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リアクション
第1章
高い鉄線に囲まれたコンクリート製の建物。
そこにあるシャガ・コチョウと書かれたプレートの部屋。
調合途中の爆薬が机の上にあり、壁際の本棚には沢山の本が詰まっている。
本のタイトルは『アイスタイガーから学ぶ氷爆弾』『ジャタ松茸を使った幻覚爆弾の作り方』等など。
見えている壁にはティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)の引き延ばした大きな顔写真が何枚も。
天井にはティセラの等身大全身写真が貼られている。
爆弾を作る材料はきちんと棚の中にしまわれている。
そんな部屋の中、シャガこと、おやじは携帯電話の声をうっとりしながら聞いている。
「わかりました! すぐに向かいまっす!」
相手の話しが終わると元気よく返事をし、もう切れている携帯電話の画面を見つめた。
携帯の待ちうけはどうやって手に入れたのかティセラのこの間の温泉入浴中の画像だ。
声の余韻とその画像を堪能する。
それから、机の上に置いてあった完成されている爆弾を鞄の中に詰め込み、部屋を飛び出してた。
廊下に出ると走りだした。
しばらく走るとギヌラ・ベルベットとプレートに書かれている頑丈な扉の前に来た。
その扉を勢いよく開ける。
「すぐに必要なんだ! 5、6体欲しい!」
「また急だね、シャガは」
シャガが話しかけたのはファラオの様な格好の上に白衣を着て、目の下に物凄いクマを作っている人物だった。
パソコンで何かの設計図を作っていたようだ。
「良いのか!? 悪いのか!?」
シャガは食ってかかる。
目は血走り、カッと見開かれていて少し……いや、かなり怖い。
「……そうだね、そこにいるのはもう完成形だからいらない」
白衣の人物ギヌラが指した先にはいくつもの水槽があった。
その中には奇妙な形をした動物達が入っている。
そう、作られた生命……キメラ。
水槽は入っているキメラの大きさに合わせてあるようだ。
「助かった! 今度また必要な材料を作ってやるからな!」
「頼むよ」
そう言うと、ギヌラはまたパソコンに向かい、キメラの設計図の作成に戻って行った。
「待ってて下さいね! ティセラ様〜!」
叫ぶとシャガは嬉しそうにキメラをいくつか選び、研究所をあとにした。
■□■□■□■□■
キマクにある洋館の中。
以前、石化されたホイップが連れてこられた館と同じ場所だ。
上の階は前の戦いと罠、そして罠を壊す為の攻撃によってぼろぼろになってしまっていた。
しかし、誰も気が付かなかった地下室はほぼ無傷の状態で残っていたようだ。
この部屋の中では石化が解かれたホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)が椅子に座っていた。
ホイップの前にはシャムシエル・ザビクとティセラが立っている。
椅子に座っていたホイップがゆっくりと瞳を開く。
しかし、その瞳からは生気が感じられない。
「これで、ホイップもわたくし達の仲間ですのね」
ティセラは嬉しそうに言う。
「ああ、でも完全じゃないから大きなショックを与えると戻っちゃうんだ。気を付けないとね」
ティセラの嬉しそうな言葉を聞いてシャムシエルが釘を刺した。
「それじゃあ、ボクは玄武甲を持って先に帰ってるよ」
シャムシエルは手に持っていた玄武甲をしっかりと持ち直す。
「お願いしますわ。わたくしはホイップを追ってきている方達のお相手をしてから戻ります」
その言葉を聞くとシャムシエルは部屋の扉を開けようとした。
「ちょっと待ってくれ」
行こうとしたシャムシエルに声を掛けたのは仮面を付けたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。
迷宮には参加していなかったが、玄武甲を奪えたとティセラから連絡を受け、洋館に到着していたのだ。
「なに? 早く行きたいんだけど」
「直接玄武甲を狙ってくる奴がいるかもしれない。あんたを援護しよう。良いだろう、ティセラ?」
トライブはシャムシエルではなくティセラに許可を求めた。
さすがティセラ親衛隊といったところだろうか。
「ええ、お願いしますわ」
ティセラは笑顔で返答した。
「俺達も援護に行くよ。ですよねっ? シャノンさん」
マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)はティセラに言ってから、シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)に同意を求めた。
「ああ」
シャノンは1つ頷いた。
「私達も念のため護衛につかせていただきます」
そう申し出たのは東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)だ。
「雄軒様が行くならわたくしとバルトも勿論一緒に行かせていただきますわ!」
ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)が言うと、バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)は無言で首を盾に振った。
(こ、今度こそ雄軒様にいいところを……!)
ミスティーアは迷宮の罠で泣いてしまったことを気にしているようだ。
「では、みなさん。シャムシエルと玄武甲を宜しくお願いしますわ」
「じゃあ、お先に〜」
背を向けたままシャムシエルはティセラに手を振ると、部屋を出た。
その後ろを護衛すると申し出たメンバーが付いて行く。
最後のバルトが扉をくぐり、扉はゆっくりと閉められた。
「もしティセラ達が君に敵対しても、私は君の味方でいる」
扉が完全に閉じるとシャノンはシャムシエルにそっと告げたのだった。
扉が閉まり、暫くすると宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が口を開いた。
ティセラの側に居る時はいつも付けていた覆面を外している。
もう顔を隠す必要がないという意思表示だろう。
「ティセラ様、私はずっと傍にいさせていただきますね」
それだけ告げると祥子は一歩下がった斜め後ろにぴったりと張り付いた。
動作が終わった瞬間、ティセラの携帯が鳴りだした。
相手はシャガだ。
「……はい。ええ、分かりましたわ。では、洋館の外で迎撃をお願いします」
そう言うと、ティセラは電話を切り、シャガがキメラを連れて洋館に到着した旨をこの部屋にいる人達に伝えた。
「今度こそ私の本気を出すから! 見ててよ!」
リュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)はそう言うと部屋の中にいるティセラの協力者達を訝しげに見つめてから飛び出してしまった。
(ティセラの協力者、全員信じられないわ。いざとなったらルーシーが……。それと私の本気を見て……ティセラに褒められたら……鷲掴み……フヒヒ)
部屋を出ると何やら妄想しているのか、顔がにやけていた。
「さっきのシャムシエルって人、どんな人なの? やっぱり知り合ったのは5000年前?」
リュシエンヌが出て行くとティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)がティセラに質問をした。
「シャムシエルはエリュシオンから来て下さった、わたくしの親友ですわ」
ティセラはそう答える。
すると、ティアの後ろにいた風森 巽(かぜもり・たつみ)がずいと前へ出た。
仮面ツァンダーに変身をしていない。
「顔を隠したままでは信用されると思えませんから、変身はしません。そして、一方的とはいえ、守ると約束した以上、例え世界の全てを敵に回しても守り抜きます」
「嬉しいですわ。期待していますね」
ティセラは本当に嬉しそうに笑顔で答えた。
その全ての様子をナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)はただ黙って見ていた。
■□■□■□■□■
シャムシエル達が玄武甲を持って洋館を出た。
外に置いていた小型飛空挺に乗り込む。
その様子を少し遠くの影から見ていた者達がいた。
「行きますよ、フィック。十分に用心してください」
「うん、ママ!」
島村 幸(しまむら・さち)とメタモーフィック・ウイルスデータ(めたもーふぃっく・ういるすでーた)だ。
一定の距離を保ちながら小型飛空挺を飛ばす。
2人とも迷彩塗装とブラックコートで姿を隠している。
幸の後ろに乗っているメタモーフィックは銃型HCでマッピングしていたここまでの情報をどこかに送っていた。
「ちゃんと送れました?」
「うん!」
フィックが頷くと更に慎重にシャムシエル達を付けていくのだった。
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