リアクション
第II部 第6章 存亡(2) 黒羊郷決戦とオークスバレー決戦の狭間にある砂漠地帯における部分は、独立勢力(もしくはそれに類する存在)の存亡をかけた話となった。 しかし、思わぬ終焉を彼らは、我々は、見ることになる。 6-01 レジーヌ、とびねこ、獣人の物語 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は旅を経て砂漠の西の果てドストーワに辿り着き、敵対国であったそこを無力化することに成功したのだった。その作戦において双方の利になる形で協力し合ったことになるとびねこたちに真相を打ち明ける。 「えっ食糧のいちぶをじゅーじんづすとーわに返すなんでにゃ? 今回とびねこ史上最大のだいしゅうかくにゃぁ。おれたちこれでとうぶん、ひもじい思いしないですむよ。なんでにゃぁ」 「ええ。実は……」 レジーヌはとびねこに、教導団が戦争のため、黒羊郷の同盟国であるドストーワに出兵させないよう食糧を奪い取る計画だったことを述べた。とびねこには協力してもらった形になるが、収穫は予想以上で、とびねこ一同も喜びの様子だった。しかし、ドストーワにとっては甚大な被害で、出兵ができないどころか、このままでは飢えてしまう。獰猛な獣人にも、守らねばならない家族や子ども達がいる。 「いやにゃ。おれたち、ぜいたくに暮らしていきたいにゃぁ。おれたちが奪いとった食糧にゃ。 じゅーじんづすとーわのヤリに串刺しにされて死人が出るときだってあるにゃあ! おれたちだって必死にゃ。 今回おまえたちの策でうまくいったにゃ。おまえたちにちゃんと分け前やるにゃ、だから食糧は返さないにゃ、いやにゃ。返すいうならおまえらあっち行けにゃ。帰れにゃ」 「と、とびねこさん……。必要以上の食糧があっても、仕方ないでしょう。それに……」 「いやにゃ。帰れにゃ」 「聞いて。ワタシが言いたいのはね、……」 「いやにゃ。みんな、れじーぬが帰るにゃ。送ってやれにゃ」 「そんな……とびねこさん……っ」 「とびねこ殿」 レジーヌはわりあい頑固なとびねこに言葉をなくしかけたが、その後を徐 晃(じょ・こう)が続けた。 「貴公らのやり方はちと原始的にすぎるでござるな。 見れば、奪い取った食糧を蓄えることもしてござらん。これでは本当に余った食糧を無駄にするばかりでござる。 それにいつも季節ごとに奪い取っておったのでは、その度に死者を出すこととなる」 頷きつつ、エリーズとわりあい強引なとびねこに話を聞いてもらえずちょっとしょげ気味なレジーヌも、話を聞く。とびねこ達も、徐晃のことをコワイおぢさんいやにゃと言いながらも黙って(?)聞いている。 「そこで、である」 徐晃はレジーヌを見る。とびねこももう一度レジーヌを見た。 「あ、はい……。その、皆さんに、農耕を勧めてみたいと思いました」 レジーヌはとびねこの注目に恥じらいながらも述べた。 「のうこうなことてナニにゃ? れじーぬ。おれたち、わからないにゃ」 「え、ええ。ワタシもそんなに詳しくは言えないのですが、……」 レジーヌは恥らいつつも、続けた。とびねこの原始的な生活を見ると、難しいことはできないかも知れない。簡単な農耕でいいのだ。たとえばハキリアリが巣でキノコを育てるようなもの、ということをレジーヌは考えた。 「キノコかにゃ」 「ええ、はい……。それは例えば、ですよ。……」 「フゥンーおもしろそうにゃぁ。れじーぬ、キノコについてもっともれたちに教えろにゃ」 「いえ、その……例えばで、キノコについてはそれほど詳しいわけではありませんので」 「じょこう教えてにゃ」 「よいでござる。拙者にわかる範囲なら」 魏の武将・徐晃は何故かキノコについて詳細にとびねこに伝授したのであった。 「ホッ。……ありがとう徐晃さん。緊張しました」 「そう? 相手がとびねこなんかでも。私なんてもうこうやってもふもふしてるのに」 とびねこの子と遊んでいるエリーズ。 「では、今度はワタシ達がドストーワへと向かいましょうか」 「うんっ。よぅし、私の腕を披露してやるぞっ」 「ワタシも、それなら……負けません」 「おおっ。強気なレジーヌだ」 * レジーヌ、エリーズは、濃厚なキノコの話に納得したとびねこに返してもらった幾らかの食糧を持って、ドストーワを訪れた。 「オオ、神ぢゃあ!」 ドストーワの民は、とうぜん、食糧を持って現れた二人を拝みそう讃えた。 「エッヘン(エリーズ教を、立ち上げるゾ!!)」(レジーヌの仕掛けたバニッシュで神々しく登場するエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)。) 「少し申し訳ない気もしますけど……」 子ども達も、周りに集まってくる。 「姉チャン。飯ナノカ?」 砂漠の獰猛な兵として恐れられる獣人にもこんな幼い子はいるのだ。飢えて死んでいた子もいたかも知れない。もちろん、戦争だ、そうではあるのだが……だけどレジーヌは、こうしてよかったと思う。教導団が戦争に勝つための策ではあった。その相手にこうして、本当は自分達が奪ったと言える食糧の一部を持ってきて、感謝されている。複雑な思いであったけど、こういう部分を忘れないでよかった、と思う。前回の役回りをした徐晃はここに来られないが、戦争でなければと一言触れた彼こそいちばんそう思っているかも知れない。 「ん。そうだよ」「今から、お料理を作りますね。待っててくださいね?」 「ワァイ」 火術を使って、二人は料理を振舞った。ここでは、レジーヌがエリーズの従者。食糧も、エリーズが神秘の力でとびねこから奪い返したのだ、ということに。エリーズは子ども達の人気になった。 「ウマイネ」 「美味しい? そう、よかった……」 「ウン」 「戦争、終ワルトイイネェェ」 獣人の婆が出てきて、子どもの頭をなでた。 「父チャン、帰ッテ来ルカナァ?」 「ネェ。帰ッテ来ルト、イイネェェ」 婆は子どもを抱きしめて、天を仰ぎ見た……。 レジーヌ達はもう一つ、重要な話を獣人たちに聞かせた。 砂漠で耳に入った、魔物の国の話だ(レジーヌらの耳に入ってきた時点ではまだ吸血鬼の国であった段階の話になる)。その勢力の広がっている脅威を獣人に聞かせる。とびねこが凶暴化して食糧を襲ったのも、吸血鬼に操られたためであると教えた。 出兵できない状態のドストーワは現時点ではこの危険な国を潰しに動くことはできないが、防備を固めると言った。彼らのグレタナシァへ派遣した軍(後軍)も、この吸血鬼の軍勢によって壊滅の憂き目に遭っている。心情的には怒りを抑えきれなかったがここは踏みとどまる他なかった。 しかし望みをかけて、まだ生き残っているかどうかもしれないが、獣人たちの先鋒・中軍に向け、伝令をもってとびねこにひとっ飛びしてもらうことにした。 レジーヌ、エリーズは、砂漠の空に消えていくとびねこを、無言で見送った。ワタシたちも、戻ろう。教導団の本営に……。 |
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