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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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「会長とティセラさんは良ければこちらをご使用ください」
 影野 陽太(かげの・ようた)は持参した黄金の杯を2つ、環菜とティセラの前に差し出した。
「少し仰々しいようだけれど……」
「わたくしは構いませんわ」
 ティセラが頷いたのを見て、環菜も「私も使うわ」と答えてくれる。
 環菜のことを心底好いている陽太は彼女の返答を嬉しく思いながら、それぞれの杯に紅茶を注いだ。
「黄金の杯で紅茶を飲むだなんて、贅沢ですわ」
 笑みながら、ティセラは一口、注がれた紅茶を飲む。
「悪くは、ないわね」
 表に出さないながらも環菜も気に入った様子で、紅茶を飲んだその口元は笑んでいた。
 陽太のパートナーのエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、護衛をしつつも既にお茶会を満喫している様子である。
「ツァンダで一番美味しいと評判のお茶と茶菓子だ」
 一方的にお茶や菓子をいただくのは負けた気がすると風祭 隼人(かざまつり・はやと)は持参した茶葉と菓子を取り出した。
 環菜とティセラの前には既に金の杯に注がれた紅茶がある。隼人の持参した茶葉は2杯目以降にと、一旦、傍に置いておいた。
 隼人は菓子の包みを開けると、テーブルのところどころへと並べていく。
「姫、妖精スイーツをどうぞですよぅ」
 ルナリオ・セラフィーラメイア(るなりお・せらふぃーらめいあ)はティセラへと妖精が作ったと云われる魔法の菓子を差し出した。
「そして、こちらがフィーラの淹れたプーアル茶ですねぇ」
 フィーラこと、パートナーのナナリーが淹れた緑茶素材のプーアル茶を「共に飲んでくださいですよぅ」と添える。
「ありがとうございます、ルナリオさん、ナナリーさん」
 ティセラは微笑んで、出された菓子とお茶を受け取る。
 スケッチブックに手早く返事を書いたナナリーは、小さな光を呼び出すと、合図するように明滅させた。
 気付いて、ティセラがナナリーの方を見ると、スケッチブックが彼女の方へと向けられている。
『お口に合うと良いのですけれど……』
 書かれた言葉と共に、眉を寄せ、心配そうな顔をするナナリーに、ティセラは微笑んで見せると、プーアル茶の入ったカップを手にした。
 一口含んで、味を確かめるようにゆっくりと嚥下する。
「美味しいですわ。お代わりをいただきたいほどですの」
 微笑むティセラに、ナナリーは『すぐに』と走り書くと、再び茶を淹れ始める。
 体調も芳しくないのに無理をしようとするナナリーを気遣うように、ルナリオがヒールを掛けた。
「大丈夫ですの?」
 斜め向かいに座っていたエリシアがナナリーの様子を見て訊ねる。
「声出ないだけですよぅ、ご心配無く」
「そう。お大事にですわ」
 具合が悪いより大事な気がするけれど、心配ないと言われれば、エリシアは告げて、目の前のお茶とマドレーヌへと視線を戻す。
 フォークを手に、マドレーヌを一口サイズへ切り分ければ、嬉々として、それを口へと運ぶ。ふんわりとしたマドレーヌの触感に、エリシアの顔は笑顔でいっぱいになった。
 マドレーヌを半分ほど食べた辺りで、お茶も口にする。ミルディアが注いでくれた、仕込み終えたばかりだという新しい紅茶であったか。
「マドレーヌの味も素敵ですが、紅茶の口当たりも素晴らしいですわ……」
 ほぅ、と息をついて、落ちてしまわないかと心配しながら頬へと手を添える。
「お褒めの言葉、ありがと……わわっ!」
 「お代わりいかが」と訊ねようとしたミルディアは、躓いて倒れそうになった。
「危なかったです、お気をつけて」
 エリシアの傍の席に座ろうとやって来ていた陽太がミルディアを受け止め、大事には至らなかった。
「うのぉ……シミが……」
 唸るミルディアの視線の先、ティーポットの口から勢い良く飛び出たのであろう紅茶が、テーブルクロスへとシミを作ってしまっている。
 ハンカチを押してシミを抜こうとするけれど、上手くいかない。
「少々のシミくらい、大丈夫ですわ」
 気付いたティセラがいつの間にか向かい側に来ていたようだ。クロスの小さなシミを確認すれば、そう伝える。
「ごめんなさい……」
 ミルディアが頭を下げれば、「心配しないで」とティセラは微笑んだ。
「えっと……気を取り直して、お代わりいかが? 陽太さんやティセラさんも」
 下げていた頭を上げると、ミルディアはエリシアや陽太、ティセラに訊ねる。
「それでは、いただこうかしら」
「俺にもいただけますか?」
「わたくしも」
 3人の答えを聞いて、ミルディアは嬉しそうにそれぞれのカップへと紅茶を注いで回った。
 聞き手に周り、目立たないよう長テーブルの端の方に座る天城 一輝(あまぎ・いっき)に対して、パートナーのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)はサンドイッチなどの軽食やクッキーをテーブルの中央などに置いて、皆で手を伸ばせるようにした。
「デザートにチョコはどうかな?」
 大好きな紅茶を淹れ、たくさん用意したショコラティエのチョコを勧めて回る。
 隠形の術を使ってマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)は、姿を隠す。害意を感じ取れるよう、辺りを警戒しながら彼はそのまま待機し続けた。
 パートナーのシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)は、ティセラの傍の席へと着いた。腹の探り合いにおいて、彼女の補佐が出来るように、と。
「一騎当千のティセラに護衛は必要ないかもしれないが」
 己の傍に立つ人間が1人でも多く居た方が彼女も警戒することなくお茶会を勧めることが出来るだろう、とジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)はティセラの護衛に回った。
 身の丈3メートルもある彼が傍に立てば、背が高めのティセラでも陰に隠れれば見えなくなってしまう。何かあっても、言葉どおり、身体を盾にして彼女を守ることが出来る。
 自身にとって有益となる情報が得られるかもしれないと、話の内容に耳を傾けながら、ジャジラッドは辺りへと警戒を向けた。
 鏖殺寺院のメンバー入りすることを望むジャジラッドが危惧するのもおかしいかもしれないが、非武装のお茶会など鏖殺寺院側にとってチャンスだと思われる。護衛に紛れて、寺院のメンバーがテロ行為を行おうと暗躍を企てているかもしれない。
(鏖殺寺院のメンバー入りは希望する。だが、ここは後々のことを考えて、ティセラの護衛をしておくのが良いだろう……)
 そんなことを思いながらジャジラッドは、いつでもティセラの盾となれるよう、護衛に徹するのであった。
 頭からすっぽりと全身を覆う黒のローブで身を包んでいるのは、葵 岩衛門(あおい・いわえもん)とパートナーのミケール・ナヴァーラ(みけーる・なぶぁーら)サルヴァトーレ・リイナ(さるぶぁとーれ・りいな)の3人だ。ティセラから1歩下がった場所に並んで立ち、控えている。
 岩衛門がティセラの護衛を買って出たのは、第1に『名前の売り込み』をするため、そして第2に『信頼を勝ち得る』ためだ。
 龍神一家といういう名で、広島風やくざが地である岩衛門たちであるが、無名で新興の小さな一家だ。無茶をしてでも彼女のことを守り、名を覚えてもらいたい。
 表立って控えることで、楽しい茶会の邪魔をしてはならないとローブを被っているのだが、その姿が逆に目立ってしまっている。
 怪しい者ではないかという視線を受けながらも、スキルの使用によりローブの下でサルヴァトーレ同様ホワイトタイガーの耳と尻尾を生やした岩衛門と、サルヴァトーレは獣特有の鋭い感覚を辺りに向けて、警戒をした。
(何があるか分からないのはどっちも……だな)
 ティセラと環菜、それぞれの傍に控える学生たちを見ながら、橘 恭司(たちばな・きょうじ)はそう思った。
 武装を解除しているとはいえ、力を持つ学生たちの手にかかれば、攻撃手段は何とでもなる。
 彼自身、どちらかに付くではなく、中立の立場を護るつもりではあるけれど、環菜を守る者たちは充分居そうなため、何かあったときはティセラを守ろうと考える。
(何も起こらないなら、のんびりできていいんだがな)
 そんなことを思いながら、給仕の手伝いをし、お茶会の様子を窺う恭司であった。
「はじめまして、ボクはリベルと言います。我が主の命でやって参りました、お手伝いする事はございませんか?」
 滝沢 彼方(たきざわ・かなた)のパートナー、リベル・イウラタス(りべる・いうらたす)がティセラへと訊ねる。彼方やもう1人のパートナーであるフォルネリア・ヘルヴォル(ふぉるねりあ・へるう゛ぉる)も一緒だ。
「給仕をしてくださる方の手伝いをしていただければ有難いですわ。皆様、大変そうですし」
 長テーブルの端から端まで紅茶や珈琲を注ぎ回ったり、菓子を配り歩いている幾人かの給仕をする学生たちを見て、ティセラが告げる。
「お任せください」
 リベルは頷いて、彼方やフォルネリアと共に、侘助へと声をかけた。
「それなら、あちらのテーブルへ紅茶をお持ちしてあげてください」
 声をかけられた侘助は、用意していたティーポットをそれぞれ3人へと渡す。
「「「はい」」」
 頷く3人の声が重なった。
 指示通り、3人はティーポット片手に、お代わりの有無を訊ね、また、彼方がティータイムを使用して用意した菓子も共に配りながら、皆の会話を聞いて回る。