空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

リアクション公開中!

【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

リアクション

 
「……む、いかんな。つい授業のネタにと色々見て回っておったら、豊美殿とはぐれてしまったか。せっかく本人に本人を見た感想を言わせてみたかったのだが」
「何ともまあ……司馬先生、勝手に入っては失礼ではありませんか?」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が心配する中、司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)が、どうやら高貴な者にあてがわれたと思しき部屋の調度品に視線を向けつつ呟く。
「その本人とは、もしかして私のことですかー?」
 ふと聞こえた声に振り返ると、そこには豊美ちゃんの姿があった。しかし、至る所に違いが見受けられ、何より『ヒノ』が杖の形をしていなかった。
「……もしかして、あなたは……」
「あ、この格好だと分かりにくいですよねー」
 言った豊美ちゃん? の衣装が光になって解け、そして光が消えた先には、とうに老年の域に入っているであろう女性の姿があった。
「初めまして。推古天皇……といえばよろしいでしょうか」
 微笑を浮かべる彼女に、仲達が恭しく頭を垂れる。
「おお、これは推古天皇陛下。お会いできて嬉しゅうございます。よろしければいくつかお聞きしとうことがありまして……」
 そう前置きして、『当時の支配者の政治的な考え』や『事件への対処法』などを仲達が尋ねる。頷いてそれらを聞き取った推古天皇は、ゆっくりとした口調で話し始める。
「私は、民が平和に暮らせる世の中を、という思いでした。ですが現実は、豪族同士の権力争いを抑えるのに必死で、なかなか民の方へと恵みを振り分けられなかったように思います。厩戸がいなければ、私は数年も持たずに天皇の座を追われていたでしょうね」
 そう話す彼女の言葉が真実ならば、結局のところ政治の世界は1400年前も今も大差ないということになる。
「私は魔法少女……ふふ、便利な言葉が出来たものですね。その魔法少女として、民を戦や飢饉から守るために手を尽くしてきました。そのことが本当に正しいことなのかどうかは、後世の皆さんが判断することでしょう。私は私にある力で、民のために尽くすだけですから」
 推古天皇の言葉には、国を治める者としての責任がこもっているように思われた。
「……あら、そろそろお迎えの時間のようですね」
 推古天皇の言葉に背後を振り返ると、『ヒノ』を手にした豊美ちゃんの姿があった。
「アルツールさん、仲達さん、探しましたよー。そろそろ行きますよー」
「だそうですよ。どうしてもここに残りたいと言うのでしたら止めはしませんけど」
 微笑んで、推古天皇が二人を送り迎える。豊美ちゃんの『ヒノ』が光り、率いられた皆の姿が消えて行くのを見送って、推古天皇が遠く広がる風景に目を細める。
 ちょうど昼飯時か、民の住む住居のあちこちからは煙が立ち上っていた――。
 
「えっと、今は718年ですねー。この本には……『聖夜(718)寄ろう リッツ料理する店へ』。藤原不比等さんが中心となって『養老律令』が制定されましたー。不比等さんは701年の大宝律令制定にも寄与してますねー。えっと本には……『揉むと逮捕? ちまい(701)胸』……」
「ふむ、おば上の胸に触れた輩は逮捕――ごふっ」
「失礼な人にはお仕置きですよー」
 うっかり発言してしまった馬宿にお仕置きを食らわせた豊美ちゃんが、当時の平城京を遠くに見つめる悠久ノ カナタ(とわの・かなた)を認めて近付いていく。
「懐かしいのう……わらわが魔女になった時の頃を思い出す」
「私は直接見ていないのですが、こんな感じで合ってましたか?」
「おおよそはな。……しかし今思えば、『霊亀』と『神亀』……何やら運命を感じるものよ。そして『幼老』……まさにわらわのことであるな」
「霊亀、養老、神亀と続きますねー……あれ? カナタさん、今何て言いましたか?」
 豊美ちゃんの問いに、カナタは含み笑いを浮かべるばかりであった。代わりに緋桜 ケイ(ひおう・けい)が気になっていたことを口にする。
「なあ、どうして豊美は魔法少女になったんだ?」
「そうですねー。元々私もウマヤドも、説明はつかないけど凄い力があったみたいなんですよー。で、その力を皆さんのためにと思って使っていたんですー」
 豊美ちゃんの言葉を補足するように、いつの間にか復活を遂げた馬宿が口を挟む。
「当時は魔法少女などという言葉はなかったんだぞ。おば……豊美ちゃんも存在が公になることは無かったし、どうと呼ばれることもなかったがな。魔法少女と豊美ちゃんが自らを呼ぶようになったのはごく最近のことだ。言ってしまえば肩書きに過ぎんのだが……俺も豊美ちゃんと同じような力を持っているのだから、そうなると俺も魔法少女を名乗らねばならぬのに、ただの肩書きというのも気に入らんな。何かこう、ふかしでも良いから決めておく必要があるのではないだろうか」
「ウマヤドはそういうところが細かいですねー」
「大切なことです。豊美ちゃんにとっても、生徒の皆が魔法少女というものに憧れややる気を持ってくれるのは、益になるのではありませんか?」
「だとしても、そう簡単にいくものなんですかねー? ……あっ、ごめんなさい、話がそれちゃいましたー。ケイさんの言う、私が魔法少女になった理由は、皆さんのためですー。それは当時の民のためですし、今は私と仲良くしてくれる生徒の皆さんのためですよー」
 言い終えた豊美ちゃんが本をめくり、次の時代へと一行を案内する。

「『磯のアワビの片思い』って諺があるけど、あれって片思いの切ない気持ちを表す良い言葉だよね」
「そうですねー。その元となった歌は『萬葉集』に載っているとのことなので、萬葉集が成立したとされる頃にやって来たのですが……この辺は私もよく分からないので違ってるかもしれませんねー」
 朝野 未沙(あさの・みさ)の言葉に豊美ちゃんが頷きつつ、『ヒノ』をこまめに光らせて萬葉集成立の場面を案内しようと試みる。
「……そういえば豊美ちゃん、この前の料理教室でアワビ持って来てたけど、豊美ちゃんが前に生きてた時代から既にアワビって食べられてたの?」
「食べてましたよー。飛鳥時代よりもっともっと前、縄文時代からだそうですー。……あ、そうでしたら弥生時代の時に見せてあげればよかったですねー」
 時代探しに集中している豊美ちゃんは、未沙が顔を赤らめつつ距離を詰めてきていることに気付かない。
「……さっきの諺だけど、あれ、片思いの切ない疼きをアワビの動きに例えた秀逸な諺だと思うんだ。豊美ちゃんはどう思う?」
「ふぇ? アワビってそう動くんですか? 私、アワビが動いてるところって見たことないんですよー」
 未沙に振り向いて首をかしげる豊美ちゃんが、思いの外近かった未沙の顔に驚いて身体を引っ込める前に、未沙の手が豊美ちゃんの肩をがしっ、と掴む。
「だったら、今から見ちゃお? 豊美ちゃんのア・ワ・ビ♪」
「え、わ、きゃーーー!」
 状況が分からないまま押し倒される豊美ちゃん。未沙の手がスカートの奥に伸び……そこにある紫の布地に目を丸くする。

「……アワビは?」
「……何してるんですかーーー!!」

 豊美ちゃんのお仕置きが炸裂し、未沙がぷすぷす、と煙を立てて崩れ落ちていた。
「もー! 未沙さんのためにアワビの殻を出入り口に吊るしちゃいますよー! ……ヴァーナーさん、ありがとうございます
 頬をふくらませて怒りつつ、ぱんつを履いていたことに心底ほっとする豊美ちゃんであった。



「794年、平安京遷都の年ですねー。本には『泣くよ(794)幼女が平安京』なんですが、どうしてこの子は泣いているのでしょうねー?」
「きっとお腹がすいて喉も乾いたからですぅ。というわけでアスカ、お菓子とお茶を用意するですぅ。お菓子もお茶も甘いのがいいですぅ」
「はい、エリザベートちゃん。ちょっと待っててくださいね〜」
 豊美ちゃんの疑問にエリザベートが答え、椅子に腰掛けて神代 明日香(かみしろ・あすか)にお茶を要求する。明日香がメイドのたしなみで用意していたものをエリザベートに振舞っている間、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が豊美ちゃんの傍にとてとて、と寄ってくる。
「こうして当時のことを体験出来るなんて思いませんでした。魔法少女ってこんなことも出来て凄いです」
「えへへー、そう言われると照れちゃいますー」
「調子に乗らないで下さい、おば……豊美ちゃん。今日のことだって色々と問題視されているんですから」
「分かってますよー。ありがとうございますノルンさん、あなたもきっと立派な魔法少女になれますよー」
「また根拠のないことを……まあ、言うだけなら誰でもなれるのは確かだが」
「そうなんですか? あの、私も魔法少女になれますか?」
 ノルンが首をかしげて豊美ちゃんに尋ねるのを、聞いていた明日香が口を挟む。
「ノルンちゃんの場合は、魔法少女というより魔法幼女という感じですねぇ」
「……!」
 明日香の言葉を耳にしたノルンが、たちまち目に涙を浮かべる。
「わわ、泣かないでくださいですー。明日香さん、魔法少女はいくつでも魔法少女なんですよー?」
 屈んでノルンをあやしながら、豊美ちゃんがやんわりと明日香を嗜める。ごめんなさい、と謝りつつ明日香は、先程豊美ちゃんが言っていた通りになったことに感心の念を覚えるのであった。
「いっそ豊美ちゃんが魔法少女な名を差し上げればよろしいのでは?」
「うーん、私センスないんですよー。うーんうーん……では、【ルーン魔法少女ノルンちゃん】でどうでしょー。ルーン文字に縁があるように思いましたのでー。はい、これで今日からあなたも魔法少女ですー」
 こしこし、と涙を拭いたノルンが、自分が魔法少女になれたことに笑顔を浮かべる。

「平安時代ですー。この時代は比較的安全なので、皆さん自由行動にしますねー。好きに歴史を学んでいってくださいー。自由行動だからって悪いことしようとしちゃダメですよー」
 平安時代に案内した豊美ちゃんが一行に自由行動を許し、一行は思い思いの場所へと飛んでいく。
 皆は一体何をしようというのだろうか――。