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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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 トレント達はひざまずいて、一行に道をあける。
 その両眼からは邪悪さはなくなり、色は澄み切った碧色となっている。
 ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は【捜索隊】やシイナから聞いた話を思い出しながら、「博識」でトレントに関する情報を整理する。
「トレント達は女王に従い、て歌われているんだよね?」
「博識」で導き出されたトレントは、ノーンの演奏によって温順な性質に変わる。
「てことは、女王の味方なんだから、本来は町の人々の味方でもあるんじゃないのかな?」
「その通りだよ、お嬢さん」
 声は意外な場所から発せられた。
 トレントがしゃべったのだ!
「何、そんなに驚くこともないさ。我々は女王に使える高等な魔物。知恵も理性もあるし、会話だってできる」
「でも、現にボク達を見境なく襲ってくるじゃないの? どうして?」
 仲間の椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)を攫われた分、ブラッドクロスの口調はキツイ。
 トレントは後悔の溜め息をつきながら答えた。
「それだけ『迷いの森』の魔力が強いということだよ。だからこうして『竪琴』によって、『聖なる音』を奏でなければ、我々は本来の自分を取り戻すことすら出来ないのさ」
 そしてそのことをはじめに見抜いたのは、2人。
 町長夫人と、今は「ドクター・ペルソナ」と名乗っている森好きの青年だった。
「最も青年の方は、町の人達の酷い迫害から、目的も性格も変わってしまったようだがね」
 フウッと溜め息をつく。
「この森の神秘を解き明かして、我々を助けてくれようとしていたのは事実なのさ。初めはね」
「でも……でも! おまえらが! アヤメ君を蝋人形にしてしまったんだ!」
 キッと睨みつけて、鬼崎 朔は火炎放射器を向ける。
 その手を押さえたのは、他ならぬ椎堂 紗月(しどう・さつき)
「いいよ、朔」
 だるそうに首を振る。
「そんなことしたって、アヤメは喜ばない」
「紗月……」
「じゃ、こんなところでどう?」
 シュッ、と。
 梓はカードをトレント目掛けて投げつける。
 頭部に突き刺さったそれには、「この者、パラミタ人蝋人形化犯」のメッセージが書かれていた。
「まっ、これくらいの遊び心くらいあってもいいでしょ?」
 紗月達に一瞬笑みが戻る。
 
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「そうだ! そう言えば、この辺りで傷ついた町の人達を見なかったかい?」
 コハクはトレント達に問いかける。
「ああ、見たさ。この辺りだ」
 トレントは左の脇を開けて道を作る。
「だが、『光精の指輪』は館までの道しか作らない。『竪琴』を持っていくがいい。そうして分からなくなったら何かのアイテムを使い、『竪琴』で大人しくなった我々の仲間から話を聞くといい」
「ありがとう! トレントの皆さん!」
「道中は危険だ! 俺が先頭に立とう。『眠りの竪琴』が役に立つ」
 レンが進み出る。
「ボクは? どうすれば……?」
「傷ついた町民達の姿を一緒に探して欲しい、それだけだ」

 そうしてレンを先頭に、コハクをはじめとする【救助隊A】は一行から離れ、トレント達が開けた小道の暗がりに消えて行った。
 
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「では木の魔物達が正気なうちに、我も要望を伝えてみようかのう?」
 ゆるゆると一行の前に進み出たのは、少年ともとれる容姿の美少女――ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)だ。
「同じ推理研のメンバーとして、イルマを助けなければならんからな」
 そう言って、彼が所望したのは「『蝋人形化』するという泉」の在り処だった。
「これをペルソナのヤツにぶつけて見るもの、面白そうじゃしなぁ」

 トレント達は顔を見合わせたが、結局道をあけた。
「我々の『正気』も長くは持たん。早くするのだぞ、コドモ先生」

 ウォーデンはノーンを伴い、トレント達が作った道を進む。
 泉は間もなく見つかった。
「何と! たわいもない。普通の泉ではないか!」
 が、無防備に泉に触れた小鳥は、そのまま水の中に沈む。
 鬼火の光に照らされる中、ノーンが覗き込む。
 小鳥は生前の姿のままで固まっていた。
「ひゃあ! 蝋人形にされちゃったわ! センセ!」
「ふむふむ。トレント達は、どうやら嘘はつかなかったようじゃな」
 おまけに蝋人形化の魔法は、謎だらけの公式を使っているようにも思える。
「武器としてだけでなく、我が研究の役にも立ちそうじゃな! さて司の分も収集するとするか」
 そうして試験管15本に採取したウォーデンは一行の元へ戻ると、資料として月詠 司(つくよみ・つかさ)に7本を渡すのだった。
「だがな、コドモ先生よ」
 トレントは小瓶を取り出して見せた。
 瓶には鏖殺寺院の護符が貼られてある。
「この護符には『ダークヴァルキリーの加護』が一時的に付与されておる」
 トレント達は溜め息をつく。
「こんな風にな。『呪い』の領域でしか『蝋人形化』の効力を発揮せんのだ」
「つまり護符がなかったり『迷いの森』を一歩出てしまえば、ただの水になってしまうと。そういうことなんじゃな?」
 トレント達は頷いた。
 ウォーデンは天を仰いだ。
「サンプリングしたはいいが、肝心の研究が出来んとは!」
「そういうことだ。さ、先は長いぞ! 諦めて急ぐがいい」

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 彼らの遥か後方で、メニエスは冷静に一行を観察していた。
「なるほどね」
 森の小道から戻ってくるウォーデンの姿を見て、僅かに目を細める。
「蝋人形化の秘密は分かったわ! 後は、トレント達を操る技術の謎ね。クククッ」

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 その頃。
 別行動をとっている風祭隼人は、永久達の尾行に失敗し途方に暮れていた。
「あのねーちゃんについて行けば、何とかなるって思ったんだがなあ……」
 それは大きな間違いなのだが。
 隼人はポケットから「光精の指輪」を取り出し。
「あとは、こいつでどうなるかだな?」
 森に掲げる。
 人工精霊が現れ、森を照らしはじめる。
 トレント達のざわめきが気になったが。
「森の中では、地球人は襲われない。そうだったよな?」
 近辺にパラミタ人はいない。
 そう信じている彼は安心してアイテムを使用したのだった。
 隼人の狙い通り、ギシッと木々の軋む音と共に道があけて行く。
「銃型HC」のマッピングデータを見る。
「アイナがくれたデータと同じだぜ!」
 そして荒い息を吐きつつ館を目指すのだった。
 
「アイテム」使用の影響が、別の人々に不幸をもたらしたとも知らずに……。