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たっゆんカプリチオ

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たっゆんカプリチオ
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「さあ、みなさん、今、イルミンスールは危機にあります。男が次々とたっゆんになる事件が起きているのです。ですが、もう安心です。たとえ不本意にたっゆんにされてしまったとしても、この仮面をつければ、あなたも今日からクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)になれます。決して正体はばれません。あっ、女性の方でも、仮面をつけたいという方なら大歓迎です。さあ、この仮面で、あなたも正義の味方になりましょう!」
 クロセル・ラインツァートが、通路ですれ違う学生に無差別に仮面を押しつけながら叫びました。その手に提げられた籠には、予備の仮面が大量に入っています。
 事の発端は占いです。
 今日、女難の相があるとクロセルは通りすがりの占い師から言われたのでした。それを回避するには、仮面を配ればなんとかなるかもしれないとのことでした。
「仮面を配ることには、なんの異存もありません。いっそ、仮面をイルミンスールの制服の一部にしてしまいましょう。薔薇学よりもこちらの方が仮面では先んずるのですよ」
 すでに目的をはき違えたクロセル・ラインツァートは、頑張って仮面普及運動にその身を投じたのでした。
「そんなことで、厄災を回避しようなどとは甘いですね、クロセルも」
 物陰からそっと様子をうかがっているのは、シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)でした。最近、最愛のマナさんに悪影響しかおよばさないクロセル・ラインツァートに鉄槌を下すべく、今日は、たっゆんサプリメントを用意してずっと隙をうかがっていたのです。
「恥をかいて、当分人前に出れなくなればいいんです」
 たっゆんサプリメント射出用の三連回転式火縄銃を構えて、シャーミアン・ロウはつぶやきました。さっきからクロセル・ラインツァートの口を狙っているのですが、ちょこまかと変な踊りを踊りながら動き回るので、なかなか狙いを定めることができません。
「はい、どうぞこれを」
「なんなんだもん?」
 いきなり仮面を手渡されて、鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は小首をかしげました。
「幸せを呼ぶ仮面です。本来は男の子用ですが、もちろんあなたのように女の子でもきっと御利益があります」
「わあい、幸せになれるですか」
 鏡氷雨は喜んで仮面をつけました。
 葦原明倫館からお中元を運ぶ手伝いでイルミンスール魔法学校に来たのですが、お約束通り月刊世界樹案内図を買っていないので迷子になっています。もっとも、購買は今買い物ができるような状態ではないのですが。
「わーい、格好いいなあ」
 ちょっと胸のあたりをポリポリとかきながら、鏡氷雨は喜びました。豊胸サプリメントだと言うから一つお駄賃でもらっていたのですが、味は苦いだけで酷い目に遭っただけでした。ただ、気分としてはかなりたっゆんになったような気もします。それだけでちょっとうきうきです。
「む、仮面の男が二人……、いや、片方は女の子でしょうか。うーん、よく分かりませんが。クロセルはどっちなのでしょう」
 クンクンと匂いを嗅いで確かめながら、シャーミアン・ロウは鼻の頭に皺を寄せました。普段クロセルのことを意識して視界から遠ざけていましたので、仮面の男としか認識していません。普段は派手なのでそれで事足りるのですが、仮面を被った人間が増えていくにつれて、だんだんと判別がつかなくなってきています。
「さあ、あなたも仮面をどうぞ」
「か、仮面でござるか!」
 手渡された赤い仮面を見て、ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)が、なぜか歓喜の声をあげました。
「まさか、これぞ、忍者にとって伝説の仮面では……」
 喜び勇んで、ナーシュ・フォレスターがいそいそと仮面をつけます。
「いや、御利益はありますよ。伝説かもしれません」
 よく分からないので、クロセル・ラインツァートは適当に口裏を合わせました。腹黒いです。
「に、似合うでござるか?」
「もちろんですとも。ささ、一緒にどうですか」
 社交辞令的に褒めると、クロセル・ラインツァートは突然ポーズをとりました。
「仮面の使者、クロセル・ラインツァート、参上!」
「仮面の忍者、ナーシュ・フォレスター、参上!」
 なぜか、二人揃ってノリノリでポーズをつけます。
「はっははははははは……」
 シンクロして笑い声をあげる二人に、シャーミアン・ロウの銃口が狙いをつけました。
「死ねや、クロセル!」
 たっゆんサプリメントの弾丸が発射されます。
「うっ、んがぐが……、ごっくん」
 ナーシュ・フォレスターが、突然口の中に飛び込んできたものをそのまま呑み込んでしまいました。
「どうかしましたか?」
 自分に飛んできた弾丸はしっかりと受けとめたクロセル・ラインツァートが、心配そうにナーシュ・フォレスターに訊ねました。白手袋の手の中で、怪しげな弾丸は握り潰して、粉はそのまま床に落として処分してしまいます。
「し損じたか」
 悔しがるシャーミアン・ロウの居場所を知ってか知らずか、クロセル・ラインツァートがふっと口元をゆがめて笑いました。
「いや、なんだかもの凄い苦いものが。苦虫でも噛み潰してしまったのでござろうか。そんなことよりも、なんだか今なら新しい忍術が使えそうな気がするでござるよ。よし、確かめてみるでござる。臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前!」
 ナーシュ・フォレスターは、刀印で九字を切りました。
「あー、お兄さん、胸が……」
 それを見ていた鏡氷雨が、ナーシュ・フォレスターの胸を指さして叫びました。
「おお、変身の術を身につけたでござる。やったー!」
 完全に勘違いしたナーシュ・フォレスターが、大声をあげて喜びます。
「しかし、ちょっと違和感が……」
「うん、そうだよねえ」
 せっかくたっゆんになった胸をちょっともてあますナーシュ・フォレスターに、鏡氷雨がなぜか同意します。
「そういうときこそ、このレールガン印のブラを!」
 突然行商にやってきたカレン・クレスティアが、二人にブラジャーを勧めてきました。
「なぜにレールガン印……?」
 鏡氷雨が、きょとんとします。
「我もそれは知りたいぞ」
 ブラジャーを頭に被ったジュレール・リーヴェンディが、カレン・クレスティアに訊ねました。しかたありません、本来の場所につけようとしても落ちてしまうのですから。頭なら、ちょうどシニョンの位置がなぜかぴったりと収まります。
「E=MC2乗、つまりEカップのメインキャラ二人にも耐えられるくらい丈夫なので、レールガン発射時の反動にも耐えられるという意味なのよ。ねっ、ジュレ」
 そうカレン・クレスティアに振られても、ポリポリと頭を掻くしかできないジュレール・リーヴェンディでした。
「とにかく、時代はださい仮面よりも、実用的なブラジャーなの」
「なんですとー。時代は仮面なのです」
「はいはいはい、その話は後でね。お安くしとくんだもん」
 クロセル・ラインツァートを無視すると、カレン・クレスティアは服の上から二人にブラジャーをつけてしまいました。
「記念なのである」
 すかさず、ジュレール・リーヴェンディが証拠写真を撮ります。
「まいどありー」
 カレン・クレスティアは、奪い取るようにして代金をもらうと、風のようにその場から去っていきました。