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リアクション
【8・迫る危機】
酒場を出てシリウス捜索に乗り出した神崎優と水無月零は、未だ当人の発見に至っていなかったが、代わりに不審な男をふたり発見していた。
彼らは漆黒の騎士鎧を身に纏っている。ただ、その黒は市販の黒色をわざと更に濃く塗ったらしく、どこか背徳的な印象を与える代物に感じられた。
嫌な予感を感じ、優はそいつらの後をつけてみることにした。彼は元々騎士の家系で、気配を消すのは得意なのである。ちなみにこのとき、零は少し離れた場所で待機させた。
「……の連中がやられたって……」
「くそ…………だが、まだ仲間は大勢……」
聞き耳を立ててみれば、物騒な単語が出てきて嫌な予感が膨らんでいく。
「……しても、今回の……れば、オレら鏖殺寺院は…………」
「なあに…………殺すのは……踊り子のシリウス……どうにでも……せばいい」
やがて決定的な言葉が聞こえてきて、急いで零のところまで戻る。
「どうだったの?」
「まずいぞ、彼らは鏖殺寺院の一味だ。どうやらシリウスを狙ってるらしい」
「ええっ!? ど、どうするのよ、優!」
「あ、ああ。寺院相手に、俺達だけで相手をするのはどう考えても無理だ。おそらくそれ相応の人数だろうから、誰かに協力を求めないと」
戸惑い焦るふたりだったが、そこへ、
「すみません。なにかあったんですか?」
浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が声をかけてきていた。隣にはパートナーのサファイア・クレージュ(さふぁいあ・くれーじゅ)と永夜 雛菊(えいや・ひなぎく)、あと足元に野良猫が何匹かまとわりついていた。
翡翠達としては、ただ日課として空京に居る野良猫に餌をやりに来ただけだったのだが。
「さっきから不審な人がウロウロしてますし、クイーン・ヴァンガードもなんだか殺気だってますし。なにがあったか知っていますか?」
ということで気になったらしかった。
「俺も詳しい事情まではわからないけど、とりあえず確かなのはシリウスが大勢の鏖殺寺院達に狙われてるってことだ」
優の言葉に、翡翠は眉をひそめ、サファイアは驚きを顔に出し、雛菊は声に出した。
「ほ、ほんとっ!? だとしたら大事件だよね。翡翠、どうするの?」
「だとしたら、一刻も早くあの女王候補様を見つけないと……」
翡翠は皮肉交じりにどうしたものかと思案し、やがて何かを思いつき、しゃがみこんで。
適者生存を使い猫へと語りかけていく。
「すみません。シリウスという踊り子を探してみて貰えますか。路地裏など身を隠せそうな場所を探って欲しいんです。かなり目立つ方ですし、もしかしたら追われているかもしれない。それらしい人を見つけたら連絡をください」
翡翠の真摯な頼みに対し、猫達は果たしてわかったのかどうかその表情からは読み取れなかったが。とりあえずばらばらに散っていった。
「さて。それじゃあ私達も探しに出ましょうか」
自らに超感覚を使用し、翡翠は立ち上がった。
「あ、それじゃあ私は翡翠と一緒に……」
「いや、バラけた方が効率が良いでしょう。見つかったら携帯で連絡を」
雛菊の心配は一言であっさり切られ、翡翠はそのまま裏道へ入っていってしまった。
渋々雛菊は別の方へ向かい、サファイアは表通りへと走っていって。
では自分達もと、優と零も、捜索に乗り出していった。
(どうか、無事でいてくれよ……!)
優の思いをよそにシリウスは危機に瀕していた。
住宅街前には、鏖殺寺院達が五人、十人、十五人と集まってきており。
誠治、ミルディア、カレン、ジュレールのほかにも、シリウス達の側には、クイーン・ヴァンガードの篠宮 悠(しのみや・ゆう)ほか、パートナーの真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)とレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)も戦いに加わってくれているのだが、
「くそ、めんどくせぇっ! ふたりがっ、危ないって、聞いて、きてみりゃ、なんだよっ、このっ、敵の数はっ!」
悠は言葉の途中途中でブージを振り回し、敵をなぎ倒しつつも、やはり数の差で押し切られそうになっていた。
「やれやれ。おふたりとも、この貸しは高くつきますよ」
真理奈も若干辟易しつつ、上空から箒で近寄ろうとする敵をスナイパーライフルで狙撃していく。
そしてレイオールはというと、身長530センチ、体重630キロという巨体な機晶姫の身体を生かして歩く壁となり、シリウスとホイップを敵の攻撃から守っていた。
「シリウス、どうしてもクイーン・ヴァンガードの保護には応じてくれないのであろうか」
「ごめんなさい。それがわがままだということは理解しています、でも、それでも応じるわけにはいかないんです」
護衛の最中レイオールは時折説得を試みてはみたものの、意思を曲げることはないようだった。
「ふん、そのわがままのせいで、お前は死ぬんだぜ」
そのとき、寺院の男がひとり軽やかなステップでレイオールの後ろへ回り込み、処刑人の剣を振り上げ、シリウスへと斬りかかろうとしてくる。
だがそのとき、住宅ビルのひとつから、誰かが飛び降りてきた。
勢いよく現われ、スタッ、と綺麗に男とシリウスの間に着地したのはウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)。
「どうかしたんですか? シリウスさん。なんだかピンチっぽい様子ですけど」
ウィングは男から視線は外さず、背中で問いかける。
「じつは、かくかくしかじかで……(中略)……ということなんです」
「なるほど。それは私も加勢しないといけませんね」
「おいテメェら! 話が終わったんなら命も終わりにしろやぁ!」
なにげに事情説明の間ずっと待ってくれていた律儀な男は、ようやく斬りかかるのを再開させてきた。
だが男の剣は空を切り。代わりにウィングの持った女王の短剣が、男の脇腹に食い込んで帰り討ちにされるのだった。
「さて。次はどの人にしましょうか?」
ウィングは残りの敵にも鬼眼と威圧を使い、軽く威圧する。
連中が軽く怯んだ隙に、他の皆も一気に攻勢に移っていく。
そんな中を一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)が駆け寄ってきた。
「ああ、シリウスはん。こんなとこおったんやねぇ」
戦闘真っ只中にも関わらず、世間話でもするように話しかけていく燕。
「聞きましたえ。またお忍びしはったんやて? したらあかんとまでは言いまへんけど、ほどほどにしときぃや? なんや胡乱の輩も居てるようやし、それにウチかて心配でたまらんかったんやえ」
「あ、は、はい。そうですね。すみません」
能天気な彼女の空気に、シリウスもやや飲まれ気味になっていて。
見かねたウィングが助け舟を出した。
「あの、燕さん」
「ん? なんやろか」
「シリウスさん達が戦いに巻き込まれたらことですし、ふたりを連れてこの場を離れてくれますか。それで、できれば酒場まで送って貰えれば助かります」
「そういうことなら、了解どす。ほな、行きましょか」
(ええ!? 決断早すぎる!)
戸惑うシリウスとホイップの手をがっちり掴んで、そそくさと歩き去ろうとする燕だったが。
「あ、待つのだよ。それならワタシ達、クイーン・ヴァンガードが責任を持って保護……」
それを遮るように、レイオールが大きめの手を伸ばしてきた。
しかし燕は軽く、ぺし、とダメージ0の勢いで手をはたいた。
「あきまへんえ、そういうんは。シリウスはんは、もともと世界中を軽やかに踊って回る、自由なお人やったのやさかい、ひとところに閉じ込められたら窮屈でしょうことおまへん。もちっと、シリウスはんの心休まる環境作ったりなはれ」
その妙に説得力のある言葉に、レイオールはなんとなく納得させられて渋々手を下げることとなった。
「ほな、行きましょか」
燕の方は何事もなかったかのように、シリウスとホイップと共に行ってしまった。
その後、寺院の連中もシリウス達を追いかけていこうとしたものの。
残された八人が奮戦した成果で、十五人もの鏖殺寺院は捕らえられる運びとなった。
「やれやれ、結局骨折り損くさい結末かよ。頑張ったりなんかするもんじゃないな」
「いずれ、この恩を返して貰いに行きたいものですね」
そんな風にぼやく悠や真理奈に影響されたのか、
「ケッ。骨折り損はこっちのセリフだ、こんな事ならアイツの話に乗るんじゃなかったぜ」
捕まった寺院のひとりが、気になる言葉をぼやいていた。
それを聞きとがめたウィングは、男にすぐさま詰め寄っていく。
「アイツ、ですか。今回の事件の首謀者といったところですか?」
「フン。さ〜あね。なんだろ〜ねぇ」
「詳しく教えて欲しいですね。ええ、ぜひとも、穏便に」
ウィングはやさしそうな表情のまま、女王の短剣を男の頬にくっつける。
冷ややかな感触に男は青ざめ、いとも容易く口を割り。
結果として知らされた事実に誰もが絶句した。
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