空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【GWSP】星の華たちのお買い物

リアクション公開中!

【GWSP】星の華たちのお買い物

リアクション

ティセラたちがお茶をしている所から、少しだけ離れたテーブル。
一般客がほとんど立ち去った後だというのに、ティセラからそう離れていないところでのんびりとくつろいでいる者たちがいた。
「……むぅ」
 ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)は、少々不機嫌だった。
 ミスティーアは、ティセラの席で談笑している雄軒のパートナー。
 彼女の脇には、歴史や考古学の本がどっさりと積まれていた。
 つまり、雄軒がティセラたちとお茶と読書を愉しんでいる間、ストックの本を持たされている……言ってみたら荷物番である。
 ミスティーアがきちんと荷物をみているからこそ、雄軒は安心して読書とお喋りを楽しむことができるのだ。
 とはいえ、やはり待たされている方としては、機嫌が良いはずがない。
「もぐもぐ……もぐもぐ……」
 目の前のテーブルには、あのジャンボパフェがある。それを、もくもくと口に運んでいた。
 普段は、一ヶ月にひとつ売れるかどうかのジャンボパフェが、一日に3つも売れるのは、店史上初のことだそうだ。
 ミスティーアの向かいでは、同じく荷物番をさせられているバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)がお茶をすすっている。
「たまには、こうやってお茶を飲むのもよかろう」
「んーだけど……むー……」
 ミスティーアの機嫌を戻すことは難しそうだ。パフェは、どんどん消えていく。

 その時。
 ミスティーアたちの隣のテーブルに座っていた男性が、どんっと大きな音をたてて、テーブルにカップを置いた。
 わざと、注目を集めたようにも見える。
「あーあ、わざわざ混雑しているフェアに来なくちゃならないなんてねぇ」
 大声でひとりごとを……周りにわざと聞かせるように……話し始めたのは、八神 誠一(やがみ・せいいち)
 ちらっと目線をやったのは……ティセラ。ティセラにわざと聞かせようとしているのだ。
 ティセラの方も、さすがにあれだけの大声で気が付いたのだろう、ちらりと誠一を見た。
「誰かさんの陣営がテロ活動してくれてるお陰で、経済は大打撃を受けてるからさぁ」
 少しずつ、声に棘が含まれてくる。
「そろそろ日用品が値上がりして、僕たち庶民のお財布に直撃しそうだからねぇ」
 挑発するように、もう一度ティセラの方を見る。
 ティセラは聞こえないふりをしている……が、聞こえていることは間違いない。
 少し乱暴に、カップを置いた。がちゃりと、陶器がぶつかりあう音が響く。
「ねえ、あれは……」
「……いかんな」
 ミスティーアに促されたバルトが、すっと立ち上がって、誠一に近付いた。
「失礼。ここは憩いの場であろう。向こうさんも、今日は暴れていないではないか」
 あくまで紳士的に、誠一に語りかけるバルト。
「そのような意見交換は、ふさわしい場所でするべきではないだろうか」
「ふぅむ。まあ、そうだねぇ」
 もともと正義感の強い誠一。バルトの言うことに一理あることを素直に認めた。
「手練れの者よ。このことは……またにしてもらえんかな」
 しばらくの間、無言で向かい合う誠一とバルト。
 ……そして、ふっと緊張が解けた。
「リア、買い物に行こう」
 隣にいたパートナー、オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)に声をかけ、誠一は立ち上がった。
「えっ。せ〜ちゃん、いいの?」
「今日は買い物したい気分だからねぇ」
 そして、リアには聞こえないほどの小声で、バルトに「またいずれ」と言うと、さっさと歩き出した。
 取り残されたかたちになったオフィーリアは、事前に誠一から吹き込まれて、用意してあった言葉を放った。
「軍隊は金食い虫だからねぇ、軍事国家は一番バランスを取るのが難しい国家ですよ、天秤座さん」
 そう、ティセラに向かって言うと、駆け足で誠一を追いかけていった。
「やれやれ」
 ふうっと、バルトは小さく息を吐いた。
 誠一に追いついたティセラは、首をかしげて言った。
「決めゼリフ、言ってきたよ! ……で、せ〜ちゃん。あれ、誰だったの?」
「一般の人だよ。今日は、ね」
「今日は?」
「またゆっくり教えて上げるよ。あの天秤座さんについて、ねぇ」
「ん〜。難しいのだよ」

 さて、ティセラたちのテーブルでは、まだまだ華やかなお茶会が続いていた。
 そこへ……。
「し、失礼……します……」
 ふらふらと、巨大なパフェが歩いてくる!
 実際には、パフェが大きすぎて、運んでいるアイス屋店員のブランカと終夏の姿が隠れてしまっているのだが。
「お、おおきすぎますわ……」
 小夜子は、開いた口がふさがらない様子。
「とりあえず、置き場所を……」
 雄軒と祥子が、空いているテーブルを寄せ集め、パフェの置き場所を作った。
「これはいったいどうしましたの?」
「あちらのお客様からです」
 終夏が指さした先で、長門がにやっと微笑んだ。
 自分の手に、同じジャンボパフェをしっかりと持っている。そのままパフェ・マッスルポージング。
「おおきなパフェですわね〜」
 ティセラは長門を招き寄せた。
「女性にはやっぱりアイスが似合うけん、差し入れじゃ」
「ありがたくいただきますわ。もちろん一人では食べきれませんので、みなさんでいただきましょう」
 終夏が、大量の取り皿を運んできた。
「よかったら、ご一緒に」
「光栄じゃのう」
 長門も同席することになったことで、ティセラの目の前には、ジャンボパフェがどーんどーんとふたつ並ぶこととなった。
「では、いただきま……」
 ふっ。
 突然、店内が真っ暗になった!
「なんですの?」
「停電でしょうか」
 女性陣は不安そうだ。
 その時、店内アナウンスが響いた。
「本日のご来店〜、まことに〜、ありがとうございます〜。本日は〜、ご来店の客様に〜、お誕生日のお祝いをさせていただきます〜」
 そして。
 ジャンボパフェと同じくらいのボリュームはあるであろう巨大なケーキが運ばれてきた。
「これは……?」
「お誕生日、おめでとうございますー!」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、巨大ケーキの影からひょっこりと顔を出した。
「ティセラおねえちゃん、5月10日がお誕生日ですもんねっ」
「あら……知っていてくださったの? 嬉しいわ」
 ケーキに、数名の店員の手でロウソクが立てられ、火が付いた。
「ふぅーって消して欲しいです!」
「ここは盛り上げ時だねっ!」
 〜〜〜♪
 ブランカが伴奏をし、そこにいる全員でバースデーソングを歌った。
「ふぅ……っ!」
 ティセラが火を吹き消すと、あたりは拍手と歓声に包まれた。
「はい、おねえちゃん。これプレゼントなんです!」
 ヴァーナーはティセラに、持っていたプレゼントの包みを渡した。中身は、デンマーク王家御用達の紅茶。きっと後で開けたとき、ティセラは大喜びするだろう。
「こんなにも大勢から、お誕生日を祝福されたことは初めてですわ」
 さすがのティセラも、これには感激したようだ。
「ケーキとプレゼント、どうもありがとうございます」
「どういたしまして!」
 ティセラはヴァーナーの頭をなでて、にっこりと微笑んだ。
「それにしても……テーブルの上が、すごいことになってしまいましたわね」
 ティセラの目の前のテーブルには、お茶やお茶菓子、ジャンボパフェ、そしてケーキ。
「とても嬉しいのですけど、一人では食べきれませんので、皆さんも召し上がってくださいな」
 ティセラは、周りで遠巻きに見ていた者たちにも声をかけた。
「食べきれないっていうなら手伝うよ!」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が、ティセラの斜め向かいの席に、何の遠慮もなく腰を下ろした。既にケーキを食べる体勢だ。
「お、ケーキに『はっぴーばーすでー てぃせらおねえちゃん』って書いてある」
 ケーキの文字は、ヴァーナーがパティシエに頼んで、チョコペンで書いてもらったものだ。
「ということは……やっぱりあんた、ティセラなんだ!」
 康之の質問に、ティセラはにっこりとうなずいた。
「ええ。わたくしはティセラ・リーブラですわ」
「ははっ! やっぱり俺の勘は当たってたな。なんていうか、オーラが違ったからな!」
「あ、あの……あの……」
 康之の後ろから、そーっと結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が顔を出した。
「ティセラさま……なんですね……」
 その顔は真っ赤で、瞳がうるんでいる。
「まさか買い物に来ただけなのに、こんなにすごい方と会えるなんて……。ああ、間近で見てもやっぱり綺麗なんですね……」
「おほほほ。お嬢さんもお美しいわよ」
 綺麗だと言われて、悪い気はしない。
 ティセラは上機嫌になって、笑った。
「お、おい! 二人とも何を……」
 その時、匿名 某(とくな・なにがし)が、焦った様子で走ってきた。
 某は、ちょっと目を離したすきに見えなくなったパートナーたちを探していた。
 ようやく見つけたと思ったら……。
(よりによって、ティセラなんていう危険人物と茶をしばいてるなんて……!)
「あなた、この二人のお連れの方? ちょうどよかったわ。あなたもお茶と甘いものを召し上がっていきません?」
 ティセラがにっこりと、空席をすすめた。
(ティセラが……俺をお茶に誘ってる……だと?)
 某はためらったが、パートナーの二人……康之と綾耶が動きそうにないため、素直に席に座ることにした。
「せっかくだから……いただく」
 某は警戒したが、今のティセラはどう見ても、ただの(?)デパートの客だ。
「なあ……あんた今日は本当に……買い物に来ただけなんだよな?」
「お買い物……といいますか、わたくしはお付き合いですわ。お茶さえ飲めれば満足ですので」
 そう言ってお茶をひとくち含み、パフェの上に乗っていたいちごをつまむ。
「茶さえあればいい……って、どうしてそんなに茶が好きなんだ?」
「……うふふ。これをご覧になって」
 ティセラは、自分が手にしているティーカップを某に見せた。
「この美しい色、芳醇な香り、周りを彩るカップの芸術性の高さ。これほど気品溢れる嗜好品は、他にはないと思いませんこと?」
「……はあ」
 相づちを打ってみたものの、その心情は、某には理解することが難しかった。
「あ、あああの! せ、せっかくなので握手とサ、サインもらえますか! そ、それとい、一緒にし、写真も!」
 ティセラと某の間に割って入るように、綾耶がにゅっとサイン色紙を取り出した。
「お、おい綾耶! ……ええっとまあ、俺ももらえるなら、もらおうかな」
 結局、某もそれに便乗して、ティセラにサインをもらったのだった。
「なあティセラ、誕生日が近いんだろ? いつもその服ばっかりじゃアレだし、このTシャツをやるよ!」
 康之が差し出したTシャツには、大きく『ほっとけ俺の人生だ!』と書かれていた。
「おほほほほほ。……おもしろい冗談ですわね」
 ティセラはそのTシャツを、丁重にお断りした。
「あっれぇ……。いいTシャツなんだけどなぁ」
「いや、いくらなんでも女に渡すにはセンスないだろ」
 本気で不思議がる康之に、某がビシッとツッコミをいれた。