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【GWSP】星の華たちのお買い物

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【GWSP】星の華たちのお買い物

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 セイニィが洋服を買う機会は少ない。
 一度の買い物で、しばらく着回せる分をまとめ買いしておく必要がある。
 ここまでに購入した点数を確認したセイニィは、もう何着か必要だと思い、再び婦人服売り場を物色し始めた。
「何だろう、これは」
 セイニィは、見慣れない服を見つけて、手に取った。
 淡い紫色の朝顔柄のそれは……。
「それは、浴衣だぜ」
 首をかしげているセイニィに、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が声をかけた。
「浴衣?」
「日本の伝統的な、夏の服だ」
 セイニィたちがいる場所は、浴衣の特設コーナーだった。
「浴衣か。涼しげで、なんかいいな」
「浴衣は初めてか。じゃ、選んでやるよ」
 二人は並んで、浴衣コーナーを歩いた。
「その金髪には……このあたりが似合いそうだな」
 牙竜が手にした浴衣は、藍色の生地に、白い花が描かれた、落ち着いたものだった。
「地味ではないか?」
「まあ、着てみろって。おおい、店員さん! 試着!」
「かしこまりました」
 現れた従業員はナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)
 実は先ほどから、セイニィと牙竜のやりとりを、楽しそうに見守っていたのだった。
「浴衣の試着ですね。お手伝いします」
 浴衣はシャツのように、ばさっと着る……というわけにはいかない。着付けられる人の助けが必要だ。
「と、セイニィ様の試着をしている間に……」
 ナナは、牙竜の方を向いて、にっこりと笑った。
「牙竜様も、こちらのお洋服の試着をいかがですか?」
 持ってきたのは、男性用の浴衣。
「セイニィ様にあわせて、ご一緒にいかがでしょうか」
「お、俺はいいって! いらねって!」
「そうおっしゃらず……さあ!」
 ずいっ。
 笑顔のナナが、男性用の浴衣を手にして、牙竜の方に一歩近付く。
 たまらず牙竜は、一歩後ずさる。
「てぇーーーーーい!」
 どーーーーーーーーーーーん!
「ぐはぁっ!」
 牙竜は、ナナに気を取られて、背後を気にしていなかった。
 牙竜の後ろからアタックしたのはアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)
「ケンリュウガーちゃん、試着室にごあんなーい!」
 アルメリアの狙いは正確だった。
 アタックされた牙竜は、まっすぐ試着室に飛び込んだ!
「ケンリュウガーちゃん、この子と仲良ししたいんでしょ。素直に着替えてきなさーい」
 こっそりと、アルメリアがあらかじめ手配していた男性店員の手で、牙竜は浴衣に着替えさせられていた。
「ぐっじょぶ」
 ナナが、ぐっと親指を立てて、アルメリアにサインを送った。
「やめろぉぉぉぉ!」
 試着室から、牙竜の叫び声が響いていた。
「さあ、セイニィ様もこちらへ」
「あ、ああ」
 何が起こったか分からずに呆然としていたセイニィも、ナナに促されて試着室に入った。
 ……それから5分。
 最初に試着室から出てきたのは、牙竜だった。
「うわあぁ! おもしろいものが見れると思ったのに、ケンリュウガーちゃん意外と浴衣似合っちゃってる」
 少し落胆したように、アルメリアが舌打ち混じりにつぶやいた。
「似合っちゃってるって何だよっ!」
 男性向けの青い浴衣を着せられた牙竜は、アルメリアに向かって怒鳴りつつ、一応商品の浴衣を傷めないよう、気を遣って小股で歩いていた。
 そのギャップがおかしくて、アルメリアはお腹をおさえて笑い転げた。
 小股の牙竜から逃げおおせるのは、簡単だ。
「セイニィ様のお着替えが完了しました」
 ナナに伴われて、浴衣に着替えたセイニィが試着室から出てきた。
「お……」
「わあ……」
 ドタバタと暴れていたアルメリアと牙竜は、ぴたりと動きを止めた。
「かわいいっ!」
「よくお似合いです」
「……似合うな」
 三人とも、お世辞一切なしで、心からセイニィを褒めた。
 藍色の浴衣に身を包み、簡単にではあるが金髪をアップにしたセイニィは、とても美しかった。
 そもそも和服は、胸が小さいほど似合うという。
 ……という言葉を口にしかけて、牙竜はあわてて飲み込んだ。
「浴衣って、いいな」
 セイニィも、浴衣をなかなか気に入っているようだった。
「これを着て、夏祭りに行ったらいいよ!」
 アルメリアが言いながら、セイニィから見えないところで牙竜をつついていた。
「……いつか、機会があったらさ。浴衣着て、夏祭りに行くか?」
 牙竜は、セイニィにそう切り出してみた。
「夏祭り……行ってみたいな」
「それじゃあ、約束するか」
 牙竜は、セイニィに小指を差し出した。
「セイニィも小指を出せ」
 言われるがままに小指を出したセイニィと、牙竜は指切りをかわした。
「約束したっていうしるしだ」
「……わかった。その時のために、この浴衣は買っていこう」
 そんな二人の様子を、少し離れたところからアルメリアとナナがニマニマと見つめていた。

 浴衣と、必要な小物一式を手に入れたセイニィ。
「浴衣は浴衣でいいけど、あとは動きやすい服も必要だな」
 今度はカジュアルな服が売っている方に向かった。
「お、あれは……」
 セイニィが向かったのは、デニムコーナー。
 あらゆるサイズ、カラー、デザインのデニムがずらりと並んでいる。
「一本くらい、新しいのがあってもいいな」
 セイニィは、ブーツカットのデニムを一本手にとってみた。
「せいにぃちゃんには、スラっとしたスキニーの方が似合うと思うよ」
 天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)が、ブルーのスキニーデニムをセイニィに差し出した。
 実は、セイニィが婦人服売り場に現れた時から、声をかけるタイミングを狙っていた結奈。
 セイニィが他の人たちに捕まっている間、黙々とセイニィのためのデニムを選んでいたのだ。
「これは……好みストライクだよ!」
「やっぱり! そういうの好きじゃないかと思ったんだよね」
 時間をかけて選んだ甲斐があったというものだ。
 偶然だが、サイズもセイニィにぴったりのものだった。
「これは即決。助かった、ありがとう」
 セイニィは、結奈が選んだスキニーデニムを、持っていた買い物かごに入れた。
「さて、必要なものは、これくらいだったかな……」
 結奈と連れだってレジに向かっていると、女性用の小物コーナーでうろうろしている男性を見つけた。
「……なんだろう、あれ。挙動不審だな」
「声をかけてみる?」
 二人は、小物コーナーにいる男性に近付いた。
 セイニィは右から、結奈は左から。挟み撃ちのように。
「おい」
 びくうっ!
 セイニィに声をかけられた高村 朗(たかむら・あきら)は、文字通り飛び上がった。
「おにいさん、何をしているの?」
「いや、あの、その……」
 実は朗、何を隠そう目の前にいるセイニィのためのプレゼントを選んでいるところだったのだ。
 そうしたところに本人が現れてしまったのだから、これは驚くはずだ。
「しっ、知り合いの女の子へのプレゼントを探してるんだけど、何を選んだらいいのかわかんなくてさ」
 咄嗟にしては、なかなかいい言い訳だ。セイニィは、全く疑っていないようだ。
「よかったら、アドバイスしてくれないか?」
「アドバイスねぇ」
 他人の贈り物のアドバイスなど、一度もしたことがないセイニィ。
 とはいえ、このまま放置していくのも気が引けた。
「贈る相手は、どんな人物?」
「ええっと……少し性格はキツめなんだけど、一生懸命がんばったり、いい所がたくさんある奴なんだ」
 セイニィは当然、自分のことを言われているのに気が付かない。
「……難しいな」
 セイニィは、眉間にしわを寄せている。
「だったら、セイニィは何が欲しい? それを参考にするから」
 朗は、思い切ってそう聞いてみた。
「あたし? あたしは……そうだな。新しいリボンが欲しいな」
 そう言ってセイニィは、茶色いリボンを指した。
 普段使っているのとあまり変わりなく見えるが、本人はそろそろ替えが欲しいと思っていたところだった。
「そっか。そういうのがいいのか!」
 朗は内心、小躍りしたいくらいの気分だった。
 本人が欲しいと思っているものを渡すのが一番なのだから。
「助かったよ。ありがとう」
 朗はセイニィにお礼を言って、立ち去るのを見送った後、そのリボンをレジに持って行き、きれいにラッピングをしてもらった。

 洋服の会計を全て済ませたセイニィが時計を見ると、ティセラたちとの待ち合わせにはまだ少し時間があった。
「さて……どうするか……」
 周囲を見回すと……下着コーナーが目に飛び込んできた。
「……少しだけ、見るか……」

 セイニィは、きょろきょろと、やや挙動不審ぎみに下着コーナーへと入っていった。
 女性なのだから、堂々としてもいいはずなのだが。
 セイニィがまず手に取ったのは、『小ムネさんでも大丈夫! ハイパー寄せ上げブラ』という、大手下着メーカーがこの夏に向けて発売した、新製品だ。
「……」
 黙って、ひとつ手にとってみる。
「このブラ可愛いな。でも私にはちょっと大きいかも……(甲高い声)」
「……はっ!」
 セイニィは、一言も言葉を発していない。
 一瞬、心の声が周りに聞こえてしまったのかと思って、真っ青になった。
「でも、このブラをつければ谷間ができるのよね。ちょーほしい(甲高い声)」
 今度は、聞き逃さなかった。
「……そこかっ!」
 ぶんっ!
 セイニィが後ろ回し蹴りを放つ!
「お、おおっと!」
 まさかいきなり蹴ってくるとは思わず、甲高い声の主……弥涼 総司(いすず・そうじ)はバランスを崩して、尻餅をついた。
「おいあんた! あたしをバカにしたら……殺すよ?」
「いや、ほんの軽い冗談だって」
「冗談でも言っていいことと悪いことがある」
 セイニィの瞳に宿った殺意は、本物だ。
「わ、悪かった。謝るから」
 さすがにやりすぎだと思った総司は、ぺこりと謝った。
「次、同じことをしたら……」
「わかったって! しない。約束だ」
 総司がそう言うと、ようやくセイニィは怒りをおさめた。
「……ったく」
 舌打ちをするセイニィ。
 だけど内心は、さっきの「谷間」という言葉が、頭の中でリフレインしていたのだった。
「そちらの金髪ツインテールのお嬢様」
 声をかけられ振り向くと、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が、満面の笑顔で歩み寄ってきた。
「なんだ?」
「失礼ながら、見たところ私と同じ悩みを抱えているご様子。もしよろしかったら、一緒にベストなアイテムを探しませんか!」
「ベ、ベストなアイテムって……」
「最新の、夏物パットです!」
「パット……」
 パット。
 胸にこっそり仕込んで、ちょっとだけ胸を大きく見せるアレだ。
 セイニィも、購入を考えたことが、あるにはあった。
 そのたびにプライドが邪魔して、買うことは結局今までなかったのだけど。
「セイニィ。胸パットはファッションなのだと思うよ」
 幻時 想(げんじ・そう)が言いながら、いくつかのパットをセイニィに差し出した。
「この胸パットはどうだろうか? 君に自信を付けさせてくれると思うよ」
「あら、これは夏物用の軽い素材。ほどよい2サイズアップのタイプじゃありませんか。パット初心者にはぴったりですよ」
 想が持ってきたパットを手に取った千代が、ふにょふにょと指で押して、感触を確かめている。
「せ、せっかくだが……そんなものは必要ない」
「本当は欲しいんじゃないのか」
 想が言った言葉は、見事に図星だった。
「絶対に試してみた方がいいですよ!」
 千代も、力強くすすめてくる。
「これでよいのなら、ひとつプレゼントするよ」
「え、ええ?」
 多少強引なくらいでないと、セイニィは女性としての大いなる一歩を踏み出すことができないだろう。
 そう思った想は、夏用2サイズアップパットをレジに持って行き、セイニィのかわりに買ってきた。
「会計は済んだ。さあ、着けてみて」
「いや……」
「はいはい、試着はこちらですよ!」
 ずるずる。本日何度目だろうか、セイニィは千代と想に腕を掴まれ、試着室へと引きずられていった。

 ……5分後。
 試着室から、胸パットを仕込んだセイニィが出てきた。
「あ……」
「うーん……」
 想と千代は、フリーズした。
 胸の大きなセイニィは……不自然だった。
「似合う……のか?」
 セイニィに問われて、返答に困る二人。
「えっと……」
「もうしばらくしたら、しっくりくると思いますよ」
 ずるり。
「うわわわわわわ!」
 着け慣れないパットだったため、セイニィの仕込み方がまずかったらしい。
 少し動いたはずみで、パットはずるっとズレてしまった。
「あああ、直さないと……」
 思わず、セイニィの胸に手を伸ばす想。
「ひ、ひゃあああぁぁぁ」
 胸をわしづかみにされた格好になったセイニィは、今まで出したことのない悲鳴を上げた。
「ちょっとこれは、まずい展開かもしれませんよ」
 千代は、思わず目を覆った。
 結局、セイニィはさっさと試着室に戻り、パットを抜き取ってしまった。
「ああ、ぺったんこに逆戻り……」
「ぺ、ぺったんこって言うなー!」
 その時。
「ああ、ここにいた。さっきちょっとやりすぎた侘びをしたくて」
 さっきセイニィを怒らせた総司が、手に包みを持って戻ってきた。
 包みを、セイニィに握らせる。
「これ、よかったら使えよ」
「なんだ、これ。中身は?」
「胸パット」
 セイニィの顔が、みるみる赤くなっていく。
「いい加減に、しやがれーーーーー!」
 びゅん! ぶんっ!
 セイニィから放たれた回し蹴りを、総司はまたぎりぎりで避けた。
「あ、いたいた。セイニィ!」
 今度は、さっき一緒にプレゼントを選んだ朗が、包みを持ってやってきた。
「これ、セイニィに……」
 言い終わる前に。
「おまえもか……おーまーえーもーかーーーー!」
 ぶうぅぅぅん!
 完全に巻き込まれた格好の朗に、セイニィの蹴りが飛んだ。
 下着コーナーの騒ぎがおさまるまで、もうしばらく時間が必要だった。