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リアクション
〜開放〜
アルディーン・アルザスがたどり着いた先は、書斎とは名ばかりで機械が大量に持ち込まれた研究所のような場所だった。
その中央には、銀の機晶石がエネルギーの元としておかれている。
神野 永太(じんの・えいた)は燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)とともに駆け込んでくるなり「銀の機晶石を返せ!」と声を張り上げた。燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)も同じく武器を構えるが、今にも切りかかりそうなほどの殺気を出してはいなかった。
中央で機械に何かを話しかけている彼女は、全くこちらに気がついていないのか、足の血を適当な布で止血していた。すると、一ノ瀬 月実が馬に乗って進み出た。その手の中には、金色に光る機晶石があった。
「アルディーン……ルーノさんの機晶石、持ってきたわ」
「ちょ、何で馬に乗ってるの!!? どこから出した?!」
リズリット・モルゲンシュタインはあまりにもすんなり出てきたパートナーへのツッコミを忘れなかった。だが、思いのほか一ノ瀬 月実はまじめに交渉しようと、ゆっくりと馬に乗ったまま歩み寄る。
「いや、だから馬下りようよ」
「……ふふふ、そうだ。それがあれば、私は……消えなくてすむんだ」
「消えなくて、すむ? どういうことですか?」
橘 舞は小首をかしげながら問いかける。アルディーン・アルザスの表情に、もう余裕の色は見えなかった。何かに取り付かれたように歪められ、顔を覆って悲鳴を上げるように訴えた。
「その石さえあればいいんだ。銀の輝きではダメなんだ。金色の煌きが私の新しい身体にはふさわしいのよ!!!」
「新しい身体……?」
牛皮消 アルコリアは冷たい視線で武器を構えると、ゆっくりと思案した。視線の先には、機晶姫たちが数体置かれている。資料で見た覚えがあるから、恐らくあの『エレアノールの遺跡』で物色してきた【機晶石の入っていない機晶姫】たちだろう。
「……貴女は、機晶姫に記憶を移すつもりなんですか?」
「もとより、そのつもりだったのさ。こんな弱弱しく痛みを感じる身体に、ようなんてない」
口元を歪めたアルディーン・アルザスは奇妙な笑い声を上げていた。
醜い。
幾人かの心の中にそういう感情が生まれたに違いなかった。
ひとしきり笑い終えると、アルディーン・アルザスは一ノ瀬 月実の手から、【黄色いセロファンが張られた機晶石】を受け取った。それを合図として、一斉にアルディーン・アルザスに切りかかった。アルディーン・アルザスはスライムで銀の機晶石が置かれた機械を護るように包むと、偽の金の機晶石をもって機晶姫たちが眠る場所へと歩み寄り、作業を始めようとしていた。
最大の魔力で呼び出されたスライムたちは、足をとり腕を取り、武器を落としてその身体を包み込んで飲み込もうとする。
バン!
バン! バン!
銃声が響き渡り、幾人かがスライムより開放されればすぐさま魔法でスライムたちは灰にされていく。だが斬っても斬っても湧いて出てくるスライムに苦戦していると、ルーノ・アレエたちが到着した。その姿を見るなり、アルディーン・アルザスは顔をより一層青ざめさせる。
「……おのれ、騙したな」
「騙したんじゃない。信じたんだろう?」
林田 樹が銃を構えてそう高らかに言い放つ。その隣を、すかさずジーナ・フロイラインをとる。場所をとられてあわてて反対側に緒方 章が立ってポーズをきめる。
「今までさんざん騙していたのに、騙されると怒るなんておかしいですよ」
「そ、そうだぞ!」
「こた、ねーたんのてつらいすうー!」
林田 コタローがかわいらしいしぐさでそう宣言するも、アルディーン・アルザスの心は癒されなかったようだった。
「あなたにもあるように……機晶姫だって、痛みを感じます。心があります。あなたの勝手で、本当なら生まれるはずの感情まで殺さないでください!」
燦式鎮護機 ザイエンデはそう言い放つと、歌を歌い始めた。ミンストレルとしての歌かと思われたが、その旋律はあのルーノ・アレエが歌っていた旋律だ。歌詞は、みんなで作った幸せを謳った詩だった。御薗井 響子も歌声を響かせ、ケイラ・ジェシータもリュートを響かせる。
ルーノ・アレエもレイピアを構えて応戦しようと飛び出すが、簡単に閉じただけの傷が開いてスライムに足をとられる。
「馬鹿!」
トライブ・ロックスターが飛び出して、ルーノ・アレエの足のスライムを切り落とすと、お姫様抱っこの姿勢でジョウ・パブリチェンコのところへ連れて行く。
「危ないだろ、ここは俺たちに任せておけ!」
「ですがトライブ・ロックスター!」
「俺は、お前の守護者だぜ」
そういって仮面を被りなおすと、またスライムの波に飛び込んでいった。ジョウ・パブリチェンコがもう一度回復させる。それを見て、アルディーン・アルザスは目を見開いて叫んだ。
「……エレアリーゼ……名を名乗れ」
「っ!」
「貴様の本当の名前だろう? 貴様がここで名を名乗れば銀の機晶石はくれてやる」
「……ですが」
「死なせたいのか? 妹を」
「ルーノさん! ダメだよ!」
「俺たちに任せてくれ! 絶対にあいつを倒す!!」
多くの仲間の声が聞こえる。ルーノ・アレエは顔を覆って、考えた。助けを求めるように、シルヴェスター・ウィッカーの顔を見つめた。その表情は自分を信じろと、そういっているように思えた。
「私は、私の名前は、エレア……」
言葉が途中で途切れた。誰もが目を疑った。
エヴァルト・マルトリッツはもしものためにと、すぐに飛び出せる準備をしていたがその準備はパートナーたちの目を覆うことに使われた。
ルーノ・アレエの口を、エメ・シェンノートの唇が塞いでいた。
しばらくの沈黙の後二人の顔が離されると、互いの顔が真っ赤になっていた。
「わ、私の名前は、エレアノールから戴いた……みんなからもらった、ルーノ・アレエですと……言おうと」
「え、あ、す、すみませ……」
「ええいっ! いちゃつくんなら後にせい!」
シルヴェスター・ウィッカーが勢いよく突っ込みを入れていると、その隙をついて銀の機晶石を包んでいたスライムをガートルード・ハーレックが破壊した。
朝霧 垂が鞭で銀の機晶石を奪い取ると、その部屋に置かれている機械はすべて沈黙した。ルーノ・アレエに機晶石を投げると、「早く行って!」と叫んだ。
「は、はい!」
「おのれ!」
「行かせませんよっ!」
水無月 睡蓮と鉄 九頭切丸がアルディーン・アルザスとスライムの脅威を阻んだ。後ろを少しだけ向いて、にっこりと微笑をルーノ・アレエに向ける。ルーノ・アレエと、彼女を護衛していた幾人たちがすぐさま屋敷を飛び出していった。
「翡翠くん、皆行ったみたいだよ」
「だ、そうですよ。閃崎さん!」
『なら、思う存分撃てるな』
「味方がいるの忘れないでくださいねー」
浅葱 翡翠がドアのところから狙撃を再開すると、もっと離れた書斎の窓を狙って、閃崎 静麻がさらに弾を撃ち込んでいく。ミューレリア・ラングウェイがスライムを打ちのめせば、アシャンテ・グルームエッジが切り裂く。そして、緋柱 陽子が火術でスライムたちを灰にする。その詠唱の邪魔にならぬように、背中を霧雨 透乃が護っていた。比島 真紀は時折出るけが人の傷を癒しながら、サイモン・アームストロングがナイフで牽制しているとピクシコラ・ドロセラが止めを刺す。
霧島 春美の雷術を受けてしびれている様子のスライムたちに一斉攻撃を仕掛けていく。
さすがに魔力も尽きてきたのか、スライムたちの勢いも弱まっていく。すると、膝を付いたアルディーン・アルザスはうわごとのようにぶつぶつと呟いた。
「またか、また消すのか、私は、私は、何で何度も、消されてたまるか、私は私のものだ、私は……」
何かに問いかけるようにして、機械にもたれかかった。すると、口元をまたうれしそうに歪めた。
「くっくっく……そうだ、ここにとてもいいものがあってな。イシュベルタには危ないときは自爆するよう教えたのも、私なのだよ。私は、あいつのように逃げる時間なんぞくれてはやらぬ!」
「遅いんだよ」
言い放った直後には、毒島 大佐は首元にナイフを滑らせていた。傷口から、血が噴出す。その血のシャワーを受けるように、牛皮消 アルコリアは首元を掴む。ようやく血が止まると、返り血を受けた顔でにっこり微笑んだ。
「これだけ失血したら、死んじゃうと思いますよ?」
「……や、めて……」
「身体を返してください。あなたは、もう死んじゃってるんですから」
その言葉に、アルディーン・アルザスの頬に一筋の涙が流れた。
「ああ、もったいない」
東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)がバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)とミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)を連れて現れた。戦った軌跡があるところから、恐らくスライムたちと戦っていたのだろうということが受け取れる。
「殺してしまっては、もうその脳の英知を受け取れないじゃないですか」
「そうですね……では、この機械で永遠の命でも生きてみますか? ああ、幸いここには博士達の記憶が入ったものもあるそうですし……ねぇ? 毒島さん」
「ああ、そうだな」
そう返事を返すと、一ノ瀬 月実が一息がてら咥えたレーションが割れてしまい、それを拾おうとして機械に激突した。
ごいいいいんんっ!
見事な音を立てて、機械は煙を噴出し始める。
「あらら。これじゃ使えませんね」
「……ふん」
東園寺 雄軒とバルト・ロドリクスは鼻を鳴らしてその場を去った。ミスティーア・シャルレントだけは頭を下げてから書斎を出て行った。
急ぎ、橘 舞が治癒魔法をかけて出血を止める。体力のほうもランゴバルト・レームとディオネア・マスキプラが回復させた。すると、目を覚ましたのは……
「あれ、皆さん……なんでそんな血だらけなんですか……?」
「ランドネア教官か?」
林田 樹がそう問いかけると、弱弱しく頷いた。
「あれ、もう、アルディーンの気配を感じない……どういう、こと?」
「大丈夫よ。もう、アルディーンは消えたわ。亡霊は、もういないの」
九弓・フゥ・リュィソーがそう言葉をかけた。だが彼女の視線は機械のほうをむいていた。中央の機械の隣に、黒い箱が3つ並んでいた。
「これ、恐らくあの爺たちの記憶が入っているのね……この機械で話ができるようになっていたのかしら」
「あ……そう、です。その隣に、記憶をいじる機械が」
「ほらああ! 月実が壊した奴!!」
「ご、ごめんなさい……」
ピンクの頭を垂れるが、そこに誰も責めるものはいなかった。どじによって壊された機械を惜しむものはなく、笑いに包まれていた。ルカ・アコーディングは記録を続けていた。ランドネア・アルディーンが受けるであろう判決で、いい結果が残るために。
「めでたしめでたし、かな」
相田 なぶらがその光景をほほえましく眺めていた。フィアナ・コルトもランドネア・アルディーンに駆け寄ると、その手をとって彼女が身体を取り戻したことを、喜んでいた。
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