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第三章 ゴーストコントロールルームへ

 ゴスッ、とテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)の拳がテロリストの顔面にめり込んだ。
「ちょ、テディ、ものすごい音がしたけど大丈夫なの……?」
 テディの契約者である皆川 陽(みなかわ・よう)が心底不安そうに訊ねる。
一階の東棟まで来た彼らは、ゴーストコントロールルームを目指すため、捕まえたテロリストに尋問を加えていた。
陽の代わりにテディが尋問を行っているが。
「大丈夫だよ。僕にまかせといて。ほら、場所を吐きやがれっ!」
「ぐふっ……。わ、わかった。教えるからもう、許して……」
 腫れ上がった顔で許しを請うテロリスト。相当痛めつけられたのだろう。土下座で命乞いをするような勢いになっていた。
「ゴ、ゴーストコントロールルームは、この東棟の奥だよ……」
「嘘じゃないよね? 嘘だったらオマエ、苦しんだまま死んでもらうからね?」
 テロリストを睨み付ける目が、暗く曇る。
 これだけテディが容赦ないのには理由がある。
 彼は一度戦死しており、陽との契約によって復活したシャンバラ人である。死者をゴーストに変えるバルジュ兄弟に目を付けられてしまっていれば、テディもまた、ゴーストとしていいように操られていた可能性もあったのだ。
 それを知っているテディは、こんな連中を許すはずが無かった。
「ホ、ホントだよ……マジだ」
「よし。んじゃ陽、急ごう」
「えっ、あ、うん……」
 二人は走り出した。


「スイッチのチェック……完了」
 先にゴーストコントロールルームへとやってきていた相沢 洋(あいざわ・ひろし)が、立ちふさがるようなでかい鉄扉に爆薬を仕掛けている。破壊工作の能力を持っている者ならではの手際のよさに、一緒にいたクラーク 波音(くらーく・はのん)アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)の三人はただただ珍しそうに眺めるばかりである。
「よし。みんな下がるであります!」
「みなさん、耳をふさいでください!」
 乃木坂 みと(のぎさか・みと)がその場にいたメンバーに注意を促す。
 途端、爆音が響き渡った――
 もうもうと昇る煙の奥から見えたのは、ひしゃげた分厚い鉄扉。先ほどまでの堅牢さは微塵も感じられないほどの変わりようだった。
 室内からは、突然の攻撃に対する混乱や怒号が上がっている。
「うわっ! び、びっくりした〜」
「はう〜。耳がキンキンします……」
「アンナおねぇちゃん! 大丈夫!?」
 爆発の衝撃を間近で体感した波音、アンナ、ララの三人は、驚きを隠せなかった。
「今だっ! 総員突撃せよ!」
 号令一下、扉の奥へ進んでいく洋とみと。
「よーし。あたしたちも負けてられないよ!」
 波音たちもまた、走り出した。


 ゴーストコントロールルームからわりと近くの場所で、クロス・クロノス(くろす・くろのす)は轟音を聞いた。
「一体何の音でしょう」
 気になったので向かってみる。すると、
「あれっ、クロスさんじゃないですかぁ」
「よっ!」
「あなたたちは……」
 クロスの目の前にいたのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)と、そのパートナーである白銀 昶(しろがね・あきら)だった。
「あなたたちもゴーストコントロールルームへ?」
「ああ。トレジャーセンスを応用してゴースト探せないかなって思ったらビンゴでさ、今ここまで来たってわけだぜ」
「死んでからも利用されるなんて……そんなこと許ません。だから、ゴーストを助けたいんです」
「私も同感です。ゴーストをいいようにするなんて許せません。行きましょう」
 三人は、部屋の中へ向かった。


 ゴーストコントロールルームの中は地下プラントのような形を為しており、鉄製の螺旋階段でずっと下の階層へと向かう構造になっていた。
 昇ってきたテロリストに向かって、波音が魔法を唱える。
 雷の魔法、サンダーブラスト。
 天からの強烈な雷撃を受け、テロリストはその場に気絶する。
「一気に下まで向かうぞ」
「了解ですわ。洋さま」
 彼女の活躍を見た後、洋とみとは下へ向かい始めた。が、途中テロリストの群れが階段を上がってくる。洋は、スプレーショットで乱射していく。容赦のない力技に、テロリストは為すすべなく倒れていった。
 向かってくる敵をただ倒して進むその姿は、ボウリングを思わせた。
「それじゃ、作戦通りに」
 波音、アンナ、ララの三人は頷き合って階段を下り、最下層までたどり着く。
 やはりそこにも、敵はいた。
 それぞれ武器を構えて、攻撃の機会を窺っている。中には、ゴースト兵と思わしきものもいた。
「アンナ、頼んだわよ!」
「任せてっ!」
 クレアは、あえて波音と別の方向へ走り出す。敵を分散するための囮となったのだ。残ったララは波音のサポートに徹する。さっき彼女たちが言っていた作戦とはこのことだった。
「ほら、こっちですよ!」
 空飛ぶ箒にまたがって宙を飛びながら、火術を使って翻弄する。
「うわっ! あちいいいっ!」
 服に炎が燃え移ったテロリストは、その場でのた打ち回る。
「ほら、こっちだよ! え〜い!」
 敵の注意がクレアに向かったところで、波音が魔法を連発する。ララのアリスキッスでSPを回復出来るため、若干使いすぎても問題は無い。
「いきますわよ……」
 波音の攻撃に続き、みとが魔力を砲弾に変えて敵軍に打ち込む。凝縮された魔力となったそれは、部屋ごと破壊するのではないかと思われるほどの轟音を響かせた。
「いいぞ。よくやっているな。みと」
「はい。洋さまの命令であれば、どんなことでもしますわ」
 労いの言葉を受けて、みとは、恍惚とした表情を浮かべた。


 戦闘が続くこと数十分。
 ゴーストコントロールルームにいた敵の数は、圧倒的に少なくなっていった。だが、決していなくなったわけではない。
 そんな戦いの渦中に飛び込んできたのは、北都、昶、クロスの三人だった。
 最初に入っていったメンバーは奥へ行ったのだろう。階下に見える空間には、戦闘不能に陥っているテロリストやらゴースト兵やらがそこら中に倒れていた。
「怪しいと思ってきてみれば……やっぱり」
「北都、クロス、助太刀にいこうぜ!」
「ええ。もちろんです」
 最下層へと向かう三人。
 超感覚で獣化した北都と昶。
 北都には垂れた犬耳にくるくるの尻尾、昶には狼耳にふさふさ尻尾が追加されている。
 二人は、周囲を警戒しながら先を進み始めた。
「ちょっと、かわいいです……」
 二人の姿を見たクロスが、ぽつりと呟いた。