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哀哭の楽園計画

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第七章 VSジオブレイクドリル

 激しい雷鳴の後、無数の稲妻が降り注ぐ。
 中にいたテロリスト、ゴースト兵の悲鳴が上がっていく。
「ぐふっ!」
「おおうっ!!」
 バーストダッシュを使ったセルファに刺されたテロリストが身体を血に染めて倒れ、トーマの蹴りを股間に受けたテロリストが悶絶した。
 制圧の先陣をきったのは、この三人。
 数こそ少ないが、奇襲は成功したといってもいい。
 テロリストはその場で息絶え、ゴースト兵は悲鳴のような、苦しむ声のような、名状しがたい奇声を上げて消えていく。
「すっげーな! あいつら!」
「わたくしたちも遅れを取らないようにしましょう。シリウス」
 感心しながら次に入ってきたのは、シリウスとリーブラである。リーブラが大剣型光条兵器、オルタナティブ7(ズィーベント)で近接攻撃を行い、シリウスが後ろから魔法で攻撃するという戦法だ。
「やあっ!」
 腰を深く落としてから走り出すリーブラ。
スピードで生じた遠心力に、膂力を加えた斬撃を繰り出して、視界に入った瞬間からテロリストたちを斬り捨てていく。
 直接攻撃があまり効かないゴースト兵が出てきたときは、リーブラの僅か後ろをキープしながら、シリウスが火術を飛ばす。
「わたくしも魔法が使えればいいのですが……」
「いいって。お前はお前。それでいいだろ。リーブラ?」
「ありがとう。シリウス」
 圧倒的な戦力差で押していく。
 ジオブレイクドリルはまだ開発段階だったため、この部屋には非戦闘員である研究者が多かったのだ。研究員といっても、立派なテロリストだが。戦闘は思ったより早く終結しそうだった。
「こ、殺さないで……」
 吹き抜けの構造をしているこの部屋の二階部分。そこでジオブレイクドリルの開発を行っていた研究者たちが、両手を上げて、投降する。
「いいぜ。そのままこっちに来な」
 歩いてきた研究者たちを、ジャジラッドが縄で縛る。
 その様子を見た他のテロリストたちが、批難の声を上げて武器を構えた。
「お前ら、裏切るのか!?」
 そこへ、
「おいおい。裏切られてるのはどっちだよ!」
 ジャジラッドが大音声を響かせた。
「……どういう意味だ?」
「お前らはガディアスにいいように使われてるってことだよ! いいか。ジオブレイクドリルが完成した暁には、あいつはお前らをゴーストにしてエネルギーにするつもりなんだよ!」
「なっ……で、でたらめを言うなっ!」
 テロリストは認めようとしない。だが、ジャジラッドは続ける。
「でたらめじゃねぇよ!! 俺も昔ガディアスの下で働いてたんだ。前にもテロみたいなことやってよ! そんとき一緒だったんだ。あいつ、テロが終わった途端、俺を生き埋めにしようとしやがった! そういうひでぇヤツなんだよ! ガディアスって男はよ!」
「そ、そんな……まさか……」
 突入前の言動通り、彼の言ったことは全て嘘である。しかし、聞いていたテロリストたちには精神的ダメージが大きかったようだ。
(うわー、信じてやがる。絶対こいつら信じてやがるぜ……)
 心の中で苦笑いしてると、投降しだすテロリストが現れた。
「よし。賢明な選択だぜ」
 投降してきた者に危害を加えることはせず、迎え入れていく。
「私は認めたりはしないっ!!!!!」
 怒声が聞こえた。
 否定したテロリストが、一人だけいた。
「私は、ガディアス様を信じるっ!!」
 狂ったようにコンソールを叩く。すると、固定してあったジオブレイクドリルが、階下へと落ちた。
 五、六メートルはある巨大なドリルに、手足がついた、ロボットのような兵器だった。
「こ、こいつでお前たちを葬ってやる! ジオブレイクドリル、独立作動モード! 承認!」
 ドリルが回転を始める。キィーン、という耳障りな音が、部屋中に響き始めた。
「に、にいちゃん……なんか、やばそうじゃない?」
 トーマが苦笑する。
「だからといって、諦めるなんてことはできないよ。それは俺の一番嫌いな言葉だからね」
「よく言ったわ。真人。私もがんばるからっ!」
「へえ、ジオブレイクドリルってこんななんだな……。あっ、お前ら早く逃げとけよ。危ねぇから」
「ひ、ひい! た、たすけてー!」
 ジャジラッドの言葉が終わる前に、一目散に逃げていく研究者やテロリスト。戦う意志が無くなった上に、ジオブレイクドリルが自動で動き出したのだ。恐れて逃げるのも無理はなかった。
「真人の言うことももっともだな! オレらも諦めないでぶっ壊そうぜ!」
「わたくしも同じ意見ですわ。シリウス」
「やれやれ、こんなことになる前に、破壊しておきたかったんだけどね。今更愚痴ってもしょうがないけど……」
 シリウス、リーブラ、明子も戦闘準備に入った。
 その場の闘気を感じ取ったかのように、ジオブレイクドリルが動き出した。
 未完成のためか、左足の動きが若干おぼつかない。動きは早いが、バランスは悪かった。
「とは言ったものの、どこを狙えばいいのでしょう」
「機械だからたぶん雷術とか効くんじゃね? 真人と一緒にやってみるよ」
 シリウスは、真人と一緒に魔法を放つ作戦に出た。ジオブレイクドリルに気をつけて真人のもとへ行く。彼女の案を受け入れた真人は、早速行動に出た。
「うおりゃあああっ!」
「サンダーブラストッ!」
 電撃と稲妻が、ジオブレイクドリルに直撃した。二つが合わさることによって爆発的に増大した電気エネルギーは、全身を焦がしていく。
 ドリルの動きが鈍くなる。電池の切れ掛かけのラジコンのように、止まったり動いたりしていた。
「なんか効いてるな! 真人」
「ええ。ですが油断は出来ませんよ」
「真人っ!! 私は何をすればいいのっ!?」
 自分以外の女と親しそうにしていることに嫉妬したのだろう。無駄に大きい声でセルファが口を挟んでくる。
「え、ええっと、でも……セルファ、今、武器での攻撃は危ないよ……」
「何言ってんのよ! 必ず隙があるはずなんだから、そこを攻めればいいだけじゃない! ふんっだ!」
「な、何怒ってるんだよ……」
「別に怒ってないわよ!」
 それだけ言うと、ジオブレイクドリルの周囲を回りながら様子を伺い始めるセルファ。トーマも彼女を追っていく。
「ああっ、もうっ!! 仕方ない。魔法を連発していこう」
「お、おう、そうか。任せろ!」
 真人とシリウスも攻撃を加えていく。
 電撃が放たれるたび、動きは止まるがそれも一瞬だけである。完全に沈黙させるには、もっと時間が掛かりそうだった。
(このドリルって、地面を破壊するためのものよね……。なら、上にドリルが向くことはないんじゃないかな……)
 戦いの趨勢を見ていた明子は、一つの結論に達していた。
(……やってみよう!)
 超感覚を発動させる。頭部に犬耳が生えた。
 そして、タイミングを計る。
「せいっ!!」
 深くす腰を落とすと、床を蹴った。
 ヒロイックアサルト、『八艘跳び』――
 兄から虐げられた悲劇の英雄とも、敵軍の女たちを陵辱した乱暴者とも伝えられる、ある武士が海上で使った伝説的奥義。
 だが、伝えられる逸話のように人間離れした跳躍や軽業を為すわけではない。攻撃力が上がるぐらいだ。それでも、超感覚を発動させながらの明子の動きは、十分素早い。
 二つのスキルを組み合わせ、彼女は伝説をなぞるようにジオブレイクドリルを翻弄する。
 まるで古戦の再現。
 攻撃や動きの隙を突いては瞬速のパンチを繰り出し、ドリルの台座をへこませていく。
 十にも及ぶ連撃の後、いつの間にか彼女はジオブレイクドリルのドリルの柄に昇っていた。
「はっ!」
 気合と共に籠手をめり込ませる。突き破られた外装の奥には、無数の電気ケーブルが詰まっていた。それを手で思いっきり引きちぎった。
 ドリルの動きが完全に止まる。
「……倒したの?」
「ナイスだぜ! 明子」
 完全に沈黙したかのように思われたその瞬間、強制的に停止させられた反動だろうか、ジオブレイクドリルが急発進した。
 その先にいたのは――セルファ。
「っ!!」
 不意を突かれた彼女は、すぐに回避できず、ただ立ち尽くすだけだった。
 回転していないとはいえ、ドリルだ。猛スピードで追突されれば、怪我ではすまない。
「ねえちゃん!!」
 トーマが叫んだときには、真人が走り出していた。横からセルファを押し倒し、床を滑っていく。
「真人っ!」
「俺は大丈夫。それより、そろそろトドメを刺そう」
「……わかったわ!」
 セルファは走り出すと、轟雷閃を放つ。電撃に次ぐ電撃をさらに叩き込む。
「オイラも負けてないぜえええっ!」
 素早く迫ると、トーマはジオブレイクドリルの腕を切り落とした。それを見たシリウスとリーブラも続く。
「喰らえっ!」
「はあああああああっ――やああああっ!」
 電撃と烈刃が、ドリルを破壊する。砕けた破片が、ガラガラと音を立てて床に散らばった。
 猛追をもろに受けたジオブレイクドリルは、それから動き出すことはなかった。


「真人、ホントに大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「さっきは、その……ごめ……ね……」
視線を合わせず、顔を赤くしたままごにょごにょと言葉を濁すセルファ。
戦闘が終わってから、この調子である。
「あれ、ねえちゃん、顔赤いけどどうしたの?」
「な、なんでもないわよっ!」
 そんな彼女を見て、シリウスたちは微笑んだ。