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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-3/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-3/3
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chapter.11 星を討て 


「次は誰だい? ひとりずつ来るなんてまどろっこしいのはおよしよ」
 扇を口元で漂わせるザクロの元へ次に歩を進めたのは、葛葉 翔(くずのは・しょう)御凪 真人(みなぎ・まこと)、そして真人のパートナーセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)だった。
「クイーン・ヴァンガード隊員、葛葉翔だ。悪いがお前をミルザム様に会わせるわけには行かない、ここで止めさせてもらう」
 グレートソードを構え、翔が名乗りを上げた。
「戦う意思のない人を傷つけるとは許せませんね。これ以上好きにはさせません」
 真人は全身に魔力を滾らせている。それは次第に彼の手へと凝縮されていき、その形を炎へと変えた。うねる炎をザクロに放つと同時に、真人は言う。
「俺たちと、踊ってもらいますよ」
 同時にセルファも高周波ブレードをぎゅっと握り、ザクロと真人の間に位置を取った。
「ただし、演目は剣の舞限定ね!」
 真人を守るようなセルファの立ち位置は、ザクロの攻撃を待っているようにも見えた。殺気看破と女王の加護で3人のうち誰よりも危機に対する神経を尖らせていた翔がふたりに言う。
「……来るぞ!」
 翔の言葉が早いかザクロの初動が早いか、あるいは同時か。翔が口を閉じた時にはもう翔とセルファの前に炎をよけたザクロが立っていた。と、ザクロが翔の武器に目を落とす。グレートソードが、武器の聖化によりきらめきを見せていた。
「んなろお、破邪の刃を食らえ!」
 攻撃を仕掛けてくる時は、いくら高速で移動出来るザクロでも制止せざるを得ないだろう。翔のその考えは正しかった。が、これだけの速さを持つ相手に近接して切りかかるのは得策ではなかった。
「なんだよ、驚かさないどくれよ。そんなに光ってるから、よっぽど切りづらいのかと思っちまったじゃないか」
 ザクロの扇は、翔のグレートソードを真っ二つに裂いていた。横にいたセルファが少し遅れて援護の斬撃を放つが、当然その切っ先がザクロを捉えることはない。翔とセルファをまとめてなぎ払おうとザクロが扇を頭上に上げた時。
「これも、よけることが出来ますか?」
 真人がもう一度、ファイアストームを放つ。
「それなら、今よけたばかりだよ」
 ザクロが体を左方へとずらす。が、炎はザクロがいた場所を通り抜けず彼女の足元へ着火した。たちまち炎は上へ上へとのぼり、燃え盛る障壁となってザクロの視界を防いだ。
「残念でしたね。尋ねたのはそっちじゃありません」
「これが、私たちのとっておきよ!」
 炎の壁を突きぬけたセルファが、ファイアプロテクトで自身の体を炎から守りつつ、爆炎波をザクロに放つ。超高速移動を使っても回避できないような、ザクロ自身が予想できない攻撃が彼らの狙いだった。確かにこれはザクロにとって予想外である。が、想定していなかった事態なら自体にそぐう対応をすればいいだけのこと。ザクロは扇で空気を切り裂き、ファイアストームと爆炎波双方の火を風に散らした。そのまま透明な刃が、3人を襲う。致命傷は免れたものの、皮膚のあちこちに血のラインが走る。彼らはとっさに距離を置き、体勢を直そうとした。
「大方、炎の壁と剣にまとった炎を合わせて威力の増加を狙った、ってとこかねえ。ま、そううまくはいかないってことさね」
 ザクロがとどめを刺そうと足を前に出した時、横から自分を呼ぶ声がした。
「おい、ザクロねーさん……いや、ザクロ」
 顔の向きを変えたザクロは、鈴木 周(すずき・しゅう)の姿を視認した。
「おや、どうも見知った顔が多いねえ」
 先ほど一戦交えた真人にちらりとザクロは視線を向けた。彼とは酒場で何度か会話をしていた。そして周に至っては、ザクロをナンパした人物である。が、周の雰囲気がどうもその時とは違う。
「いやまさかこんなヤツだったなんてな。あのテレビ見てから、完璧に冷めたぜ。俺的に守備範囲外。美人なのは認めるけどよ、性格的にダメだわ」
 以前ナンパした時周がザクロに言われたようなことを彼はお返しとばかりにぶつけた。さらに周は続ける。
「つーか、珍しいよなー。俺の守備範囲外って言ったら故人と子供と老人、それと相棒くらいなんだけどさ。そのどれとも違う、否定的に守備範囲外って初めてだわ。完っ全にタイプじゃねえ。その証拠に、俺の下半身がぴくりとも反応しねえ! 自分でもびっくりだぜ。そんな存在がこの世界にいるなんてよ」
 黙って周の言葉を耳に入れ続けるザクロに向かって周は、過去に口説いたことを取り消すかのように告げた。
「生憎俺にナンパされるには性格悪すぎ。俺のひとりやふたり、その気にさせられるようになったらまた来やがれ!」
「……坊やも言うようになったじゃないか」
 ザクロが進行方向を翔や真人から周へと変えた。直後、5メートルは離れていたであろう距離が一瞬にして縮まった。
「男はそのくらいじゃなきゃねえ」
 ぶすり、とザクロの扇が周の腹に刺さる。だらだらと零れる液体は、周の足元に血溜まりとなって広がった。ごふっ、と口からも赤々しい唾液を吐いた周は、途切れそうな意識の中で震える腕を伸ばした。その手が、腹から抜かれたばかりの扇を持つザクロの右手首を掴む。
「白虎牙を……ユーフォリアに返してやるんだ……!」
 ユーフォリアの喜ぶ顔が見たい。周はそんな思いで、残る力を出し尽くすようにぎゅっと手首を握り締める。
「……お離しよ」
「離す……もんか。ユーフォリアを、笑顔に……」
 笑顔にしてやりたいなあ。でも、目がぼやけてきちゃったみたいだ。これじゃ、白虎牙をユーフォリアに届けられないかもしれない。皆、俺はここまでしか出来なかったけど、後は頼んだぜ。
 もはや声を出すことすら難しい周だったが、その心は他の生徒にちゃんと伝わっていた。
「あれ、神様……」
 そばにいるザクロですら聞き取れないほどの声で、周はザクロの背後を見て漏らす。
 ザクロを挟んだ向こうから走ってきたのは、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だった。
「その女王器、あるべき場所へ返してもらう!」
 どういうわけか周に神と崇められ、どういうわけかフリューネの衣装に身を包んだアリアが剣を片手に勇ましく駆けると、すぐさま射程距離へ入った。ザクロは依然周に手首を掴まれたままだ。彼女の剣がその背中を切りつけようとしたその時しかし、ザクロは自由に動かせる左手に扇を持ち替え、体を反転させながらアリアの剣を受け止めた。
「まったく、しつこい男は嫌われるってのに」
 アリアの斬撃をいなしつつ、ザクロは未だ右の手首を掴んでいる周を見る。
「片手しか使わず動かない相手なんかに負けるわけにはいかないの!」
 半身を固定されたままのザクロを、アリアは手数の多さで押していく。このままアリア優勢で戦いは進むかと思われたが、ザクロはにい、と勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「白虎牙ばかりに気を取られて、あたしの澪標の力を忘れていないかい?」
 はっ、とアリアが気付いた時にはもう遅かった。幾度となく剣を扇と交えた彼女は、充分に扇に煽られていたのだ。
「潜在意識から引っ張り上げてあげるよ。さあ……膨れちまいな」
 すると、それまで勇ましく剣を振るっていたアリアの手がピタ、と止まった。そしてその指先がぶるぶると震えだす。
「わ、私……っ! 私の剣はっ……!」
 彼女が膨らませられた感情、それは恐怖心だった。雲の谷でザクロと同じ十二星華のセイニィと戦った際、全力で放った一撃が水泡に帰した時に感じた無力感から芽生えた恐怖心。アリアはその場にぺたんと膝をつく。
「ふふ、どうしたんだい? 打ち首を待つ罪人のような格好じゃないか」
 ザクロが左手に持った扇でアリアの肩口を切りつける。
「あうっ……!」
 カシャン、と剣が落ち、飛び散った血飛沫がアリアの頬にかかる。それを手で拭ったアリアは、手のひらにべったりとついた自分の血を見つめた。すると彼女の記憶は、自然とセイニィ戦の時へと遡った。
「これじゃあ……あの時と同じ……?」
 セイニィと戦った時も、私はこの光景を見ていた。自分の血が大量に溢れ出たのを。あの時私は悔しかったはず。悔しかった。何が? 決まってる。誰も守れなかった自分の弱さだ。強くなりたいと思った。敵を打ち倒すためじゃなく、皆を守るために。それは、今さら惑わされるほど弱い思いだった?
「私の、剣は……」
 アリアが、肩の傷口を押さえながら落ちた剣を拾い上げる。
「私の剣は、皆の笑顔を守るためにあるの! だから、私は負けない! たとえあなたがどんなに強くたって、私のこの思いだって弱くはないんだから!」
 流れ落ちる血を振り払うように、残りの力でソニックブレードを放つ。ザクロは意外そうな目で彼女を見た。
「こんなに早く感情がしぼむなんて、初めてかもしれないねえ」
 ザクロは扇を構える手に力をこめ、風を巻き起こすことで相殺させる。
「まあ、やられることに変わりは……ん?」
 力尽きたアリアが、ザクロの方に倒れこむ。ザクロの左腕に抱きかかるように体を崩した彼女は、期せずしてその左半身の自由を一瞬奪うこととなった。右の腕は相変わらず周が意識を失うスレスレのところで握りしめたまま離さない。完全に動きがとまったザクロを、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は見逃さなかった。
「こんなチャンスに出なきゃ、いつ目立つっていうの!? 今がきっとベストタイミング! てことで、いっくよー!!」
 美羽は強化型の光条兵器、ブライトマシンガンを取り出すとザクロにさっと標準を合わせた。光条兵器の特性を活かし、狙いをザクロだけに絞る。同じ生徒のアリアはもちろん、友人である周を傷つけるわけにはいかないからだ。
 以前も彼女はザクロへ銃弾を届けようとしたのだが、その時はどういうわけかザクロを護衛する生徒がいて阻まれてしまった。しかし、今回は逆である。ザクロを抑えてくれている人がいる。なら、それに応えない理由はない。最初の一発からフルパワーで放とうと、美羽は光条兵器にありったけの気力を込める。ブライトマシンガンがより輝きを増し、辺りを照らす。
「あんたムカつくから、加減してやんないもんね! それっ、発射ーっ!!」
 眩い光弾が、美羽の光条兵器から放たれた。