅世瑠が身体を乗り出した。男は素直に頭をぶんぶん振って、肯定の意を表す。もはや抵抗の意志はないようだ。
「急がねぇと、捕まったやつ等が危ねぇ!」
「場所はどこだ!さっさと言わねぇと……!!」
「言う!言う!言いますからもう勘弁してください〜〜!!」
男から聞き出した情報を、イルミンスール魔法学校の校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)や待っている友人たちに伝えるため、フローレンス、ラズ、アルダトが森の端に繋いでいたサンタのトナカイに乗って方々に走る。
「頼んだぜ!」
その中で、魅世瑠はその場に留まり、一緒に話を聞いていたジャタ族の友人たちに向き直った。
「……ジャタ族の名誉挽回と洒落こむ気はねぇか?」
ジャタの森、上空。
「……いた」
巨大甲虫に乗って旋回していた月島 玲也(つきしま・れいや)は小さく呟いた。
手分けして捜索している仲間たちに携帯で知らせると、玲也はそのまま目標に向かって急降下していった。
森の中では、暁出雲(あかつき・いずも)が宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)との会話に花を咲かせていた。
「そこでだ、この我作の護符を信心深いジャタ族に売りつければ、楽に金儲けができるという寸法だ」
「ふぅん、何だか面白そうじゃん!行ってみようよ」
事件のことなど気にもかけず、楽しげに渦中の森で騒ぐ二人。一方は金儲け、もう一方は実験材料を採集するために、結構前から森の中をブラブラしている。
当然、事件のことなど知らない。
そこに、生い茂る木々の根に躓きながらもものすごい剣幕で駆け寄ってくる影があった。
「ん?」
訝しげに歩みを止める煌星の書の首に、ピンクのツインテールを揺らしながら一人の少女が飛びついた。その勢いは矢のごとく。完全にラリアットを食らった状態で、二人は団子になって地面に倒れた。
「うぐっ、げほっ!ちょ、……な、いきなり何なんだよ!みらび!」
「煌おばあちゃあああんっっ心配しましたよおおおおおおっっ」
少女――宇佐木みらび(うさぎ・みらび)は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、ぐりぐりと、抱きしめた煌星の書に頭をこすりつけた。無論、愛情表現であって悪気などない。
「だから大丈夫だって言っただろ」
号泣するみらびの傍まで着くと、セイ・グランドル(せい・ぐらんどる)は呆れたように肩をすくめた。
「よがったぁぁああぁあ〜……煌おばあちゃんも攫われたのかと思いましたぁっ」
煌星の書の意識はだいぶ危うくなっていたが、その単語だけはどうにか聞き取れたらしかった。
「へ?なに、さらわれる、って……?」
「君もだよ、出雲」
声が聞こえると同時に、これまでの出来事をポカンと眺めていた出雲の前に巨大昆虫が降ってきた。
「ぴょっ……!!!」
昆虫嫌いのみらびが本日二度目の奇声をあげる前に、セイがさりげなく移動し視界と口を塞いでやった。
「今、月島が虫をしまってくれるから。……目ぇつぶって我慢してろ」
みらびは、ふぃーと息を吐き出して、コクコクとセイにうなずいた。
セイの言った通り、月島玲也とヒナ・アネラ(ひな・あねら)が背から降りると、甲虫はひっそりと茂みの中に姿を隠した。
パートナーの失踪が誘拐でなかったことにホッとしながら、玲也が二人に述べる。
「女神信仰の蛮賊による誘拐事件が多発してるんだ。帰ってこないから巻き込まれたのかと思ったよ」
そこで帰るはずだったのだ。煌星の書がこんなこと言い出さなければ。
「せっかくここまで来たんだし!真実を突き止めてから帰ろうよ」
数十分後。
ジャタの森の奥のさらに深くにある石造りの神殿。少し前まで使われていなかったこの古い建造物が、現在の蛮賊のアジトだ。
そこに、見覚えのある怪しい神官とその一行が訪れていた。
「この護符さえあれば、皆々様に強い加護がございます。是非、御女神様にも献上させていただけませぬか」
このエセ神官はというと、もちろん出雲である。他の面々はそれぞれ巫女や信者に身をやつし、出雲の背後で祈りを捧げている。
「こんなんで騙せるのかな」
「いや、どうだろうね……」
ヒソヒソと囁きあう一行の中で、煌星の書はノリノリだった。
「ダパターー!!キエーィ」
などと、よくわからない祈りの文句を唱え続けている。調子付いたのか、出雲は潜入という目的を無視して、蛮賊の見張り相手に商売を始めた。
「今なら護符3枚綴りで2割、5枚綴りなら3割安である!」
胡散臭いながらもはじめは話を聞いてくれていた蛮賊たちだったが、相手にしない方がいいと思ったのか、
「いや、いらねぇよ」
と追い払う仕草を見せてきた。一同は顔を見合わせ――
「……しょうがないな」
隙をつき、セイが蛮賊を羽交い絞めにすると、玲也がすかさずペットの毒蛇で脅し、その口に煌星の書が作りたてホヤホヤの洗脳薬をねじりこむ。哀れな見張りは泡を吹いて倒れた。
とどのつまり、強行突破によって怪しい一行は神殿内への潜入に成功したのだった。
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