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リアクション
【6・一分】
彼方は蒼空学園のサーバー室に陣取っていた。
ちなみに彼方といっても皇彼方ではなく、滝沢彼方である。
パートナーのリベルも隣の椅子に控えていた。
ふたりの正面には空京の地図が置かれている。図書館から借りたものをコピーして、プリントアウトしてきたものだ。
「さっき発見されたのがここで、十五分前に目撃されたのがここ……やっぱり追っ手があるせいか、逃走パターンが不規則だね。厄介だな」
彼方は仲間達から送られてくる情報と地図を照らし合わせ、それを聞いたリベルが地図に赤線を引いて、シリウスの現在位置を割り出そうとしていた。
「マイロード、現在この座標付近が死角になっている様です」
「ああ、了解。と、すると……」
その座標と、先程の発見位置、寺院連中の動きを分析し。
更に道の広い表通りを候補からはじいていき、入り組んだ裏通りに注目していく。
やがて彼方は携帯を手にしてどこかへとかける。相手はすぐに出た。
『もしもし?』
「テティス先輩、現在位置の報告をお願いします」
『今は空京ボウリング場の近くにいるわ』
「でしたらそこから、北の三叉路から西側の通路に入ってその辺りを中心に捜索してみてください。成果がなければ連絡をお願いします。あと、要注意座標をHCへ転送しますので御確認下さい」
『わかった、ありがとう』
通話後すぐさまHCを駆使して先の発言を実行し、次にまたどこかへ電話をかけていく。
『もしもし、俺だ』
「皇先輩。どうでしたか?」
『さっき言われた駐輪場にはいなかったぜ。どうやら一足違いで追っ手に見つかって逃げたみたいだな』
それを聞いてほんのすこし渋面を浮かべるが、すぐさま頭を切り替えていく彼方。
「わかりました。皇先輩には引き続き、より危険度の高い行き止まりや酒場等の人が潜めそうな場所へ続くルートを逐次送信します」
『ああ。りょーかい』
携帯が切れたところで、一度椅子にもたれかかる。
「マイロード、少しお休みになられては如何ですか」
が、すぐにまた彼方は身体を起こす。
「大丈夫だよリベル。皆は危ない事をしてるんだ、オレだけ休む訳にはいかないもの」
そのときHCに情報が送られてきて、携帯にメールが届いた。
司が送ってきたものだった。
それから一分後。
葛葉翔は電話をしながら通りを走っていた。
「え? そうか、この通りを右だな」
『はい。可能性は非常に高いと思います』
「よし。行ってみる、情報ありがとう」
『くれぐれも一人で解決しようとはしないでくださいね』
「ああ、わかった」
携帯を切って、指示された方角へと目を向ける。
すると、数メートルほど前方に明らかに異彩を放つ人影を見つけた。
褐色の肌に踊り子衣装という出で立ちの女性、加えて傍には緑髪のポニーの女性もいる。どう考えても見間違えようがなかった。
翔はそのまま追跡していく。彼女らはキョロキョロと周囲を警戒している風だった。
(間違いなさそうだな)
確信を得たのですぐさまもう一度携帯電話をかける。今度かける相手は別の人物だ。
「テティスさん、ミルザム様を発見しました。これから保護します」
『そう、わかった。私もすぐそっちに向かうわ』
現在位置を告げてから携帯を切り、今まさに近づこうと物陰から姿を現した翔。
そんな彼と、今まさに振り返ったシリウスの目が合った。するとふたりは慌てて走り去ろうとする。
「あっ、ちょっと。待って下さいミルザム様!」
せっかく見つけたのに逃げられてはたまらぬと、翔はバーストダッシュで一気にふたりを追い抜き、正面に回りこんだ。
その強引さのおかげで、ふたりは自然に足を止めさせられる。
「見つけましたよ、さぁ急いで戻りましょう」
発言と胸元のヴァンガードエンブレムと確認し、彼が現れた目的を悟るシリウス。
悟って、やはり素直にそれに応じることはせず。
それどころかいかにもどうやって振り切ろうかとばかりに、視線を泳がせまくっている。
(そもそも、ここで素直に従ってくれるなら最初から抜け出したりしないよな)
わかっていたとはいえ、嫌な役回りに翔は肩を落としつつ、しかしきちんと口は動かした。
「ミルザム様、俺は正直貴方の踊りたいという気持ちもわからなくはないです。どんな人だって自分の時間は欲しいものですからね。ですけど、鏖殺寺院の人間が街をうろついている以上、戻ってもらわないと困るんです。もしものことがあってからでは遅いんです、ミルザム様もこれ以上誰かに迷惑をかけるのは嫌でしょう?」
ずるい説得の仕方だと、翔もわかっていた。だがクイーン・ヴァンガードとしてどうすべきかも、わかっていた。
こういうとき現実的な自分の性格が少し恨めしくなる。
「……ごめんなさい。でも、やっぱりここまで来て、帰るわけにはいかないんです。私を待ってくれている人の為にも」
けれどシリウスは退こうとはしなかった。
隣のホイップはやや困惑顔だが、余計な口出しをすべきでないと思ってか、沈黙を保っている。
(さて、どうしようか……?)
シリウスの目には、確かに迷いはあった。
だが言葉には頑なに、退きたくないという決意も現れていた。
(こういう相手は割り切っていないぶん、説得するのは難しいんだよな)
自分の言い分と相手の言い分を理解してなお、引き下がることができないでいる。
わがままを通そうとしている。子供っぽい思考だが、それゆえに頑固だ。
だから、
「解りました、でも俺も一緒に行動させてもらいますからね」
仕方なく翔は折れることにした。一応の妥協案を提示して。
正直なところもう少し話し合ってもよかったのだが、翔はそうしなかった。
なぜならあまりのんびりもしていられないと気づいたからだ。
実は翔は念のために殺気看破で周囲を警戒しており。
その警戒網に、次から次と溢れてくる殺気がどんどんひっかかってきているのである。
そこから更に一分後。
箒で空を飛行中だったズィーベンは、ようやくシリウスを見つけたが。
彼女は現在進行形で、翔に守られながら四人の寺院連中相手に逃走真っ最中だった。
慌てて携帯で相方のナナへと連絡を取る。
「見つけたよ、でもちょっとヤバイ感じだから、急いで来て!」
そして場所を伝えるなり、滑空して下へと降りていく。
このとき、すぐ隣に使い魔のカラスに乗り、携帯電話でメールを打つ小人がいたのだが。
ズィーベンは気づくことなく、追跡者との間に割って入り煙幕ファンデーションをお見舞いした。一気に周囲が白に彩られる。
「いまのうちに、はやく逃げるんだよ!」
放たれた声に、敵味方両方の行動は早かった。
まずシリウスがホイップの手をとり、それと反対の手を翔が握って走り出す。
例え視界が塞がれても、彼女達にとってはとにかく逃げさえすれば、どっちに走っても構わないのが功を奏し、先手をとれた。
しかし対する鏖殺寺院達も、数秒は相手を見失い軽い混乱状態に陥るが。
すぐさま魔術師らしき女がブリザードを巻き起こし、煙を吹き飛ばすのと同時にズィーベンに攻撃を行なう一石二鳥の技を繰り出していく。
「あぶな……っ、でもボクはそう簡単にやられないもん!」
ズィーベンは慌てて箒で上空へ回避し、今度は光術で目眩ましを仕掛けていく。
あからさまな時間稼ぎにイラついた魔術師女は、
「こいつっ! しっつけぇんだよ!」
ガラ悪い喋りと共に、もう一度何かしらの術を放つべく杖を構えたが。そこを背後から何者かにのしかかられ、倒れた拍子に地面に転がっていた石におでこを強打して気絶した。
のしかかった方は、すぐに起き上がって、パートナーの元へと駆け寄る。
「ナナ!」
「お待たせしてごめんなさい」
「こっ、この女! どっからわいて出た!? さっきまで近くには誰も……」
「べつに、光学迷彩で姿を消していただけですよ」
こともなげに言いながら、ナナは再び連中へ向かっていく。
相手も負けじと向かっていこうとしたが、なぜか足が動かないことに気づく。
いつの間にか足元が氷術による氷で固められていた。
「登場早々申し訳ありませんが、早々に退場してください」
ズィーベンがいつ援護したのか気づけなかった残りの連中は、
難なく懐に飛び込んだナナが放った等活地獄によって、もれなく全員仕留められていた。
そこからまた更に一分後。
緋山政敏とカチェアは、シリウス達と合流できていた。
「会えてよかった。心配してたんだからな」
「……すみません」
「シリウスさん、とりあえずこれを着て。多少服を変えておいた方がいいわ」
カチェアはそう言って買ってきたパーカーと帽子をシリウス達に差し出した。
ふたりとは面識があるので、シリウスは特に疑いも無くそれを受け取り。ホイップもそれにならった。
翔も別に口は出さなかった。実際彼としても、
(ホイップさんはともかく、ミルザム様の踊り子衣装は目立ちすぎる上に、目のやり場に困るんだよな)
と密かに思っていたからでもある。
こうしてシリウスは青のパーカーに白の帽子、
ホイップは紺色のパーカーに黄色の帽子をそれぞれ身に着けた。
「ミルザム様、やっと見つけた!」
突然響いてきたその甲高い声に、シリウスは被っていた帽子を落としそうになりつつ、振り返った。
するとそこにはテティスと、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)、諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)、沖田 総司(おきた・そうじ)達ほか、数名のクイーン・ヴァンガードが立っていた。
「本当によかったです、無事で」
心底ホッとした様子の優斗。
「ええ。たった今テティス殿と共に、発見致しました。場所はですね……」
使い魔のカラスを肩に乗せつつ、他の捜索隊に連絡を入れている孔明。
「ミルザムさん。急ぎこの場を離れましょう、敵に見つかると危険です」
周囲を警戒して進言する総司。
彼らの登場に翔は普通に喜びを顔に出したが、シリウスは一気に顔を曇らせていく。
ホイップもやや不安そうになり、政敏やカチェアは特に表情を変えることはなかった。
「さあ、ミルザム様」
テティスが一歩前へ歩み出て手を差し出すが、シリウスの方は逆に一歩後ろに下がってしまっていた。
「どうして、黙って抜け出したりしたんですか?」
「……私は、踊り子としての自分の心に従ったんです」
ひとまず説得をすべきと考えたのか、改めて問いかけてきた優斗。
対するシリウスは顔を俯かせつつも、呟く。
「皆さんには、迷惑なことでしかないとわかっています。それでも、自分の心に嘘をつくことが、どうしてもできないんです……」
「あ、僕は、その。ミルザム様が踊り子も続けたいと仰るなら、続けて欲しいと思っていますよ」
その発言に、テティスは何か言うべく口を開きかけたが、
「だからこそ、女王……候補と両立できるように力を貸して欲しいんです。僕らをちゃんと頼って欲しいんです」
語り続ける優斗に気をつかってか、結局口を挟むことはしなかった。
「ミルザム様がしたいことをできるように、僕らが強くなって、貴女をあらゆる危険から守りきれるように約束しますから。もっと堂々と胸を張って何でもできるように、頑張りますから。だから……」
クイーン・ヴァンガードではない風祭優斗一個人としての本音。
シリウスは勿論全員がしばらくそれに聞き入っていたが。
邪魔は別の所から入ってきた。
気配を消して接近していた鏖殺寺院がひとり、鉤爪を振り上げて襲いかかってきたのだ。
「総司殿!」
叫んだのは孔明。
動いたのは総司と、連絡を受けて既にその場に到着していた湯上凶司だった。
ブロードソードの刀身と、アーミーショットガンから放たれた弾丸が、男の身体に容赦なくめりこみ。そいつは何かを発言することもなく、あっけなくやられた。
「残念でしたね。私は使い魔のカラス達のおかげで、とっくに気づいていたんですよ……といっても、もう聞こえていませんか」
孔明は補足するのもそこそこに、
「ただ皆さん。あちこちから不穏な人物が近づいてきています。そろそろ本当に逃走を図らないと」
警告を発する。そしてまさに呼応するかのように、敵らしき大勢の男達が罵声を飛ばしながら走ってきていた。
「ミルザム様、とにかく今日は帰り……って、あれ?」
テティスが声をかけた先に、シリウスの姿は無く。
気づけばとっくにホイップと、そして凶司と共に遥か遠くに行ってしまっていた。
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