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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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◇第II部◇


第3章
死の谷決戦


 ジャレイラ軍主力は、すでに吊り橋を渡った。
 義勇軍の一部族や、カラス兵らが東の谷に駐屯する教導団の前線と交戦に入っていた。
 教導団側は簡易なバリケードを築き、ここに加わった金住 健勝(かなずみ・けんしょう)少尉の指揮で銃撃中心の戦いをしている。
「ここは、今は敵を倒すことより食い止めることを優先するであります!」
 火線が途切れずに、常に誰かが撃っているよう。そういう戦法をとった。
 防備の弱いカラスや獣人らはこれに攻めあぐねたが、やがて、黒羊軍の装甲兵が前に出てきた。
 ということは、
「ジャレイラ……。とうとう打って出てきたでありますか。
 少しでも長く持たせるであります!」
 そんな中、レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)はジャレイラのことが気になり、敵中につい、その姿を探してしまう。
「レジーナ。あ、あまり前へ出ては危ないでありますよ……!」
「え、ええ。……はっ。来た……ジャレイラ、……!」


3-01 決戦前

 ――ジャレイラが来た、か。
 東の谷の幕舎にて。座する【鋼鉄の獅子】隊長のレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)
 しかし。
 橋を渡るのが少々遅かった様だな……――レオンハルトは、不敵な笑みを見せる。
 兵法に曰く、戦線を延ばし過ぎた進軍の愚、その身で理解させてやろう。
 立ち上がり幕舎を出ると、切り立つ崖を背景に、鋼鉄の獅子の主だったメンバーが集まりレオンハルトの采配を待っている。
 レオンハルトは、橘 カオル(たちばな・かおる)に声をかけた。
「天霊院が動く前に李教官が発見出来なかった場合、テング山の撹乱を優先する。
 男を見せろ、カオル」
「う、ん……いや、大丈夫。お任せあれ……!」
 テング山を獲ることは、第一の優先目標。
 兵700→450/200/50に分担。
 梅琳兵500の内、50をカオルに預け、テング山の天霊院の支援へ。
 残り450は陣地(前回確保した東河船付点)にて待機。 
 レーゼセイバーズ100、パルボン歩兵100の計200をレーゼマンに預ける。この200は、防衛班となり、陣地を守り通す。
 (ただ、輜重隊・救護班を預かっていた百合園のロザリンドの姿が見えないのだが。同じ現場で戦闘指揮を執っていたレーゼマンはこのことを気にかけている。同時に、討ち取った筈の鴉将の遺骸もなかった。「だが部隊を指揮する一人として、個人的な理由で追うわけにはいかない。非常に歯痒いことではあるが、無事を祈るしか……」無論、報告は出している。ロザリンドが歩いてどこかへ行った……という兵の証言もあった。行方はわからない。ロザリンドの状態も心配であったのだが、何らかの彼女なりの思いがあったのかもしれない……)
 騎狼部隊のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)や、外部勢力のテング等が合流してきている。更に前章で見たように物資を携えた援軍が予定通り到着すれば、東の谷の教導団にとってこの上なき力となるだろう、さて? 無事に行くだろうか。

 東の谷も、いよいよ決戦が近い。



 ジャレイラ・シェルタン(じゃれいら・しぇるたん)の傍にも、主だった者らが集っている。
 指揮を委ねられてきた、綺羅 瑠璃(きら・るー)、メニエス。
「おそらくこちらには……レオンやルカルカあたりが、軍主力の足止めに来る可能性あり。かと……」
 瑠璃は助言を行う。
「その名は幾度も聞くことになったな。厄介な奴ら。この一戦で、討ち取ってしまおう」
「テング山は、教導団とテングの共闘による奪還作戦。……で進めてくるでしょう……
 それから、テント山ですが……」
「うむ。……だな……」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、ここではとくに何を述べることなく黙っている。但しその瞳には何がしかの決意が秘められているのが窺える。妖しく燃える炎のように……。
 義勇軍から記録や庶務をこなす人材として浮上した男(ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた))がやって来る。「俺はこの戦いを記録したい。このような戦いを繰り返さぬようにと焼ける様な熱情が自分を追い立てるのです」そう言って彼は、前線にまで付き従うことを望んだ。
「この戦いで駆逐できなかったら……どうなさるのですか?」
「何……」ジャレイラが振り向く。ジャレイラに語りかける、記録係の男。
「仲間が大切、ですが。戦が嫌いです。お互いにただ傷つくばかり」
 戦闘の前に何を言っている? 将校の一人が、言う。
 男は、かまわずに続ける。
「ジャレイラ様は優しい。皆そう言います。俺もそう思います……ご無理だけはなされないように」
 そう言うと、再び引き下がっていった。
「……。変わったやつ、しかし何かそれなりの思いがあるのだろう。
 我々とは違う。この土地の者だ。純粋なものを持っているであろうな。……しかし、また、我が優しいとは? ……」
 男は、戦の準備の差配を執るジャレイラをもう一度見る。
「俺は必ず貴女の元へ戻ってきましょう。……知りたいのです、全てを」
「主?」
 清 時尭(せい・ときあき)が来る。「俺ら記録する奴等は常に第三者です、感情は潜ませる。それだけ♪」
「ああ、わかってる、ぜ」
「主……」
 記録係に徹しているためか、自身に課せられた使命のためか、今は常に真剣な面持ちの主、ウォーレン。
「何としてでも、行かなければならない。……ならば俺も、ご一緒します。もちろん。
 あの雪山越えのとき……道案内はアンタを非常食にする為かもですよ? と茶化したのに……
 貴方は俺を只管に信じてくれたから。俺も貴方を信じると決めた」
 清も、ウォーレンを真剣な眼差しで見つめた。「あまり……誰かに信じられたこと、ないんですよ」と、少し笑って、
「主が信じるならそれを俺も信じましょ♪」

 侍従となっている琳 鳳明(りん・ほうめい)も、この戦いに臨むところまでは許されたが、後方に下げられている。もしかしたら、少し親しくなれた気のするジャレイラの気遣ってなのかもしれないし、あるいは……
「この戦いでは、鋼鉄の獅子の面々が指揮官であるジャレイラさんに挑んでくるんだろうね。
 個人レベルでなら教導団生徒の中でも、トップクラスの数人が来るんだから……私なんかじゃ全力でいかないと間に立つこともできない、し……」
 だけど。今……「何となくなんだけど、私がジャレイラさんに惹かれていた理由、解かった気がするよ。私は……」
 ジャレイラさんに、自分を見ていたんだと思う。琳は真剣に、そう考え込む。原点というか出発点というか……そういうところなのかな?
 回復部隊や物資等と共に同じく後方にある義勇軍から、先ほど男がジャレイラに何か話しに行ってきたらしい。
「私もジャレイラさんのところに……。
 うん。でも、戦いが始まったらだ。そして今は一緒に戦場に立って、ジャレイラさんを守るっ」
 自分の心に決着を付けたい、とも琳は感じていた。ジャレイラさん……戦いが終わったら、色んなこと話そう。ここに来た当事のこととか。共に暮らした人たちのこととか。……
 そう言えば、ヒラニィは……
「お主のこの地に住まう者を護りたいという気持ち、誠に有難く思う。じゃが、」
 琳の地祇南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)は、色々自身の中で思い悩み中な彼女に内緒でジャレイラに会っていた。
「じゃがジャレイラよ、お主に聞きたい」
「……」
 今は、先ほどの戦前の差配もあらかた、終わったところ。
 将兵は移動を始め、何人かの兵がジャレイラに報告に訪れる。
「なぜ"護る"のに侵略する必要がある?
 なぜ滅ぼす?
 なぜ肩を並べるべき同胞に刃が向く?」
「……肩を並べるべき? 同朋? 解からない」
「わしにはこの戦が解らぬ。
 この戦の発端は何だ?
 お主は何を見、何を聞き、何を知り教導団のみを悪とする?」
 瑠璃が来た。「!」……ジャレイラは、教導団を悪としそれを討つことを存在意義とさえしている。逆に教導団を排除した後に、存在意義を失うことなどあってはならない……と瑠璃は心配する。ジャレイラに、思考する時間を与えたい。
 ヒラニィの説得が続くが。
「……お主が自身に誇りを持つなら、この地の民を想うのであれば、どうか今一度振り返って欲しい。
 お主の護る者達、戦う者達のことを。
 そして護る為にはいかな戦い方が必要なのかを。
 剣を向けるのみが戦ではあるまい」
 ヒラニィは自分の髪を見やり、
「……血を流すだけが戦ではあるまい。
 どうか、後生だからどうか……」
 剣も持ち待つ、瑠璃のもとへ進むジャレイラ。前線に向かう兵が揃っている。メニエスも、ククク……いよいよ、か。微笑を浮かべる。
 やはり、戦うしかない、か……。