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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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 9.砦跡

 古代の「鏖殺寺院の砦跡」に向かった面々はどうなったのであろうか?
 
 ■
 
 【砦跡隊】に先駆けて現地で夜営をしていた閃崎 静麻(せんざき・しずま)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)服部 保長(はっとり・やすなが)神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)の4名は、夜明けを待たずに行動をはじめていた。
「夜だと言って。敵さんの奇襲を受けない、という保証はないからな!」
 砂嵐の中にサンドゴーレムの姿を見た静麻の決断は早かった。
「攻撃されるくらいなら、撃って出た方がいい!」
 そして夜営の施設をたたむと、砂嵐に挑んだのだった。
 
 夜の行程である。
 まして月も隠された砂塵の中ともなれば、一寸先は闇だ。
「ホントはもっとパッと燃やしたかったんだけどさあー!」
 不服そうにプルガトーリオは「光精の指輪」の人工精霊を呼び出し、光源の確保に努めた。
「でもまだ足りないわよねえ……」
 ニヤッと笑い、火術を使う。
「これでどうよ? ファイヤーッ!」
 一瞬、豪勢な炎が周囲を陽光の如く照らし出す。
 と、ゆらりと影が!
「でたぞ! レイナ!」
「ええ、サンドゴーレムですね!」
 砂の巨人は、一行を挟むようにして突如姿を現した。
 その数、2体。
 レイナは眉をひそめながらも、ライトブレードで的確に倒してゆく。
「これで終わりです!」
 トドメに光術を叩き込んだ。
 ザッと、砂状と化したサンドゴーレムの残骸が風に洗われて行く。
「しかし、いつの間に来たのでしょう?」
 優等生な彼女は、注意深く周囲を観察していた。
「気配すらなかったのですが……」
「幽霊かな?」
 静麻は肩をすくめた。
「これじゃ、来る方向なんて見極められないか」
「砦跡の在り処、ですか?」
 うんと頷く。
 サンドゴーレムが来る方向を見極めれば、中心にあると思われる砦跡に辿りつける――それが静麻の見解だった。
 マスター、とレイナはライトブレードを仕舞いつつ。
「それですが、もうひとつ有力な情報が」
「レイナ?」
「私がプルガトーリオと町で情報を収集していたことを、お忘れですか?」
 その時レイナは、砦にまつわる伝説を聞いたのだという。
「『風の行く手に砦がある』。つまり、『風の流れに沿って歩いてゆくと、迷わずに砦につける』と。古い吟遊詩人の歌にあるそうです」
「伝説ね。人の噂と伝説は似た様なものだと思うが……」
 静麻は人差し指を立てて、風の方向を見定める。
「まあ、試してみる価値はあるかもしれないな。行くぞ!」

 ■

 後発組の【砦跡隊】が到着したのは、朝方だった。
 篠宮 悠、レイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)、マリアンヌ・オードレインの3名である。
「でも何だってこんな危険な場所に、野原キャンパスはあるのかな?」
 マリアンヌはふと浮かんだ疑問を悠にたきつける。
「ツァンダ家に頼まれたって噂だけどな」
「ツァンダ家?」
「ああ、パートナー契約者の特性に『常人より高い能力を持つ』っていう奴があるだろ? それで町の人達の保護を図ったらしいぜ」
「なのに当人達は契約者達を毛嫌いするんだね? へーんなの!」
「そんなことより、静麻達を捜すぞ! マリアンヌ」 

 だが夜営の跡に静麻達の姿はなかった。
「嫌でも、別行動だな」
 悠はチッと舌打ちする。
「策と言っても、オレ達はレイオール頼みだぜ!」
「レイオールの巨体とパワーを生かして、砂嵐を崩して突き進むんだよね?」
 マリアンヌは半信半疑である。
「でもアイテムとかスキルとか……全部使えないとなると、力に頼るしかないもんね」
「大丈夫だ! マリアンヌ。任せておけ! 悠」
 真面目なレイオールはドンッと胸を叩くと、悲壮な覚悟で砂嵐に臨む。
「さ、2人はワタシの後ろに隠れて! では、行くぞ!」

 ……で、1時間後。
 散々迷いに迷った挙句、砂まみれの帰還となった。
「しかも、元の場所じゃないの! 悠っ!」
 悠はあくびで聞き流し、対策を練っている。
 隣でレイオールが巨体をこれ以上なく窄ませていた。
「すまぬ、皆……」
「あんたのせいじゃないさ、レイオール」
 さて、と悠は考える。
(ここは、寝てる場合じゃないな!)
 第一このままにすると、レイオールがウダウダとショゲたままになりそうだ。
 これから夏に向かうというのに、この巨体で……。
(それはウザすぎる!)
 敗因は何だったのだろうかと考える。
(【迷いの森】を同じ性質を持つ結界なんだよな。ってことは、力任せに行っても、方向を途中で狂わされて「砦跡」には辿り着けない。そういう仕様ってことか!)
 携帯電話が鳴ったのは、その時だった。
「ああ、オレだ! シルフィスティ……え? 『風の行く手』?」

 ……という訳で、【砦跡隊】はシルフィスティの助言を基に、『風の流れる方向』に沿って砂嵐を攻略することにした。
 爆発音が鳴り響いたのは、目的地を目前にした時のことだ。
 
 ■
 
 【砦跡隊】が到着する少し前のこと。
 静麻達は四苦八苦しながらも、ようやく目的地の砦跡へと到着した。
「5000年前の、兵どもが夢の跡か……」
 砂の塊を踏みつぶして、見上げる。
 目の前には奇妙な形の、大きな岩の門があった。
「鏖殺寺院、と言われれば、そんな風にも見えますね?」
「そうか? それがしには、それそのものにしか見えんでござるが」
 保長は門に近づきしげしげと検分する。
 その門の形は、まさしく「ダークヴァルキリー」そのものに見えなくもない。
「スキルを使ってもよいでござるか?」
 周囲をくまなく検分し、敵やトラップがないことを見極めてから、保長は「ピッキング」を使った。
 岩だけに「重い」と思われた扉は軽い動作だけで開き、「砦跡」の全貌を明らかにする。
 
 そこは、時間の止まった「廃墟」だった。
 破壊された石畳はそのままで、草の一本も生えていない。
 ただ風の音が絶え間なく響き渡るのみである。
「つまりはそれほど強力な『結界』ゆえに、兵の1人も配置しなくてよい、と。ペルソナは考えたようでござるな」
 古来より、どんな兵共をも寄せ付けぬ強固な「砂嵐」の結界。
 自分達が辿り着くことなど、考えてみたことすらなかったようだ。
「廃墟」と、中央に円の台座。
 その中心に折れた石柱があり、そこに女が縄で縛りつけられていた。
 黒髪の、生身の女だ。
「町長夫人?」
 静麻の語尾がやや上がったのは、彼女が予想していたよりはるかに若かったから。
 それにこれほど情熱的な美貌の持ち主を、彼は見たことがなかった。
「私が! 救助に当たります!」
 レイナが突如仕切ったのは、町長夫人の容貌を心配してのこと。
「保長、手伝って下さい。プルガトーリオも!」
 レイナは女衆を引き連れると、まず保長に念のため周囲の安全を確認させたうえで、町長夫人に近づく。
 意識を失っていた町長夫人はハッとしたが。
「大丈夫です、町長夫人。お迎えにあがりました、味方です」
 レイナは安心させたうえで縄をほどき、彼女を救出した。
 その間に、静麻は砦跡の様子を探る。
「ここは氷山の一角だな」
 彼は呟く。
「何か……面倒な気がする。こういう奴は、破壊しておいた方がいいかもな」
 静麻は「土木建築」と「博識」を使用する。
 そして建造物崩壊に適したポイントを割り出す。
「破壊工作」と「トラッパー」で、爆弾を設置。
「全員、砂嵐の中に駆け込め!」
 町長夫人を含む全員を退避させた後で、爆破させた。
「あたしも加勢するわよ!」
 キャハハハッ! と無邪気に笑って、プルガトーリオが火術で威力を増大させる。
 
 悠達【砦跡隊】が聞いた爆発音は、この時のものだったのだ。
 
「けれど、本当にこれですべて壊滅出来たかは分からないな……」
 砂嵐の中から炎の明りを見据えて、静麻は眉をひそめる。
 
 ■
 
 静麻達は砂嵐の中で【砦跡隊】と合流した。
「お疲れさん、帰りは俺達に任せろって! な、レイオール」
「ああ、悠。さ、ワタシの背に隠れるがいい」
「サポートは私に任せて!」
 マリアンヌがウィンクする。
 悠はだるそうに光る長剣を振りかざす。
「オレの光条兵器もな!」

 そうして一行は、レイオールの巨体で風をさえぎりつつ、風と逆行する形で進み、砂嵐の外へ辿り着くことに成功した。
「巨体ってのは便利だな。色々な意味で頼もしいぜ!」
 静麻達の心からの称賛を、レイオールは一身に受けることとなる。
「ともかく、一旦キャンパスへ帰投しよう。もちろん、町長夫人確保の連絡は最優先だな」