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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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「聞きたい事はあるけど、聞かれたい事ではないだろうから」
 出来れば、ティセラたちと女王の間に何があったのか知りたい。
 けれど、自分が死んだときのことを思い出したいと思う者はそんなに居ないだろう。ティセラだって思い出したくない人かもしれない、と。
「ティセラさんが生きていた頃の昔のシャンバラって、どんな町だったの?」
 そう考えた五月葉 終夏(さつきば・おりが)が問いかけたのは、そんな言葉だった。
「ヴァイシャリーのような感じですわ」
 ティセラの答えに、終夏はヴァイシャリーの景色を思い出す。
 途中で、ガチャンとティーカップが落ちて、割れてしまったような音がした。
 知らない人たちとの茶会など初めてで、極度の緊張状態に陥っていた終夏のパートナー、ルクリア・フィレンツァ(るくりあ・ふぃれんつぁ)がカップを落としてしまったのだ。
 涼や恭司がやって来て、カップを片付け始める。
「……ごごごごめんなさいティラミス!」
 慌てて謝るルクリアだが、終夏が首を横に振ることでティセラの名を間違っていたことに気付いた。
「えっ、ち、違う? わ、私、人の名前を覚えるのが苦手で……」
 どもりながら間違えてしまった理由を告げる。
「好きに呼んでくださって構いませんわ。いつかは覚えていただきたいですけれど」
 くすりと笑みを浮かべながら、ティセラは答える。
「あ、あああ、ありがとうございます、ケサランパサラン!」
 その一言にホッとして、ルクリアはそう返すけれど、やはり間違ってしまっている。彼女がすぐに名前を覚えることはないようだ。
「ど、どどどうしよう、おーちゃん……っ」
 2度間違われようともティセラは笑顔のままだ。
 その笑顔に気圧されて、ルクリアは椅子を引いて、終夏の背へと隠れてしまう。
「構いませんのに……」
「大丈夫だって、ほら、ティセラも言ってるから」
 ティセラの言葉に、終夏も背に隠れたルクリアへと笑みを向けた。
「そそそ、それでも、ティアラに申し訳ないわ……」
 惜しい、と言いたくなるような間違いに周囲からも笑みが零れる。
「いずれ覚えていただけるのでしたら、それで構いませんのよ? ですから、ほら、席にお戻りになって」
 ティセラはルクリアに椅子に座るよう促す。
 おずおずと終夏の背から出てきたルクリアは、促されるままに座った。
「紅茶です、どうぞ」
 一連の流れを見ていた涼が、ルクリアの前へと差し出した。
「あ、あああ、ありがとうございます……!」
 震える手をぎゅっと握って、落ち着かせ、彼女はカップを手に取る。今度は落としてしまうことなく、一口飲むと、ゆっくりとカップを置いた。
「落ち着きました?」
「は、はい……」
 ティセラに訊ねられ、ルクリアはゆっくりと頷いた。
「歌は、お好きですか?」
 燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が訊ねる。
 クイーン・ヴァンガードの隊員である以上、普段はティセラとは敵対する関係で、どれだけ強いのか、それとも弱いのかと力のことにしか興味はなかった。
 だが、今は武装などしていないお茶会の場だ。
「ええ、好きよ。あなたは?」
「ザインも歌が好き」
 人並み以上に歌唱力は優れているだろうと自覚しているくらいだ。
 ティセラと一緒に歌うことが出来れば良いと思うけれど、それは言い出せず、自分が歌を披露してよいかだけ、訊ねる。
 頷いて、「是非聴かせてくださいな」と答えるティセラに向かって、ザイエンデはゆっくりと口を開いた。
 歌うのは、心に幸福を呼び起こす、幸せの歌。
 耳を傾けていた皆の心が満たされていく。
「素晴らしいですわ」
 ティセラには効果はなかったようであるが、1曲歌い終わったザイエンデに彼女は拍手を贈った。
「良かったな、ザイン」
 拍手を受けて、嬉しそうに微笑むザイエンデに、お茶や菓子を運んでいたパートナーの永太が声をかける。
「うん」
 こくりと頷いて、ザイエンデは一層、笑みを浮かべた。

(早期にどちらが女王となるのか、決定した方がいいと思うわ。そのためには各校に判断材料を与える機会を設けるべきだと思うけれど……)
 自分自身もどちらを指示するべきか、皆の質問に対する回答などを聞いていた早瀬 咲希(はやせ・さき)は思う。
 女王としての目的意識が見えず、ただ御輿に担がれているだけのミルザムに対し、実質的にクイーン・ヴァンガードの指揮を取るなど実験を握っている環菜。
 彼女がティセラとどのような腹の探り合いをするのかと見守っていたのだが、皆が質問しているのに対して、環菜は発言していないように思う。
 ただ、他の学生が提案した協力体制を敷くことを否と答え、敵対関係を解消することについては環菜次第だと告げている以上、結局答えは平行線のようだ。
「ミルザムとティセラ、両者が対談を行えばいいのでは?」
 咲希の呟きに、ティセラと環菜、それぞれが彼女へと視線を移した。
「テレビ等の通信メディアによる生放送の形式を取り、主要6都市にて放送をすれば、各陣営がどちらを支持するのか決めやすくなる筈。
 少なくとも態度を保留している各校がどちらを支援するのかの判断材料の1つにはなると思うのよ」
 考えたことを口にすれば、ティセラも環菜も難しい顔をした。
「考えておきますわ」
「そうね」
 良い返事をするでも突っぱねるでもなく、それぞれがそう答える。

「私は先に、外に出ています」
 壁にもたれ掛かったまま、皆の会話を聞いていたアシャンテは、環菜にそう告げて、食堂を出て行く。
 他の部屋を探索しようと試みるではなく、ただ発着所へと彼女は向かった。