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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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11. 一日目 稽古場 午後一時四十分

 稽古は休憩になったので、ここにいる人たちに取材しようか。
 あ。僕の家の内輪もめをさらに大きくしてくれてる張本人がいるんで、話を聞いてみよう。
「君が、弓月くるとだね。君がきたおかげでウチは、もう大変なんだよ。思惑は乱れ飛ぶ、部外者はどんどん入ってくる、煙幕はたかれる、猫も飛んで、ライトは落ちるしで、どう責任を取ってくれるんです」
 ぐらいは怒鳴ってやろうと思ったけど、やめた。
 百二十センチ弱の僕よりも、もっと小柄なこの子は、麻美くんと似たにおいがする。
 僕が言うのもなんだけど、あんまりまともじゃなさそうだ。
 くるとが、僕を眺めて言ったのは。
「避暑地の猫」
「維新ちゃん。こんにちは。古森あまねです。こっちの小さいのが、弓月くるとです。よろしくね。いきなり、この子に、わけわかんないこと言われても気にしないでね。かわいそうな子なの。後でよく言って聞かせておくから、ごめんね」
 愛のある、生あたたかいフォローですね。
「うん。別にいいよ」
 くるとは、このメガネのお姉さんにかわいがられてるのか、ほぉ。
 舞台衣装のままの刃くんと、副長プラス美少年二人のお侍さん組と、杖をついた妙齢の美女と、ロングの銀髪の目つきの鋭い娘が僕、じゃなくて、くるとのところに近づいてきた。
「みなさん。お疲れです。この子が、かわい維新ちゃんです」
 あまねちゃんの紹介で、僕はみんなに頭を下げる。
 さて、インタビューしますか。
 さっきの稽古でキマってた彼から。
「鬼桜刃だ。俺は芝居がしたくてここにいるわけじゃないぜ。パートナーの月桃が、探偵小僧を心配するから、ま、こいつらの護衛のつもりだ。自衛の力もないこいつらに、害を与える相手は、容赦なく滅させてもらう。本当は、俺たち、みんなで昼から美沙の船に乗るつもりだったんだが、出港準備に時間がかかるとかで、時間つぶしにきたら、これだ」
 着ている黒の羽織の袖を両手でつかんで、持ち上げる刃くん。
 浮かない顔だけど、心配なし。
 侍ファッションは似合ってる。
「刃。素敵ですよ」
 彼女もそう言ってるし。
「月桃。見えるのか?」
「ええ」
 杖をついてる月桃ちゃんが、弱々しくほほ笑む。
「維新ちゃんも、まだ子供なんだから、危ないことはしないでね」
「はい。もちろんですよ」
「刃様。こいつに、なにをしゃべればいいのですか」
 ジャタ族の衣装の銀髪の娘が、僕をこいつ呼ばわりしてにらんだ。
「適当に答えておけ」
「はい。では。自分は犬塚銀。刃様のために動きます。今回は、刃様のご命令で、少年探偵のために諜報活動をしております。キミも後ろ暗いところがあるのなら、くれぐれも自重なさりませ」
「銀ちゃん。きみって、犬か狼っぽいけど、頭なでていい?」
「断ります」
 かみつくようにきつく拒否された。
 敵か? 僕の敵なのか。
 くるとのやつのおかげで、かわい家をめぐる人間模様は、複雑化する一方じゃよ、まったく。
 続いて、くるとたちに同行してるらしい人たち、その二。
 二人とも美形で、目は青と緑、髪は金と銀、どう見ても日本人じゃないけど、やっぱり羽織袴を身につけてる。
「やあ。ボクは、クリスティ・モーガン。こっちはパートナーのクリストファー・モーガン。ボクらもくるとくんたちと一緒に動いているんだけど、それには、まあ、理由があってね。インタビューされるよりも、維新くんに聞きたいんだけどいいかな」
「どうぞ。今日は、聞かれっぱなしで、在庫がもうあまりありませんが」
「ごめんね。疲れるよね。単刀直入に聞くよ。みのる氏の遺体は、どうなったの? 僕は、かわいみのる氏が生きてる可能性を考えている。あの遺言状で一族を殺し合わせた後に、吸血鬼にでもなった彼があらわれて、かわいみのるの血を引くものとして、本人だから血を引くもなにもないけど、永遠に財産を手にするって筋書きさ」
「みのるくんの棺桶は、レンドルシャム島に埋めたよ」
 糖尿みのるくんの吸血鬼で復活は、ありえない話だと思ったから、素直に教えてあげる。
「レンドルシャム島は、敷地内の湖にある人口島。島には木がいっぱい生えてて、小さな森が浮かんでる感じ」
「レンドルシャムか。英国出身のボク、いやクリストファーにとっては、意味深な名前の島だな。そこに行くには、どうすればいいんだい」
「ボートを漕いでもいける。湖の真ん中だから、どこから行っても遠いよ。きっと、美沙ちゃんのお船が行くと思う」
「僕らは、それに乗る予定なんだ。ありがとう」
 クリスティーちゃんが、うれしそうに笑った。この人、男の格好してるけど、なんか女っぽいな。胸のあたりが窮屈そうだ。
「ボクちゃん。ついでに、俺にも教えてよ。継承式にわざわざ桜井静香校長がくるのは、どうしてだい」
 クリストファーくんは、顔はかっこいいけど、なんか態度がなめてるから、教えてあげません。
「僕、知らない」
「お子様は、知らない大人の事情なんだね」
「うん。きっとね」
 僕の返事にヘコんでなさそうなのが、ムカつくなあ。
「我の話も聞きたいのかな。維新殿」
 他のみんなが黒装束なのに、なぜか一人だけ白い羽織袴の藍澤黎副局長です。
「貴殿は、疲れているご様子。カメラは止めて、我と散策でもしたら、いかがでしょう」
 少しの間なら、それもいいかな。
 僕は副長と、稽古場の中を散歩することにした。