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59. 継承式

 百合園女学院校長、桜井静香は、後日、この継承式、およびに、かわい家での事件について二通の手紙を受け取った。

 ペンフレンドのクリスティー・モーガンからの手紙

 静香様。かわい家の継承式の時、一緒にお写真を撮らせていただき、ありがとうございました。
 ボクのせいで場が、静香様の撮影会のようになってしまい、ご迷惑をおかけしました。
 写真は、個人的に、今回の事件の記念として大事にしたいと思います。
 それにしても、継承式の日は、びっくりしましたね。ボクもあんなことが起こるとは、想像していませんでした。
 特に、あの有名な人、変熊仮面の噂は、知っていましたが、本当にすごいですね。

 下品な話題で失礼しました。
 実は、式の前日に、ボクらは、敷地内の湖に浮かぶレンドルシャム島で、とても不思議な体験をしました。
 静香様は、未確認飛行物体を信じますか?
 ボクは英国出身ですが、実際に人がアブダクトされる現場に居合わせたのは、はじめてです。人は人でも遺体ですが。
 消えてしまった、かわいみのるさんの遺体は、異星で愛する人と一緒にいるのでしょうか。
 いろいろ思うところがありますが、いつか、オカルトについて、ゆっくり書きたいと思います。
 乱筆乱文すいません。
 それでは、またお手紙を書きかます。
 お元気で。
 あなたの友 クリスティー・モーガン


 熱烈なる支持者 真口悠希からの手紙

 親愛なる静香さま。
 かわい家の継承式にいらしてくださって、本当にありがとうございました。
 感動! 感謝! 大感激! でした。
 しかも、撮影会までしてくださって、大盛況でしたね。
 静香さまは、みんなの人気者です。地球では、静香さまを主人公にしたマンガもはじまったようです。ボクも取り寄せて、読ませていただきました。小学生の静香さまもすごく素敵で、読んでいて心を癒されましたっ。
 さて、書きにくいことなのですが、ボクは、静香さまに謝りたくて、この手紙を書きました。
 ボクがかわい家に行ったのは、静香さまに人の死には見せたくない、と思ったからです。
 だから、三日間、ボクなりに努力して麻美さまを守りました。
 なのに、あの継承式では、静香さまに、不快な思いをさせてしまって、ボクは・・・・・・。
 申しわけありませんでした。
 ボクは、静香さまを不快なものから、お守りできませんでした。
 今後、あのようなことは二度とないように、万全を期する所存です。
 それでは、ボクの人生を明るく楽しくしてくださった静香さまに感謝しつつ、ペンをおきます。
 お慕いしています。 真口悠希


 黒崎天音演出の「死神の舞踏祭」の上演が満場の拍手を受け、終了した後、麻美の登場を待つ来賓たちの前に、マイク片手に、あらわれたのは、
「フハハハハ・・・。ある時は薔薇学の美少年、そしてある時は・・・」
 薔薇の学舎マントに、赤いマフラー、赤い羽の仮面を身につけた全裸の少年。
 変熊仮面である。
「不審者だ。捕まえろ!」
 地球、空京、各界の有力者たち招かれた式だけに、警備員も多数配備されており、舞台の少年は、名乗るまえに、周囲を警備員たちにかこまれてしまった。
「まあ、待て。俺様は見ての通りの者だ」
「君、落ち着きたまえ、なにがしたいんだ」
「いいから、俺様の話を聞け! 一見、解決したかにみえるこの事件の真相をいまから、俺様が暴いてみせよう」
「な、なんだってェー!」
 観覧席からPMRが驚きの叫びを合唱をする。
「かわいみのるを殺した犯人、それは阿久路井門! 貴様だ! お前の名前は変だし・・・。お、おおっ待て、俺様を捕まえるだと、頭が高いぞ。まだ終わってない。阿久は死んだ? そのへんの説明は間に合ってる? ふざけるな! 俺様だけが知る新事実を語るぞ」
「手荒なまねはしたくない。君、おとなしくしなさい。話は、私がゆっくり聞いてあげるから」
「コラ。さわるな。おまえらは、知らんだろうが、オサムと阿久は、親友とは名ばかりの、互いに先生と呼び合い、お医者さんごっこをするような深い仲だった。親友のオサムが死んだ原因が、かわい家、ひいては内田麻美にあると知った阿久は、麻美をこの舞台で毒殺しようとしている。だめだ、麻美、でてくるなっ。阿久、どこにいる。早くでてきて俺様に捕まれー。ようし、おまえがでてこないなら、俺様がだしてやるぞ。フッハハハハ」
 マントをまくりあげ、腰部を前に突きだした少年に、桜井静香、ラズィーヤ・ヴァイシャリーのいる貴賓席からも悲鳴があがった。
「この程度だと思うな。全部だすぞー」
 思わずたじろいだ警備員たちの隙をつき、包囲網を突破した美少年は、結局、名乗らないまま、逃走した。

 騒然とした空気を沈めるため、一時、休憩を取り、式は再開された。
 昨日のレンドルシャム島で、正体不明の光、暴風の後、双子の兄である歩不とともに、主の消えた、かわいみのるの棺の中で倒れているのが、発見された麻美は、今朝になって意識を取り戻した。
 同じく意識の戻った歩不と共に、継承式に参加している。
 くわしくは他者には、うかがい知ることができないが、麻美にはいくらか自分というものが芽生え、二人は兄弟の絆を取り戻そうと努力しているように見えた。
 舞台袖の兄に見守られながら、麻美の清流の舞がはじまる。
「あ」
「落ちるぞ!」
 舞台上の麻美の体が、揺らめく。
 和服姿で仮面をつけた麻美は、よろめき、舞台から数メートル下の地上へ。
「くるとくん。麻美さんが」
「・・・・・・これは」
「もし、彼が亡くなったら」
「あまねちゃん。ボクは・・・。たぶん、映画が違う・・・間違えた」
 閲覧席にいた、弓月くるとは、舞台袖からでてきて、麻美の背を押した人物、いまや舞台に一人立つ、かわい歩不を凝視していた。