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蜘蛛の塔に潜む狂気

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蜘蛛の塔に潜む狂気
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【1・雲と蜘蛛】

 本日の空京の空は、六月を象徴するかのような曇天で。
 加えて既に陽が落ちている時間帯ゆえ、どうにも陰鬱な雰囲気が漂っていた。
 辛うじて街の灯りが僅かに届いているため、真っ暗闇にはなっていなかったが。
 青白い色彩をして高く聳え立つ、雲の塔……またの名を、心霊スポット『蜘蛛の塔』は、誰が目の当たりにしても不気味さを感じさせる迫力を持っていた。
「ここだわ。問題になってる塔っていうのは」
「確かにいかにもなにかが出てきそうな場所よね!」
 その十三階建ての塔を見上げるのは、リネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)
「あいつがこんな所になー。そんな話聞いた事ねぇが」
 隣で呟くのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)
「蜘蛛の塔っていうだけあって、窓のいくつかに巣が張り付いてるねぇ」
「挑む価値のある敵とかいればいいけど」
 他にも佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)熊谷 直実(くまがや・なおざね)がいて。
「肝試しにはもってこいといった場所だな」
「そ、そうですね」
 更にレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)と、日野 明(ひの・あきら)も来ていた。他にも多くの生徒が訪れている。
 各々目的は様々だが、大半の生徒は鏖殺寺院のミスター・ラングレイこと、元蒼空学園の教師砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)の噂を聞いてこの場に来ていた。
 特に彼の恋人であるラルクは、
「ま、なんにしても確かめればわかることだな」
 若干の憤慨を顔に覗かせつつ勢いよく乗り込もうとしていた。
 そうしていざ入ろうかという彼に、慌ててリネンが呼び止める。
「ああ、待って。何かあった時の為に、番号を交換しておきましょう」
「ん。わかった」「うん、そうしておいたほうがいいかな」「じゃあ私のはこれだから」
 そうして場の皆とメールアドレスと電話番号の交換後、ラルクは塔の中へと駆け出して行き。リネンとヘイリーも中へと進んでいく。
「じゃあ、私たちも行こうか」
「そ、そうですね」
 レーゼマンは余裕の様子だったが、明の方は入る前から既に身体が強張って、さっきから同じセリフしか喋っていなかった。
 見かねたレーゼマンは、自然に自分の手と明のそれを繋がせる。
 明は一瞬だけ驚くような表情を見せたが、
「心配いらんさ、私がついている」
 優しくかけられた言葉に、照れながらも嬉しさを表情に出し仲睦まじく歩いていった。
 そして残されたあとのふたりはというと、
「中は蜘蛛でいっぱいらしいけど、ワタシ達はどうしようかなぁ?」
 弥十郎の心中としては、蜘蛛相手に腕試しが出来るかという思惑があったので。いっそ強行突破でもいいかと考えていたが。対する直実の思惑は違った。
「壁を登って頂上から入れ」
「は?」
「壁を登って頂上から入るの」
「え、いや、外壁を上るの?」
「壁を登って頂上から入るんだよ」
「いくらなんでもそれは危ないんじゃ」
「壁を登って頂上から入るしかないから」
「辺りも暗いし、その…………いや、もういいや」
 直実の頑として聞き入れる様子がないのを見て、やれやれと肩を落とした。
 そして直実の方は、弥十郎のそうした困った表情や態度に密かに喜んだりしつつ。
「心配しなくても、わたくしもちゃんと付き合うから」
(いや、そういう問題でもないような)
 と思いつつも、もう口に出すことはせず渋々ながら軽く屈伸など準備運動をし、
 石壁の隙間に指を食い込ませ、体ひとつで登り始めた。
(これ、腕試しは腕試しでも、種類違うなあ)
 弥十郎は博識で、ビルの壁を登ることを趣味にしている某フランス人がいたということを思い出しながら、その登り方を参考に上を目指していった。念の為、捜索をつかって壁に異常がないかも確認するのも忘れない。
 直実の方も、ちゃんとスキルの方向感覚を使いながら、安全なルートを把握しながら登っていった。もっとも、壁を登っている時点で安全とはかけ離れている感じもしたが。
 ともかく。こうして生徒達は上り始めた。
 長い長い、上層階への道を。